#80〜儀式召喚〜
先程までとは違う容姿に変化したレヴィーの姿にコルアは戸惑いの表情を浮かべると同時に、レヴィーが”神器の力”を全て解放したのだと理解した。
神器の力を解放させたレヴィーは先の戦闘で地面に落とした”神器リヴァイアサン”を手元に呼び寄せると、レヴィーが神器の力を全て解放した事によりその形状を水龍に酷似した形から自身と同化している深海幻獣のに酷似した形状へと変化させた。
そしてレヴィーは自身の両足に魔法陣を展開すると、展開した魔法陣を足場にしてマーガレットとロロを回収し牢獄の奥へと運んでいる教団メンバーの元へと一瞬にして向かうと、手にしている神器リヴァイアサンを振りかざして教団のメンバー達を蹴散らし再びマーガレットとロロを救出する事に成功した。
「ふっ…ふふふっ……。これが…これが神器の力!!可愛子ちゃんの真の姿!!!」
コルアは神器の力を全て解放したレヴィーのその姿を見ては息を荒げ、身体を左右に捻りながら胸をときめかせていた。自分の仲間でもある教団のメンバーが次々に倒されて行っても全く気にせず、むしろ敵を蹴散らしていくレヴィーの姿を恋する乙女のように熱い視線で追いかけては、その口からは自身の願望がダダ漏れしていた。
「早くその力をぉ!!神器の秘密を解明したい!!解明したい!!!神の力の秘密をぉおぉぉぉぉ!!!!解明させてちょうだぁあぁぁぁぁいっ!!!!!」
声を荒げながら叫ぶコルアは、手にしている無慈悲な叫びに魔力を込めてレヴィーに向けて翳し魔法陣を複数展開すると、その魔法陣から先程呼び出した背骨の形をした触手の先端に髑髏を合わせた奇怪な生物を無数に呼び出しレヴィーに向けて放った。
「悪趣味…。」
レヴィーは自分目掛けて”ドョワァアァァァ”と奇声を発しながら突き進んでくる奇怪な生物に冷たい視線を送ると、掌を奇怪な生物へと翳し魔法陣を展開すると『”深海幻獣の万雷”』と唱えた。
すると展開した魔法陣が共鳴し光輝き出すと、展開した魔法陣から”ズドドドドドッ”と激しい雷音と共に無数の稲妻が奇怪な生物達目掛けて放たれた。
”ゴギョッァアァァァ”
レヴィーが放った”深海幻獣の万雷”によって焼き尽くされて行くその奇怪な生物達は、人の叫び声にも聞こえる奇声を発しながら次々と散りと消えて行った。
神器の力を全て解放したレヴィーの凄まじい一撃を目の当たりにしたコルアは、一瞬驚いた表情を見せるもニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふふっ。まさかあの一撃で私の可愛いペット達が全滅しちゃうなんて、予想以上の力ね…。ますます可愛子ちゃんの事が欲しくなっちゃった…。」
レヴィーは眉間に皺を寄せて嫌悪する目で反応すると、『これ以上、悪趣味に付き合っている暇は無い』とコルアに冷たく言い放ち神器リヴァイアサンを強く握りしめた。
一方のコルアは、レヴィーのその反応を見てケラケラと笑い出すと上半身を左右に揺らしながら”ザァーッ”と地面に足を擦りながらレヴィーの元へとゆっくり歩き出した。
「私も長い事生きて来たけど…、可愛子ちゃんのような強い力を持った”神器持ち”に出会ったのは初めてよ…。何としても…何としても……力の秘密を解明したいの…。だからお願い…私の為に協力してぇえぇぇぇぇ!!!!!」
コルアの狂気じみた願いも虚しくレヴィーは静かに目を閉じてその願いを断った。
「何でぇ…?何でよぉおぉぉぉぉぉ!!!可愛子ちゃんが協力してくれないとぉ!!!私は姉さんに勝てないのぉおぉぉぉ!!姉さんにぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
コルアはレヴィーに断られた事によって狂ったように『姉さん』と叫びながら両手で髪をむしり始めた。
そしてコルアの狂気度が増していく毎に、身体から溢れ出ている魔力が徐々にコルア自身とその周辺を覆い尽くしていきコルアは静かに歩みを止めた。
「こうなったら…力ずくでも……可愛子ちゃんを殺してでも…その力を解明してみせるわ……。私の目的の為に何としてもね…。」
そう言うとコルアは自分の足元に巨大な魔法陣を展開すると、周囲に漂っている自身の魔力を展開した魔法陣へと注ぎ込み始めた。するとその魔法陣から”ギギギッ”と歪な音と共に六本の人骨の手が地獄から這い上がるように出現すると、這い出たその人骨の手は再び魔法陣の中へと手を入れるとその中から”何か”を引き上げようとしていた。
「何をしようとしてるのかは知らないけど、これ以上貴女の好きにはさせない。」
レヴィーはコルアが呼び出そうとしているその”何か”を魔法陣の中から呼び出しては行けないと直感で感じ取り、六本の人骨の骨と展開されている魔法陣目掛けて水龍の力と雷の魔力を掛け合わせた合わせた技、”水龍雷震”を頭上から勢いよく放った。
