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僕は異世界の君に恋をした。  作者: リアラフ
死者の国《ヘルヘイム》編
94/126

#94〜目覚め〜

『…ん……。……さん…。』



どこか遠くから女性の声が聞こえてくる。



『…トさん…。……ルトさん………。』



次第にその女性の声が鮮明に耳に入ってくるがその声に聞き覚えは無かった。

それに自分が今何処にいるのか、そして自分自身が何者なのかさえ思い出す事が出来ない…。

そんな状況の中でもただ一つだけ覚えているのは、”自分には何かやるべき事がある”という思いが胸の中に漠然とあるだけだった。



『……ルトさん…。………ハルトさん…。』



ハルト…?それが僕の名前…なのか……?

呼びかける声が鮮明になるにつれて徐々に意識が戻るのを感じる。

僕はどこからか呼びかけてくるその声の主に自分自身の事や、声の主の正体について尋ねようとするも自分自身の声が出ない事に気付いた。



『…ハルトさん……どうか目覚めて自分自身を思い出して下さい…。私は……に…ーーーーーーーー。』



徐々にその女性の声が聞こえなくなると同時に僕の意識はハッキリと目覚め、視線の先に映ったのは見覚えのない神秘的な装飾が施された天井だった。



「んっ……。」



自分が何処に居るのか辺りを見渡そうとするも身体に力が入らず、結周囲を見渡すことは出来無かったが自分がベットで横になっている事だけは分かった。

それにしてもこの天井の神秘的な装飾を見る限り、今居るこの場所は屋敷か何かそういった類の場所なのだろうか?仮にもしそうだとしたら、なぜ自分がそういった場所に居るのかがさっぱり分からない…。


それに目覚めて視線の先にある神秘的な装飾が施された天井を見ても、自分自身の事を思い出す事は出来なかった…。

ただ、そんな中でも唯一分かっている事といえば、”自分には何かやるべき事がある”という事と、目覚める前に見た夢の中で僕に語りかけて来た声の主が、”ハルト”と僕の事を呼んでいた事くらいだ。


しかしさっき見た夢は一体何だったんだ?妙にリアルだったというか何というか…。

そんな事を頭の中で考えていると、部屋のドアが開く音と足音が聞こえて来た。どうやら誰かが僕の居るこの部屋を訪れて来たらしい…。

もしや部屋に入って来たのはこの屋敷の主人だろうか?それと僕は起きていた方が良いか…、それとも目を閉じて寝たふりをしていた方がいいのだろうか…?そんな事を迷っていると、部屋に入って来た人物が目覚めた僕に気付いたようで、気付くと同時に物凄い勢いで僕の元へと駆け寄り声を掛けて来た。



「主様!!」



この部屋に入り僕の事を”主様”と呼びながら物凄い勢いで駆け寄ってきたその人物は、黒い長髪に赤を基調としたメイド服に身を包んだ一人の女性だった。


それにしても主様って…。この僕が?


メイド服を着たその女性は勢いよく僕の元に駆け寄ると、目覚めた僕の身体の容態を事細かに調べ始めた。

駆け寄って来た時には顔と首元くらいしか分からなかったが、僕の身体を調べる内にもう一つだけその女性について分かった事がる。それは、彼女がとても豊満なボディの持ち主だという事だ。

僕の身を心配して調べてくれるのは有り難い事だが、この女性の距離感がどうも近すぎる…。

目覚めたばかりとはいえ、このままの状態が続いてしまっては正直やばい…。


ここは相手を傷つけないよう紳士に対応しなければ。



「あっ…あの、ちょっと距離が近いような…。」


「主様はお気になさらず!!そのままリラックスした状態で寝て頂ければ、もうすぐ検査も終わりますので!!!」



自分自身の事が思い出せないとはいえ、この状況とその台詞が変な意味に聞こえてしまうのは僕だけだろうか?

それにリラックスもなにも僕は身体をまだ自由に動かす事が出来ない…。つまりされるがままの状態という事だ。記憶を失う前の僕は、目覚めたら毎回こういった事をするのが日課だったのだろうか…?



