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僕は異世界の君に恋をした。  作者: リアラフ
商業都市イスタリアム編
74/126

#74〜影乃魔 刃〜

「いつまで死んだ真似をしているつもりですか…?」


「クッ……ククク…クハハハハッ!!!!」



ローレン渾身の一撃を腹部に浴びせられ地面に倒れ込んでいたその男は、何を思ったのかローレンの声に反応するかのように地面に倒れ込んだまま高らかな笑い声を発し始めた。



「クククッ…いやぁ〜。俺とした事が少し熱くなり過ぎて冷静さを欠くとはなぁ〜…。それにあんた…ただの老いぼれじゃないな…?何者だ?」



男はそう言うと身体を地面からぬるりと起こした。



「私はただの執事ですよ…。ただ…。」


「ただ?」


「貴方に対して少々不快感を覚えましてね…。少しばかりの”邪”を解放しただけです。しかしまぁ…私もいささか冷静さを欠いてしまったようで、少しばかり口調が悪くなってしまいましたが…それはお互い様という事で。」


「ククク…。あんたウケるわ。それに…俺もあんたの事を少し見縊ってたわ…。」


「お褒めの言葉ありがとうございます。」



ローレンは乱れた服を直すと、腰を据え右足を大きく前に出し左足を後ろへ伸ばし、右手首を手の甲の方に曲げながら腰の位置へと持っていき、左腕を上空へと伸ばし独特の構えを見せた。



「!?」



その男はローレンの独特の構えを見て少し驚いた表情を見せると、何かを納得したかのようにニヤリと笑みを浮かべた。



「”邪”と聞いてまさかとは思ったが…。その独特の構えとあの殺気…あんた”邪霊拳”の使い手だろ?」


「ほう…。まさか”邪霊拳”をご存じとは…。」


「まさか”邪の道”を極めし者と手合わせできる日が来るとは…。クククッ…俺は運が良い………。」



男は不敵な笑いを発しながら腰に下げていた小袋から、濁った緑色の液体が入った小瓶を取り出すとその液体を一気に飲み干した。



「まっず…。相変わらずあの”イカれ女”が作ったポーションは不味いわ〜。マジで性格がそのまんま色と味に出てんな。あのガキが作ったポーションとは大違いだわ。」


「!?」



ガキが作ったポーション…?

私が知る限り子供でポーションを作れるのはロロだけ…。

もしそうだとすれば…なぜあの男がロロの事を知っているんだ?



……


………


まさか!!

ブローチの光に包まれた時に見た光景の中で、あの男が言っていた”もう一人の重要な奴”とはロロの事を指していた…?

だとすればあの男が言っている”イカれ女”というはロロの師匠である”コルア”…?


もしそうだとすれば今頃ロロは…。



「ん?どうした…?」



”邪霊拳”の構えを解いたローレンに、男は『なぜ?』という表情を浮かべていた。



「そのポーションを作った人物というのは…長い黒髪の少女でしょうか?」


「なんだ?あんた…そのガキの事を知ってんのか?確かあの薬師のガキ…ロロって名前だったか…?」



それはローレンにとって最悪の回答だった。

あの男の言葉から推測するに”イカれ女”というのは、ロロの師匠であるコルアの事で間違いない。そしてあの男の言葉から察するにコルアはあの男やマイン同様、神聖教団のメンバー…という事になる。


だとすればブローチの光に包まれた光景の中であの男が言っていた”例の件がもし成功すれば”というのは、おそらく”澄んだ色のポーションの開発に成功したら”という意味だろう。

そしてロロは今まで誰も作る事が出来なかった”完成されたポーション”を作り上げ、それを自分が尊敬する人物で裏では教団のメンバーであるコルアに完成したことを報告した…。

つまり、ロロがコルアに”完成されたポーション”を見せた時点で、神聖教団にその情報が流れ教団にとってロロはエレナ様同様、重要な人物になってしまった…。



「えぇ…。ロロは私の命の恩人です。」


「クククッ…なるほどな〜。俺が今こうしてあんたと再び巡り会えたのは、あのガキのおかげって事か!!クククッ…あのガキには感謝だな!!!まさかあんたが”邪の道”を極めし者だったんだから…クククッ……。でもここで、あんたに残念なお知らせだ。」


