No.55 銀林檎は換金し、懐かしい世界の名を聞く
ガチャ‥‥‥カランカラン!!
扉を開くと同時に扉の内側に付いていた鐘の呼び鈴がなる。
古くからある建物の故だろうか。雑貨屋の中までかなりの歴史を感じさせる造りとなっている。
(中は意外と広いのだな。雑多によく分からない品物が棚に並べられている。それに幾つか扉があるのは何かのデザインなのかね?)
(うん……ここは色々な所と繋がってるらしいからね。扉はその為に付けてるって。ラテさんは昔、言っていたかな)
(ラテさん? それはいったい誰の事なのかね? アレゼル少年)
「だから早く扉を開けろと言っているではないか。ラテよ、ワシは行くぞ。新たな世界へとな」
「……だから少し待ってろと何度も言ってるだろう。アリババ。後、数分であっちと繋がるってな。まったく、久しぶりに訪ねて来たと思えば、別の世界に行くから力を貸せだのと。相変わらず無茶を言いやがるな。お前は」
「当たり前だ。それがワシ、盗賊王の矜持…おっと。どうやら客人が来た様だぞ、ラテ。それも2人だ」
「あん? 2人だと? 馬鹿言うな。ここにはそうそう客なんて来る筈が…」
大柄で筋骨隆々の中年の男と、頭に赤色布を巻き付け、黒いマントを羽織った青年がカウンターらしき場所で談笑をしていた。
………そして、私の聞き間違いではなければ。あの赤色青年は《フラマ》と言う単語を喋ったのか?
「こんにちは…ラテさん。久しぶり…」
「うーん?……おお! その顔。その声。アレゼルか? 何年ぶりだぁ? 大きくなったな! 元気だったか? 」
アレゼル少年は深々と被っていたフードを取り、ラテという人物に挨拶をした。そして、アレゼル少年を見たラテという人物は、笑顔で彼にカウンターの方へと来る様に手招きした。
「……ではワシは少し席を外す。旅支度してくれた事、感謝してやろうこれはその支払いな黄金を…」
「そう言わずに、お前も話に加われ旅の道中で人と接するのも旅の醍醐味だぞ。それといらねえぞ。そんな黄金。お前には昔からさんざん世話になったからな」
《カンデラ雑貨屋亭主 ラテ・カンデラ》
「そうか。お主が良いのならば、ありがたく受け取ろう」
《放浪者 アリババ》
「おう! そうしろ、そうしろ。いや、しかし。まさかアレゼルがここに来るとはな。外は今、トネリコと繋がってたのか?」
「う、うん……たまたまアンテラリエ闇市に来たら、このお店を見つけたから。ラテさんに用事があって立ち寄ったんだ」
「ほう。外は今、トネリコと言う世界に繋がっているか……興味深いな。それとエルフ小僧のフードの中に隠れている者もだが」
「フードの中に隠れている者?……アリババ。何を言っている? 何も居ねえぞ」
「いや、入る……出てこい。さもなくば。その脆い命をこの場で刈り取ってしまうぞ。謎の植物よ」
アリババ言う青年はそう告げると両手に魔力を込め始めた。
「おいおいおい! 店の中で魔法をいきなり使うじゃねえ」
「何これ?……見たことも無い魔法が」
〈……了解した。君の言う通りにしよう。アリババと言う青年。隠れていた事を謝罪する〉
私は一瞬で目の前のアリババと言う人物の危険性を悟り。アレゼル少年のフードの中から姿を現した。
「ギエナさん……出てきちゃって良かったの?」
「こりゃあ驚いた。銀色の果物か? 何で浮いて喋ってやがるんだ? 何かのマキか?」
「失礼な事を言うでないぞ。ラテよ……こちらこそ失礼な物言いを謝罪しよう。大人物よ」
アリババ青年は私の姿を見ると驚愕な表情を浮かべ、私に頭を下げた。
「……あの傍若無人のアリババが得体の知れない果実に頭を下げただと?」
ラテはラテで、そんなアリババの姿を見て驚愕する。
「世界は繋げても世界の真理はまだ知らないのだな。お前は」
「あん? 世界の真理だと? 何だそれ?」
「……そんな事よりも自己紹介だ。ワシはアリババ。旅をし始めた放浪者だ。そして、こっちがラテ・カンデラと言うお人好しの…」
「気前が良いラテ・カンデラだ。良く分からんが。アリババが頭を下げる凄い果物って認識で良いのか?」
〈ああ、その様なモノだ。私はギエナ。植物に生まれ変わったモノだ〉
「僕はエルフのアレゼル…宜しくね。アリババさん」
「うむ。宜しく頼む。アレゼルよ。そして、ギエナ殿……御会い出来たこの奇跡に感謝しよう」
アレゼル少年はアリババ青年と握手を交わし、アリババ青年は私に何故か祈りを捧げた。
アリババ青年は何故、私を敬うのだろうか?
