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父の書斎  作者: シュウ
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僕の日課は、父の書斎にやってくる妖精と会話することだ。

妖精と言っても、相手が一方的に「私は妖精です」と言っていたのでそう思っているわけで、もしかしたら幽霊かもしれないし、ホントは生きている人間なのかもしれない。

でも僕にとってはそんなことは些細な事に過ぎないのだ。

この日課が僕にとっての一番の楽しみなのだから。


僕が妖精と出会ったのは、1ヶ月前の夜中だった。

その日、なかなか寝付けなかった僕は、父の書斎へと足を向けていた。

母が他界して父と二人で暮らし始めてから、夜に寝付けないことはよくあった。

そのことを父に相談すると、「僕のいない時間ならいつでも書斎の本を読んでも構わないよ」と言われて以来、夜寝付けない時はこの書斎に来て眠気が訪れるのを待つのが習慣になっていた。

父の書斎には、大きな壁のような本棚がいくつもあり、まるで小さな図書館のようだった。

父はこの本だらけの書斎で、時間が出来たときに籠っては何かをしているらしかったが、それを教えてくれることはなかった。

何度か限界まで問い詰めたことはあったのだが、「もう少し大きくなったら話してあげるよ」と言うばかりであった。

高校も卒業するだけとなった僕にとっては、父の言う『大きくなったら』という年齢がいくつなのか少し気になるところであった。

しかし僕ももういい歳なんだし、最近では父が何をしていても気にしないようにしなくてはならないと思っている。でも気になるものは気になるのだ。

そんな父の秘密を探るためにも、この夜中の書斎通いを続けていたのかもしれない。

そして僕は妖精と出会った。


いつものように夜中に父の書斎に入った僕は、定位置である窓側の椅子に腰掛けた。

いつもならば「バスッ」と音がするはずなのだが、今日は「いてっ」と小さな声が聞こえた。

何事かと思った僕は立ち上がって回りを見回したが、もちろん誰かいる様子もなく、いつものように本の壁があるだけだった。

そして自分が今座った椅子を見てみると、小さな女の子が椅子の下にうずくまって頭を抑えていた。

少し涙目になった顔で僕のことを見ると、いきなり声量をかなり押さえた怒鳴り声で僕に迫ってきた。

「君!椅子に座るときは椅子の下に誰かいるかどうか確認しないとダメじゃないか!」

「えっ?あ、ごめん・・・」

「まったく・・・これじゃタンコブできちゃうよ・・・」

自分の頭をさすりながら、タンコブが出来ていないかを確認する女の子。

僕はタンコブのことよりも、この女の子の存在が気になっていた。

『どこから入ってきたんだ?ってゆーか誰?』

僕が女の子のことをジロジロと見ていると、それに気づいた女の子が不思議そうに見つめ返してきた。

「どうかしたの?」

「いや、こっちのセリフだよ。君こそ誰なのさ。どっから入ってきたの?」

「私は妖精だよ。あそこの天窓から入ってきたんだ」

天井にある天窓を指さす女の子。

その指の先を見ながら僕はバカにしたように返した。

「天窓?あそこから?結構高いよ?それにちゃんと鍵もかかってるみたいだし」

「君は頭が硬いなぁ。私は妖精だって言ってるじゃないか。飛んで入ってきたんだよ」

「いやいや、バカにしないでよ。こう見えても成績は良いほうなんだからね。冗談は夢の中だけにしてよ」

「冗談じゃないってば!私は妖精なの!ほらっ!」

なかなか理解してくれないことに腹を立てたのか、女の子は後ろを向いて僕に透明な羽を見せた。

その羽はとてもキラキラしており綺麗だった。トンボとかそういう類の羽に形は似ているが、あんなものと一緒にしたくはないぐらい綺麗だった。

その羽は女の子の背中から生えているようで、着ていたTシャツをも透過して生えていた。

「ほら。これで信じてくれた?」

「う、うん。こんなに綺麗なのが人間から生えるわけがないもん」

人間の背中から生えるとしたらもっと薄汚いであろう。

「よかった。信じてもらえて」

「えっと、君が妖精だと言うのはわかったよ。でもなんでここにいるの?」

「うーん・・・人間を見てみたかったっていうのが正しいのかな」

「見てみたかった?」

「そう。私たちの世界では、人間は頭が良くて色々なものを作るのが得意な生物として有名なの。でもその反面、争うことが大好きな生物としても有名なの。多分長所と短所が互いを促進させてるんだと思ってるの」

「だから人間を見に来たの?」

「それだけってわけじゃないんだけどね。まぁ簡単に言うとそんな感じかな」

妖精の女の子は、腰に手を当ててエヘンと胸を張った。特に自慢してたっぽいところはなかった気がした。

「で、なんでここなの?」

「たまたま目についたから」

「なんか特別な意味があるとかは?」

「うーん・・・君がいつも寂しそうに本を読んでいたからかな」

「えっ?」

僕は少し驚いた。

「時々そこの天窓から見てたんだけど、あなたが寂しそうに本を読んでいたから声をかけてみたくなったの。どうしてそんなに悲しい顔をしているの?って。他の人間と比べて、とても悲しそうな顔をしていたから気になっちゃったの。ただそれだけ」

僕は十分な理由だと思った。

そして僕自身は全然気付かなかったけど、もしかしたら母が死んだ事と夜に寝付けないことが関係していたのかもしれない。妖精のおかげで原因がわかったような気がした。

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