師匠と弟子
格闘戦があります
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0900hrs
フェルザ―ノ王立学院執事錬成場
私は非常に面倒だが、学院に居れるため、学院お嬢様を観察するため[これ重要]に執事錬成場に向かう。
既に多数の貴族の執事が集まっているが、お世話や主人の出掛けに随行する執事集団でなく、銃やナイフ、仕込み武器を整備している、戦闘執事の集団に向かう。
何故戦闘執事が必要か、それは魔術師が無力な存在が多いからだ。
攻撃魔術が出来る者も学院や邸宅から一歩出れば、特異能力保持の危険人物として魔術行使が禁止される。
戦争では全面解禁、他例外は事故現場に居合わせた場合、治癒と鎮痛などの回復魔術は許可されるが、攻撃魔術は、絶対的正当防衛又は緊急避難で、なおかつ単体の気絶程度のショック魔術と限定する…とされている。
これは国際条約クラスの決めごとで、広範囲魔術の乱発や精度を高め周りに迷惑をかけない、そして最悪な魔術暴走による大量破壊を防ぐのが目的だが、いざ有事になればそんな決めごとなんか守れないのが実情で、攻撃魔術は戦争以外では使いにくい代物である。
またお嬢様みたいな高位で過激派の最重要タ―ゲットで攻撃魔術の使えない人も居る。
そんな貴族魔術師を守る役目を果たすのが、その名も戦闘執事。
主人の為に命をかけ、人的被害を出したら警察でも何でも喜んでその身を差し出す、忠君にして精強、そして軽くMな集団なのである。
ちなみに初めてこの集団の訓練に参加した時に、舐められてけなしてきたので、軽く…本当にかる―く血祭りにしたら、以後私の側に一人を除いて寄りつかなくなりました。
「師匠!」
1人のまだ顔立ち若い茶髪で碧眼の青年が走ってくる。
ふむ…
「おう、久しぶりぃ!!」
「うわっち!」
私は左足軸に強烈な上段蹴りをかます。青年は左腕で受け止める。
「少しは成長したな」
「何かフラグがあったんで…」
最初の頃は良く吹き飛んでいたな。
彼は受け止めた左腕で私の右足を跳ね返そうとして…出来ない。彼の顔が青ざめる。
「くくっ…随分舐められたも・の・だ・なぁ!!」
軸足をぶらさず、そのまま右足を振り抜く。そのまま彼は吹き飛ぶ。
「敵の状態を見誤るな。私がここで合格点出すと思うなよ、ひよっこが!!」
「はいっ!」
すぐに立ち直り愚直なまでに頷く弟子、彼の名前はネティ・へリッツ。
年は20になったばかりで、2年前から学院の報酬で私が育てた。
2年前、彼は些細なミス、詳しく言えば、シルバニア国民平均月収半年分の高級な大皿を間違えて壊してクビになった所を、彼の潜在能力を見いだして採用した。
結構大きいミスではないかって?
こちらには平均年収2年分を一気に破壊した、ドジを超越したメイドが居るので彼のミスなんて既に些細な領域ですよ。
彼には徹底的に叩き込み、拳銃や小銃の狙撃や制圧射撃、室内戦から森林や湿地の野戦など、近接格闘とナイフさばき、毒の判別他色々
彼の今の実力なら、今の落ちぶれたギルドでなく昔の精強なギルド基準でAランクに近いBだろう。
だが元だが私みたいに特AとAの差は非常にかけ離れているので負ける気は全然しない。
さて脱線したので戻そう。
「よし、ネティ、今日はどんな訓練だ?」
人質解放訓練か突発的市街地戦か少数で多人数の人を多人数の敵から守る籠城戦か、個人格闘か圧倒的不利な状況打開と主人死守か…
「検索です」
「……えっ?」
0930hrs
学院の食堂、図書館、そして生徒が使える会議室や休憩室のある総合棟で、その中で会議室と小部屋の多い二階をとある会議場に見立てての検索訓練が行われる。
作者余談だが、検索とは日本の要人警護をするSP達が使う用語で、主に要人が使う場所を先に行き、丹念にくまなく危険物が無いか調べる事である。
そして危険物を発見次第排除するのを消毒という。
余談終わり。
設定は魔術師の集会の会議場に複数の不審人物の出入りを確認したという王国公安の情報のもと、我々が検索するという事
