No.12 元最強賢者と現絶対強者
「キュイ! キュイ! キュイ!」
「わぁ~、擽ったいです。子兎さん~! そういえば、ヘルナさん。この子のお名前って何て言うんですが?」
名前? 名前だと? いや、そんなもの知らないのだが……そうだな。こいつは私と森の中で出会って大変幸せ者だろうからな。 《森の幸せ(シルヴァ・フェリー)》とでも勝手に名付けておこう。
「キュイ?! キュキュ! キュイ!!」
シルヴァ・フェリーめ、私に名付けをされてとても嬉しかったのか、私の頭に生えている草を食べ始めたぞ。 そうか。そうか。それ程に私の付けて名前が気に入ったのか。
「シルちゃんですか……てっ! 何、怒ってるんですか? だ、駄目ですよ。シルちゃん! ヘルナさんの身体を食べ始めては駄目です!」
いや、シルヴァ・フェリーだ。ソフィア嬢……くそ! 先程の様に普通に会話ができれば、名前を勘違いされる事も無いというのに、あの世界観測め。余計な事をしよって。……ん? 空から何かとてつもない異質な何かがこちらに向かって来ている?
何だ? 以前よりも精度が上がったという、【鑑定】スキルでも使用して確認するか。
スキル発動……【鑑定】LV2
◆◆◆
種族・●霊
スキル 【誘●】【閲覧不可
魔法 【深…閲覧不可
称号 【拐かす夢…開示不可
………
◆◆◆
ふむ。【鑑定】スキルは使ってみたが、どうやら鑑定対象が、高位存在か何かなのだからだろうか? 上手く鑑定が出来なかった。そんな事をしている間に、その鑑定対象が私達の近くまでやって来た様だ。
〖警告します。速やかにユグドラシルの聖女を連れてこの場から逃走して下さい。繰り返します。速やかにユグドラシルの聖女を連れてこの場から逃走して下さい〗
どうした? 世界観測。私は今、忙しいんだ。【鑑定】スキルのLVが上がったからと、発動してみたんだが、上手く対象のステータスが見られなくてな。
〖現在の貴方と対象体の進化レベルがかけ離れている為です。それよりも、速やかにユグドラシルの聖女の安全を確保する為に、彼女を連れて速やかに逃走をして下さい……つうか、早く逃げなさいよ! アンタ、殺されるわよ。あの死神に……〗ブツン…
死神? 何の事だ世界観測?……また、会話が途切れてしまったが。世界観測は何をそんなに焦っていたんだ?
ストンッ!
「あれ? 何で特殊個体の天兎が居るわけ? それにマンドゴラが二足歩行してるし、アンタもしかして、聖女ではなくて魔法使いだったの?」
「はい?……貴女は……まさか?!」
空から突然、現れたのは黒いフードを被り、手には黒色の鎌を両手に掴んで持っている。黒髪を二つに結んでいる。確か、ツインテールとか言う結び方だっただろうか? ソフィア嬢と同じ位の年齢に見える少女だった。
「キュキュ?」
そして、ソフィア嬢はそんな彼女を見た瞬間。シルヴァを抱き抱え、怯えた表情を浮かべていた。
「な、何で貴女程の方が一人でここにいらっしゃるのですか? ここは神聖な《新緑の樹海》ですよ。それに貴女は…」
「チャンスがあれば潰しにかかるのは当然の事でしょう。悪いはアンタなんだからさぁ。護衛のシャーロット何とかと離れたのが運の尽き……アンタで二人。殺してあげる。ユグドラシルの聖女様ぁ♡」
ソフィア嬢を殺す? いったいどういう事だ? それに何故、ソフィア嬢はあの少女を見てこんなに怯えているんだ?
「はい……始めま~す。スキル発動【強制】【大鎌】……狩ってあげるわよ! ソフィア・A・クレメンタイン」
黒髪少女が両手に持っていた鎌が巨大化した。そして、あの少女はそれをソフィア嬢へと振り落とす。
「あ…いや…あ、足が……動かせない?」
「は~い♡ これで2人目の始末は終わり~、後は帰ってマスターに報告を……」
スキル発動……【鱗粉】
ガキンッ!
「はぁ? 何?……鎌螂? 何でこんなに大きいのよ?」
間一髪だった。間一髪、スキル【鱗粉】の擬態と傀儡を使い。鎌螂となる虫を出現させる事ができた。
「ヘ、ヘルナさん? どうして私を助けて?」
「……フーン。成る程ねぇ。アンタ、【使役者】を持ってるのね」
「使役者? いえ、私はそんなジョブ持っていません。私のは…」
「煩いわね。どうでも良いわよ。そんなの……これから死ぬ娘の事なんてね。だから、早く切断されなさいよ。聖女ちゃん。 闇魔法発動 【常闇】」
させん!
ユニークスキル発動……【蠱毒】
私は黒髪少女が放った闇魔法とやらに、ユニークスキル【蠱毒】を放ち、相殺した。
「……へー、少しはやるじゃない。マンドコラを操りながら、スキル併用なんて、しかも……私に少しあの気持ち悪い黒い液体がかかってぇ?……何これ? どんだけ交ざってるのよ?」
「……ち、違います。わ、私の力じゃ…それはヘルナさんが戦って……努力して……得た力……です……こ、声が……上手く出せない?……」
だ、大丈夫か? ソフィア嬢。な、何故、ずっと苦しそうにしているんだ?
「……アンタのせいで左手、死んじゃったじゃない。しかもこのままだと他の部位も死ぬなんて、仕方ないわね……よっと……【血止】」
シュン……スパンッ!
黒髪少女はそう言い終わるなり、自身の武器である大鎌で、自らの左手を切断した。切断したと同時に、何かのスキルを発動し、傷口を塞いだ。
そして、その切断された左手は私の前はへと転がって来た。
「……な、何を……しているんですか?……い、今、蘇生させますから……貴女が私にかけたスキルを解いて下さい……」
ソフィア嬢は苦しみながら立ち上がり、黒髪少女の元へと向かおうする。
止めたまえ。ソフィア嬢、殺されてしまうぞ。
私は蔦を伸ばして静止使用とするが、何故かソフィア嬢は黒髪少女の元へと進むのを止めない。
「は、離して……下さい…ヘルナさん……目の前に傷付いている人が居るんです。私が治してあげないと駄目なんです」
「……本当に馬鹿ね。アンタ……それよりも凄いわね。そのマンドゴラ。勝手に主人の防衛までするなんて、厄介……だから、消すわ。ここら辺一帯をね」
黒髪少女はそう告げると、邪悪な表情でソフィア嬢に笑いかけた。
「消…す? 貴女は何を言っているんですか?」
シュンッ!
【新緑の樹海】空
〖対象は?〗
「そうね。ユグドラシルの聖女居る半径50メートルを更地にしなさい」
〖仰せのままに……エクストラスキル発動します【死神】……続いて魔法を発動。深淵魔法【常闇の底】……殲滅します〗
「……ええ、許可するわ。リリ」
〖……仰せのまま〗
ズズズ……ドオォォンン!
その日、トネリコ世界の各国で不可侵条約が結ばれ、消して傷付けてはならない〖新緑の樹海〗の森が、トネリコの歴史上始めて、何者かの大規模な破壊行為により傷つけられ更地と化した。
そして、その大規模な破壊に巻き込まれた犠牲者が一人いた。
その犠牲者が聖セラム王国のユグドラシルの聖女〖ソフィア・A・クレメンタイン〗だと分かり、捜索隊が組織されたのはその事件が起きた2週間後となる。