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ネル 進み始めた僕の物語  作者: カップ
1/3

僕の天稟は①

処女作です。

最初の方は投稿頻度高いと思うので、よろしくお願いします。


 少年の目が覚めて最初に感じたのは口の中になんか入っているという事だ。うつ伏せになっている体を起こしながら、ゆっくりと口を動かしてみると べちゃ ってした変な感触が口の中に広がり、次の瞬間には舌の味蕾(みらい)を苦みが覆いつくす。耐えきれなくなって、吐き出すと赤茶色の不思議な物体が地面に広がった。そして、それは雨によって、形が崩れていく。


 「なんなんだよ、いったい、、、」


 少年がそう口にすると、後ろで轟音(ごうおん)が響き、爆風が体を襲う。吹き飛ばされ、体は地面を転がっていく。だが、誰かが止めてくれた。


 「なにやってるのよ! 逃げるわよ!」

 

 自分を受け止めてくれたのは長い赤い髪の綺麗という言葉がぴったりの女性だった。女性は立ち上がり僕の手を掴んで走り出した。自分たちが先ほどいた場所には、火の玉が飛んできており、爆発していた。女性に従い、一緒に森の中に入っていく。


★★★

 

 森の中に入って10分ぐらいたっただろうか、爆発音は聞こえるが少し落ち着いてきた。僕も自分を整理できて来た。


 「すぅ、、すみません!!! ちょ、ちょっと待っ……!!」


 僕は女性に聞こえるように大きめの声を出す。そうすると喉で何かが絡まり、(むせ)て言葉が途中で止まってしまった。走るのを止めて、絡まっているものを全部出す。そうすると血と痰が混ざったものが出てきた。走るのに夢中で気づかなかったが、体中傷だらけで、痛みが全身を徐々に襲ってくる。少しうずくまっていると、女性が近づいてきた。


 「()()、どうしたの。落ち着いて。今は力が安定してなくて、パニックにはなりやすいかもしれないけど、大丈夫よ。」

 「はぁ、はぁ、、すみません、()()って僕のことですか?」

 「え、、?」


 女性は一瞬きょとんとした顔をすると、徐々に青ざめていった。


 「ネル、こんな時に冗談なんてやめてよ・・・ いつも冗談なんて一切言わないじゃない。こんなときこそ余裕が大切なのはわかってるわよ。だけど、本当にやめて・・・」

 「・・・その、冗談じゃなくて、ごめんなさい、ホントなんです! さっきあなたに手を引っ張られて、森の中に入った。 それが僕の最初の記憶で、それ以前の記憶が無いんです。」

 「・・・っ!!!」


 女性の顔が憂色(ゆうしょく)に染まりきった。それはそうだろう。すぐ近くで火の玉が飛んできているのに、この状況を何も分からないお荷物を抱えているのだから。その反応は至極当然だ。僕はもしかしたら置いてかれるかもしれない。体の痛みもさらに強くなってきている。僕の思考が負の感情に支配されていく。どうしよう、どうしよう、必死に置いてかれないように大逆転の打開策を考える。このまま雨が降る森の中に置いてかれたら、僕はきっと死ぬ。それは本能的に理解していた。だが、発想の源である記憶が無いのでろくな策が思いつかない。だが、その中から選んで使うしかなかった。


 「あの! お姉さん、お願いします!! どうか捨てないでください! 絶対に恩は返します! だから、どうか、どうか、お願いします! 捨てないでください!」


 僕はそう言って頭を地面にこすりつける。記憶のない中から選んだ最善の策は頭を地面にこすりつけながら、願うことだった。この方法が自身にできる一番の誠意の見せ方であると、なぜか自分は理解していた。記憶があった過去に何かあったのだろうか。女性は無言で下を向き、顔を手で抑えたままだったが、僕は続ける。


 「その、記憶はないんですけど、もし戻って、傷も治ったらお姉さんのお願い()()()聞きます! あ、もちろん記憶戻らなくたって聞きます! だから! 改めて、お願いします!! この森の中に僕を見捨てないでください!!」


