面倒な奴
1730hrs
フェルザ―ノ王立学院生徒会棟前広場
中央塔での仕事を終えてからは私は、見回りをしつつ、真剣な面持ちで授業にのぞむお嬢様を観察して、軍用の固形食をかじりつつ、学院で仲の良い方と談笑しながら昼食を取るお嬢様にほっこりし、校則違反の格好で下級生に不当な恐喝する不届き者を絞め倒しながら、魔術実習でお嬢様の素晴らしい火炎魔術の自在に操った芸術に感動して、そして今、ショルダーバックを肩にかけて生徒会棟前に居る。
王立学院は中央塔を中心に、東西南北に豪華な校舎が存在します。
西からの正門から、東西に生徒の座学教室棟、南が魔術実習棟、北は食堂図書館など総合棟です。
そして東校舎棟より東には大規模な攻撃詠唱の演習地を含んだ体育グラウンド。
そして総合の隣に、生徒会棟が存在する。
生徒会棟は12年制の四年生以上から、教師からの推薦で候補者を決め、選挙を経て、選ばれた12名の者にしか入れない聖地であり、たとえ一般開放されても一階の大広間と生徒会に対して一般生徒の意見陳情の部屋以外は絶対に入室出来ないようにされています。
ちなみに会長であるお嬢様は毎年教師から支持率100%で推薦を受け、選挙結果も支持率100%なので、最早会長=お嬢様。
素晴らしい式だ。
その中では今、お嬢様を苦しめる老害……理事会の皆さんと生徒会が全面対決しているようです。
議題は朝おっしゃてました、文化祭予算の大規模拡充の阻止。
お嬢様の手腕なら動かせると信じておりますが、もし駄目なようなら、ちょっと理事会のジジイどもに少し話しかけて、語りかけたいですが、お嬢様の性格ならそれを許してくれそうにありませんし黙ります。
さて、そろそろ会議開始から一時間は経過しています。確か緊急議題はこれ一つなのでそろそろ終了かと…
「あっ、お嬢様、お帰りなさいませ」
「チェ―ニさん、お疲れ様です」
「もったいなきお言葉です」
「ふふ、大げさね」
お嬢様は私を見つけると微笑して労いの言葉をかけてくださる。本当にもったいなさすぎる!録音出来るなら余す所なく録音したいです!
「それで、文化祭の方は…」
さあ、私が理事会の反応はいかに?!
お嬢様はベンチにしてはもったいないくらいの豪華な材料で製造された広場の椅子に座り
「見事目標越えの5%に収められました!これで他の予算も削らず、前年繰越の予備金で何とかなります」
お嬢様は微笑しながら、報告してくれる。成功は成功の大成功じゃないですか!
「それは喜ばしい事ですね」
「うん…でもね」
今度はシュンとしてしまう。
誰だ!誰がお嬢様をシュンとさせた?!て、この場に居るのは自分だけだから私か!私なのか!
「ど、どうしたんですか?」
動揺で軽く噛み気味だ。お嬢様は
「うん、確かに凄く喜ばしいけど、私の…私達生徒会の力だけじゃないの」
「は…はい?」
どういうことだ?あの教育省天下りで、全員ここの卒業生と変に威張る老害どもの理事会が動かせる権力は生徒会だけしかない。
そう考えると外部から、そして大きい権力…まさか
「今日は有意義な会議が出来ましたね、リュミエ―ルさん」
ある一つの答えにたどり着く前に答えがやってきた。
「そうですね、フェルラ王子」
「嫌ですね、ここでは副会長です」
やって来たのは、この学院の11年生で副会長、シルバニア王国国王が一子、フェルラ・シルバニア王子である。
対するお嬢様は
「そうですね」
こ…これは!学校モ―ドでも最悪な完全な作り笑み。
聖女でどこまでも寛大なお嬢様は、余程の事が無い限りこの仮面はつけない。
この男、何をやらかした?いや、大体検討はつくが…
「それにしても、フェルラさん、あの紙は…」
「ああ、頭の固く自分本位な理事会の皆様に自重してもらおうと」
「陛下に一筆したためていただいたと」
