No.23 その苗木は聖女との同行を考える
黒髪鎌娘との戦いから2日程が経った。普通の者ならば激戦の後はゆっくり休むものだろう。
だが私の場合は違った。黒髪鎌娘との戦闘終盤で曼陀羅華から木霊へと退化した事により、身体が全回復した。
そして、新しい肉体〖精霊体〗を手に入れる事が出来た。
しかもこの精霊体は新EXスキル【幻草】を使用すれば、これまでの進化した魔草、冬虫夏草、曼陀羅華へと擬態する事が出来る様になったのだ。
そして、今は懐かしき姿の魔草で魔獣達と対峙している。この姿ならば虫、鳥、獣達は私を弱者だと侮り、少し殺気を放つだけで無計画に私に突撃してくる。
「ギシャアア!」「ゴルアアア!」「ルオオオ!」
EXスキル発動……【草神】━━━【鱗粉】【毒牙】【麻痺】【裂傷】
ザシュンッ!……バタンッ
「ギャギ……」「ゴルル……」「グルル……」
ふむ。《新緑の樹海 下界》の食物連鎖の中層程度の魔獣なら倒せる様になったか……これならば新緑の樹海の更なる奥に入る事も可能になる日も近いか。
本来の予定ならばあの黒髪鎌娘を倒した時点で、黒髪鎌娘の全ての能力をあの切断され左手から解析し始め、更なる上位種へと進化する予定だったが……その可能性は数日前からの夜の特訓で消した。
いや、消したというよりも私は考えを変えたのだ。あの敵対した娘を無意識に生かしいと思ったのだ。私はあの黒髪鎌娘という少女について何も知らない。そんな何も知らない者があの娘を勝手に処して良いものだろうか?
私が最初に居た世界。《フラマ》ではちゃんとした魔の法《(ほう)が確りあった。正しき行いをした者には正しき施しを、悪しき行いをした者にはそれに見合う罪が与えられた。
私?……いや私は勿論、後者の方に決まっているだろう。
酒を飲みやらかす度に刑に処され、この度に幼少の頃から集めていた財産は没収され、都市部を焼いた時など、彼の懇願で命は取られる事は無かったが、全財産を没収され。学園の講師の座を追われたものだ……とっ、私の過去の話などどうでも良いか。
今はこの世界《深緑界》の今後の生活について考えれば良い。そうだ。私はこの世界について何も知らない。
知らないが……新緑の樹海の《攻略》の事もある。この樹海はとても広大で深淵だ。この樹海の奥には《幻緑獣 グラスヴォルフ》の様な冠位クラスが存在するのだろう。
……私はそんな強者達と戦ってみたいのだ。今は非才なる力と退化してしまった身体だがな。
私は元最強種の賢者だったのだ。私はあの甘美な強さを、あの強者同士の緊迫した戦いが好きなのだ。強き者達との戦いが……だが、今はまだまだ弱い退化もしてしまった。
この世界についての見聞を広げるべきか、《新緑の樹海 中界》へと足を踏み込めば良い悩む所だな。
スキル発動……【吸収】
私はそんな事を考えながら倒した魔獣達の亡骸を【吸収】し解析した。その後、【収納】空間へとしまった。
ガサッ…ガサッ……
む? この気配は確かソフィア嬢とシルか。
「あー、やっと見つけましたよ。ヘルナさん! 朝から森の中に入るなんて駄目ですよ。あんなに身体に傷を負ったんですから、ちゃんとお休みしないと駄目ですよ」
「キュイ! キュイ!」
〈何を言っている。ソフィア嬢。私は退化した事で身体など全回復してだな。この様に次の進化の為の経験値を稼がねばいかないのだ〉
「……何言ってるんですか? 普通、植物種や魔獣種が退化したら、シルちゃんの様に-(マイナス)ステータスが付与されるんですよ。シルちゃんは【贈呈】のスキルでナヘマさんに渡してしまったみたいですけど」
「キュイン!」
〈その様だな。あれ程に弱っていた。シルがここまで元気になるとは……普通の退化という現象はかなりのリスクがあるのだな〉
「そうですよ! ですからヘルナさんも退化したんですから、ゆっくり休まないと駄目です」
ソフィア嬢はそう告げると私の魔草《身体》を掴み簡単に持ち上げた。
〈ガァ? 何をする? ソフィア嬢、離したまえよ。私は今、どちらを選ぶか考えているのだ……くっ! 何故、あらゆる力が発動できない? 何故だ?〉
〖【唯物のナヘマ】の矯正と調教が順調の為、当初の予定よりも、数日早く復帰しました。お知らせします。称号【緑蛇神の眼】の効果により、貴方がユグドラシルの聖女に対して、スキル、魔法、称号、権能、魔技、体技の使用する事は不可能です……というか絶体に逆らえません〗
何だと? それでは今後はソフィア嬢に逆らう事が出来ないではないか?
