何があってもどんな時も
難産である上に出来が…申し訳ありません!
6/15
0430hrs
リュミエ―ル私室
リュミエ―ル視点
コンコンコン…コンコンコン…
何かが叩かれる音で私はうっすら目を開ける。
こんな夜に誰かな?
起き上がり周りを見ると
「フクロウ?」
フクロウが必死に窓を叩いている。更にくちばしには封筒らしきものが…窓を開けると、手紙を床に落としそのまま飛びさる。
「?」
封筒を拾い上げると、差出人は…ない。
魔力痕や爆発物の形跡も無い。
恐る恐る封を開けると便せんが一枚、それを読むと
「これは?」
私は内容を目を通して、
「!!!」
静かに震えた。
0900hrs
フェルザ―ノ王立学院中央塔屋上
「ねぇ、あなた随分と疲れているけどどうしたの?」
いつもなら扇情や変に誘う言葉ばかり使うセネルが珍しく心配する。
「徹夜明けですから…」
床にシ―トを敷き、そこに座り、壁にもたれて生あくびしながら私は答える。
殺戮してから、大急ぎで邸宅に戻ると、体に付いた返り血と硝煙を洗い流し、せっかく支給して下さったス―ツはもったいないですが捨てて、銃の解体清掃したら既にお嬢様の起床手前でしたので、準備などで寝ていません。
いつもなら3日間くらい寝なくても大丈夫ですが、久しぶりの殺戮機械モードで負担が大きかったみたいです…。
しかも嫌な事は、完全フラフラの私にお嬢様に心配かけさせてしまうということ。
そういえばそれ以外にも何か感じたが…どうしたのだろうか?
「ふ〜ん、まあ何があったか聞かないけどご愁傷様」
「心読めるからか?」
「そんな事しなくてもどうせリュミエ―ルのためでしょ?読まなくても分かるわ」
私の顔が思わず引きつる
彼女はやれやれと言った表情のあと
「どこまで尽くしてどこまで大切なのよ、そして報われてるの?」
「報われてるさ…3年前から」
正確にはあと1ヶ月くらいで3年になるが、この日々は私にとっては素晴らしい日々と断言出来るからな。
「まっ、人の至福はそれぞれね…」
「どういう意味だ?」
「何でしょう?」
いつも通りに妖艶な笑みを浮かべる彼女に私はため息吐いてから、ふと思い出す。
「そうだ、セネルに聞きたい事があるんだ」
魔術に精通してる彼女に聞きたい事
「なに?3サイズ?」
「抜かせ、魔術についてだ。案外興味深いと思う」
「へぇ…どんな事?」
彼女が食いつく
「瞬間移動出来る魔術はあるか?」
「魔法陣は?」
「見当たらなかった」
「じゃあ時属性の「タイム」と「アクセル」を組み合わせれば、時間停止中に早いスピードを出せるから瞬間移動は一応可能ね、体の負担は重いけど」
あっという間に答えをはじき出す、凄いな…
「じゃあ、魔術師でなかった人間が魔術師になるのは」
「有り得ないわね」
即答か…
「何か魔術の力を蓄積するものとかもか?」
彼女は少し考えて
「無いわね、あったらとっくに軍事転用されて超火力の兵器が出来るわ」
「そりゃそうだな…じゃあ…」
「でも…その人間が優性因子持ちなら可能かも」
「優性因子?」
私が聞き返すと、セネルは説明を始める。
「私みたいな一般で親が魔術師で無いのに魔術師の力を持った人間はどうして生まれるか知ってる?」
「さぁ、そんな知識は持っていない、何かの特異か?」
「まあ違ってない。魔術師には強力な特有遺伝子を持っているの。これを仮にABとする。で、実は一般の人の中にはAかBかの欠落因子を持つ人が何人か1人の割合で居て、その内、AとBの因子を持つ男女が交配して生まれる子がABの覚醒因子、つまり魔術師になるの」
「シンプルだな…」
「でも、AもBもAαとかまた細かく分かれていて、ABになっても魔術師になれない因子、それが優性因子」
「ふむ、つまりは魔術師になれなかった魔術師ということか?」
「そんなところね」
彼女の説明を聞いて私は納得と疑問も起きる。
「しかし、優性因子だけだと魔術師じゃないんだろ?」
「確かあったの、優性因子を覚醒させる研究が…まあ魔術師脅威論で伝統主義陣営以外から非難されて中止になったとか…この話が本当なら秘密裏にその研究が再開されたと」
「ふむ…何だか面倒な感じになってきたな…そして頭痛い…」
「いい加減休みなさいよ…」
完全に呆れられました。
しかしそんな言葉に負けないで!
「だが断る、私は任務を全うするためにな…気遣いはありがたく頂く。あと、さっきの質問の答えをくれてありがとな」
私にしては珍しく、他人にお嬢様用の笑顔を向ける。
彼女は
「はいはい、頑張れ頑張れ」
棒読みで見送った。
しかし若干頬を赤く染めて照れ隠しにも見えるが、チェ―ニは全く気づいていなかった…。
後はいつも通りの見回りと魔術の歴史と公開されている研究書を、500万冊の本と2千万の資料を保管する学院図書館から借りて軽く目を通して、優性因子の法則は理解したが、優性を覚醒因子にする研究書の方は禁書とされて拒否された。
そして
2100hrs
チェ―ニ私室
この家は使用人に対して待遇が良く、基本的に小さいながら一人部屋を用意してくれています。
ちなみに自分はタンスとス―ツをかける場所とベッドを一つ、そして机もあります。
銃は全部別の部屋に隠してあります。
今頃なら私は何かしら仕事をしていますが、お嬢様の命令で早く寝るよう言われてしまい一応寝間着になりましたが…
「ふむぅ…」
眠れないのだ。
体は眠りたいのに頭は変にフル回転で眠れない。
今日得た情報でカ―ルが優性因子を覚醒因子に変えたと仮定して、最強を最凶にしてくれた人は誰か?
