そして始まる
スレイト
口径6.64mm
現代の戦闘における主力アサルトライフルの5.56mmよりも大きく、狙撃、草原でのドンパチに向くバトルライフルもしくは狙撃銃の7.62mm×51より小さい、またの名を中途半端な口径である。
しかし、使い方によっては、例え薬でラリって、数発弾を受けても倒れにくい人間を一撃で仕留めるストッピング能力
初速も比較的速く、かつ弾の重さで風の影響を受けにくい事から近距離から狙撃までこなせ、計算上精度最高、炸薬量を限界まで詰めて弾の威力を高めつつ、室内でも振り回せる銃身の短さ、強力なバネによりマシンガンと同等の速射性を確保、部品の隙間を作り排熱性を高め、連射での熱のこもりを抑えつつ、各パーツ長期のメンテナンス不足でも性能が落ちにくいよう丁寧に作られ、化け物のような耐久力を誇る。
しかし安定感を増させるために重心を低くし非常に重たく、また色んな器具を取り付けるレールもあり、耐久力が高くともAKレベルとまでいかないのである程度経てば整備が必要だが、一度始めれば非常に時間がかかり、それをマスターするのも一般の小銃に比べて遥かに大変であり、熟練した軍人でも扱えないじゃじゃ馬である。
これを扱える資格があるのは軍人、傭兵、ギルドでもごくごく一部の人間であり、いずれも資格だけでそれを手にすることは出来なかった。
最高のパフォーマンスを出せると開発者から直々に認められ、狂った性能を持つ「スレイト」を持ったのは、「殺戮機械」ことチェーニ、ただ一人であった。
そんな銃が、セネルの手によって持ち出された。チェーニが学院内に隠していたが、彼女はそれを見抜いていた。
付いてきたリュミエール、レン、そして既にリュミエールに戦闘を隠さなくなったフェンとネティも興味と、これからの作戦のための彼女らの護衛のために来ている。
「て、ことになってるけど、そんな凄い銃なの、これ?」
レンが目を輝かせて聞く。銃に詳しくないものから見ればそれはただひたすら大きい銃だろう。
セネルは苦々しい顔で
「凄いも何も、これ、まともに扱えるか分からないでしょ・・・ネティ、ちょっと撃ってみて」
「お断りです!こんなの撃ったら肩外れる上に師匠に殺されます!」
ネティが即答で拒否をする。
銃は口径だけでその威力が決まるわけではない、炸薬の詰まった薬きょうなどの長さも威力に大きなか関わりを持つ。このスレイトは先にも書いた通り口径は比較的大きく、かつ薬きょうの長さも長い、敵もさることながら、撃つ自分の体にも反動による破壊力満点な代物である。
「これは・・・さすがに整備は出来ないでしょうな。下手にパーツ抜けば瞬間的におしゃかになりそうだ・・・補正だけは済ませておこう」
裏の世界では文句なしのトップクラスの実力を持つフェンですら、その禍々しさとに圧され、そして扱えないと確信する。それだけ人を選ぶ銃である。
「これで・・・チェーニさんは裏の世界を」
リュミエールはスレイトを握る。弾倉は入ってないので暴発の心配はないが、やはり従者の二人は身構える。
魔法以外は一般の女性と変わらない彼女には非常に重いもの。それ以上に、容易く命を奪う代物とくれば、やはり手は自然と震えてしまうもの。
「やめなさい、軍事教練受けた私でも出来れば触りたくないのだから」
国民皆兵の国から来たセネルがリュミエールからスレイトを取り上げ、元のスレイト一式ケースに戻す。
「さて、明日の夜、我々は敵さんの所に乗り込みますが・・・お嬢様、よろしいですね?」
フェンがセネルからスレイトを受け取りながら、リュミエールに聞く。
この作戦は、大義でも味方のレベルでも大きく勝っている。しかし、チェーニという本来表に立ってはいけない人間を、公爵家後継ぎが救うのはあまり褒められたことではない。しかも敵は腐っても王室一派である。
だがそんな質問は杞憂であった。
「私は守られてばかりの箱入り娘です。ですが、守られるばかりも飽きましたので」
珍しくニヤリとするリュミエール、その姿にフェンの背筋に何かが走った。そしてネティも良くわからない圧力を感じる。
