No.59 【祭典のレクイエム 銀灰色と死者】 Act2 巨大鯰と白銀浪
「何だ? あの巨大な白銀の狼と魚の化物は……こんな祭典中の真っ只中に何が起きているんだ?」
「呪われたラテルの屋敷から出てこなかったか?」
「き、騎士団を呼びましょう! コクマー騎士団をっ!」
私達の周辺に居る者達が騒がしいが、今はそんな事を考えている暇はない様だ。
今は目の前に居るに敵対者へと全神経を集中させ、対象しなければならないからだ。
『何をどうすれば地下水路の主を従えられるんだ? お前。本当に何者だ?』
〈アレゼル少年の友人とだけ伝えておこう。白髪騒男君〉
「ギエナさん…」
『喋る気は更々ねえってか。(遠隔操作で獣使いが操ってるのが濃厚か? どのみち。この姿で王都に出ちまったからには、亡霊復活までスペルオリ湖に潜んでねえと不味いな。たくっ! やってくれたな。アレゼル!) 闇魔法発動【銀狼の針山】』
「あれがフェリックスさんの本当の姿?……どうしよう。ギエナさん」
〈立ちはだかるなら倒すしかあるまい。アレゼル少年。ゆけっ! 巨大主鰻よっ!〉
雷魔法発動……【雷の光】
スキル発動……【溶解】
『ブオオオオ!!』
白髪騒男は私とアレゼル少年に向かって、銀色の毛針の束を放って来る。私はそれに対抗する為。巨大主鰻に指示し、雷魔法とスキルを発動させ相殺させた。
『マジで従えてるのか? あの地下水路の化物を……どうなってやがる? あれは亡霊の玩具じゃなかったのかよ? たく! 厄介な野郎と手を組みやがったな。スキル発動【闇煙】』
白髪騒男の口から黒煙が吐き出され始めた。その黒煙の量は凄まじく、直ぐに私達周辺の視界を奪ってしまった。
「これは……ギエナさん。気をつけて。この黒い煙。多分、消えない」
〈消えない? そんな煙が存在するのかね? フラマの世界の煙でもそんな煙は存在しないというのに〉
「この黒い煙はね……《死龍の森》の特別な煙なんだ。だから長い時間吸っていると。ケホッケホッ……人族や亜人種の身体に被害を及ぼしちゃうんだ」
アレゼル少年はそう説明すると苦しそうに咳をし始めた。
〈アレゼル少年! まさか。この煙は私達の視界を奪うだけではなく、彼の身体に危害が及ぶ様に発動したのか?〉
……そういえば。最初から私達の周りには、人は1人も居なかったな。成る程。あの白髪騒男は人が居ない区画にアレゼル少年を連れて行き、彼だけを殺す為に黒い煙を放ったのか。まるでアレゼル少年を早く仕留める為に。
それにコクマー騎士団がどうとかと、白髪騒男呟いていた。その組織がここへやって来ると不味いという事か。
────この戦いにはタイムリミットが存在すると見た。
しかし、このままアレゼル少年を王都の外へ居させるのは不味い。
〈アレゼル少年。《 吸収装飾館 》の中へと避難したまえ。このままでは君の身体は毒に犯され、動けなくなってしまう〉
「ケホッケホッ……でもそれじゃあ。この戦いギエナさん。1人に任せる事になっちゃうよ」
〈……ほう。私を1人と人間の単位で。人として扱ってくれるのかね……安心したまえよ。こんな事があると思い策は作ってあるさ。君は私の為に尽くし、戦ってくれたさ。だから勝とう。この戦い君の為に〉
スキル発動……【痕邸】LV3
ズズズ……
「ギエナさん……ありがとう」
アレゼル少年はそう告げると《 吸収装飾館 中へと入って行った。
『この匂い……アレゼルの野郎を逃がしたのか? 銀林檎。懸命だな。この闇煙はエルフにとって猛毒だからな。遠隔操作で転移もどきって所か?……おい。銀林檎。お前の本体はどこに居やがる? 隠れてないでさっさと姿を現せや』
〈本体? 何を言っているんだね。本体も何も本物は私なのだがね〉
『嘘つくんじゃねえぞ。果物風情が……テメエから駄々漏れる気配。〖緑蛇神 ウィリディス・アングイス〗の気配がするんだよ! ホドの一派か何かなんだろう?』
〈ホドの一派?〉
『けっ! とことん、とぼける気か。テメエ等の争いには関わりたくないねえってのによう……俺の邪魔するなら消すしかねえよな? 闇魔法発動【銀の暗闇】』
黒い煙の範囲全域から銀色の光が一瞬輝いたかに見えたと思った瞬間。私に向かって数千もの銀色の毛針が四方八方から飛んで来る。
〈なんという質と量……巨大主鰻よ。全て吸い込み消化せよ〉
『ブオオオオ!!!』
私が巨大主鰻に命令すると。巨大主鰻は大口を開けて黒い煙と私に飛んで来る銀色の毛針を吸い込み始めた。
『……ホド一派は使役を得意とする組織。(イヴァイロかアレゼルを利用して上手く手懐けたのか? 背後にフリューゲルの気配もちらほらと匂うが、考え過ぎか? いや、このクソみたいにイカれた世界で考えの放棄は死に直結する。逆だ考えろ! あらゆる可能性と裏を探り利用するんだ。フェリックス・シルリングス…お前はそうしてこれまで生き延びて来たんだろうが)』
動きが止まっている? 何か深く考え事をしているのかだろうか?