〖馬鹿ね。それが私の狙いよ。アホ草! 今後はその娘に尻に敷かれながらこの世界を楽しみなさいよ。バーカ!……バゴンッ!………失礼しました。今後は貴方と世界観測の声はユグドラシルの聖女及び、幸運兎にも聴こえる様になりました〗
〈貴様! そんな事をすれば私の思惑がソフィア嬢とシルにバレるだろう。これから私は《新緑の樹海 中界》に入り、更なる強敵と戦う日々を送るのだ〉
「……はい? 《新緑の樹海 中界》入る?……駄目ですよ」
〈む? どうした? ソフィア嬢。突然、声が低くなったぞ〉
「……そんなの駄目に決まってます。ヘルナさんは怪我を負ったんですよ。休養を取って安静にしなくちゃ駄目なんです」
ソフィア嬢は涙目になりながら、どこからか取り出したのか分からないが、鉢植えらしき物に私を入れた。
〈いや、待ちたまえよ。ソフィア嬢、何をやっている〉
「……ヘルナさんは草木ですから寝床に、鉢植えで休んでいて下さい。今、お布団を……土を被せてあげますね」
「キュ、キュイ!」
〈い、いや、止めたまえ。それにこの鉢植えは……君の何かしらのスキルが使われているな? 身動きが取れん。シルも私の顔に砂をかけるのを止めろ〉
「……ハッ! そうです。ナヘマさんから命を狙われる心配も無くなりましたし。シャーロットさん達が入る場所に帰る事も出来ますね。シルちゃん! シルちゃんと最初に出会った場所は覚えていますか?」
「キュ?……キュイ!」
〈任せてと言っているな……〉
「本当ですか! では、そこへ案内して頂けますか? 多分、その近くにシャーロットさん達……探索隊の方々もいらっしゃると思うので、行きましょう!」
「キュイイ!」
〈お任せっと言っているな……それよりも私はシルがいつの間にか子兎から幸運兎へと進化しているのが気になるのだがな……そして、これから私はどこへ連れて行くんだ? ソフィア嬢〉
《 新緑の樹海 セフィラ王国野営地》
「姫様は…いや聖女はまだ見つかりませんね。シャーロットさん」
「ええ…ソフィア様から離れて離れになったの3週間前。そして、あの謎の大規模爆発があったのが17日前……私は今日も新緑の樹海入り、ソフィア様の捜索に行く」
「お待ち下さい、シャーロットさん。こんな毎日の様にあんな危険な場所に向かうのは危険です。それに捜索隊員達の疲労も貯まってもおられる筈です。今日は休養日として英気を養うべきです」
「離しなさい。私はソフィア様を必ず救い出し、ソフィア様と共にセフィラ王国必ず帰還する……」
「あー、やっぱりいらっしゃいましたー! シャーロットさーん! ご無事でしたかーッ?」
「……この声はソフィア様の声? まさか幻聴が?」
「いえ、シャーロット聖騎士……本物です。あの方は聖女様で間違いありません。手に子兎と鉢植えを持っておりますが」
「子兎と鉢植えですか?……何故?」
「あー、やっぱりここにいらっしゃいました。良かったですね。ヘルナさん。これでヘルナさんの身体もセフィラ王国で回復出来ますね。良かったです」
いや、ちょった待ちたまえよ。ソフィア嬢……私の身体は、もう全回復しているんだ。くっ……鉢植えに身体が固定され、揺らされたせいで意識が遠退いて行く。
このままではソフィア嬢に連れ去られる。《新緑の樹海》から外の世界へと。
……そうして私はゆっくりと意識を失って行き、ソフィア嬢の掌で眠りについてしまった。