 僕がまたそう言って嘆願しても、女性は下を向いたままだ。だが、先ほどとは違い、かすかに震えているのが分かる。僕はもしかしたら助かるかもしれないという謎の希望を持って、もう一度勢いよく頭を下げて、言葉を発しようとすると、女性が僕に近づいてくる。


 「()()()言う事聞くって言ったわよね。」

 「! はい! 言いました! 何でも言う事聞きます! どんなことでも絶対やります! だから、置いてかないでください!」

 「なんで、置いてかれると思ったの?」

 

 僕は想定外の質問が来て一瞬思考が止まる。


 「あ、それは、その、、僕みたいなお荷物がいたら、この状況では邪魔だと思ったから、です。 お荷物は軽い方がいいですよね??」

 「まぁ、確かに。それはそうかな。 でも、いざとなったら盾にもできるし、あなた必需品なの。敵の狙いあなただから。」

 「え、え、えぁ、敵の狙い僕なんですか!?!?!?」

 「そうよ、敵の狙いは()()()()()。だから、私があなたをまる焦げにして、木につるせば助かるってわけ。お分かり??」


 そう言って、ようやく女性の顔から手が外れ、表情が見えた。その表所はどこか達観しており、ちょっとだけ恍惚としていて、何より僕には何か覚悟を決めた決意の表情のように見えた。容姿端麗な赤髪の女性の決意の表情は静かな森の暗い雨の中、ひときわ際立ち、まるで芸術を体で体験しているようだった。一瞬その空気に飲まれかけたが、僕は女性の発言を思い出し、ハッとする。僕は方向転換して、すぐに逃げようとした。だが、足を踏まれて動けない。一歩も先に進むことが出来ないのだ。


 「無駄よ、動くことはできないわ。てか、そっちは来た道よ。捕まりに行く気?」

 

 それでも僕は必死に体を動かす。まる焦げにされて、木につるされるのは嫌だった。


 「そんな虫みたいに体を動かしても無駄です~。 私こう見えて武を納めてるの。だから、体のどこをどうすれば最小の力で相手を制圧できるか分かるのよ。お分かり??」

 

 女性はそう言うと、それでも必死な僕の顔を見て、くすっと笑う。


 「そんな顔しないでよ。私に置いていかないでください~って懇願してたじゃない。さっきと真逆じゃない。」

 「さっきはさっき。今は今です。僕はどうやら自分の言葉に責任を持てない軽薄な男のようです。人間の天稟(てんぴん)は変わらないって言いますしね、きっとずっとそうだったのでしょう。こんな男と一緒にいても足手まといなだけですよ。さようなら。」

 「だから、あなたは必需品だって。勢いで誤魔化しても無駄。絶対逃がさない。てか、あなたのことを敵に差し出すならとっくに何も言わずにまる焦げにしてるわよ。」

 

 女性にそう言われて僕は確かにと思う。記憶のない僕と喋っても女性にとって何のメリットもない。情があるなら移るだけだ。


 「あと、あなた自分はさっき自分を軽薄な男って自分のことを言っていたけど、それは—————————違うよ。」

 

 女性のその言葉には今までの言葉とは違い、少し間があった。女性は腰に手を置き、もう片方の手で僕を上から指しながら言った。


 「ネル! 君の天稟(てんぴん)は、嘘もつくし、意地汚い。不愛想だし、ダメな一面もいっぱいあるけど、それは絶対自分のためじゃなくて、みんなのためで、仲間のことはどんなことがあっても絶対見捨てない、軽薄なんかとは程遠い素晴らしい天稟(てんぴん)よ!」


 僕は女性のこの言葉が驚くと同時に素直に嬉しかった。記憶の無い自分のことをこんなにも肯定してくれる人がいる、自分を支えてくれる人がいる。僕は一人じゃない。安心感に包まれた。自身の表情が緩んでいくのが分かる。女性の表情も僕の表情を見てか満足気だ。


 「さぁ! 行くわよ! あなたのこと教えてあげるわ!!」 


 女性はそう言って森の中に進んでいった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

もしよろしければ、感想、評価お待ちしております。

誤字脱字等ございましたら、ご指摘いただいければ幸いです。

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