自分の理の為なら何でもする。関係ない者、一般人には無限の慈悲を、利権に関しては死守し絶対に甘い蜜は他に吸わせず、仇名す者、不埒な者には即ち鉄槌を、人気と恨みの両方で最高で生きる、イルミナル家現当主、ガルモンド様の血を引く娘。魔術以外でその才能の片鱗が見え始めたのだ。
二人は膝を屈する。
「承知しました、この従僕ら、最後まで貴女に付き従いましょう」
その姿を見てリュミエールは満足そうに頷き、セネルとレンは
「やはり目覚めさせてはいけないものを目覚めさせたのでは?」
という不安感を持ちながらその姿を見ていた。
7/10
2200hrs
王家別邸 クレリア離宮
全員はとある場所に集合していた。
そう、チェーニが監禁されるこの場所に。
広大な中庭を中心に、コノ字型の中世貴族が住みそうな建物で。サッカースタジアムと同じくらい、それ以上の敷地面積がある。
コの字型の空いてる方が正門で、正門と裏門、あとは秘密にされてるだろう出入り口以外は道がなく、山に囲まれている。
中世から近世の共和政の波の時にシルバニア王室が逃げた先がここであり、それ以降強化を重ねてきているため、王室別邸にして要塞のような役割も持つ。
現在は別邸管理は王位継承1位のセガート一派に渡されて、彼の保養地兼、父親である国王に閉じ込められた場所である。ここで閉じ込められ、有能な弟に負け、側室の子として蔑まれ、やがて性格が大きく変質したと考えられる。
「まあ、そんなんで性格歪むくらいなら王室に居るなって、言いたくなりますよね」
「やめなさい、口が過ぎると処罰されるわよ」
「失敬、しかし我らミッドウェー家以外に処罰されるなど、されるくらいなら逃げます」
ハルネスの苦笑のツッコミに対して飄々と返すは、軍の最新迷彩と高級暗視装置を付けた一見すると普通の男。
しかし、彼こそがシルバニア王国軍でも最凶と呼ばれ、特にミッドウェー家にしか従わない直轄秘密部隊の部隊長である。
情報収集として条約違反の軍服を脱いでの偵察もするため、空挺や即応部隊のいかにも精悍かつ厚手の服を着ていても分かる体格の良い「精鋭軍人」でなく、一般人に見えてどこよりも強い人間という恐ろしい性能である。
「忠誠を誓ってくれるのはありがたいけど・・・やはり口を慎めなさい。私はこれから一応王室の一人の予定だもの」
「そうでした・・・・これは失敗だ。なんてことだ・・・元帥閣下に殺される、いや、やはり貴女を王室に入れる前にやはり共和政を」
「おいおいおい・・・」
ハルネスが小さい時から良く遊び相手になってくれた人間であるので口調も砕けている。しかしここまで父上に惚れこんでいると、さすがに危ない感じがする。ちなみに父上は名誉称号で元帥であって階級で言うと大将と権力は変わらない。
定年退官を先延ばしにするために行っていることで現在既に63の御仁だ。
そのとき、二人のいるそばから音が聞こえ、現れるのは
「やっと着きました。遅れましたか?」
リュミエールたち三人と護衛のネティである。ちなみにフェンは狙撃担当であるため、既にポイントに移動いている。
「いいえ、現在偵察活動をしているのでもう少し待ってもらうわ・・・ああ、私の私兵のリーダー」
ハルネスが指さすと、男は恭しく頭を下げ
「ミッドウェー家直轄部隊、第三部隊の隊長であります、ブームスラングです。スラングとでもお呼び下さい。申し訳ありませんが本名は軍機に当たりますゆえ」
「気にはしませんわ。よろしくお願いいたします、スラングさん」
リュミエールを筆頭に握手を交わしていく。彼の本物に気付くネティは震える・・・この人に絶対勝てない。と
「さて。現状をご説明させて頂きます。我々は偵察と工作を主たるものとしていますので、現在ラジコン飛行機搭載の装置でこの屋敷の警備状況、人数の把握をしています」
目を凝らすと、暗闇の中にグライダーのような飛行機が無音に近い静音プロペラの推進で飛びまわり、熱源、既に侵入している部隊員の設置したビーコンを受信して兵力を計算している。
「ざっと見て、一般管理人兼自前の警護員が100名、戦闘能力を持つ王室近衛兵、警備兵が80名、それと恐らくですが、側近もしくは魔術師と思われるのが15名あまり他見えないところに何名か・・・防衛に専念されれば手ごわいですが、時間を掛ければ勝てる相手でしょう。ただし人質のチェーニ様を考えなければですが」