いかん、ここは平常心を保つんだ自分よ。




……


………


…………


……………



「ふぅ…。無事に終わりました主様……。」



メイド服を着たその女性は少し顔を赤らめ達成感に満ちた表情をしていた。

シチュエーションといい発する言葉といい、正直、彼女はわざとやっているのではないかと疑ってしまったが、身体の検査自体はいたって健全なもので、身体の隅々まで異常がないかをしっかりと調べてもらった。



「あっ…ありがとうございます…。えっと………」


「メイドのガングレトでございます。主様とお嬢様にお仕えしている専属メイドです。」


「お嬢様…?」


「はい。主様には少し歳の離れた妹がおります。」


「妹…ですか……。すみません、目覚めてから記憶が全然思い出せなくて…。そのせいでガングレトさんの名前も忘れてしまってたみたいで…。」


「お気になさらないで下さい主様。身体の検査をしたところ記憶障害以外、特に何も問題はございませんでした。それと主様は長い眠りから目覚めたばかりで、今は上手く身体を動かす事が難しいかもしれませんが、主様がいつ目覚めても良いよう、活性化魔法や麻導薬を投与して神経や筋力が維持できるよう対処しておりました。ですので時間が経てば以前のように動けるようになると思いますので、今の間だけはご辛抱頂ければと。」



ガングレトさんの話を聞く限りでは、僕は長い間眠りに付いていたらしい…。

それに活性化魔法と麻導薬を使用して神経や筋力の維持ができるよう対処していたという事は、ガングレトさんは僕が眠っている間、付きっきりで看てくれていたのだろう。身体が動かせるようになり少し落ち着いたら何かお礼でもしよう。


しかし何より一番驚いたのは僕に妹という存在がいるという事だ。

今は目覚める以前の記憶が無いせいか、自分に妹がいる事に驚きを隠せずにはいられないが、これも時間が経過すれば徐々に思い出していくものだろうか…?

ともあれ、今はガングレトさんにお礼と身体が動かせるようになるまで安静にしておこう。



「そうですか。なら今は自然に身体が動かせるようになるまで安静にしときます。」


「はい。それが良いかと思います主様。」


「それとガングレトさん、僕が眠っている間の事、何から何までありがとうございます。」


「いえ、これも主様とお嬢様にお仕えする専属メイドとして当然の務めでございます。」



それからガングレトさんは少し乱れたメイド服を正すと、『一度失礼します』と僕に深く頭を下げこの部屋を後にし、僕はしばらく部屋で安静にする事にした。

そしてしばらくベッドの上で安静にしていると、活性化魔法と麻導薬の効果が徐々に現れ始めたのか、身体の手先から力が入るようになり僕は何とかベッドから起き上がる事が出来た。


ベッドから起き上がり部屋の周囲を見渡してみると、部屋の中は目覚めた時に見た天井と同じように神秘的な装飾が施されており、何より部屋の広さが尋常じゃない事に驚きを隠せずにいた。

記憶は無くしているが、実は大富豪か何かなのだろうか…?


そんな事を考えていると、部屋をノックする音とガングレトさんの声が聞こえて来た。



「主様、よろしいでしょうか?」


「はい、どうぞガングレトさん。」



僕のその言葉と同時に部屋のドアが静かに開くと、ドアの向こうから現れたのはガングレトさんと一人の少女だった。

ガングレトさんと一緒に訪ねて来たその少女の顔は幼く、毛先から腰にかけて黒から白のグラデーションをした長髪に透き通るような白い素肌の持ち主だった。そして何より印象的だったのはその少女の瞳の色だった。その瞳は赤と青が混ぜ合わさった神秘的な色をしており、僕はその宝石のように輝いている瞳に見入ってしまっていた。



「お兄様!!!」


「!?」



その少女は突然、僕の事を『お兄様』と呼ぶと勢いよくこっちに向かって走り出し、僕の胸へと抱き付いて来た。



「!!!」



突然の出来事に困惑していると、ガングレトさんが困惑している僕へこう説明した。



「主様、こちらが主様のたった一人の妹、ヘラお嬢様でございます。」


「この少女が…僕の妹!?」



僕の胸に抱き付いているその少女ヘラの方へと視線を向けると、僕の視線に気付いたのか胸に蹲っていた顔を上げ上目遣いで僕の方を見てこう言った。



「お帰りなさい!!お兄様!!!」



その声と僕を見上げるその愛らしい表情に、僕は心の中でどこか懐かしさを感じたのだった。

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