No.92 彼の残した道標を種子は辿るだろう
〖節即魔獣及び醚の【吸収】に成功しました……うぅ、二日酔いです。あの娘ったら。あんな性格でキラキラした青春を送っていたなんて。信じられません〗
メガネウラとの戦闘を終えて暫くしたの後。どこか疲れきった声の代理世界観測《ハロエ嬢》の声が聴こえて来た。
何だね? ハロエ嬢。二日酔いという事は飲酒でもしていたのかね? 随分と荒れている様だが
〖元カレの自慢話を永遠に聞かされていれば疲れますよ。ギエナ様……失礼しました。通常業務に戻ります───今回の資源獲得による経験値が莫大過ぎる為、進化還元に半日がかかりますが宜しいでしょうか?〗
ああ。構わない。メガネウラが残した道を辿って北に向かうのは2日後の予定しているのでね。それに間に合えば良いさ。
〖2日後に北へですか?……それは危険を伴う行為だと警告します。あの北の地は此処とは自然環境や生物環境が違います。第一に魔獣の状態では討伐対象に指定され。《湖の貴婦人 ヴィヴィアン》が黙っている筈ありません〗
ほう。北の湖にはそんな人物が居るのかね? それならば是非とも会ってみたいものだ。
〖会いたいですか? あの傲慢不遜な女性に?〗
それよりもマリアに付与されていたマイナススキル【厄災母胎】を嬢王とやらから奪った莫大な経験値でプラスのスキルに変化させたまえよ。ハロエ嬢……以前、私を担当している世界観測がシルにやった様にね。
〖【厄災母胎】をですか?……それは可能ですが。それではせっかく半眷属化したマリア様が位置個体として独立する事になりますが宜しいですか?〗
構わない。彼女は十分に傷付き壊された。これからの人生は彼女の者。何人足りとも邪魔してはいけないのだよ。
〖……あの娘が昨日言っていた通り。根本的には善側なんですね。貴方は〗
む? 何か言ったかね? ハロエ嬢。
〖いえ。何でも御座いません───【厄災母胎】の反転ですが。こちらもギエナ様の進化同様に過程終了までに2日程が掛かりますが宜しいでしょうか?〗
2日……それは随分とタイミングが重なるのだな。ああ、それで宜しく頼む。ハロエ嬢。君の迅速な対応に感謝しよう。
〖……ギエナ様。貴方はどこまで私達の事が見えているのですか? ハロエは貴方の事が気になり始めていま……ブツンッ〗
〈む? どうしたのだね? ハロエ嬢。久しぶりの念話での話で途絶えてしまったかね? ハロエ嬢?〉
突然ハロエ嬢との繋がりが途絶えてしまった。まるでこれ以上のハロエ嬢との会話を妨害された様だ。
そして、それと同じタイミングで地面の下から這い上がって来る者が現れた。
………ボコッ!
「ぷはーっ! ギエナちゃん。あの虫さんには勝てたのかしら?」
〈おお、マリア……数日前よりも随分と流暢に喋れる様になったのだな……良かった〉
◇
《荒砂海ルアマリア北方 ルア・シンベル神殿》
蜈蚣・飛蝗・節即魔獣の側近達を次々に失った嬢王は焦り始めていた。
崩れ始めた性格と思考が失くなる事に────
「があぁぁあ!! 私を構成している物《経験値》が吸われている?!……自我が薄くなる……メガネウラの奴は何をしているのよ?!」
「おい……我との話の途中で何を苦しみ出している? 自重しろ。アドラよ」
「黙りなさい……バールッ! 私がこの地を苦しませてるのがそんなに憎いわけ? アンタはっ! だってアンタの家族は私の支配地に隔離されているだものねぇ?」
「……その様な事は一切思ってもおらぬ。それよりも我の願いは貴様が北の湖から奪った醚の返還はいつになるかを聞きに念話を送ったのだ」
「そんな物。私は持っていないわ」
「虚実を述べるなよ。貴様……北側の者達が内乱で南下出来ない事を良い事に好き放題しおって。いいか。貴様が長年に渡り奪い取った全ての醚を返還しろ。でなければ北側の内乱はますます甚大に…」
「黙りなさい……今はそんな小さいアンタの頼みなんて聞いている場合じゃないのよ。アンタ達の嫁争奪戦なんかにね」
「何だと貴様っ! 我々の内乱を馬鹿にする気か?! アドラッ!」
「【魅力】を掛けられて人形になってる奴に言われたくないわよ……じゃあね。私は忙しいのよ。私が進化してアンタを殺しに訪ねた時にもう一度会いましょう……誇り高き騎士様」
「待て。アドラッ! 話しはまだ終わっていないのだ……ブツンッ!」
