No.88【欺瞞の蟲は嘘爛れ】Act1 欺瞞の忠誠心
嬢王の言うことは絶対だ。アイツに表面上でも従わなければ荒砂海は生きていけない。
奴は水を握っている。塞き止めている。だから皆逆らえない。逆らえば干され、搾られ、全てを奪われる。
だから皆偽るのだ。中身の全くない忠誠心を嬢王に捧げる。
そして、この私もその1人。忠誠心など全くない。あの嬢王が怖いから。恐ろしいから従っている。
だかいつか反逆し。私が嬢王に変わる新なる最強種へと昇る為にも下層の苗床の管理は徹底しておかなければならない。私の大切な巣。下層光源メガネウラを……
◇
《荒砂空洞 アガル・サンドル 下層》
「だいたいルア・シンベル神殿のからこんな辺境まで数日かかるのが可笑しいのだ。おまけに肥沃な湖水を塞き止める徹底ぷり。どれだけ臆病なのだ。あの継ぎ接ぎだらけの女王は」
私は独り言が好きだ。いや独りの時間が大好きだ。
いつもはあの嬢王の第一忠誠あふれる側近として自分を偽っている。独りの孤独の時こそが私を癒す時間……それと私が造りあげた私の理想郷が私を癒す唯一の場所。
ギイィ……ッ!
下層へと繋がる扉を開ける。そこには私の世界が広がり。私はそこで独り愚痴を溢……
「あの女は言っていた北上の時は近い……ならば1000年近くの時を使って育て上げた私の楽園も嬢王に経験値として吸い上げられるの…み? なんだ? ここは?……何故、下層洞窟に私の池が無くなっている? いやそれどころか光蘚や魔石……私の可愛い魔獣達はどこに消えた?」
私はルア・シンベル神殿から続く通路を抜けた瞬間驚愕する。
何もかも無くなっていたのだ。あらゆる資源《経験値》、あらゆる魔獣《経験値》、あらゆる溜池《経験値》が全て全て全て綺麗さっぱり無くなっていた。
「ど、どういう事だ? まさかプレウラが本当は生きていて。あの汚物《蝗災》共と結託し。私が造り上げた理想郷を食らい付くした? いやそれはない……プレウラは下層があること事態。嬢王の洗脳でしらない。それに汚物《蝗災》共は乾燥を好み水を苦手としているんだぞ……まさか嬢王に私の野心がバレたのか?」
考えろ。考えろ考えろ考えろ。独りで考えるのは好きなのだから独りで考えろ───ネウラ。
私は嬢王に捕まって忠誠を誓わされてからそうやって生き延びて来たのだから。考えろ。
とにかく先ずは寝床まで行かねば……私の《水蟲の巣》へと。あそこには嬢王の眼を盗んで蓄えた私の全て《経験値》があるのだからな。
「……警戒しながら行くか。スキル発動【複眼】」
私は私の暫定的に顔と思われる部分から複数の眼を開けた。数百、数千の眼を顔中から開けたのだ。
「これで良し。これならば全方位からの四角を見逃す事はない……ギギ……おっとっ! いかんいかん。興奮するとせっかくの皮が剥がれる本能を抑えねば。私は理知的な独りの人なのだからな」
◇
『ギャシャアアア!!』
「……水魔法発動【捕食の顎】」
『ギャジャア?……』
「倒したが。何故、北の雪国に居ると言われる希少な白銀狼種がこんな温暖な気候に? しかもごく一部のものしか辿りつけない下層に現れるのだ?……まさかコイツが私の巣を荒らし回ったのか?」
あれから《水蟲の巣》へと向かう為進み続けているが。景色は一切変わらない。何もかも無くなっていた。
1000年前の暗い洞窟へと戻っていたのだ。私が地上の奴等を無惨に殺して得た嬢王の経験値を使って造り上げた私の楽園、理想郷、経験値が無い。
無い無い無い無い無い無い────
「どうして無くなっているんだ?! くそおぉがああ!!……おっと! いけないいけない。私は理性ある独りの人……失敗作のプレウラや嬢王とは違うのだ。湖水の訪問者も言っていたではないか? 〖貴方は理知的で素晴らしい〗と……」
冷静になり。更に奥へと進む。私は常に平常心を保っている。理性ある人のだからな。失敗作のプレウラとも、悪食の汚物《蝗災》共とも、嫉妬深き嬢王とは違う。
私はこの荒砂海ルアマリアで唯一完成された一個体として悪の根へと至るのだからな。
◇
《水蟲の巣》
私の巣である下層光源メガネウラの際奥を目指して1日程経った。奥に進むに連れて何も無い。
私が造った溜池もそこに生える生命も無かった。あるのは謎の魔獣達の執拗な襲撃。己の体力の消耗だけだった。
いつもならばそこら中に散らばっている私の餌《経験値》を捕食し飢えを凌ぐのだが何も無くいないのでそれも出来ない……腹が減れば理性を保てない。
このままでは自分の自我が本能に侵食されてしまう……自分を抑えられない。
〈来たかね。昇華スキル発動……天竺牡丹〉
「む? 何だ? どこからか寄声?……いや異音の様なものが聴こえたぞ?……おいっ!魔獣共居るの? 居るならば私は疲れている。居るならば私の前に現れ、捕食され……」
ドスッ!
「……ろ?……これは花の根?……蓮の?……いやこれは私の生命力が吸われているのか?! スキル発動【水逃】」
私は自身の腹部辺りに刺さった金色の何かを削ぐと後方へと下がり臨戦態勢を敷く。
「グギギ……どこから攻撃してきた? 何故【複眼】を使っているのに肉眼で察知出来ない? 何が起きているのだ?」
理性が飛べば理知的な言葉遣いも崩れていく……このままで本来の私に戻ってしまうではないか。
「死霊か骨兵の類いの魔獣か? あんな墓場でもあるまいに……こんな環境が異なる場所には来ないか。何だ? 私の嬢王を裏切る計画がバレたか? いや待て。そもそもこの話は今まで誰にもしてこなかったのだ。バレるわけがない……それよりも空腹だ。くそッ! このままでは皮を喰わねば飢えてしまう……」
私が下層光源メガネウラで造り上げ理想的な環境が無い。
潤沢な溜池。捕食様の魔獣《餌》達。あるの無骨な岩と砂のみだ。
そして、こちらからでは数多の視覚で見ても認識できない敵。
戦う環境が悪すぎる……撤退するか? 私は勇敢な人の戦士ではない。
私は欺瞞な蟲。
皮も内も自分自身の全てを偽る変態する蟲。
メガネウラなのだから……
「そして、唯一、偽りから脱却する為に造った場所がここ《水蟲の巣》……ジジジ。誰だか知らないが後悔するなよ。私を飢えさせた事……を……昇華スキル発動【水蠆幼虫】」
私は自身の皮を食べ真なる姿を露にした。
『ギオオオォ!! この姿を見せたからには殺してやる。姿隠しの環境破壊者!!』
《変態水蠆 メガネウラ……進化過程》