”ドガッガガガッ”
激しい雷音と共に”水龍雷震”は、六本の人骨の手とそれが引き上げようとしている”何か”に目掛けて勢いよく放たれるが、引き上げようとしている六本の人骨の手の内の二本が魔法陣からヌルリと這い出てくると、レヴィーが放った一撃を受け止め残り四本の手と魔法陣から引き上げられているその”何か”を死守した。
「まさかあの一撃を受け止めるなんて…。」
レヴィーが放った一撃を二本の手で受け止めつつ、残り四本の手によって魔法陣の中からその”何か”を着々と引き上げ、ついにその姿が露わになった。
「あれは一体…?」
魔法陣の中から引き上げられたその”何か”の正体は禍々しい姿をした巨大な髑髏だった。
そしてレヴィーと同化していた深海幻獣はレヴィーの視線を通じてその巨大な髑髏を見て、その髑髏が”何なのか”、そしてコルアが何をしようとしているのかを理解しそのことをレヴィーに説明した。
『恐らくあれは”儀式召喚”…それに似た類のものだろう。』
「儀式召喚?」
『あぁ。通常の召喚の場合は自身の魔力を媒介にして召喚獣や武器を呼び出すが、儀式召喚はそれとは違う。儀式召喚を行う際に必要なのは膨大な魔力と、召喚する物に値する同等の対価を捧げなければならない…。』
「対価?」
『あの儀式召喚に支払う対価は恐らく…自分自身だ。』
「!?」
レヴィーが放った一撃を受け止めていた二本の人骨の手はその一撃を払い退けると、魔法陣の中へと再び入り半分以上姿を現している巨大な髑髏を他の四本の手と一緒に一気に引き上げ、禍々しい姿をした巨大な髑髏はその全貌を表した。
魔法陣から引き上げられたその禍々しい巨大な髑髏は、叫び声に似た咆哮を上げると目の前に佇むコルアを招き入れるようにその巨大な口を開き始めた。
『いかん!!あの女が髑髏の中に入ってしまえば儀式は完了してしまう!!!そうなれば最悪あの女の命は…。』
「そんな!!そうなったらロロちが…。」
『今この場で、あの女と皆を助ける事が出来るのは私達だけだ。あの女の事は気に食わないがレヴィーの友達の為だ…私達で食い止めて助けるぞ!!!』
深海幻獣のその言葉にレヴィーは強く頷くと、禍々しい巨大な髑髏の中へ入ろうとするコルアの元へと急いだ。
禍々しい巨大な髑髏は”ガガガッ”と歪な音を発しながらその巨大な口を完全に開き、開かれた髑髏の口の中から人の姿を象った”得体の知れない者”が現れると、目の前で『姉さん』、『神器の力』、『解明』、『目的』と呪文のように繰り返し呟き立ち尽くしているコルアの手を握り髑髏の中へと連れて行こうとしていた。
「させない!!」
儀式を阻止しようとコルアの元へと足を走らせて来たレヴィーだったが、それに気付いたコルアの手を握っている”得体の知れない者”はもう片方の手でレヴィーを指差した。
すると髑髏の周囲に待機していた六本の人骨の手が”得体の知れない者”の意志に反応するかのように動き出し、儀式を阻止しようとしているレヴィーの妨害を始めた。
次々と襲ってくる六本の人骨の手は、その巨大な見た目からは想像出来ない程のスピードでレヴィーに襲い掛かかり、レヴィーはあと一歩という所でコルアの元へ辿り着くことが出来ずにいた。
一方のコルアは”得体の知れない者”によって招かれその身体の半分が髑髏の中へと入っている状態で、その様子を同化しているレヴィーの中から見ていた深海幻獣は、レヴィーに目を閉じるように指示した。
あまりに突然の提案にレヴィーは少し戸惑ったものの、深海幻獣にこの状況を打破する策があるのだと思いレヴィーは静かに目を閉じた。
すると自分の意識が徐々に身体の内側に入って行くのを感じると同時に、今まで自分の中に感じていた深海幻獣の意識が外側に行くのを感じた。
そして互いの意識とすれ違う瞬間、レヴィーの意識に『後は私に任せろ』と深海幻獣の声が入って来たのを感じ取ると、レヴィーは『任せた』と伝え意識の主導権を深海幻獣に委ねた。
意識の主導権を委ねられた深海幻獣は静かに目を開き、エメラルドの宝石のように輝く瞳で自分の意志通りに身体が動くのを見て身体の主導権が自分に移ったことを確認した。
そして手にしている神器リヴァイアサンに自身の魔力を注ぎ込み、ロッド状の武器から三叉槍の武器、”神器リヴァイヴァル・トライデント”へと形状を変化させると、極限まで高めた自身の”雷”と”水”の魔力を”神器リヴァイヴァル・トライデント”へと注ぎ込んだ。
「これで終わらせる…”紫電水竜激砲”!!!」
そして深海幻獣は、その言葉と共に禍々しい巨大な髑髏目掛けて”神器リヴァイヴァル・トライデント”を勢いよく投げつけ渾身の一撃を放ったのだった。