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仮面少女と騎士さま。  作者: 小椿 千冬
二章 名ばかり御子様の不思議な日常
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第十三話

---夢をみた。


内容は覚えていない。ただ、春の陽だまりのような幸せな夢だった。夢と現を漂う曖昧な意識を包むのは、どこまでも優しい暖かさ。まるで、心まで溶かしてくれるような。誰かの優しさに触れている気がして、嬉しくなる。このまま幸せな気持ちに浸っていたくて、志貴は夢の中でもう一度瞳を閉じた。




がたん。

世界が揺れた。衝撃の後、体は重力に従い前のめりに倒れこむ。ふわり、と体が浮いた。ぶつかる、と観念して目を瞑る。体が投げ出される寸前のところで誰かに強い力で引き戻された。


「わっ!」


「・・・・気をつけろ」


彼は、黒い瞳を一瞬こちらへむけ、再び視線を前に戻す。


王の謁見があるから首都へ行く、とナイトに告げられたのは今朝のこと。眠たい目を擦りながら、あれよあれよという間に馬車に詰め込まれ今に至る。


(あれ・・・・?)


ふと、違和感に気がつく。左上肢に感じる妙な暖かさ。夢ではない、確かに肌に感じ取れる。不快感はない。むしろ、安心感すら覚えるこの感覚。例えるなら、そう。人肌くらいの。そこまで考えて、思考を止めた。


はっ、と気がついて隣を見れば彼の腕には自分の身につけている髪留めの後がくっきりとついていた。


「わっ、ごめんなさい!私、いつのまに」


居眠りするだけならいざ知らず、寄りかかって寝ていたなんて。失礼極まりない。

すぐに退きますから、と席を立とうとする。


「構わない。もう少し寝てろ」


手を引かれ、引き戻された。無論、こんな至近距離で、寝てろと言われて今更眠れるはずもない。


「な、ナイトさんも少し休まれたら・・・」


「俺は護衛だ。そんな心配しなくていい」


ささやかな抵抗は呆気なく散った。早々に白旗を揚げて負けを認めると、眠たくない目をそっと閉じた。



この世界は不思議なものに満ちている。分かりやすく言えば剣と魔法のファンタジー、科学の代わりに魔法が発達した世界という言い方をすればいいのか。


(この馬車だって、魔法の力で動いてるんだよね・・・)


馬車とは名ばかり。座席から御者台の方を覗いても御者どころか馬もいない。では、それを馬車と言えるのかと言えばこの世界ではそれが常識らしい。馬は馬でまた別にいると聞いたから、更に驚いた。


この世界に来て、今日で二週間。戸惑うことも多いが、ようやくここがどのような場所なのか分かってきた。それもひとえに彼のお陰だと、感謝する。


『勘違いするな。他に適任者がいないから仕方なく、だ』


あの二人が帰った後、ナイトは御子の「護衛」という名目で彼女のもとに残った。そもそも「ナイト」という役職は国を脅かす敵と戦う---つまり、軍隊のような役目であるため平和な今はとても暇だという。

ちなみに、ナイトが暇だということは御子シキも暇ということだ。形だけ、と称された御子はまさしくその通りだった。


クイーンとビジョップ(あのふたり)は忙しい。ならば、俺しか残っていないのでな』


本来、護衛に任じられたのは違う人らしい。が、彼は頼りにならないから俺がするんだと慌てて付け足す様子が可笑しくて、つい笑ってしまった。


「護衛」という名の教育係になった彼は、仕方なく、と言いつついろいろなことを教えてくれた。

例えば、四家来のこと。それに絡めてこの国の歴史も。本の方がわかりやすいから、と字が読めない彼女に日本語で書かれた本を渡してくれることもあった。

小さなことであれば、今乗っている馬車のこともそうだ。こんな、取るに足らないことまで懇切丁寧に教えてくれる彼は、口ではああ言っているが案外優しいのかもしれない。



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