報告と計画の全容
次回、やっと華の夜会&お嬢様が登場、そしてチェ―二を通常よりも、更に暴走させたい。
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1300hrs
フェルザ―ノ王立学院総合棟図書館地下
相変わらず薄暗く整然と並ぶ書庫群を抜けると。
「5日ぶりね、どう?調子は」
「気分は最悪だ…それより優雅だな」
「どう?結構高いやつだけど、飲んでみる」
「結構」
「ざんねん」
私はため息を吐きながら席に座り優雅に紅茶を楽しむ、ダ―リア・クロニクル記者、シ―クに言う。
昨夜、生徒会棟に忍び込む…またの名を突撃した後に探索をしたが、私にとって衝撃を与える内容を見つけてしまった。
その前に
「そちらはどうだったんだ?」
私が聞くと、彼女はカップを置いて首を横に振り
「残念ながら有力なものは、ただ、夜会の翌日にも軍の制服組は一応国防省を通じて、有事の際の貴族、魔術師特権の制限案を発表するらしいわ。今までは門前払いだったけど、軍人家系の息女を王族に迎え入れる婚約をしているから、要求は全部でなくとも一部は完全に呑み込む。あと、オフレコだけど、同時に軍の魔術兵器開発を拒むなら、茶番は終わり、革命も辞さないと…」
「なるほどな、だから奴らはこんな手間を…」
手元のコピーした計画書を見やる。彼女は乗り出して
「それは、この学院の紋章ですね。昨夜の生徒会棟から見つけたのですか?」
「もう耳に入ってますか」
予測はしていたが…
「私も一応部下を持てるレベルですからね、新人君に追跡させました……それで、その計画書にはなんと?」
「ああ、中々やってくれるぜ」
計画書を彼女に差し出す。彼女は読み始めて…しばらく無言になる。
そして計画書を置くと息を吐き出して
「まさかここまでとはね…王族も嫌な事を…」
作戦の中身、それは
違法傭兵団による夜会占拠と身の代金要求
「この傭兵団は約束を守り腕が良くても、報酬以上に略奪などが有名で傭兵協会からは除名されて、紛争する軍も採用どころか監視をしている悪徳だ。利用者は主に地方の独裁者が反乱鎮圧に使ったりする」
私がギルド時代からこの組織には黒い噂と低俗な部隊と聞いている。
彼女も察して
「この部隊が夜会を占拠更に身の代金を要求されたら一大事。恐らく学院自治権の問題や自国や他国の要人も人質に取られるも同然の国際テロ、簡単に屈服しても疑問は無い傭兵達が何故ここを狙ったかという不自然な疑問もあとでどうとでもなる。更に違法傭兵団を一括監視する王国軍の体制に疑問が持たれて信用が落ちるし、王族他魔術師優勢の議会はそれ一気に攻撃出来る」
「あとは、事件後には、自分達の行動は棚に上げて軍は信用出来ないと、今までは制限されていた攻撃魔術の解禁と、学院の束縛、そして……お嬢様の更迭も出来る」
無意識に最後の部分に怒りが籠もる。
お嬢様達をこのような危険な目に遭わせてまでやりたいことは、私にとっては不愉快でしかない。
「どうどう、落ち着きなさい。でも、傭兵達を見過ごすのなんて、どうやって…」
「そしてこれがトドメだ」
もう一つの紙束、
「これは…はぁ」
「一週間前に隣国のレニア共和国を見張る王国軍国境警備隊に傭兵達を素通りさせるよう買収、軍の警察である警務隊の買収、そして傭兵監視の情報局第四課の怠慢、もとい軍上層部とは別の勢力による買収と圧力と黙殺、……実際にこれに協力した人間は名誉除隊の高い年金生活か王族が仕切り、軍が手が出しにくい部署に栄転して、反論した人間は飛ばしたと記載されている」
「火消しは難しいわね…いや、もう手遅れ…絶対に王族サイドは買収の証拠隠滅するから美味しすぎる攻撃材料ね」
やれやれといった表情を見せるシ―ク。
「理事会はよく賛成したわね・・・確かに生徒会長を更迭出来るとしても自分たちにも被害が・・・」
「とどめはこれだ」
私の提示したもう一つの契約書を見た彼女の目が自然と鋭くなる。
「はあ、さすが天下り・・・」
呆れてしまっている。
内容は、理事会メンバーは絶対手出し禁止、したら抹殺する。そして理事会には基金と言う名の裏金と、この王室の傀儡となる王立学院の最終決定権を学長から理事会に委譲する。
現在の学長、ジャニスト・フェーバーは大陸魔術師の中でトップクラスの人材であり、学院の中立と不可侵の絶対、天下りの理事会が暴走しないように止めていた。
つまり学長のおかげでまだある学院の正義が崩壊し、最悪、王室からの使途不明金も流入する。
「まったくもって残念でならないわ・・・てか、学長は気付いてないの?」
「会合で現在国から離れている・・・すぐに連絡を取りたいが・・・」
「しょうがない、私がやるわ」
「済まないな」
私が感謝すると、彼女は微笑んでから
「気にしないで・・・話は脱線したけど、庸兵団の兵力は?」
「ああ、奴らは先遣斥候6名、大型トラック数台に分けて乗車する本隊40名、あと学院裏から潜入する別働隊が10名、合計約二個小隊近く、既にこの近くまで来て潜んでいる可能性は高いです」
「あなたなら何とかしてしまいそうね、策は?」
彼女が微笑みながら聞く。私は苦笑して