◇
「一角兎の 兎毛、一角兎の 垢
、一角兎の爪、一角兎の点角……何れも見た事もねえ素材だな。どう価値を付けたもんだか…」
「ほう。その素材、幸運値が高いではないか。ならばワシが引き取ろう。ギエナ殿。どれだけ出せば譲られるか?」
アリババ青年はそう告げると懐からとてつもない黄金を取り出し、私の前に置いた。
「何これ?……凄い量の黄金だね」
〈……黄金はどの世界でも共通して高いと言われているが、まさかこれ程の純度の黄金を見るのは初めてだな〉
数多の異世界において黄金は魔術の素材として重宝される事が多々ある。それが今、目の前に山の様にあるのだ。驚かずにはいられない。
「ワシが今から向かう 《フラマ》の世界はあらゆるモノに数値化という概念があるらしくてのう。ギエナ殿がラテに売ろうとしていた、それ等の素材はとても高価だ。持つ者にあらゆる幸運をもたらすモノだな……どれ他にも何かワシに売ってくれる物があるなら買い取ろう。それなりの対価は払うでな」
「待て待て! この店の亭主抜きで話を進めるな。その白密と自然酒。後はトネリコの生物の素材はだいたい買い取ってやる。アレゼル達の世界の貨幣は確かフランだったな?……ちょっと待ってろ。今、取り出すからよっと!」
ラテ亭主はカウンターのとある引き出しから、小袋を取り出すと袋を広げた。するとその中から大量の金貨が飛び出し、天井に付く程の山になった。
「凄い量……フラン金貨がこんなに」
〈これだけの金貨があれば今後のトネリコの世界での、資金の心配しなくてよさそうだな。それに…〉
「ギエナ殿。ワシも自然酒と薬草……回復薬も頂くぞ」
私が《 吸収装飾館 》内から出した、これまで手に入れた素材をアリババ青年は夢中になってあさり、背中に背負っている旅様のカバンだろうか?
