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No.56 エルフ少年の知人は闇が深き者達ばかり


 私は、アレゼル少年と共にカンデラ雑貨屋の扉を出た後、驚きの光景を目にした。


 (──これはどういう事かね? カンデラ雑貨屋があった場所が、空き地になっているぞ)


(うん……あそこは本当に不思議なお店なんだ。色々な物が売り買いされて、色んな人達が集まるって別れるお店。それがラテ・カンデラさんが切り盛りするカンデラ雑貨屋)


(色んな人達が集まり、別れる店? アレゼル少年。それはどういう…)


(うん……内緒だよ。あのお店の事は、本当は誰にも言っちゃ駄目って言われているだ。でも、ギエナさんはあの人からボクを守ってくれたし、お金にも困ってたみたいだし。特別に教えてあけだんだ…)


 アレゼル少年はそう告げると微笑み、口を閉じた。


 ……成る程、これ以上は聞かれたくないという事か。


(そうなのかね。それはアレゼル少年に気を遣わせてしまって申し訳ない事をしてしまったな。済まない)


(ううん。全然だよ……それよりも良かったね。ラテさんが沢山の素材を換金してくれたから、あんなにお金が手に入って)


(あ、ああ、だが。今の私の姿では、まだこちらの世界の店では物を買う事は困難だろう。今回は君が私に付いてくれて入るから出来ているがね。まあ、出来れば他にもこの世界の武器や本等も揃えたい所ではあるがね)


(うーん……武器と本かぁ。そうだね。ギエナさんは所有しているスキル称号も多いし、本に一覧にして読める様にするのが良いよね。じゃあ、あの人のお店に案内してあげようかな)


(何だね? また別の店を紹介してくれるのかね?)


(うん……トリストメギストス魔道書店ね)



 そして、私はアレゼル少年に再び案内されながら、暗い路地裏を進んで行くと。高い建物に囲まれた行き止まりへと辿り着いた。


(これは地下水路の時の様に行き止まりとは)


(そう……許可を貰っていないとそう見えるんだ。中に入ろうか。ギエナさん。誰かに見られないうちにね)


 アレゼル少年はそう告げると行き止まりの建物の壁へと歩き出した。


(待ちたまえよ。アレゼル少年……これでは激突してしま──)


ガチャ……


(──う……ここは?)


「こんにちは……ルミナさん。お久しぶりです」


「あら? この透き通った綺麗な声は……アレゼル君。じゃない! 久しぶりね? 何年ぶりかしら?」


 黒髪帽子に漆黒のローブ、髪も黒く顔立ちが整っている女性が、アレゼル少年を見るなり。彼に飛び付いて来た。


「うん……2年ぶり位かな? 元気だった?」


「元気元気よ。相も変わらずね。たまにしか御客様何て来ないし暇なくらいよ。それで? 今日はどうしてうちに来てくれたのかしら? 困った事でもあった? 王都じゃ、イヴァイロの馬鹿が脱走したって話でもちきり何だけど」


「そうなんだ。イヴァイロさんが脱走……(だから地下水路で気配がしたんだね。それでギエナさんと闘って、あの人が負けたと。成る程ね)」


(イヴァイロ? もしや、あの囚人狼男の事かね?)


(うん……その人だね。ボクを殺そうとしていた人)


 アレゼル少年は私と念話を終えると、私が隠れているフードを見つめ頷いた。


「アレゼル君。どうしたの? いきなり静かになっちゃって。もしかして、幽々《ゆうゆう》たる暗殺者の連中に追いかけられてるの? もし、そうだとしたら早くエルフの国に…」


「ううん。大丈夫。心配しないでルミナさん。それより、今日はルミナさんのお店の魔法書を買いに来たんだ。後、紹介したい人もいるんだ」


「魔法書を買いにって、アレゼル君。私のお店の本は皆、お高いのよ。今の君だと一冊も買えるわけ…」


〈いや、買うのは私なのだがね〉


「………へ? 喋る銀の林檎?」

「ちょっと……ギエナさん。いきなり出てきちゃ駄目だよ! 食べられちゃうよ」


〈いや、アレゼル少年が私を彼女に紹介するというから、早速、登場しようと思って出てきたのだが、不味かったね?〉


「林檎顔〈アブルミート〉の亜種かしら? まあ、良いわ。少しかじって味見すれば、何なのか分かるでしょう……頂きます」


「ギエナさん……逃げた方が良いよ。じゃないとっ!」


〈私の名前はギエナだ。よろしく頼む。アレゼル少年の友人のルミナ嬢よ。これからよろしく……〉


───シャリッ!


