第二十八話 粗相と猩猩
「ぎゃあああああああ〜!」
「ユキちゃん、ちょーうるさい!」
冒険者組合地下三階の真っ直ぐな通路を歩いてるだけで、ユキちゃんは俺の耳元で叫んでるんだが・・・確かにうるさい。ミキちゃんも昔はうるさかったな。
「この速度を目の当たりにすれば当然の反応でしょぎゃあああああああ」
「おに・・ユイちゃんは普通に歩いてるだけなんだし、そんなにぎゃーぎゃー言わなくても良いんじゃね?それに物理障壁と魔法障壁の展開と、空気抵抗遮断と重力遮断に揺れ防止も使ってるんだから大丈夫だって!」
「これが普通って・・・軽く音速超えてるのって変です!チートです!」
横文字ワカリマセン。
「んじゃ〜今度おユイちゃんに走ってもらおうね!あれはガチホラーでチビるわよ?」
「もう・・・粗相してます・・・」
あーやっぱりユキちゃんもやっちゃったのね?
俺が背負ってる金庫の上で、茹で蛸か!ってくらい真っ赤になってるのは良いんだが・・・俺の頭に抱きつくのもまぁ良いんだが・・・指を俺の眼に入れないで欲しいぞ?痛くはないんだが、俺以外の人にやったら絶対絶対駄目だからな!頼むぞ!
面倒くさい娘さんだな・・・【洗浄】っと。はい、これで大丈夫だな。
「あれ?・・夢?」
こらこら!スカートめくって確認するんじゃない!
「おユイちゃん、扉から真っ直ぐ進んでるけど先が見えないね?」
ん・・・歩いても着かないのは異空間だからか?だいぶ歩いたけどな。この空間を作った輩がどんな設定にしてるのかは分からんからな。面倒くさいけど壊すか・・・。
一旦止まって・・・どうするかな。先ずはこの壁を人差し指で触ってみるが、至って普通。そのまま壁を押すと・・壊れるはずが、ちょっとだけ空間に硝子にヒビが入ったかの様な亀裂が出来たな。そのまま砕けるか?
『パリン』と割れていき、キラキラと破片が舞い落ちて消えるのは幻想的だよな。ユキちゃん・・・理由はよく分からんが俺の頭部をペシペシ叩かないでくれ。
異空間の破片が全て消え落ちた後だが、俺が壊した扉から三メートルも進んでいないんだな。んで?また同じ大きさの扉があるが、こっちは木製品で一般的は模様だな。しっかり取っ手もあるな。
「ユキちゃん?おユイちゃん叩いちゃーめっ!よ!」
「説明を求めます!何がどうなってるの?」
「勇者登録が終わったら教えてあげるからね♪」
面倒くさいから説明はミキちゃんに任せよう。ってかさ、ユキちゃんへの笑顔がちょっと怖いぞ?
さぁ登録してからご飯にしようぜ。
扉を開けると壁や床・天井までが煉瓦で、受付が一つあるだけ。誰も居ないかと思ったら受付台から頭が出てきた!
「たのもー!」
「何じゃ?今日は開店休業じゃから帰れ!ってか異空間の設定間違っておったか?」
じいちゃんが一升瓶を持ちながら立ち上がって来たが・・・千鳥足だな。個性的な髪型・・・真っ赤な鶏冠か?小さな丸い眼鏡に、偉そうな口髭で顎髭はなし。白い『たんくとっぷ』っていう肌着に、黄土色のヨレヨレ下履で七分丈、素足に・・・やっぱり下駄か!身長百六十cmくらいのじいちゃんだけど筋肉質で、プティ・クリンチの国王みたいに鍛えてちょっと衰えてる感じだな。で・・・大猩猩か?ってか猩猩なんだな。手の甲には『猩猩』って書いてる。
「んー待てよ?・・・設定は間違っとらんぞ?お前達はどうやって入ったんじゃ?」
顳顬に人差し指を当てて、使った魔法の詳細が分かるのか?ちょっと俺もやってみるか・・・毎夜毎夜の【転送】ってなんだった?
「(ユイちゃんが)魔消鉄鋼の扉を壊して、(ユイちゃんが)異空間を指先一つで壊した〜!」
冒険者組合長室
もう!国王ったら『肉鎧ゔぁーじょん四改』と合わない魔石を送って来てちょー邪魔です!もうっ!隣の寝室が狭いです!
「た!大変っす!」
どうしたんですか!入る時くらい落ち着いてポージングしなさい。真っ黒過ぎて青ざめてるのが分かりにくいです。
「どうしたんですか?肉鎧が壊れてるから、私は動けませんよ?」
「勇者課の日直『暴君猪』が風邪で『酔狂猩猩』に変わってます!」
暴君が風邪って・・鬼の霍乱ですか?たまに騒がしいのが居ないのは良い事です。ちょっと麻痺毒を少し混ぜたお薬を飲ませようかしら。当然駄目だけど。
さぁ残りのお仕事片付けて、壊れた肉鎧を治さないとね・・・・・・。
「す・何で師匠が今日に限って日直なのよ!」