「残念なお知らせ…とは?」


「今頃あのガキとハイブリットエルフは”イカれ女”に死ぬ事を望むほどに酷い拷問を受けているはずだ。死に際まで痛めつけられては回復されての繰り返し…。あの”イカれ女”のイカれた趣味さ。一度あの女の拷問が始まってしまえばもう逃げる事はできない…。そして最終的に拷問を受けた奴は精神が崩壊し、自ら”死”を懇願するようになる…。俺が言えた義理じゃないがあの拷問は俺から見ても悪趣味過ぎる程だ…。クククッ。」


「なんと外道な…。」



やはりロロを一人にすべきではなかった…。

エレナ様を救いたいという気持ちに気を取られた私が招いてしまった結果だ…。

それにロロやエレナ様がその拷問を受けていると想像すると怒りが込み上げて来る。



「だがまぁ安心しなよ。あのガキもハイブリットエルフも俺達にとって重要な人物な訳だ。殺す事はまず無い。ただ素直になってもらう為に少しばかり教育をしているってだけよ。少しばかり悪趣味だがな。クククッ…。」


「!!」



もはや一刻の猶予も無い。ローレンはそう思った。



「幾つか質問してもよろしいでしょうか?」


「あ?質問…? まぁ今は気分が良いからな〜。いいぜ答えてやるよ。」


「感謝します…。では早速ですが、貴方がさっきから”イカれ女”と呼んでいる人物の名前は、コルアという名の人物でしょうか?」



ローレンの質問に男は一瞬眉をピクリと動かした。

それを見逃さなかったローレンは”イカれた女”というのがコルアで間違い無いと確信したが、その男からの返答を待った。



「ご名答…。あんたの言う通り”イカれ女”ってのはコルアで間違い無い。」



やはり”イカれた女”というのはコルアの事で間違い無いようだ。

それに今頃一緒に…という事はロロとエレナ様は一緒、あるいは同じ場所に居るという事になる。それにマインの話では彼らが従えている”彼の方”の命令によって、ハルト様も教団にとって重要人物の一人になっているに違い無い。となればハルト様も”身の安全を保障された場所”とやらに連れて行かれる可能性は高いはず…。

これまでの情報を整理して考えると、その場所は私が今いる冒険者協会では無く何処か別の場所に存在し、現段階で最も考えられる候補は………。



「では次の質問に行ってもよろしいでしょうか?」


「質問の内容によってはその後の対応も考える事になる…。とだけ伝えておく…。」


「承知の上でございます。」



互いに目を逸らさずしばらく視線を合わせた後、男は静かに目を閉じた。



「”身の安全を保障された場所”…というのは、コルアさんが経営しているお店…パナケイアでしょうか?」



その質問をした瞬間、周辺の空気が一気に冷たくなるのをローレンは肌で感じた。

そして男はゆっくりと目を開くと、周囲に漂う冷たい空気を肺の中に入れゆっくりと吐き出すと静かに口を開いた。



「あんたが”邪の道”を極めし者と分かってから、少なからず俺はあんたを尊敬した。だからそれに敬意を払って”老いぼれ”と呼ぶ事も止めた…。だがあんたはもう引き返す事は出来ない所まで来た…。」



男はそう言うと左手を自身の影に向けて伸ばし、反対の右手を自身の顔に持っていき人差し指と中指以外を閉じるとこう言った。



「”影の舞(かげのまい)”」



その言葉と共にその男の影が地面から四方にギュルリと伸びると、その影は四つに分離すると次第に変化し気付けばその男と同じ姿形へと変化させその男の周りに立っていた。



「悪いがあんたをここから出すわけには行かない…。」



ローレンは再び”邪霊拳”の構えをすると、その男に向け最後の質問をした。



「貴方の名を伺っても…?」


「”じん”…”影乃魔(えいのま)(じん)”だ…。」


「”影乃魔(えいのま)(じん)”…良き名です。ですが刃さん…申し訳ありませんが貴方の要望に応える事は出来ません…。貴方を倒し私はパナケイアへと向かいます。」


「そうか…。なら俺は…あんたをここで殺す!!」

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