 それは何かの果物を噛る音だった。その音は私の直ぐ近くから聴こえ。そして、私の身体はその音が鳴りやむと同時に、噛み砕かれたのだった。


〈ギャアアアア!! 私の身体の一部があぁ!!〉


 私は突然の身体の欠損に珍しく慌てふためいた。


「駄目ね。呑み込めない……それに不味いわね。魔力の塊で苦い味しかしないもの」


「あ、当たり前だよ……ギエナさんは特殊個体ユニークモンスターだもん。そりよりも何でギエナさんをいきなり食べちゃのさ。ルミナさん」


「んー? ごめんなさい。いつもの癖で、好奇心をそそられる物は取りあえず味見しちゃのよね。食べちゃってごめんなさいね。特殊個体ユニークのギエナ君」


〈くっ! こんな出会いの仕方初めてなのだが……〉


 彼女は私に両手を手合わせして謝罪した。



〈ほう。自身のスキル一覧の閲覧出来る。空白の書というのかね?〉


「そうね。それとこれとこれが魔法と称号の空白の書で、権能はこっちねって……君、こんなに買って大丈夫なの? どれもこれも100万フランはするわよ。権能の空白の書にいたっては500万フランで、御客様に言っちゃ悪いんだけど。貴方みたいな銀の林檎ちゃんがそんな大金を…」


ジャラジャラジャラ……


〈これで足りるかね? ルミナ嬢よ〉


「ワァーオ! お金持ち。どうしたのよ? こんな大金? どっかの商会から盗んできたの? 全部本物みたいだし」


〈秘密だ。悪いが教える事は出来ない〉


「そう。まあ、私は売れもしなかった物が売れて、万々歳だけど……これだけあれば他の本も買えるけど。何か欲しいものはある?」


〈欲しいものかね? アレゼル少年。何が良いだろうか?〉


「うん。そうだね……世界地図、各種属性の魔法書、歴史書、ていうか。買えるならこの店の本は全部買って置いた方が良いかもね。この世界は本が凄く貴重だから、あまり出回らないし。手も入りにくいんだ。だからね…」


〈良し分かった。君の判断に従おう。ルミナ嬢よ。この店にある全ての本を買わせて頂こう。よろしく頼む〉


「……うちの店の全ての本って、どれだけお金がかかると思ってるのよ。そんな全部買えるわけ──」



「ありがとうございました~! じゃあ、新しい太客のギエナ君。また、新しい本が入荷したら、アレゼル君経由で手紙で教えるからよろしくね~! バイバイ~」


ガチャ……


〈かなりの資金フランは失ってしまったが、ルミナ嬢の店の本は全て買えたな〉


「うん……あんなにあった大金が半分位、支払いで無くなっちゃったね。でも、それだけの価値が買った本全てにあるよ。だって、この世界はね…」


〈情報を得るにも強くならなければいけないのだろう? 進化や変化をして。そうでなければ本を手に入れ、知識を知るしかないか〉


「そうそう……それが緑蛇神様が決めた事だからね。だからあの本は大切に保管して置いた方が良いよ。ナヘマちゃんがいない場所にね。じゃないとナヘマちゃんに魔法書なんて、好き放題されちゃうよ」


〈……ああ、あのナヘマならやりかねないな。ならば、進化した事で新しく出来た部屋《苗木図書グラス・ビブリオル 》に保管しておこう〉


「そうだね……それが良いよ。それと、ここが武器屋だね。入ろっか」


ガチャ……


「いらっしゃい……今日は悪いが店じまいでな。帰って……」


「こんにちは。ドリンクスさん」


「ん? お前は……おお、若! お久しぶりで、元気にしてましたか?」


 見た目がドワーフで、鍛冶師の格好をしているという事はここは武器屋か? それに入って来る時も、アレゼル少年は何かの詠唱を唱えながらこの店の扉を開けたな。


「うん……元気だったよ。それでね。今日はドリンクスさんに紹介したい人がいてね。紹介するよ。特殊個体ユニークモンスターのギエナさん」


〈うむ。よろしく頼む。亭主〉


「ん? 銀の林檎が喋った?」


 こんな具合に他にも、裏教会、闇冒険者ギルド、商会、高級魔道具店などに案内され、アレゼル少年が信頼する知り合い達には、私を紹介し、知り合わせてくれた。


 そう。彼は私の為に、アンテラリエ闇市の自身の人脈を私に無償で提供してくれたのだ。 


 何ともありがたい事だが、ここで1つの疑念が私の中に浮かんだ。


 このアレゼルと言う少年はいったい何者なのだろうか?

 

 アンテラリエ闇市へと向かう為の隠し通路から始まり。


 異質な空間のカンデラ雑貨屋、高価な本を売るトリストメギストス魔道書店、一流の鍛冶師が切り盛りする鍛冶屋など。


 普通ではあり得ない人脈を彼は持っている……もう一度言う、いったい彼は何者なのだろう。


 私はこのアンテラリエ闇市で色々な異質な場所を案内され、異質な者達を紹介されたが。


 ────最も異質で謎が多い人物は、私の直ぐ側に入る、エルフの少年なのではないだろうか?





《アンテラリエ闇市 露店》


 暗い路地裏に深くフードを被った男がエルフの少年を見つめていた。


「やっと見つけたぞ。アレゼル、イヴァイロのかすかな匂いがするが、殺っちまった様だな……祭典は1日後、コクマーがライオネル・リチナ墓地に礼拝に行くのが勝負だな。覚悟しろ。アレゼル……俺達を裏切った事を後悔させてやるからよう」


 男はそう告げると暗闇の中へと静かに消えていった……


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