「では短期決戦で行きましょう」
スラングの説明に口が挟まれる。
振り返れば、いつの間にか居るのは、カールである。
「あらあら・・・友達も多くいらっしゃって」
セネルが言うのはその後ろに集まるスーツやらラフな格好をしながらも全員何かしらの銃器を持っている。
「おお・・・あなたが透明人間。お噂はかねがね」
スラングが手を差し出すと、カールはその手を握り握手しながら
「こちらこそ・・・色々世話になってましてね・・・毒蛇殿」
「これはこれは・・・ばれてましたか」
ニッコリ笑いあう二人だが、その空気は凄く冷えているものだ。
「何ですか?仕事終わりに私と戦いますか?」
「あいにく金にならない仕事はやらない主義でして・・・ただしお金が出たなら別ですが。別にあなたに大きな恨みはありません、失敗した人間がいけなのがギルドの習い」
「それは良かった」
二人はそのまま離れて笑いあう。スラングは一体何者なのか。
「では、ブリーフィング始めてもよろしいですか?」
割って入るはリュミエール、既に彼女は覚悟を決めているので雰囲気に流されない。カールは面白い成長を見たとニヤリとしながら
「どうぞ御嬢さん、我々は今は貴女のしもべだ」
「結構、では、作戦概要を伝えます。私たちの最終目的は、チェーニさん救出及び、盛大に戦って王位継承権1位のセガート・シルバニアの捕縛及び失脚を狙います」
それだけで異常な作戦であり、カールが連れてきた男たちが口笛など吹く。
以下はこうだ。
まずはハルネスの直轄部隊により攪乱工作及び王子捕縛部隊が動く。そしてリュミエール、セネル、レンの3名はギルドのメンバーと共に正門から突撃、チェーニ奪還を目指す。
正面突破は、この屋敷が現代に至るまで色々細工がなされており、派手な陽動をしつつ裏から入っても救出部隊が任務を完遂できるか分からないので、ここは大宣伝も含めて正門から突撃がむしろ一番安全という結論に達したのだ。
また、実はこの作戦に一番にのったのが主役のリュミエールなのだから、まあ、そうなるだろう。
「既に準備は出来ております。あとはリュミエール様の声掛けですべてを開始させて頂きますが?」
「ありがとうございます・・・それではみなさん」
リュミエールが周りを見渡す
「安全第一、生きて帰りましょう」
シンプルにそういうと、依頼主がそう言うかとギルドのメンバーが笑い、スラングと影薄いながら御付の兵士も笑う。
「笑うところでしょうか?今?」
「いやいや、それでいいんだ。では・・・やっていいな?」
カールが聞く。そして
「お願いします」
リュミエールが頷く
それと同時にレンが聞く
「ハルネス先輩」
「ん?」
ハルネスが可愛い後輩の方を向く。
「スラングさんの毒蛇とは?」
「・・・ああ、あれはね。あのコードネーム自体毒蛇の一種なの。噛まれた後、腫れや痛みもせず毒が回って・・・」
次の瞬間、轟音を上げて屋敷は吹き飛ぶ。爆発したのだ。同時に正門付近などにシュルルという音が響くと白い煙が各所に上がる。古典的ながらもっとも効く迫撃砲からの煙幕だ。
「こんな感じにね、対象者と救出者を除いて効率よく罠も敵も爆破する。入念に準備して毒を回しきってから一気に殺す・・・これが第3部隊「毒蛇部隊」の特徴・・・さてお話は終わりよ」
「短期決戦です!行きましょう!」
リュミエールが一番槍に駆け出す。
「お前ら!雇い主が一番前だぞ!金づるを突出させんな!」
「おうっ!!」
カールの掛け声と共にランクAもしくはBのベテランギルドメンバーが走りだす。
正門は混乱し、駐在所や防衛指揮所、警備兵は間に合っていない。
リュミエールが予めノートに記した魔方陣を持って煙幕内の視覚クリア、セネルが戦闘の雷、炎魔術を用意して、レンがカメラを持ちながら拘束魔術の詠唱しながら突っ込む。
こうして、後世にも名が残るクレリア戦闘が始まる。
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