夜の園の二人
果てしなくギャグ回、キャラ崩壊注意
これで一応夜会の話は終了です。
たびたび皆様との約束を破りまして申し訳ございません。
6/30
2300hrs
学院庭園
本学は伝統を重視し、基本的には外には魔術関連以外の華美な装飾はしないが、お祝い事があるときは今回会場になった室内練習場と同じく、来賓者のために外もきれいに整理され、花も植えられ、ライトアップされている。
と・・・いっても、既に夜会も終わり、準備委員会の最低限の機材撤収兼反省会以外の大半の人間は、学院の寮や学外で二次会に突入しているために、中央、そして先ほどまでごますりや噂、いろんな思惑混ざった雰囲気を放っていた夜会会場は豪華さを残したまま静まり返っている。
そんな空間で話す二人の姿。
「で、なんでこんなにも遅れたの?」
「何度も言いますが、少し手間取る仕事がありましたので、通常業務の延長戦です」
「むう・・・」
「ああもう、すねないでください」
私、チェーニは只今脳内永久保存したいくらい可愛らしく頬を膨らましてるお嬢様の尋問を絶賛受付中です。
お嬢様のために体張って闘ったのに尋問されて理不尽じゃないかと思う諸氏もいるだろう。それはまだ初心者だ。相手に忠誠心のかけらもない。
主君に利用されて盾になった後に見る主君の元気なお姿は何事にも代えられぬ喜びっ!
そして威圧も何もない尋問など私にとってはご褒美です。
おっと、これ以上は変態といわれるから自重しよう。
さて、お嬢様はダリウスからの求婚を徹底的かつ無慈悲に粉砕したあとに、素早く夜会の進行をし、閉会まで一切の邪魔もさせなかった。
そして閉会後は的確な指示で生徒会分の仕事を終えて、こうして私と合流している。
「本当に通常業務?」
「ええ」
お嬢様の身辺、ひいてはイルミナル家に関する一切の事案は私の通常業務です。それが殺しでも裏取引でも。
「危険なことは・・・していない?」
「していません」
あのくらいの敵は瞬殺出来る。一切危険ではない。
うん、嘘はついてない。
しかしお嬢様はじっと、見つめてくる。
そしてふうっ・・・とため息ついてから。
「今回は信じます。でも・・・お願いだから心配をかけさせないでください」
「はっ、肝に銘じます」
お嬢様は私に背を向けて言い、私は静かに胸に手を置き臣下の礼をする。
しかし心の中ではそれは約束できないと謝る。
もうお嬢様は箱入り娘から大分抜け出し、現実を知り始めている。私がどのようなことをしてるのかももしかしたらすでに察してるかもしれない。しかしお嬢様はあえて聞かずにいてくれる。
それは自分にとてもありがたい。
お嬢様は最下層の私が手を伸ばしても届かぬ最上の人間、最下層の現実など見せたくはない。
私は誓ったのだ。暗闇から太陽のもとに引き上げてくれた人たちの闇をすべて引き受け、完遂することを・・・
と、そんな空想する前に・・・
「お嬢様、いくら暖かい時期といえ夜はそれなりに冷えます。そろそろ屋内に行きましょう」
「はい・・あっ・・・その前に」
「なんでしょう?」
お嬢様が振り返る。私は聞き返す
「業務の内容は教えてくれないのはわかりました、でも約束の時間大幅に過ぎましたね?」
「ええ、申し訳ございません」
「だから・・・私の命令を聞きなさい」
「・・・はっ?」
命令とな・・・お嬢様の命令なら何でも聞きますさ!世界の常識であり、世界の真理!!
別にここで言うなら罰でしょ、いや・・・もしかしたら無理難題を言われるのか?!そうなのか?!でも無理な願いを仕事モード口調で命令されれば・・・やれるな。
「次の学院の休みの日、一日開けられますか?」
「一日ですか?」
「ダメ?」
少し不安がるお嬢様、上が下の人間のご機嫌伺わないでください!
「大丈夫です、一日でも万日でもお嬢様が気のすむまで予定は開けます」
さすがに万日は無理だが一週間までなら周りを捲き込んで強制的に開ける。
「じゃ・・・じゃあ、今度の休みの日・・・遊びに行きましょう!二人で!」
「二人で?」
「ええ!あなたと私で!」
「私とお嬢様で?」
「そして私服で!」
「私服ですか?!」
意を決したように言うお嬢様、心なしか顔が赤く、それがまたやばいほど似合う。
んー、なんていうんだ・・・まるで初恋のような感じ・・違うか?
その前に自分スーツと最低限の私服で外出用私服は持っていない・・・と、思考してないで!
