稀、凡
おはようございます
昨日の夕飯ってなんだったっけ
人間、一日前のことでも意外と思い出せないものだ。
特に、そんな事に思考を割けないぐらいに思い悩んでいる時ほど。
ついに待ちに待った女子高生デビューなのに、頭全体に雲がかかったようなモヤモヤ感、原因は大体分かっている。ハッキリ言えば、ストレスだ。新しい環境に馴染めるだろうか、勉強にはついていけるだろうか。
(他にも色々…)
そもそも一年前、身体測定の結果が非能力者にしては異常に高水準だった事が全ての始まりだった。
能力覚醒の兆し。
そう診断された私は、急遽市内最大急の能力者学校である明松女子高等学校への進学を決めた。
能力者学校に進学する都合上、中学からの知り合いはいないし、能力者自体は特に珍しくもない現代といえど、能力者しかいない空間に一人放り込まれるのは話が違う。
現状、私はあくまで【身体能力が能力者並の非能力者】でしかないからだ。流石にギャップは大きいだろう。
「冷奈〜! そろそろ出るわよ〜!」
「は〜い」
母から呼ばれ、もうそんな時間なのかと時計を見るとかなりギリギリの時間で、どれだけ自分がボーッとしていたのかを実感してしまう。
朝食のパンを口に放り込んで、カフェオレで流し込む。
早く準備をしないと。
世界で初めて能力者が確認されたのは、今から丁度1150年前、西暦2200年。
その後の能力研究の過程で【魂】の実在が分かり、能力はその魂が生成したエネルギーを用いて使用できる個人個人の力。だから能力者は、自分の力に個性と誇りを見出し、現在ではそれを能力と呼ぶ。
魂に由来するものだから、基本遺伝はしない……とされているけどそうとも限らないという事、新しい世代の能力ほど強力になっていく事など、約1000年間の研究でも分かってない事は多く、世界人口の約半分が能力者の現在ですら、この力は神秘に両足どっぷり浸かっている。
小学校の時から歴史の授業で習っている内容だ。
最近だと能力者が生まれた年以降を人類が新しい段階に入った象徴として【新世紀】と呼ぶ人もいる。
私、上里 冷奈はそんなまあまあキリのいい西暦3350年、新世紀1150年に一応は能力者として高校生になるラッキーガールという訳らしい。
(そんなラッキーでもないけどね…)
「冷奈、やっぱり不安?」
隣を歩いていた母が顔を覗き込んでくる。
私が浮かない顔をしていることに気づいたのだろう。
ふと、能力の兆しが出たのを母に伝えた時の、複雑そうな顔を思い出す。
今後の環境の変化、元々目指していた進路を変更せざるを得ないこと、ありったけの不安は伝えたし、母もできるだけ私に向き合ってくれた。でもそれ以上に…。
世界人口の約二分の一が能力者の現代。治安は保たれてはいるけど、非能力者を狙った事件も少なくない。
結局、能力者と非能力者の学校が分けられているのもこれが理由だ。思春期の多感な時期の子供達が集まる空間で、明らかに能力の差がある二種類の人間が共に過ごすのは、あまりにトラブルが多すぎたらしい。
昔は試行錯誤された時期もあったらしいけど、結局現在の形に落ち着いている。
親としては、一人娘がそういった事に巻き込まれるリスクが減るのは、安心だろう。
そういった顔だった。
「うーん、まあね でも、なっちゃったからにはさ…頑張ろうと思う」
「…無理して行く必要はないんだからね」
「…ありがとう お母さん」
不安なのだ。
自分が、自分自身の常識から外れた存在になっていくのが。
いずれ私は私じゃなくなってしまうんじゃないかと、そう、思ってしまう。
「ついた……」
そうこうしてる間に明松に着いた。
デカデカと【祝 入学式】と書かれたタテカンが置かれている。
ただ、分かってはいたけど…
「やっぱ大きいなあ〜…」
とにかくサイズが大きい。校門なんて横幅10mぐらいあるし、その奥に見える校舎に至っては中学の5倍ぐらいに見え、圧倒されてしまう。
能力者学校ってのはどこもマンモス校が多い。たしか能力者をできるだけ一点に集め、未だ分からない事が多い能力の情報を集める機関も兼ねているから、なんて噂もあるけど。
にしても、ここまでの大きさは中々無い。流石最大手。
そして、さらに驚くのは
(人、多っ)
本当にめちゃくちゃ多い。校門の気迫を押し返すほどの人の数だ。
タテカンの前にも写真撮影の待機列ができてるし、これじゃ並ぶ気力も湧かないという感じだ。
ふと、周りを見て違和感を感じる。
隣にいる母も同じ事を感じ取ったようで、
「み、みんな派手ね」
「そうだね…、なんか」
制服の規定が緩いのは知ってはいたけど、にしてもみたいな格好をした子がかなり多い。
入学式から制服を改造するなんて聞いたこともない。
逆に、キチンと制服を着ている私の方が珍しいぐらいに見える。
【能力者は自分の力に個性と誇りを見出す】故に、
【自分らしさを大切にする】
そんな話を思い出す。
不味い。ただでさえ不安が多いのに、ここからクラス内で浮くなんてことになったら、目も当てられない。
「大丈夫よ、自分らしさなんて別に表に出さなくちゃいけない物でもないでしょ」
「冷奈は冷奈なんだから」
何か察したのか、母が声をかけてくれる。
…それもそうだ。不安は多かったけれど、色々と覚悟は決めてここまできた。
「じゃあ生徒用と保護者用で入り口分かれてるらしいから、行ってくるね また後で…」
「冷奈」
母が両手を私の肩に置く
「頑張ってね」
「……ありがとう」
どうなるであれ、後は進むだけだ。