「……念話系統のスキルが遮断された? どこかで何か《・・》産まれたのかしら?……いえ。今はそんな事よりも……この自我を保てなくなった原因を探らないと……私が私で居られなくなる…わ……アハハ……ハハ……くっ! 暴走するな私っ! メガネウラの奴め。余計な事をしてくたな」
嬢王はその場から動けないでいた。他者から奪った人格や思考を奪い返され始め。身体中が苦痛に苛まれ。その場から一歩も動けないでいた……人の殻を被っていてはだが────
◇
《水蟲の巣 半日後》
「……俺の手紙の忠告を無視して下層へと潜った挙げ句。下層の全ての資源を回収し、嬢王の側近を水死させただと? こんな水一滴もない荒廃した場所でか?」
〈ああ、全て上手くいったとも。フリューゲルよ〉
マリアが地中より出てきた後。今後の事を2人で話し合った。
当初の私の推測通りマリアの人格は北に居る嬢王とやらに摂取されていた様だ。
そして、この下層には経験値としてマリアの力が保存された状態で資源化され。メガネウラが管理していた。
それらを奪い返した事でマリアは言葉足らずな幼児の様な思考から普通に会話が出来る程までに回復した。
そんなマリアだが現在は《 吸収装飾館のある部屋で1人で休ませている。
彼女には少しでも身体を休ませてやる必要があり。そして、フリューゲルや北の嬢王とやらに会わせない方が良いと考えた為だ。
マリア本人もそれが良いと言っていたのでね。
「……本当に1人で倒したのか? あのメガネウラを? どうやってだ? 確かアイツは嬢王の側近の中でも単身ならば一番の強者な筈だぞ」
〈うむ。だから水死させたのだよ。私の作戦でね。それよりもアスタルテはどうしたのだね? クロナ嬢は一緒の様だが?〉
「あん? アスタルテ?……ああ。アスタルテは祠の結界先からは出れないから置いてきた。それに世界樹への廻廊を通ったせいで暫くは意識を表層世界に出せないからな。休ませてやっている」
〈ほう。そうかね……無事ならば良かった〉
……マリアが休み始めたタイミングでアスタルテも休んだとは。ならは北に居る嬢王も同じく身動きが取れなくなっていると推測出来るか。
「それで? 四大厄災の退治をやり遂げ。俺の忠告を完全に無視して下層を浄化し莫大な資源を得たギエナよ」
〈何だね? 我が友フリューゲルよ〉
「……その数えきれない経験値をどこへやった? まさか全ての経験値を自身の進化に使う気なのか?」
荒ぶる表情で私へと近付いて来るフリューゲル。何をそんな焦り怒っているのだろうか?
〈うむ。使ったとも。とてもとても有意義にね。もう暫く待ちたまえよ。そろそろ進化の知らせがハロエ嬢より伝えられるだろう〉
「な、何?……もう使っただと? 荒砂海ルアマリアのあらゆる経験値なんだぞ。それはっ!」
〈ああ、これは私が色々な強敵達と対峙し。得た力だ。それを使い私は彼等の無念晴らして……おっ! 来たかね? ハロエ嬢〉
ハロエ嬢との念話が復活したのを感じ取ったは私はフリューゲルを無視して進化のアナウンスを聴くことにした。
〖はい。お待たせ致しました。ギエナ様。幻樹種・百合可憐のご説明を致します〗
◇
《摩天楼領域》
ここは深緑界の世界で最も畏怖と暴力が満ちた場所、摩天楼領域。
今、ここにただ純粋たる悪の心を持った赤子が生誕した。
「オギャー! オギャー! オギャー!」
「わ、私の子ですっ! 返して下さい。魔女様っ!!」
「黙れっ! 大婆様に近づくとは。無礼だぞっ!」
「殺されたいのか?」
「そんな。生まれたての私の子供を取り上げるなんて……そんな……」
「「……くっ!」」
「おおっ! 産まれたぞ。我等の悪の娘が。さあさあ……この娘は何番目に辿りつけるかね? 失敗作のナヘマとは違い全うな悪の娘に育つか楽しみだね。ねえ? 悪樹から産まれし娘。ルカよ。ヒッヒッヒッ!! 世界に娘が産まれた事は察知されていないだろうね」
「はっ! 全ての念話に妨害を施しましたので問題ありません。魔女様」
「ヒッヒッヒッ! ならゆっくりと時間をかけて洗脳しながら育てようじゃないか。ワシが育てた娘達の中で最高傑作となるであろうこの娘をね」
「オギャー! オギャー! オギャー!」
世界はまだ知る良しもなかった。後に世界を震撼させ。震え上がらせる悪の大樹の娘が産まれ堕ちた事を────