「行きましょう、ただし長期休暇でないので遠くまではいけませんが・・・・どこに」
「あの・・・シルフィーランドシティに」
「シルフィーですか」
シルフィーランドは、今も昔も民生品から軍需、建設に販売物流まで1から10まで親から末端までで自己完結出来る大陸最大手、シルフィード社がこの王国に建てた、遊園地、アウトレットモールのある総合アミューズメントパークだ。
お嬢様も確かそこのキャラクター・・・確かセーレンというキャラが好きだったはずだ。
しかし、あまりに広すぎるために、1日で回ろうなんて考えを持つ人間は少ないが・・・
「1日でいけますかね・・・」
「チェーニさんなら・・・いけるでしょ?」
ok、把握した。それは大変なお願いだが実にやりがいがあ・・・ん?だがこれならやはり他の奴も動員したほうが・・・
「ほかの人は・・・」
「皆さんとじゃなくてあなただけです!とにかく、私服で二人です!わかりましたね?!」
「い・・イエス・マム」
お嬢様の迫力に押されてしまう。
「そ・・・それじゃ行きましょ!」
「あ・・・はい!」
お嬢様の顔にまだ消されてない夜の園を彩るライトアップの光が当たり、その真っ赤になってる可愛らしい顔を晒しながら、先に進んでいく。
で・・・なんで二人なんだ。
まさか・・まさかな・・・。
「チェーニさん!おいていきますよ!」
「只今!」
静まりかる夜の園でのちぐはぐ顛末は
フェンとユウは近くの物陰から
ネティとセネルはセネルの集音魔術で塔の上から聞き
レンとシーク、そしてたまたま居合わせたノルーの達は盗聴器を用いて聞き、そして話が終わった直後に言った言葉はただ一つ
「「「・・・鈍感」」」
7/1
1000hrs
学院学長室
「と、いうわけで、サクッと皆殺しにしました」
「ほう、聞いてなかったぞ?」
「今言いました。そして事後承諾いただける自信しかありません」
「けっ・・・忌々しい、二日連続で不愉快だ」
「ははは、お気の毒に」
「・・・神話生物(雄牛)にぶち込むぞ」
「おおっと、私はまだ丸焼きにも命がけの楽器で遊ぶ気もありませんので一応謝ります」
「ちっ・・・まあ今回のことは承諾する」
「ありがとうございます」
「本当に忌々しい切り札だ」
「ほめても何も出ませんよ、学長殿」
「・・・」
「無視ですか・・・ひどいですね」
果てしなく無駄な応酬は学長、ジャニストが不利と見て自分から切り上げる。恒例のことなので後引きもせず私も本題に戻る。
「これで何とか王室も軍隊も双方痛み分けでしばらくは動けないでしょう。王室はダーリア・クロニクルのゆすりで沈黙、王国軍も王室の息がかかってる連中のあぶり出しで有能人材も切り捨て、情報部から一部部隊にまでほころびがかっていて、上から下まで再編成で大忙しらしいですし」
精強で知られる軍隊が大混乱に陥る滑稽な姿を見るのはギルド時代からすきだったからな。
「で、あんたの愛しのリュミエール生徒も、求婚事件を起こしたものの、ソーシャ・ダリウス生徒が全面的に非がある相手の皇室サイドから連絡があり一切の不問に、そして君とシルフィーランドシティに行くんだろ」
「なっ!」
思わず反応してしまう。なぜ知って・・・
ジャニストはにやりとしながら
「くく、耳は早い方なんでな」
「さいですか・・・」
こいつが知ったら面倒なことになると思ってたのに、てか今日の朝、いきなりルノーさんに「あんた執事失格寸前」とか言われてへこたれそうだったのに!ここでフルボッコの攻撃材料がいきなり揃ってしまった!
私は珍しく、負けかなと思った刹那
「まあ・・楽しんで来い」
「はっ・・・・?」
「なんだ?」
「失礼ですが、どちら様ですか?」
「目が腐ったか?本当に神話生物見せるぞ」
「ああ、学長だ」
「判断基準はどこだよ」
とにかくこの学長から押し出し・天と地がひっくり返ってもあり得ない・・・まさか
「夢ではないぞ」
「ああ、やはり夢か」
「だからどこの基準で夢になった?」
え・・・だって、人いたぶるの好きな学長が人の心読めるわけないじゃん・・・という言葉は飲み込み「全部漏れてるぞ」
「おっと、本音が・・・」
「本音なのか」
「あ~・・・・で、学長がそんなこと言うとは、まさしく明日は闇に包まれるかもしれません」
「無理やり流し切りやがったな」
「そんな事実はなかった。本音言った気はするがそれは気のせいだ」
「お前、今度殺す、必ず殺す・・・と、これ以上は不毛だからな、とりあえず楽しんでくればいい。リュミエール生徒はまともな生徒だからな…まあ貴様が居るだけでマイナスポイントもあるがな」
「それは認めざるえない部分もあるな」
これ以上は何かこの学長が変なことをのたまう可能性が高いので早めに撤退しよう。
「それじゃ報告は以上だ」
「早く帰れ」
「ああ帰りますさ、失礼しましたよ」
チェーニは学長室から出ていく。
ジャニスト視点
部屋から出ていく忌々しくも役立ってるので簡単に切れない男、チェーニを見送ってから
「ホント、楽しんでこい」
手元にある資料。これは軍隊でも王室でもない・・・シルバニア王国公安資料。
彼の存在は3年間で大分漏れてきた。それが一番厄介な公安当局が察知したのだ。
現在はほぼ治外法権の公爵家と不可侵の学院の往復で手出しできないが、シルフィーに行けば必ず行動を起こす。
別にリュミエールに危機が及ぶわけではなく、あくまでチェーニだけがターゲットだし、手出しできないのを我慢できず相手側が非合法に出られるのもこちらが困るので、あえてシルフィーランドシティ行くことを後押しした。
まっ、奴のことだ
「ケロッとした表情で倒すんだろうなぁ」
私はその光景を思い浮かべ、愉快に思う。
と、なんでこんな重要なことを教えないかって?
それは私の愉悦のためだからだよ。それ以上に何がある?
しかしジャニストは見逃していた。
公安よりも厄介で怖い秘密組織の動向を・・・。