「私と、イルミナル家の男たち総出…ても3人で、当たりをつけたエリア捜索しても、奴らはサバイバルのプロ、トラックなど大型から銃や道具の小型まで全ての器具、人員を上手く隠すので時間が足らない。だからといって水際戦闘も難しい、学院に上陸されれば、戦闘執事も応戦してややこしい事態になるし、どちらにしろ失敗だ。だから中間を取る」
「中間?」
「ああ、敵を中間点で撃破する、そして軍は買収問題と傭兵の跋扈によりしばらく黙り、王族もこの大掛かりな自作自演の反動で黙らなければならなくなる。まあここはダ―リア・クロニクルがゆすりをかけてくれると嬉しい。結果的には痛み分けで両陣営を黙らせる」
彼女が少し思案してから、まさかと呟いて
「市街地戦をするつもり?」
「まぁ、一部はな」
私が言うと、彼女は
「でも場所は分からないって…」
「さっき言ったが拠点と思しきエリアの当たりはつけてある、ここだ」
私は胸ポケットに忍ばせてあった小型にまとめられる地図を出し、お嬢様の邸宅方面で、更に山道に入るエリアに大きく丸をつける。
「ここならトラック通れる道が整備されて、人は居ないし、自然で勘は鈍らないし、訓練も出来る。そして迎撃地点はここと、ここ、別働隊はこの時点で一緒と仮定して殲滅する」
街に入る手前とお嬢様の家と敵が居るとされる道が繋がる分岐点に丸を付ける。
「何でここに居ると分かるのかしら?」
「王族サイドから考えるんだ。傭兵協会の傭兵ならまだ信頼出来るが、こいつらは無法者の集まり、約束は守るにしても街に放したら」
「ややこしい事が起こる可能性なきにしもあらず…か。確かに治安を考えれば妥当、相当金を積んだんでしょうね」
彼女は汚いものを見るのかのように眉をひそめる。
「まぁ、そういうことだ。それでシ―ク、かさねがさね頼みがあるが…」
「兵隊の調達かしら?」
彼女の確信めいた言葉に、私は頷き
「話が早くて助かる。絶対殲滅を目標とする私たちには戦力と時間不足は否めない。短時間で、出来ればこの騒ぎで人や警察が来るまでに叩き潰すには兵隊が必要だ。だが、学院側にはこの秘密をバラす信用に足る人は居ないし、実力不足だ。だから、そちらの伝手で、工兵含めて二個…いや一個小隊で十分だ、傭兵を集めてくれないか?」
ギルドを裏切った私が傭兵探しをするより遥かに効率が良いと考えれば妥当だ。
彼女はしばらく考えて
「うちには、一応傭兵協会に属しながら完全に我が社専属の傭兵団が居て、取材の為に集まる我が社の記者の護衛を含めて一個中隊、王都に集まっています。真実の目のごとく、基本介入はしない主義ですが、今回のケ―スは国や国際関係を左右するので、要請すれば派遣してくれる可能性は高いです、いや派遣させてみせます。代わりに今回の事件の顛末の全て、しっかりと見届けさせて頂きます」
「協力に感謝します」
頭を下げる。これで皮算用だが舞台は整った。
彼女は立ち上がり
「それでは私は、報告と準備がありますので、それと派遣される部隊は夜会当日になる可能性が高いので、色んな可能性を考えて下さい」
「了解した。頼んだぞ」
「ええ…あっ、そうだ、一つ、場違いですが質問いいですか?」
「ん?いいですよ」
「ありがとうございます。では」
私は顔を上げる。協力者だから無碍に出来ない。彼女は意を決して
「あなたの経歴を見る限り、決して人に懐こうとするタイプでないのに、何故今、才能の無駄遣いをしながら生徒会長の執事をしてるのですか?」
「本当に違いますね」
私は思わず苦笑する。彼女も苦笑しながら
「記者仲間や課長に殺戮機械と共同戦線していると言ったら、オフレコでいいから取材してこいって…」
「ふむ…」
彼女の言葉に納得する。まぁ、私がこんな事をするのは、裏の世界の人間には衝撃だろう。
「一言で言えばお嬢様への返しきれない恩と私の中に芽生えた絶対的忠誠心、そして日常をくれたからかな」
「日常…」
「ああ、朝起きて信用出来る仲間、親愛なるお嬢様の顔が見れて、お嬢様が授業を受けている間は空が見れて、邸宅に帰れば仲間が迎えてくれる。本当の一般人から見ればまだまだ変だが、闇に呑まれ、生きてるのかどうなのか、信頼出来るかどうか分からない昔に比べれば私にとっては全てが天国だよ」
「なるほど」
彼女は頷いた後
「もう一つだけ、よろしいですか?」
「ご自由に」
「それでは単刀直入に、そのあなたの忠誠心とは、生徒会長への愛情で出来ているのですか?」
「もちろん」
思わず即答、シ―ク苦笑。
私は続ける。
「お嬢様のどんな頼みも絶対に聞き、お嬢様を大切にする人以外ですり寄る不届き者を潰して、もし、過去がばれて、嫌われて断絶されたら、視界に入らない所で私はこの命尽きるまで奉仕する所存であります」
呼ばれればどんなに遠くとも手段を選ばず向かいます。
ストーカー?何を失礼な。
「ハハハ…重症ね」
「失敬な」
彼女は思わず笑ってしまい私はムッとする。
ごめんなさいと彼女は言ってから
「これでお土産話も出来たわ、取材協力ありがとうございました。それじゃ」
「傭兵の件、頼むぞ」
「了解です」
ヒラヒラと手を振りながら彼女は立ち去る。
そして残った私は、二日後の決戦に備えて、作戦の組み立てを考えながら外に向かうのだった。