それに詰め込んでいき、その代わりと言わんばかりに私とアレゼル少年の前に黄金や宝箱を置いていく。
〈あ、ああ、好きに持って行きたまえよ。《フラマ》は強者の世界。備えあれば憂いなしと言う言葉もある様に、万全な状態で旅に向かうと良い〉
「……そうか。ギエナ殿はフラマ出身なのか。今世がその様な姿だと色々不十分しような」
〈いや、そうでもないのだよ。この姿でも色々な事が出来て楽しい時もあるさ。フム……アリババ青年には沢山の素材を引き取って貰い、貴重な黄金をこんなにも、私に払ってくれた……少し待っていてくれたまえ。ラテ亭主。ここに紙と封筒は売っているだろうか? それとペンだな〉
「それとこれも買い取ろう……ん? 紙と封筒とペンだと? それなら店の中にあるのを勝手に使いな。俺は今、あんたが持ってきた珍しい素材の換金の事で頭がいっぱいでな」
〈そうか。ならば勝手に使わせて……いやこの店にある物も幾つか買わせてもらおう。ラテ亭主よ。良いかね?〉
「ああ、好きにしな。店の棚に置いてあるのはみんな売り物だからな……いや、非売品の棚もあったが。今はそんな事どうでも良い、トネリコの素材を誰に高く売りつけるかをだな」
「ラテさん……悪い顔してる」
私は店の棚にあった紙、封筒、ペンを自身の蔓を伸ばし、掴むと手元へとたぐり寄せ、何通かの手紙を書いた。
そして、その間にも蔓で店の中にある今後、使えそうな物をあさり、《 吸収装飾館》 中へとしまっていく。
アレゼル少年には何を入れたのかを紙に書き出してもらいながらだ。
「フム……ギエナ殿。何を書いているのだ?」
〈ああ、《フラマ》のかつての友人達に当てた手紙を書いたのだよ。これをアリババ青年に渡しておく。あちらの世界で何か困った事があれば、彼等を訪ねると良い〉
私はそう告げるとアリババ青年に数通の封筒を渡した。
「ほう。これはありがたいな。感謝する……何かその友人達に伝える事はあるだろうか? ギエナ殿」
〈……ああ、ギエナ・セフィロは違う場所で頑張っていると。元気にしていると伝えてくれるかね。もし友人達に会ったならばだがね〉
「うむ。会ったあかつきには確実に伝えよう」
〈感謝する。それとこれを…私が教えられる範囲で《フラマ》の事を書いておいた。あちらで困ったら読んでくれ〉
「ハハハ。これは便利そうよな。ギエナ殿との出会いに感謝しよう……扉も変わった。ラテよ! 世話になった。ワシは再び旅立つぞ」
「何?……ああ、繋がったのか……出るなら赤の扉から出ろよ。アリババ……次に会えるの何年後だ?」
「分からぬ。しかし、また別の旅路で迷い込むかもしれぬ。ではなギエナ殿、アレゼル……親友ラテよ。去らばだ」
ギイィ……ガチャ……
アリババ青年は最後にそんな別れの言葉を告げると、カンデラ雑貨屋の奥にある赤色の扉を開き出ていってしまった。
「いけない……ギエナさん。僕達もそろそろここを出ないと戻れなくなるよ」
〈む? どうしたのだね? アレゼル少年……まだ換金とここで買った物支払いが終わってないのだがね〉
「それなら今、終わったぞ! アレゼルの言う通りだ。そろそろこことトネリコの繋がりが切れるぞ。換金した金と黄金やらは小袋にしまったな?」
〈ああ。《 吸収装飾館の中に全て回収したとも〉
「この店での会計文も差し引いてあるからな。そんじゃあ、今回は良い取り引きが出来たぜ。ギエナ。また何処かで繋がった場所があったら来店してくれよな……それじゃあ。またよ。アレゼルと太客さん」
カンデラ雑貨屋の店内が歪み始める。ラテ亭主は怪しげな笑顔を浮かべていて少し不気味なのが引っ掛かる。
「ギエナさん……僕のフードの中に入って」
〈了解した。それでは外に出よう。アレゼル少年〉
「うん……僕達がいた場所へね」
ギイィ……ガチャ……
私はアレゼル少年の方へと乗ると急いで、自身の蔓を伸ばして最初に入って来た入り口の扉を開き、外へと出たのだった。
◇
《カンデラ雑貨屋 店内》
「……いけねえな。つい珍しい素材を変えて変な作り笑いをかましち待ったが。そういえばアレゼルが残していった買った一覧を書いた紙がもう一枚あったが、何を書いてたん…だ? おいおい。うちの非売品の棚にあった全部持ってたのか?……アリーナやマキナの物まで」
▽
別世界は存在し、そして世界はたまに交差する。
あらゆる世界の特異点は時たま生まれる。
そうカンデラ雑貨屋の様な場所が世界には幾つも点在する。
そんな場所で起きた奇妙な出会いが今後も起きるかもしれないと。
私、ギエナはカンデラ雑貨屋を後にして考えた。




