昔語り
リュミエール視点
「昔々の話・・・15年前になるか・・・それが奴との最初の出会い」
カールが静かに語り出す。私はその人の口の動きも見逃さないくらいに真剣に聞く。
「俺たちギルドはとある国で任務を頼まれていた。詳しくは話せないが・・・それの過程でとある班がミスしてね、巻き込むはずのない村がゲリラ拠点として政府軍に焼打ちにあってしまったんだ」
「・・・」
カールはソファに背もたれ両手を合わせて顎につける。
「任務にない行為は即座に揉み消すのが我らギルドの鉄則であり、表社会裏社会全般で生きていく術であるのにそれをぶち壊されかけた。即座にその村の救援に向かったが・・・」
彼は首を振り
「既に壊滅していた・・・男は一発、女は無残に・・・な、生存者は望めない、そう感じた時、奴は居た」
彼が話しながら何か思い出し笑いをしているように少しニヤリとする。それが気味が悪くて・・・そして楽しそうに見えた。
「そいつは見た目10も満たない少年、しかし手にはしっかりと正規兵から奪った小銃が握られていた。想像出来るか、奴は一人で民兵で無くそこそこ訓練積んでる正規兵を数人殺したんだ。本能で銃を奪い、安全装置を外し、撃ちきったら弾倉変えて、そして何人も。少年兵で無い村の少年が・・・そして私たちを見た瞬間、躊躇いなく引き金を引いた。まあ外れたけどね」
彼の笑いは既に私・・・私たちから言葉を奪い、恐怖を植え込む。
「きついわね」
隣のセネルが静かに呟く。
「済まないね御嬢さん方、しかしこれは事実でね。続けるよ」
実に楽しそうで・・・こちらは不愉快だ。しかし続けてもらわなければ困るので私は首を縦に振る。
「彼を拘束した後、一応はその国の政府に預けようとしたが・・・彼ら、最後の生き残りの彼をひどく嫌がってね。そりゃそうだ、ギルドのミスといえ、遠回しにすれば政府謀略の失態を記憶する者が、子供でも生き残ってしまったからね、臭いもの蓋したい政府は彼を見捨てた。ついでに言うと、彼は戦争ショックで記憶の一切を封印したのか本当に忘れたのか名前が言えず、更に村が焼かれた上に戸籍を政府が抹消したせいで本名は分からない。誰が血縁者であるかもね・・・つまり彼は本当の天涯孤独となった」
「・・・ではチェーニとは?」
余りの事実に私は震えながらも質問する。
「ああ、あれは奴の偽名であり第二の本名と言うべきか・・・チェーニ・スキアは俺たちの師匠に当たる人物がつけてくれた名前だ。まあその師匠は死んだがな。で・・・まあ色々あって俺たちは易々孤児院に入れるよりかは、その戦力を・・・天性を物にしたいと考えた」
物だって・・・その言葉に私は思わず睨む。彼は動じず
「おいおい、にらまれるには勘弁だ。チェーニは既に光ある世界にいける人間でなかったし、むしろ口封じに殺される可能性もあった。それを救って保護して生き残る術を与え、今ここであんた、リュミエールという箱入り娘を守る盾となっているんだ。少しは感謝してくれ」
「・・・・・」
そう言いながら彼は少し怒気をこもった視線をなげかける。ここで負けてはならない・・・彼から視線を逸らさず向き直る。
「・・・ふむ。少しは強くなったのか、まあいい、続けますよ。で、奴はやはり天才だった。教え始めてわずか3年でCランク任務を単独で成功した。中堅クラスを簡単にこなせる、あとはどんどん伸びていった。その任務スタイルは、悪と思われる人物は徹底的に殺し、民間人、関係でない人間は殺さない。甘ちゃん残る性格かと思いきや、大規模組織を単独で殲滅できる戦闘力も持つ。いつしか奴は周りの人間をどんどん追い抜き、ギルド数万人の頂点で大陸十指の8位として君臨し、そして「殺戮機械」と呼ばれた」
その仇名に私はチクリと痛みを覚える。そのような名前、十字架を背負い、それなのに私の前では強く、優しい人であってくれた人物・・・
「なんだか色々感じてるみたいだが、奴は決して「優しい」や「勧善懲悪」じゃないぞ」
「え?」
見透かされたように彼に釘を刺される。
「奴は・・人格みたいなものを取り戻した時、心の構造が変わったんだ。とにかく任務の対象を殺す・・・まさしく機械だ。殺戮の為だけの機械・・・俺ですらゾクッとした」
その表情は本気だ。あの古ぼけた写真を思い出す。あの目で人を・・・
「だからこそ俺は驚いた。あいつが3年前、裏切りで死にかけ、そして、本当の偶然で光のある層に行き、こうして笑顔を見せているのがな・・・本当に」
「へぇ」
その時セネルが静かに笑みを浮かべる。カールから何を読み取ったか知らないが、すっごく悪い笑みだ。
「さて、それからは俺も知らん。ていうかそれ以外はあなたたちの方が詳しいが、自分はほとんど興味ない。ただあるとすれば、奴の殺戮機械が錆びていなく、むしろ進化していたことだ・・・これでスレイトがあれば完璧だな」
「スレイト?」
「ああ、奴を本当の意味で完璧にするものだ」
私や、皆が食いついてきた。カールは私たちの反応を楽しんでから
「ギルドは大陸十指、またはそれに同等の実績の人間の仇名に合わせた武器が支給されるんだ。スレイト、文字通り殺戮の為の兵器でありギルド御用職人の傑作品の一つでありチェーニ以外は絶対に扱えぬ銃」
問題はどこに隠したって話だ。カールが続けているときにセネルがあっ、と言葉を漏らす。
「ねえ、それって、ウォルカ爺さんという人の作品?」
「なぜ知っている」
セネルの言葉にカールがキッとする。本気で驚いているみたいだ。そして私も・・・
彼女は勝ち誇ったように
「いえ、私、一度その銃を見せて貰って、そして隠し場所も大体分かるんだ。彼とは学校では「仲良く」させてもらってますから」
一瞬言葉を強めたのは私の聞き間違いでない。
セネル・・・私と同期でありサボりの常連、しかし成績は次席で、そしてチェーニさんにはびこる女・・・。
こんな女が知っていて・・・偉そうには言えないが、ここまで負けるのは悔しさを越えて全力で戦いたい・・・
私の中で初めて本当の意味の「闘争心」が芽生える。
カール視点
「あら、リュミエール、怖い顔してどうしたの?」
「え?いえ・・・少々不愉快なことが起きたので」
セネルがふっ、と笑みを零して聞く、対してリュミエールは何かをこらえて返す。
「あら、優等生にも悩みがあるのね」
「ええ、たった今、大きな悩みがね」
おいおいおい・・・チェーニ、お前は中々どうして上手くやってるが、女性の管理が下手なのは変わらずかい。
さっきのセネルの発言から一転してリュミエールが本気の殺意を滲み出してるぞ、てかあの記者のちびっ子も複雑な表情してやがる。てかハルネス、笑ってないで何とかしろや。
これでまとまるのか?
一抹の不安があるが、とりあえず切り出す。
「はいはい、昔話も終わりだし、スレイトも確保できそうだ、とにかくあいつを救出する。一応その目的は果たせよ」
「「「もちろん!」」」
3名のタイプの違う美人が色んな感情を持ちながら一緒に同じ返答をする。
たく・・・本当にお前は運がいい奴だ・・・
殺すのは後にしよう、とりあえず、この3人の不満がはれるまでな。
私はため息を吐きながら、解散を号令した。