「まあそうですね、これで会議も円滑に済みましたし、会長も大分楽になりましたでしょう?」
「ええ…まあ」
………お嬢様が怒りを持つ理由が分かった、てか予想通り過ぎだ。
はっきり言おう。この男、馬鹿だ。
お嬢様の性格をまるで分かっていない。
お嬢様はたとえ不利な戦いでも、逃げず、前に立ち、生徒の意見を尊重して時には無茶を厭わず、嫌みに対しても強靭な精神力と持ち前の優しさや凛々しさに惹かれた名も無き者達の奮闘により勝利を掴んできた。
真正面馬鹿正直は馬鹿を見る世の中と吐き捨てる馬鹿も居るが、条件が揃い、真に人から支持される者は真正面馬鹿正直を貫けば、どんな裏工作でも現代科学が生んだ最悪な核兵器でも禁魔術よりも強いものを手に入れる。
それを体現したのがお嬢様である。
しかしこの王子は父親である国王陛下の文書というチ―トを使うだけの人間である。
確か三男のはずだから継承権第二位…神様、頼みます。間違ってもこいつだけは国王にしないで…。
「今後は私達、王立学院の生徒会のみで対処出来るように、精進しましょう」
「はあ、まあ会長がそうおっしゃいますならそうしましょう。では」
フェルラは成功したのに何でお嬢様がイラついているのか分からないようだ。
しかも私の事がん無視だし。
まあ私の事はいいとしてお嬢様のプライド踏みにじった野郎には後で闇討ちしてやる。
と思っていたら。
「悔しいな…」
「えっ…」
振り向くと、お嬢様が悔しさを滲ませ
「たった一筆に負けたなんて…、陛下なんて関係ない、負けは負けよ」
「お嬢様…」
なんて声かければいいか分からない。しかし次の瞬間立ち上がり
「だから次は負けない!副会長がまたあの手段を使う前に、理事会を屈服させます!」
「その意気ですお嬢様!」
自分自身で乗り越えようとするお嬢様に痺れる憧れるぅ!!
しかしまた次の瞬間
くぅぅ…
さっきまで威勢良かったお嬢様はぺたんと座り込み、両手をお腹の上に置き、俯き
「…聞こえた?」
「ええ、可愛らしい音がしました」
「〜〜〜〜〜!」
さっきまでの学校モ―ドの仮面も全て脱ぎ捨てて、真っ赤になったお嬢様の顔。しかも上目使い。
ぐはっ!致死量手前の破壊力だ!
ちなみに致死量に達した場合の死因は嬉死[うれし]である。
「お昼ご飯、この会議緊張で食べれなくてね」
あたふた弁明するお嬢様、やめてくれ!致死量に達する!だが本望か、体は要求してくる!
まあ死ぬ前にお嬢様のために用意したものがある。
「お嬢様、じゃあこれを」
「え…あっ!」
私がバックから取り出したのはお嬢様が愛してやまない、庶民のパン屋さんのチョココロネ。
本来なら、学校や家にもたくさん高級な貴族が好むチョコがあるが、お嬢様はたまたま私が買ってきたチョココロネを食べてからすっかり虜になったようで、時々、皆にばれないように、買ってきている。
もしこれが奥様や当主にばれたら…どうなるかな?
お嬢様は目を輝かせながら
「でも、買いに行く時間があったの?」
「裏技ですよ、少し仲良くなった人に頼んで」
「へぇ〜」
お嬢様は納得してくれる。
本当はさっき恐喝で絞め倒した不良生徒にパシラせて、買わせました。
まあ恐喝という重罪に学校脱走の罪が付くだけだし、別に大丈夫でしょ。
え?鬼畜だって?誉めないで下さい照れるでしょう。
「いただいても?」
「どうぞ、今なら周りに人の気配は感じませんので」
「いただきます!」
お嬢様は包みの袋を開けて、頭の細いほうからかじりつき、飲み込んでから
「美味しい!」
今日一番の満面の笑み、
駄目だ…もう思い残す事はないぜ……
チェ―ニ・スキア、リュミエ―ルの笑顔にやられて立ちながら逝く。
ちなみに、機能停止時間は、リュミエ―ルが不審に思ってチェ―ニを揺するまで続いた。
次回は戦闘回です。