#89〜計画に向けて〜
白騎士、コルア、ガングレトの三人が”彼の方”が居る”女王の間”を後にしてからしばらくした後、”女王の間”へと続く巨大な扉をノックする音が女王の間の中に響き渡り、巨大な扉の向こうから落ち着いた男性の声が聞こえて来た。
「マイン様をお連れしました。」
「入るがよい。」
その言葉と共に”女王の間”へと続く巨大な扉が静かに開くと、その扉の向こうから姿を現したのはモーズグズ、ガングレト同様に白髪白眼を有し赤いシャツに黒のスーツに身を包みメガネをかけた高身長の男性と、黒い軍服に身を包んだマインの姿で二人は玉座の前に着くとその場に腰を下ろし地面に片方の膝を付けた。
「ご苦労だった”ガングラティ”。」
「いえ、これも執事として当然の務めを果たしたまででございます。」
赤いシャツに黒のスーツに身を包み眼鏡をかけた高身長のその男性は”ガングラティ”という名で、”彼の方”の労いの言葉に執事としての勤めを果たしたまでと謙虚な姿勢で応えると、感謝の気持ちを表すように深く頭を下げ、”彼の方”は”ガングラティ”に向けて片手を翳し頭を上げるよう伝えた。
「さて、マインよ。ハイブリットエルフと転生者ハルトの様子はどうだ?」
「はい。白騎士達が回収したハイブリットエルフ及び転生者ハルトも、コルアの作った薬の作用で今は深い眠りについております。そして万が一に備え今はそれぞれの別室で数名のメイド達に付きっきりで様子を診てもらっています。」
「そうか…。その二人は”あの計画”の要となる存在、特に転生者ハルトは最も重要な人物だ。計画が実行されるまでの間二人の管理はマインに任せる。頼まれてくれるな?」
「もちろんでございます。」
「頼んだぞマイン…。」
そして次に”彼の方”はマインを女王の間まで連れてきた、執事の”ガングラティ”に計画の進捗状況を尋ねた。
「次にガングラティ、お前の指揮のもとで任せてある”あの計画”の進捗状況と”人形の方はどうだ?」
「はい、まず初めに”あの計画”に関してですが、我々と協定を結んだ者達、そしてエルフの科学技術の協力もあって魔導装置の開発も順調に進み最終段階に入っております。そして”人形”に関しても、主様に提供して頂いた被験体の魂で実験を行った結果、順調に魂と”人形”が同化しております。この調子で数日の経過を見て、何も問題がなければ予定通り計画を実行できるかと…。」
「思った通り、魂と”人形”の同化は順調に進んでいるようだな。ではこれより数日の間、”人形と魂の同化の経過及び、魔導装置の試験運用を行い何も問題がなければ”あの計画”を実行に移す。ガングラティには申し訳ないが、進捗の状況を私に逐一報告して欲しい。それと他の者達にも使いの者を送り、このエリューズニルに帰還するように命じてくれ。」
「かしこまりました。」
「では他に何か私に報告する事は何かあるか?」
執事のガングラティとマインの両者は、自分達が”彼の方”へ他に報告する事が無い事を伝えると女王の間を後にした。
◇
白騎士とコルアが”エリューズニル”に帰還してから一週間の月日が経った。
その間にコルアは自身の痛めた身体の治療に専念し、今では触手を使わずとも以前のように自分の意思で身体を動かす事が出来るようになっていた。
コルアは自室のベットの上で自分の身体が自由に動かす事が出来る事に喜びを感じていると、部屋のドアを誰かがノックする音が聞こえた。
「空いてるわよ」
コルアは自身の部屋を訪れた人に療養しているベットの上からそう伝えると、部屋のドアが静かに開きドアの向こうから白騎士の姿が現れた。
「調子の方はどうだ?」
「まさかあなたが私の様子を見に来るなんてね。珍しい事もあったものねぇ〜」
「その様子だと無事に身体の方も完治したようだな。」
