表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は異世界の君に恋をした。  作者: リアラフ
死者の国《ヘルヘイム》編
97/126

#97〜出世〜

あれからヘラは僕の胸の中で子供のように泣き叫んだせいか目を少し腫らせていたが、しばらく泣き叫んだ後、涙を流しきったのかようやく落ち着きを取り戻していた。



「ごめんなさいお兄様…。」



ヘラは泣き叫んだせいで腫れた目を見られたくないのか顔をやや下に俯かせながら言った。



「謝る事ないよヘラ。」



僕はそう言うと下を俯いているヘラの頭をそっと優しく撫でた。

頭を撫でられたヘラは少し恥ずかしそうに頬を赤らめていたが、ヘラはどこか嬉しそうな表情をしていた。

それとはっきりとは覚えているわけでは無いが、以前も似たような事があったような気がする。記憶は覚えていなくても身体というか…心が覚えている……。といった感じだ。



「ありがとうございます、お兄様…。」



ヘラは少し照れくさそうにしながらも僕の方を見て感謝の気持ちを伝えると、僕に笑顔を見せてくれた。

それからもうしばらくして気持ちを落ち着かせた後、ヘラは自身の出世、そしてなぜ僕が眠ったままの状態になったのかについて話をしてくれた。



「さっきもお話しした通りですが、第二次多次元大厄災セカンド・マルチディメンショナル・ウォーの最中で、神柱最高神でもあるオーディンとその息子トールに人質に囚われたお母様を助けるべく、お父様は二人に戦いを挑みましたが、その奮闘も虚しく後一歩というところでお母様はお父様の目の前で神柱最高神オーディンの手によって命を奪われてしまいました…。」



戦いの最中、何か事情があったにせよ神柱の最高神が人質をとりそんな酷い事をするなんて…。



「お父様は絶望の最中、最後の力を振り絞りお母様を抱き抱えその場から何とか逃げ出す事に成功しましたが、神柱最高神のオーディンは自分の息子である雷神トールを刺客としてとして送り込みました。雷神トールの猛攻を残されたわずかな力で何とか欺いたお父様は、お母様を蘇らせるべくこの死者の国(ヘルヘイム)を訪れたのです。」


「この場所に?」


「はい。しかし当時の死者の国(ヘルヘイム)は神柱最高神であるオーディンが管理していた事もあり、お父様の居場所は直ぐにオーディンとトールの耳に入りました。そして残された僅かな時間、お父様はお母様の魂に触れ、お父様はお母様からある願いを託されました。」


「ある願い…?」


「その願いは、”お母様の心臓をお父様に食べて欲しい”という願いでした。」


「!?」



予想だにしなかった母さんのその願いに僕は驚きを隠せずにいた。

しかしなぜ母さんは父さんにその願いを頼んだのだろうか…?



「どうして母さんはその願いを父さんに…?」


「お母様は魔獣の扱いに長けた孤高の魔女であると同時に、ヨトゥンヘイムの巫女でもあり、”ギヌンガの巨人”の血を受け継ぐ末裔でもあったのです。」


「ギヌンガの巨人の末裔…?」


「はい。でも巨人と言ってもお兄様が今想像しているような巨人ではありません。今でこそ巨人とは私達よりも大きな巨体を持つ者の事を指しますが、その昔、巨人とは”巨大な力を持つ者”という意味がありました。そしてギヌンガの巨人の血を受け継ぎしヨトゥンヘイムの巫女は、”古より与えられし使命”を全うすべく代々その魂を後世に受け継いでいきました。そしてその受け継ぐ為の儀式が、『愛する者に自身の心臓を捧げ、愛する者を苗床にし新たなる命を生み出す』というものでした。」


「それってつまり…。」


「私は、お母様が心臓を捧げたお父様を苗床にして生まれた存在なのです…。そしてお父様はお母様のその願いを受け入れ、私はお父様を苗床にこの世に生を授かりました。これも受け継いだ巫女としての力なのかどうなのかは分かりませんが、私は生まれた直後からお母様の記憶、そして歴代の巫女の記憶も受け継ぎました。なので、私の中にはお母様の当時の記憶が鮮明に残っているのです。」



