No.24 その苗木の種子は発芽する
意識が強制的に刈り取られた。まさか【緑蛇神の眼】が対象者にあの様な効果をもたらすとは、思いもしなかった。
ソフィア嬢に対してあらゆる技が使用不可能……絶体に逆らえないと言っていたな。
そもそも何故、世界観測は私がソフィア嬢に危害を加えるなどと思ったのか。そこに疑問が生じてくる。
《ユグドラシルの聖女》……ソフィア・A・クレメンタイン
彼女は何者なのだろうか? これ程までに世界観測や緑蛇神からの寵愛を受ける少女。
【唯物】程の存在にわざわざ命を狙いに来る程の存在。それがソフィア嬢か……。
現在、私は称号・【緑蛇神の眼】の効果によりソフィア嬢に生殺与奪を握られているただの草と化している。それについてもどうにかしなければならない課題の一つだ。
まあ、彼女が私を刈ったり、枯らす様な事などしないとは思うが、自由に動けなくなるというのは非常に不味い。早急に知るべき事は3つ。
一つ目は《ユグドラシルの聖女》ソフィア・A・クレメンタインが何者であるかを知る。
そして、二つ目はこの世界についての情報……そうだな。地理、歴史、国々、種族等の情報が知れる場所。書庫などが何処かにあればベストだろうか。
最後に3つ目だが、世界観測が言っていた。称号・【緑蛇神の眼】の効果による、ソフィア嬢への絶体服従の状態からの解放。今の鉢植えに植えられた状態では、進化もする事も叶わないからな。
……本当は《新緑の樹海 中界》に入り、更なる戦闘経験を積み進化を試みたかったが、このままではソフィア嬢がやって来たという《セフィラ王国》へと連れて行かれてしまう。
いや、これは逆にチャンスと捕えた方が良いだろうか? セフィラ王国とやらに行けば、この世界についてやソフィア嬢の……《ユグドラシルの聖女》について調べる事が可能になる。
ならばここは大人しく成り行きに任せてみるのも良いのかもしれないな。
などと今後の事を計画している時だった、唐突に見知らぬ声が聴こえて来たのは。
〖緊急思考停止を確認━━━EXスキル【草神】の強制発動を行います〗
この無機質な声は……確か、ユニークスキル【智慧】の声か?
〖正解。《苗木》の本体である。ギエナ・セフィロの意識消失した為、緊急措置として、ギエナ・セフィロが曼陀羅華時に発動させいたスキル【種子】【発芽】で撒いていた魔草、冬虫夏草、曼陀羅華それぞれの種を発芽させ、育成していきます〗
世界観測とは違い、とても無機質な声だな。いや、それよりも種を発芽させ、育成させるだと? どういう事だ? 【智慧】よ。
〖現在、ギエナ・セフィラの本体である〖草霊の身体が消失する危険が発生した為、EXスキル〖草神〗の緊急措置に入る。本体がこのまま何者かに殺害、消滅させられた場合。〖草霊の新たなる依代として、これまで進化経験がある、魔草、冬虫夏草、曼陀羅華の何れかへと身体を移せる様にする為に育成を始める〗
……とても長い説明だったが。要は今の本体である私の身体が死んだとしても、これまでの進化系統の何れかへと避難出来る様に、以前、ふざけて森中に撒いていた種を育てていくという事か?
〖肯定します。現在、EXスキル【草神】の発動により、種子から発芽した数は数千に及び。これ等全てにギエナ・セフィロの疑似意識と【智慧】を与え、独自の進化を促していく〗
独自の進化だと?……そんな事をさせて大丈夫なのか? 私の疑似意識など与えれば謀反や暴走する者も出てきそうだが?
〖その場合。その種子存在はEXスキル【草神】の判断により廃棄対象とみなされ、消滅。消滅後のあらゆる経験値は本体であるギエナ・セフィロへと還元される〗
ほう。それは何とも残酷な事をするのだな。……その還元とやらは廃棄対象でなくても出来るのか?
〖可能。だが現在、本体との種族レベルがあり過ぎる為、還元した所で現ステータスに何ら影響は及ぼさないと予測される〗
……今はただの種か。ならば今は自由に成長させ、実った時に刈り取るのがベストといった所だな。
〖【智慧】の判断結果もそれが最良と決定。これより各種子は各々が独自の進化を遂げ、最終的にギエナ・セフィロの経験として回帰予定〗
ああ、それで良い……しかしだ。これは面白い事になったものだ。
当初の予定だった筈の《新緑の樹海》の探索と進化の為の自身の経験値稼ぎが出来るとは夢にも思わなかった。それに加えて、現在の本体が刈られた時の保険の依代が用意出来るとはな。
全く持ってソフィア嬢、様々である。これならばセフィラ王国への旅に同行し、この世界の情報を得るのに集中出来るものである。良かった。良かった……
こうして、私は安堵しながら、《セフィラ王国》への旅について思いを馳せながら、深い眠りに落ちていった。
一方《新緑の樹海》では━━
フム。私は魔草として発芽した様だ。
〈私は曼陀羅華だ〉
(私は冬虫夏草だな)
【私は魔草】〈私は曼陀羅華だ〉【私は魔草だった】、(私は冬虫夏草だな)、【私は】、(私は)、〈私は〉
沢山のギエナ・セフィロの疑似意識が蛙の合唱の様に喋り始めていた。
〈数千の種が一気に発芽したから多いな。これではまるで軍隊だな。ならば各々がチームに分かれて、作業しよう。その方が効率的だ〉
【では私達。魔草は先ずは昔の様に虫達を倒しながら強くなり、薬草や鉱石を集めて、スキル【収納】で本体に送り続けよう】
〈フム。ではでは私達。曼陀羅華は今後、発芽してくる私達の種の品種改良やスキル、称号の収集だな。魔法は……どうやら取得方法が特殊な為、出来ない様だ〉
(それでは、私達は冬虫夏草はある程度、強くなったら魔獣を狩り、その身体に寄生し、他の大形魔獣を狩って、服従させ飼い慣らしていこう)
〈ではでは、各々の私よ。本体が強くなる為にも頑張って成長していこうではないか〉
〈(【おおお! 頑張っていこう。私達。全てが本体が再び最強種へとなる為に!!】)〉
こうして本体である私が知らぬ存ぜぬ所で、私が撒いた種が発芽した者達による《新緑の樹海》の密かな侵略が静かに始まったのだった。