「一時はこのまま触手を纏った生活になるかと思っていたけど、これも”アスピオス”のおかげね。こればかりは感謝するしかないわ。」
「性格に少し難があるが、アスピオスは”医学”の称号を持っているからな。腕は確かだ。」
「そうね。それにアスピオスの助けがなければ色々と事が運ばなかったし…。悔しいけど、私がイスタリアムで色々と成果を上げられたのは奴の協力があってこそよ…。」
コルアは自身の身体の自由を完治させたアスピアスに感謝しつつも、心の中では自分よりも優れたその才能を持つ事アスピオスに嫉妬しその悔しさが表情に出いた。白騎士はそのコルアの表情を気にしつつもコルアにある事を尋ねた。
「コルア、イスタリアムで幻獣持ちと戦闘した際に”儀式召喚”を発動しただろう?」
「えぇ…。」
「お前が儀式召喚で何を呼び起こそうとしたのかは大体予想が付くがーーーー」
「分かってるわよ!!」
コルアは白騎士が自分に何を言わんとしているかを悟り、感情的な態度で白騎士の言葉を遮った。
「ごめんんさい………。少し感情的になったわ…。」
「気にするな。」
それからコルアは深く息をし乱れた心を落ち着かせた。
「今の私の力じゃ”儀式召喚”をして”アレ”を呼び出したところで、逆に取り込まれてしまう事くらい分かってるわ…。でも、あの時はあの方法をするしか無かったの…、それ程幻獣持ちの力は凄まじかったわ……。でも次からは気を付ける…。それでいいでしょ?」
ベットの上で悔しそうな表情を浮かべながら外の景色を見ているコルアに、白騎士はいつもより少しだけ丁寧な口調で言葉を掛けた。
「自分で分かっているのならいい。それと、”あの計画”にはお前の力が必要不可欠だ。”彼の方”もお前とお前の持つ力に期待をしている。それだけは忘れずにしっかり胸に刻んでおけ。使命を果たせば、”彼の方”がお前の心の中にある秘めたその思いをきっと汲み取ってくれるはずだ。」
「そうね…。”彼の方”の期待に応えないと……。」
コルアは自分の秘めた思いを胸の奥へそっとしまった。
そして自身が療養していたベットから起き上がり背伸びをし療養して縮こまった身体を伸ばすと、白騎士が自分の元へ来た本当の理由を問いただした。
「それで?あなたが私の元に来た本当の理由は他にあるんでしょ?」
「相変わらず察しがいいな。」
「勿体ぶらないで早く言いなさいよ。」
少しだけ調子を取り戻したコルアは、勿体ぶっている白騎士に向けて少し言葉に棘を付けたような口調でそう言った。
「ふっ、少しは調子も戻ったようだな。さて、今日俺がお前の元に来た本当の理由は、”彼の方”からの伝言をお前に伝える為だ。」
「”彼の方”から私に伝言!?」
「あぁ。その伝言の内容は、『時が来た、”神聖教団十三騎兵”よ我の元に集え。』との事だ。」
「”彼の方”が私達十三騎兵の力を召集するって事は…。」
「”あの計画”実行に移す時が来たという事だ。そして今頃、他の者達にも”彼の方”からのこの伝言が伝えられているはずだ。任務で地上界へ出向いていた他の十三騎兵の者達もお前が療養している間に帰還し、今頃女王の間に集合しているはずだ。」
「ついに”あの計画”を実行に移す時が来たのね。」
「あぁ。なのでお前も十三騎兵の正装に着替え準備が整い次第女王の間へと向かえ。俺は先に向かう。」
「分かったは。」
「では、また後でな。」
”彼の方”からの伝言をコルアに伝えた白騎士は、その場を後にし先に”彼の方”が待つ女王の間へとコルアより一足先に向かった。そしてコルアも白騎士が部屋から出て行くと、自分の秘めた思いの為にも”彼の方”の力になれるよう誠心誠意力を尽くすと心を奮い立たせ、神聖教団十三騎兵の正装でもある黒い軍服に着替え身支度を済ませると白騎士の跡を追って女王の間へと向かったのだった。