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仮面少女と騎士さま。  作者: 小椿 千冬
二章 名ばかり御子様の不思議な日常
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第十六話

後半、鬱&残酷描写注意。

『---この国は良いところだろう?』


『今の平和があるのは、歴代の御子のお陰だ。・・・ん?何をすれば良いのか、と。心配することはない。御子というのは異世界より喚ばれて、この世界のバランスを保つことが役目だ。ただ在りさえすればいい』


『ここに呼んだのは他でもない。御子が選ばれたのを臣下や国民に報せるためだ。ああ、正式に発表するのは一週間後だな。それで---』



言葉が、耳をすり抜けていく。

違う場所に向けられた意識は、突然真黒な闇に入ったかと思うと全ての感覚が閉ざされた。音、光、匂い。この場所には何もない。


(・・・・また?)


まだ鮮明な思考のどこかでそれを否定した。ナイトの時の感覚とは違う。頭が重い。弾かれたように早鐘を打つ心臓は意思に反して脈打つ。内から鳴り響くこれは---警鐘?


「その時にそなたを歓迎するパレードを催そうと思っているのだが---どうした?」


「すみません、頭が・・・」


「シキ様?!」


視界が滲んだ。

地面に叩きつけられる衝撃と、ぼやけた白い天井が妙に近くに見えたのを覚えている。

誰かの悲鳴が耳に届く。ドタドタと数人分の足音が近づいてくる。耳元で誰かに呼ばれた気がしたが、もう思考する力はない。ふわりと浮かび上がるような感覚を最後に、意識は闇に溶けた。



* * * *


人もまばらな夕方の公園。

六時を告げる「赤とんぼ」のメロディーを聞きながら、一人、また一人と帰っていく人の背中を眺めていた。


ぽつ、と額に何かがあたる。


---ああ、雨だ。

そういえば、あの日は梅雨も終わる頃だった。


『志貴。そろそろ帰ろうか』


『もうちょっとだけ!』


梅雨が明け、雨が止むのが待ち遠しくて。そうだ、よく帰りたくないと言って困らせたっけ。


止めるのも聞かず、ボールを蹴った。

狙いを外れて、蹴ったボールは柵を超えて公園の外に飛び出す。

彼女は飛び出したボールを追いかけるのに夢中で、色の変わった信号機に気づかなかった。


お願い。そっちへ行かないで。


何度、願っただろう。

伸ばした手も、ゆらゆらと揺れる透明な身体じゃ届かない。


『危ない!』


弾き出された身体は、アスファルトにぶつかって道路の端に飛ばされた。

痛い、と呟いて立ち上がると母の姿が見えないことに気がついた。キョロキョロと辺りを見渡してみると、少し離れたところに母らしき人が倒れているのが見えて、何も考えずに駆け寄った。


「おかあさん!」


呼びかけても、返事はない。

寝ているのだ、と思った。だから、起こそうと思って体を揺さぶった。

ぬるり、とした感触が手に触れる。母の体温だと思っていたそれが何であるか、気づくのにそう時間はかからなかった。


雨は、夜になっても降り止まなかった。


白い壁と、鼻につくアルコールの匂い。死に一番違いはずのこの場所は、なぜこんなにも白く、静かなのだろうと思う。

次に会った母は、綺麗な白い布で顔を覆われ、ベッドに寝かされていた。袖から僅かに覗く腕は白い布に負けないくらい白くて、幼心にもそれが何を意味するかくらいは知っている。


涙は出なかった。不自然なほど無表情な少女の目に映るのは、ただ白い無機質な景色。

隣にいた彼女の兄と父は目を真っ赤にして泣いていたのに。


泣いたら。泣いて、全部受け入れてしまったら心が壊れてしまう気がした。ああ、それならそれでいい。何も感じなくなってしまえば、楽になれるだろうに。

そんな卑怯な考えが、脳裏をよぎる。



なぜ生きているのだ、と責められた気がした。

誰も彼女を責めない代わりに真っ白な世界は、お前は汚れているのだと嘲笑った。むせ返るような血の匂いと、真っ赤に染まった水溜まりと、雨の音。どれだけ洗っても取れない両手の赤と、鉄の匂い。彼女を責めたてる幻聴は止まない。

耐えきれず、少女は病院を飛び出した。


もし、ここにいるのが私ではないのなら。他の誰かならば。


ああ、それなら私は消えてしまおう。

そうだ。今日死んだのは、『私』だ。

心に蓋をして、誰かの『顔』をかぶって。みんなやってる。なんだ、簡単なことじゃないか。


ふらふらと夜の街を歩く少女の姿を、黒い影が追いかけたのを彼女は気がつかなかった。


もともと仮面っていうのは、素の自分を隠すことの比喩のつもりでした。

それにしても、話のまとまりがないorz

サクサクテンポ良く書きたいなぁ。

読んで下さっている方、本当にありがとうございます。

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