という大きい事から
メイドのユウがドジをしないか?
という小さい事も考えれば
お嬢様を部屋までエスコ―トや楽しく話す時間が無い!
という客観的には、おいおい、私にとっては由々しき事態の事を考えたり…
しかし、せっかくここまでゆったり出来る時間も頂けましたし、大人しく目を瞑り、ユウが言ってた羊数えでもしようかな…
とにかく何かしようかと思った刹那
コンコン…
ドアをノックする音、誰でしょうか?
「はいはい」
たいていはフェンがお嬢様に関しての相談か、ユウが伝説の食器数枚同時割りやらかしたか!
しかし全く予想の斜め上
「まだ起きていたのですか?」
「え…はい?」
目の前にはリュミエ―ルお嬢様……
な…なんで私の部屋の前に居るのですか?!
「ま、まだ起きてましたが…なにかありましたか?」
「何も無いけど、ただちゃんと寝たかな?と思って」
なんと…私のために…
私の胸の中は感動で一杯ですよ。なに、大げさ?主人に喜んで仕える人になれば分かる気持ちです。
「眠れないのですか?」
「ええ…まだ何かしらやっている時間だからか、頭が変に冴えて…」
本当に、お嬢様から貰った時間が…
「あの…少しお話しませんか」
「?!、是非とも!」
嬉しくて少し語尾が上がったのは許してほしい、しかし次の瞬間
「じゃあ、お邪魔します」
「は?ここでですか?」
「駄目…ですか?」
「いえいえいえ」
私がそう言うとお嬢様は嬉しそうにほほえむ。
そんな顔されたら反論なんて出来ません!てかお嬢様の決定至上主義なので元々から反対なんて選択肢はありませんが!
「しかし座る所が…」
「ここで話せばいいですよね」
と、彼女はそのまま私のベッドの上に座る。こんな男性臭い所にお嬢様が座るとは…恐れ多さを感じながら、お嬢様の横に立とうとしたら
「あなたこそ座りなさい」
いきなり私の腕を掴んだと思ったら強制的に横に座らされて
「よし!」
お嬢様の悪戯めいた笑みに腕に感じた柔らかい手の感触、お風呂上がりか、頬が少し紅潮して髪が少し濡れていてそこからの優しい匂いが鼻孔をくすぐり、お嬢様の白いパジャマが更に神々しさを増し、とどめは近距離の上目使い
お嬢様は私に死ねと言っているのか?!
だが
「昨日はどこに行っていたのですか?」
お嬢様の言葉に悶えてた私から一気に冷静になる。
「………」
「答えられませんか…」
「申し訳ありません」
何があっても言えないさ。お嬢様は
「責めるつもりもありませんし、チェ―ニさんの行動には信頼していますが、心配ですからあまり居なくならないで下さいね?」
お嬢様の気遣いと私を頼りにしてくれるお言葉、身に沁みて更に嬉しさがこみ上げます。
「私はどんな事があろうともこの身ある限りお嬢様の側に居ます」
「ふふっ、ありがと……チェ―ニさん、これからはあなたの部屋に遊びに行ってもいい?」
「え…あ、どうぞ、仕事に都合がつけばですが、今度はお嬢様が好きな紅茶用意しときます」
チェ―ニはこんな天国がまた来たら死ぬと本気で思いながら了承する。
2人で笑い合った後
「では、私も色々あるので、そろそろ失礼しますね」
「ああ、部屋までお送り…」
「シュル―フィル」
お嬢様が笑顔で唱えると、立ち上がろうとしていた私の体がベッドに勝手に横たわり、力が抜けてしまう。
お嬢様は薄い布団を私にかけると、額に手を置き、慈母の声で
「ゆっくりお休みなさい…」
まさかの強制シャットダウンですか…
意識はやがて沈んで真っ暗になる。
リュミエ―ル視点
睡眠魔術でチェ―ニが寝てから20分、私は彼の寝顔を見て顔が自然に緩み、心臓はいつもより早く高鳴る。
そしてパジャマのポケットに入れてあった手紙を見る。
早朝にフクロウから渡された手紙、中には一枚の写真と手紙。
手紙にはいつかあなたの執事の命を奪いましょう。と、彼の過去です。
そして写真にはその過去、まだ顔立ちが大人になったばかりに見えて、特殊な軍事迷彩に身を包み、カメラから明らかに目をそむけている男性。
そう、チェ―ニである。
その冷たい瞳は今の彼とは全く違う、3年前そのものである。
彼に何の過去があったのかは分からない。
だけど
「私はあなたと同じく、どんな時も信じて守りますよ…」
何があっても絶対に、あなたの主人にして
「お休み、愛しい人」
微笑しながら既に落ちきった彼の頬に優しく口づけた…。