第三十五話 現着と貴族
「風の噂で聞いたんだけど、この依頼って子爵の息子が『唐揚げ』っていうのを食したいらしいのよ」
ミキちゃん、風とお話しするなよ。寂しかったら俺かユキちゃんが聞いてあげるからな?恋愛話は得意じゃないが、お料理の事なら聞いてくれ。
「速鳥は高級素材になるから人気が絶えないね!私も速鳥の『唐揚げ』は食べた事がないな」
高級素材なんだな。そういやぁ唐揚げは作ってなかったな。沢山狩れたら作って皆で食べるか!・・・でも乱獲はしないように!
そろそろ魔油檸酢が少なくなってきたから・・・新鮮な卵が欲しいが、速鳥は鳥だけに産卵か?卵があったら試してみるか。
「『唐揚げ』ですか・・・あれは噛むと衣がサクッとしてて、中から肉汁が口の中に広がってジューシーで柔らかく、肉の旨味を閉じ込めた究極の逸品だと思います!(ジュル!)」
「(ジュルッ!)よっし!(ジュルッ!)乱獲しよう!(ジュルッ!)」
ミキちゃん、俺の服で大量の唾液を拭かないでくれるかな?俺の左腕が・・ベットベト!後さユキちゃん・・美味しそうに語るのは良いんだが、俺の頭に大量の唾液を垂れ流すのも止めてくれるかな?誰かこの娘達に淑女教育してくれ!ってかミキちゃん、乱獲は駄目だからな?
「・・ねぇミキちゃん・・いつもこの速さなの?途中に三組のパーティーを追い越したけど、風圧とかで怪我とかしてないかしら?」
大丈夫だぞ?俺が空気抵抗を遮断してるから、他の者や障害物等には一切影響しないようになったからな。初めは魔獣の大軍勢が攻めて来たのかと思ったら、俺だったのは過去の事だ。更に認識阻害の魔法も使ってるから、俺達を意識しなければ誰にも分からないし、魔獣・魔物は狩り放題!三年前とは違うのだよユキ君!
「今日は(ジュルッ!)ほら、私達が『唐揚げ』食べたいってダラダラ(ジュルッ!)と体液を垂れ流してたから、ちょっと音速になっちゃったかな?他の冒険者班の女の子は白が多かったけど、一人だけ白と水色の横縞模様だったわね!あれは今夜勝負する気ね!」
気が付いたら着いたな。ってかミキちゃんさん?いちいち他冒険者の下着を見るんじゃありません!何処の助兵衛親父ですか!だいたい何の勝負をするんだ?
んで?ここが速鳥が多く生息する草原・・・こりゃ草の海だな。俺達がいる崖の真下から地平線の先まで草・草・草で、風が吹くと波の様に色が変わるのは、非常に綺麗な景色だな。んじゃ行くか!
「待って待って!おに・・ユイちゃん!」
どうしたミキちゃん、厠か?
「ユキちゃんに腰小袋を作ってあげて?当然私のポシェットと同じ仕様でね!」
そうだな、鞄は必要だからな。腰小袋が良いのか?んじゃこんな感じの・・。
「ユイちゃん、絵が上手です!しかも可愛いです!」
「蓋にウサギさんの刺繍が良いね!」
この腰小袋と腰の間にユキちゃんの二刀が収まる様にすれば・・・完成だな。
「えっ!もう出来たんですか!」
「流石鬼の速さだわ・・・絵と全く同じ・・」
「そこの冒険者!速鳥を狩ってこい」
近づいていたのは知ってるが、なんだこいつは?それに遠くの方に馬車が、ひぃふうみぃ・・十台に、護衛騎士らしいのが二百人くらい馬に乗ってるのか。何処の大名行列だ?
「先に名乗らないのは失礼極まりないですね!何処のお貴族様の護衛騎士様でしょうか?!」
何?こいつはお貴族様の護衛なのか?ユキちゃん!・・そう言えばユキちゃんは皇女だから分かるんだったな。お貴族様って事は、下手な事すると首が飛ぶから・・・ミキちゃんは余計な事は言わないようにな?
「猿の奴隷を連れてる冒険者に名乗れるか!高貴な方の名が汚れるわ!さっさと速鳥を狩ってこい!報酬はやる」
異世界の人は、礼儀・挨拶や相手を思いやるって事をしないよな?それに俺は奴隷じゃねぇし。ユキちゃんは隷属の首輪を襟巻き(スカーフ)で隠してるけどな。あの襟巻き(スカーフ)は防御力が強化──────。
「おい・・牛君!飼い主に礼儀作法は教えて貰ってないのか?高貴な方の名が汚れるって?そのお貴族様は汚れきってそれ以上は汚れないんじゃなーい?」
あーミキちゃん・・・めんどくさい事を・・・。
冒険者組合長室
「アスカ?最近マキを見ないんじゃが、皇女の護衛をサボってナンパでもしとるのか?」
師匠?あの筋肉に限ってナンパはないですって!・・・謹慎処分が明けてるのに出て来ないわね?それはそれで誰かに様子を見に行かせましょう。ってか師匠?いつまで組合長室に居るんですか!酒瓶が大量に転がって危ないじゃありませんか!片付けて下さいよ!
「アスカよぉー?お前さんも女の子なんじゃから、ちょっとは組合長室の掃除くらいしろよ?肉鎧の部品が転がっとるぞい?」
ふざけんなぁー鶏冠師匠が!!