歴代の巫女の記憶を受け継いだからこそヘラは当時の記憶を鮮明の覚えていたのか…。



「お母様の当時の記憶が脳裏を過ぎる度に悲しく切ない気持ちになりますが、悪い事ばかりではありませんでした。それは生まれた直後の私を優しく抱き抱えるお父様の笑顔を見る事が出来たからです。生まれた直後はお母様の悔しさと切ない感情が一気に流れ込んできましたが、私の事を涙を浮かべながら抱き抱え優しい笑顔で包んでくれたお父様の顔を見て、私は祝福されて生まれて来たのだと実感できました。」



そう話すヘラの表情には笑みが溢れていたが、次第にその笑みは曇っていき悲しげな表情へと変わり、僕はその悲しげな表情の意味とこれからヘラが何を話すのかを悟った。



「ですがそれも束の間の幸せ…。お父様を追ってきたトールの放った一撃によってお父様はその身体を雷撃によって貫かれ、お父様は私を腕に抱き抱えたまま命を落としてしまいました…。そしてトールの後を追って来たオーディンによって私は呪縛を施され、この死者の国(ヘルヘイム)に幽閉されてしまった…というわけです。」


「そんな!!じゃあヘラは生まれてからずっとこの場所に!?」


「はい…。なので私はこの死者の国(ヘルヘイム)の外に出た事は一度もありません…。何度かこの場所から抜け出そうと試みた事はありましたが、オーディンの施した呪縛のせいでそれも叶わず…。」


「そんな…。」



生まれてからこの場所以外の事を知らないなんて…。

第二次多次元大厄災セカンド・マルチディメンショナル・ウォーの最中に、父さんやオーディン達の間に何の問題があったのかは知らないが、ヘラが一体何をしたっていうんだ?それに妹のヘラがこの場所に幽閉されている間、僕は一体どこで何を…。


両親の最後と妹のヘラのあまりにも酷い仕打ちと、目覚める以前の記憶を今だに思い出せ無い自分を酷く恨んだ。



「ヘラ…。その間僕は一体何をしていたんだ?」


「その時のお兄様はまだ幼い子供でした。そしてお父様はオーディンと敵対していた全知全能の神ゼウスにお兄様の保護を頼み、お兄様はゼウスの保護下にありました。」



僕は前にもどこかでその名前を聞いた事があるような気がした。



「しかし戦いが進むに連れ戦況はゼウス側が不利な状況に陥って行き、私に呪縛を施したオーディンは次にゼウスの保護下にあったお兄様に目を付けました。そして戦況を打破する為にゼウスが赴いたその隙を突いてトールはオリンポスを襲撃し、保護下にあったお兄様を連れ去り、第二次多次元大厄災セカンド・マルチディメンショナル・ウォーが終局した後、お兄様はオーディンの元で戦士として育てられたのです。」


「まさか…。ヘラをこの場所に幽閉して父さんと母さんを殺した奴の元で…、僕が育てられただなんて……。」



まさか自分が両親の命を奪い、妹を死者の国(ヘルヘイム)に幽閉したオーディンの元で育てられていただなんて思ってもみなかった。

そういった事情があると当時の自分は気付かずに両親の仇に従い戦士として育てられ、幽閉された妹の事など知らずにのうのうと過ごしていたのかと思うと自分自身に対して怒りが込み上げてきた。



「お兄様…。」



ヘラは怒りが込み上げ自身の拳を力強く握りしめていた僕の手を優しく握ると、僕に笑顔を見せてくれた。



「あの時と同じですね。」


「あの時…?」



ヘラは握っていた僕の手をそっと自分の元へと寄せると、僕の目を見てこう言った。



「はい。お兄様がこの場所を訪れて私を見つけ出してくれた時と同じです。」



そう言うとヘラは握った僕の手にそっと口付けをしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