閑話︰襲撃と勝敗
「あの下僕達は要らない!マキ、始末しなさい!」
「御意。アスカお嬢様に不埒な行いをする猿と、お嬢様のお友達といえど流石に相応しく無いかと・・・ユキお嬢様に従います」
そうよ!あの下僕達さえいなければ・・・。
先ずは猿ね。城内では負けたけど、何かのスキルかアイテムを使用したんじゃないかしら。
それにあの武器?変な形をした・・。
「マキ、あの変な形をした武器なの?アイテムなのかしら?あれはなんですの?」
「あれは『張り扇』という武器に相当します。殺傷能力は全く無く・・・叩かれた部位がもの凄い激痛でして・・・」
私も張り扇を受けたので、良くに分かります。そういえば、あの猿は私の臀部ばかり叩きましたわね!あれは本当に痛かった・・・。痛みがあるだけでHPはゼロでしたわね。
荷物持ちの猿がそんなレアアイテムを持っているなんて言語道断です。始末した後で没収するとしましょう。
「ユキお嬢様、私はあの者達とゴブリンの巣へ行った事があるのですが、小人族が強いだけで猿人族は棒立ちで見ておりました」
という事は・・・脅威なのは小人族だけであって、猿は何らかの品目で瞬間移動の様に私の背後へ来たのね?技能はどうなのかしら?
「猿の速さは尋常ではありません。どんなアイテムなのかしら?対策はありますの?」
「アイテムかスキルかは分かりませんが、レベルはそう高くないかと」
そうなるとレベルとスキルの把握が必要ね?
「マキ、あの者達の情報を仕入れて来てちょうだい」
「御意」
私の最大炎魔法【狂炎】も何かの品目で防いだと考えるのが妥当ね。衣服さえ燃えてなかったという事は、全周囲の防御アイテムでしょうけど、そんなレアアイテムを持ってるでしょうか・・・まさか猿が防御魔法?・・・いえ・・全ての私達獣人(亜人)は個体差はあるものの魔力は保有してるはずです。それに体外へ漏れ出す魔力が必ずあります。修練により体外へ出る魔力は抑える事は出来ても、完全に抑えるのは無理なはず・・・だから魔法は全く使えないと判断するわ。理由は分かりませんが。
次に技能・・例えばスピードスキルがあればあの速度は分かるのですが、炎魔法を防いだとは考えられないですね。瞬間移動・・・あの時炎の柱から無傷で出て来ましたね?やはり高価なレアアイテムでしょうか・・・。
まさか天使のギフト?天使に見放された猿人族が天使のギフトを持ってるなんて聞いた事もありません。なしです。
後は熟練ですが、私がレベル六十五でマキが七十二だったかしら?小人族はマキを圧倒する程の速度だから十は上でしょうね?猿人族はアイテムに依存してるでしょうから、かなり低いとみて良いわね。調度良いタイミングで帰って来たわね。
「戻りました。ゴブリン討伐クエストを受けた時の情報では、小人族がレベル六十六、猿人族が四十一です」
レベル的には高くはないし、こちらが勝てる要素は十分にあるわね。
「小人族の戦闘はこの目で確認してますが、あのゴブリンキング二体とゴブリンエンペラーを討伐しています」
「はぁ?」
私とした事が変な声を出してしまったわ。
「文献ではゴブリンエンペラーのレベルは個体差はあれど六十から八十でしたわよね?」
「その通りです」
単独でキングとエンペラーを倒す実力から、十レベルは上がっているわね?となれば無防備な浴場で始末ですわね。
「計画としては、浴場に職員を集めておいて露天風呂へ誘導します。露天風呂で装備もアイテムもない状態でなら殺るのは容易いはずです。お姉様がどう動くか分かりませんが、そこは臨機応変に対応します。最悪バレても権力で揉み消しますから安心しなさい。では職員の招集は任せます」
「御意」
「来ましたわね!」
「ユキお嬢様、お声が・・」
分かってます。ちょっと自信の計画通りに物事が運んでいるので興奮しましたわ。後はお姉様が先に上がってくれれば計画通りに・・・。
長いわね・・。
よし!お姉様が先に上がって来ましたわ!もう少し離れてから行きますわよ!
「今です!」
私達は・・・これは夢か幻術かを疑いました。
脱衣所を抜け露天風呂の引き戸を開けて・・あの猿の背中を見た瞬間に、前世の記憶がうっすらと出てきました。猿の背中にあった焼き印の家紋・・・あれは地獄だった記憶。逆らったら生き地獄だと思った時に意識が無くなりました。
マキも猿の家紋を見て気絶したそうですが、その後、目が覚めて確信したそうです。
「前世・・の記憶なのですが、あの・・方は【マキバ流】伝承者の一人・・・鬼のユイです!従兄弟の兄弟子で、紅の鬼と書いて紅鬼や紅鬼と呼ばれてました。今まで二度殺そうとしたから、三度目は確実に殺るか殺られるか・・・」
「相手の前世が分かったのは好都合ですわよ!露天風呂の襲撃は、あの背中を見て私達は気絶しましたが、今度は寝込みを襲うのです!流石に寝てる時は殺れるでしょう」
「・・・御意」
前世の記憶があるから臆するのでしょう。私も地獄に落ちたくはありませんし、前世の記憶よりも今は勇者になり国を支えなければ未来がないんです。殺りますわよ!
真夜中に猿を襲撃するのは楽勝と考えていました。猿の部屋へマキと二人で入った直ぐ後に・・・。
「小人族?」
ネグリジェ姿のミキが、ピンクのポシェットを引き摺りながら入って来た・・・あれ・・寝てる?ポシェットから木剣を二本取り出して。今なら殺れる!?
「【転送】」
え!急に真っ白な空間に?空間魔法も使えるの!?
襲撃者である私達に攻撃して・・来ない?向かった先には猿?寝込みを襲うの?ミキが風魔法を展開。
「ユキお嬢様、あれは風魔法【嵐珠】です。ゴブリンキングやゴブリンエンペラーを倒した魔法です」
あれが風魔法【嵐珠】・・・見え難いわね。真っ白い空間だから、嵐の球体が生み出す空気の歪みが少しだけ確認出来るけど・・・。
「全部の【嵐珠】を視認出来ますか?」
「無理です。ゴブリン討伐の時は砂埃が嵐珠の中に入っていたので視認出来ましたが、ここは作られた空間ですので、嵐珠に入る塵すらありません」
やはりそうよね・・・嵐珠がこちらに来ない事を祈らなければなりませんね。
無数の嵐珠が寝てる猿を直撃・・えっ?寝てる?残像!?いつの間にか別の場所に立って二本の木剣を持ってるって・・・猿も寝てる?寝てるんだよね!?
二人の夢遊格闘は、猿が一本の木剣だけでミキの二刀を剣先を剣先で合わせていなし、もう一本で嵐珠の軌道を変え、両脚でも嵐珠の軌道を変え、更にミキに蹴りを加える・・・最初の動きは見えていたけど・・・今は全く見えない。
「ユキお嬢様・・・今から乱入したら確実に我々が嵐珠の餌食か、あの二人に殺されるかと・・・」
二人の夢遊格闘・・・残像と木剣の音が何もない白い空間で鳴り響く・・・。少し見とれてしまった。
「これだけの力を見せられては勝ち目が全くありませんね・・・それに震えが止まりません」
この震えは恐怖と希望・・・。あの家紋の恐怖心と、この二人に付いて行けば、私が本当の勇者になれるという希望。
国王陛下は分かってらしたんだわ。この二人・・ユイとミキが私の運命を変えるのだと・・・。