───ならばその隙を存分に突かせてもらおうか。
昇華スキル発動……〖蓮蕾睡蓮〗
昇華スキル発動……〖月下美人〗
〈2つの昇華スキル……私の異なる進化の力で致命傷を負うと良い。〖蓮蕾睡蓮は幻覚の力。〖月下美人〗は暗転の力だ。そして、それにプラスして巨大主鰻よ。吸い込んだ物を纏めて吐き出したまえよ〉
EXスキル発動……【臨淵羨魚】───【白銀魚雷】
『ブオオオオ!!! プッ!』
巨大主鰻が吸い込んだ全ての異物が、白髪騒男に向けて放たれた。
◇
『……ちっ! 結局はアレゼルの身体を確保しねえと何も始まらねえか。エルフの国とドワーフ共との交易も、湖遺跡への道標でもだ───ん? なんだ? 何で視界が暗闇に? それにこの匂いは。王都中に花の匂いだと? まさか。あの銀林檎の化物、何か魔法かスキルを発動した……』
──────ドスッ!
『あっ?……なんだこれは? 俺の身体中に自分の毛針が突き刺さっていやがるだと?!』
それは刹那の出来事だった。巨大主鰻が吐き出した銀の毛針は、白髪騒男が口から吐き出した黒い煙を【吸収】して、猛毒の毒針へと変化し、元の持ち主。白髪騒男の身体をズタズタに突き刺したのだった。
〈フラマの友が良く口にしていた自業自得はこう言う事をいうのかね? いや、むしろ因果応報かね? 白髪騒男君〉
『……クソ銀林檎。テメエの仕業か! いや、テメエしかいねえよな。俺にこんななめた事をする野郎はよう。さっさと正体を突き止めて、テメエの本体を八つ裂きにしてやりてえぜ。痛え、痛えな。おいっ! 暗殺者スキル発動……【闇飾】』
白髪騒男が何かのスキルを発動した瞬間。白髪騒男の身体の傷は治り始め、その代わり本人の影が薄くなり始めた。
〈これは? どうなっている? 白髪騒男君の傷が回復していく〉
『ハハハ! とっておきだぜ! クソ銀林檎。数年影を失う事で、自身を超回復させる自己修復スキルってやつだ。良く覚えておくんだな。そら! 串刺しにしてやるよ。スキル発動【銀針】』
〈これは……零距離から。くっ!〉
私は白髪騒男の攻撃で吹き飛ばされそうになった時だった。
「ホッと! んー? 何だい? この可笑しな林檎は? 確かこの場所でナヘマちゃんの気配を感じたんだけどね? 居ないみたいだね。残念。汚いしいらね」
突然現れた男はそう告げると、私を地面へと投げ捨てた。
……何? ナヘマだと? この死臭漂う青年。ナヘマの関係者なのか?
『……テメエはまさか。何でテメエみたいな野郎がこの神聖な聖都に居やがる?』
「それはこっちの台詞でしょうや。白銀浪のフェリックスとラビリンスの巨大主鰻。成る程、成る程。このレベルの奴等ならナヘマちゃんを匿ってて可笑しくないね」
『ナヘマだと? あの賞金首がどうした?』
「仲間なんでね。取り上げるもんを取り上げたら殺すつもりさ……それよりも祭典の最中の中で別のお祭りを繰り広げちゃうとはね。面白い事を考えるねぇ」
『さっきからうるせえぞ。殺されたいのか?』
「何、言ってんの。殺されるのはアンタ等だよ。さあさあ、お祭りらしく三つ巴でもやろうよ。三つ巴。祭典の儀式が終わるまえにさ。この俺、【揺動のリリト】とさあ!」
無造作に地面へと捨てられた私はある事を考え始めた────ああ、私は内側しか警戒していなかった様だ。真なる敵は外側から現れた……ナヘマと同じ力を持った者が。
新たに現れた彼は私や白髪騒男君は、私をただの不気味な怪物としか見ていない。
ならばその隙を思う存分突かしてもらおうか。
……この銀狼と大鯰と死臭達の三つ巴の戦いに。