この訓練は、2人から3人一組で行われ、巧妙な仕掛けを排除する。
ちなみにサプライズ企画もあるそうだが、嫌な予感しかしない。
そして私達の番。
仕掛けは毎回変わり、時には全部屋、時には全く無いというかなり恐い設定。
私が先行して、ネティが後ろを付いてくる。
今までの子部屋には仕掛けが無かった。次は会議室。
警戒しつつ廊下突き当たりの会議室にたどり着く。
まずドアノブに毒針の類が無いか調べる。次にドア数センチ開けて、ドアを開けきるとワイヤーが切れて何かが発動するトラップが無いか調べる。
調べ終えれば、私は警戒のハンドサインをする。ネティは頷き軽く足を曲げる。
ドアを開くと、すぐに彼は飛び込み周囲を警戒する。
「誰も居ませんね…」
と、ネティは言いながら、しきりに私に向けて上を警戒と示す。
成長したな。私も気づかないふりして
「そうだな…よし、ちゃちゃっと済ますぞ」
「はい!」
2人で広い会議室の中をくまなく検索する。
「これは…」
「あったか?」
「はい…盗聴器です」
ネティの手に持つのは電池式盗聴器
「実は俺も見つけたぞ」
私は議長席に見立てた机の裏側にもある。
そして残りの一つは大胆にも会議録音用高集音マイクの3本の内の1本だった。
「ふむ、こんなものかな。楽勝だったな、ネティ」
私が声を掛けると、彼は笑みを浮かべ
「まだありますよ師匠」
「そうだったな、メインディッシュはまだかな?」
私の言葉を終える刹那
突如天井が抜けて5人の男が落ちてくる。
1人は判定員、他全員敵役の戦闘執事、楽勝だ。
「そっちの2人は任せた!」
「了解です!」
私の目の前の2人が机を飛び越えて向かってくる。
馬鹿めが…
最初の1人は上手く避けて足をかけると派手に転ぶ。
しかし次はまだ執事としては新人だが戦闘はベテランで体格が巨体の男だった、私と敵で取っ組み合い、しかし奴の方が力がある。
足かけして地に伏せようとした時
ドンっ!
「やべっ!」
足が片方浮いてる状態をつかれまさかの押し倒し!
だが…
「一緒に落ちようぜ!」
手加減は出来ない、敵の襟首を掴むと、体を捻らせ逆に組み敷く。
「ぐうっ!」
まさか細身の私にここまで力があるのが予想外だったみたいだ。
あとは力を込めてマウントしながら首に拳を置く。力を込めれば首が折れて死ぬ。
勝負はついた。
「勝負あり!チェ―ニ、ネティペア、サプライズ含め合格!」
判定員の宣言をもって、この訓練は終わった。
1200hrs
学院執事待機室
「お疲れ様です!師匠」
「ああ、お疲れ」
待機室は各々厳しい訓練が終わり、皆一様にほっとしている。
ネティもその1人だ。
「ですがサプライズは凄かったですねぇ」
「あれは異例だが、有り得ない事もない、まあ良く気づいたな」
「はい!師匠のおかげです」
たく、本当に元気で真っ直ぐすぎるな…だが
「でもま、これからは師匠ではなくなる」
「えっ…?ま…まさか」
おっ、察しついたか?
「クビですか?!」
「誉めた直後にクビとかどんだけ私を鬼畜と思ってるんだ?!馬鹿か!」
「いたぁ!」
思わずチョップを入れてしまう。彼は頭を撫でながら
「では…」
「ほい」
「??……!!!」
彼に渡したのは回復を司るものであり、イルミナル家が信仰する女神の持つ延命の水を模した銀細工。イルミナル家に務める使用人の証。
「これからはお前は私と同じくお嬢様を、ひいては誇り高きイルミナル家の盾となり矛となる。合格だ、今日からは仲間だ」
ネティは震えて
「本当に…いいんですか?自分戦闘は出来ても使用人としては」
「安心しろ、しばらく私の補佐をして学べ、なぁに、ユウよりかはマシだ!」
私は笑う。そしてネティは
「ありがとうございます!!!これからは今までのご恩を含め、このネティ、働きます!!」
「そうか、そしてもうちょっと声下げろ」
周りが注目してしまってる。
「…あはは、済みません」
彼は苦笑して私も苦笑する。
しかしこれで戦力は拡充した。
お嬢様をお守りする使命は万全な体制として、今、完成された瞬間だった。
ネティの愛銃は次回紹介します。