#71〜ゼウスの拳〜
白騎士が放った”白騎士の爆裂聖剣撃”は、振りかざされた白銀の大剣から私目掛けて勢いよく迫って来ており、後ろには先程”行動操作”で操作した人達や建物から避難している人達がまだ大勢居た。
確かに白騎士が言ったように今放たれた”白騎士の爆裂聖剣撃”は”幻想の指輪”を駆使しても防ぐ事は難しい…。仮に使用したとしても擬似空間を作り出す為の時間が無い…。
これを防ぐには…。
「どうした黒騎士!!!このままではお前もろとも大事な人も死んでしまうぞ!!!」
「ッ!!」
考えている暇は無い!!あの時から私は人を守り抜くと決めた!!!
私は自身の魔力を極限まで高め七色に輝くオーラを身に纏いこう叫んだ。
「鎧解放!!」
その解放の言葉と共に自分自身を覆っていた兜以外の鎧を全身から解き放ち、私は解き放った鎧と自身の右腕に魔法陣を展開させ詠唱を素早く唱えた。
「我、”ゼエデュ・リヴ・ゼウス”の加護を受けし漆黒の騎士なり。全てを死守する全知全能神の力を我の右腕に与えたまえ…。神器!!”全知全能神の死守拳”!!!」
唱えた詠唱に鎧が共鳴し右腕に集まると私が自信に纏っていた七色のオーラを吸収し、右腕に集まったその鎧は、漆黒を基調とし全知全能の神ゼウスの刻印が甲に刻まれたガントレットへと姿を変化させた。
「装着!!」
そして姿を変えた漆黒のガントレットを自身の右腕に装着すると、白騎士が放った”白騎士の爆裂聖剣撃”を装着したガントレットで真っ向から受け止めた。
「やはりゼウスの右腕…。”全知全能神の死守拳”を呼び出して、この一撃を受け止めるか黒騎士よ…。ならば…。」
白騎士はそう言うと自身の魔力を更に白銀の大剣へと注ぎ込み、放った”白騎士の爆裂聖剣撃”の威力を倍増させた。
「これでどうだ黒騎士よ!!いくら”全知全能の神”の力を使ったところで、このままではここに居る全ての人を死守する事は出来んぞ!!!」
「ッ…!!!」
ここに来て尚、威力を増して来るか白騎士よ…。
だがしかし、お前は”全知全能神の死守拳”の本当の力を知らない…。威力を増したところで私の後ろにいる人達を傷付ける事など出来ない…!!
「”能力解放!!」
「何!?」
その言葉と共にガントレットの甲に刻まれているゼウスの刻印が輝き出すと、輝いているゼウスの刻印を中心に七色のラインがガントレット全体に浮かび上がっていく。
そして私は、白騎士の爆裂聖剣撃”を受け止めていたガントレットの拳を開き、白騎士に向けて叫んだ。
「白騎士!!お前がどれだけ強力な一撃を私に放とうと、その攻撃が通る事は無い!!”吸収”!!!」
白騎士が放った膨大な魔力を有した”白騎士の爆裂聖剣撃”は、能力を解放したガントレットの中へと吸い込まれて行きその威力は徐々に弱まっていく。
「なっ!?俺の放った”白騎士の爆裂聖剣撃”がガントレットに吸収されて行くだと!?まさか!!そんな事が!!!」
「ウオォォォォォォォ!!!!!」
そして白騎士が放った”白騎士の爆裂聖剣撃”は完全にガントレットの中に吸収されると、先程まで激しい激闘を交わしていた白騎士と私を中心に辺り一面が静寂へと包み込まれた。
…
……
………
…………
「止めてみせたぞ…白騎士……。」
「………。」
白騎士は私の言葉に反応する事無は無く、白銀の大剣は白騎士から注がれた魔力が尽きたのか元の漆黒の大剣へと姿を戻していた。そして白騎士は振り翳した大剣を静かに地面へと突き刺すと、私の方に向かってゆっくりと歩き始めた。
白騎士が放った強大な一撃を防ぐ事ができ、人を守る事に成功した…。
なのにどうしてだろう…?私は一言も発さず無言で私の元に足を運ぶ白騎士の姿を見て、背筋が凍りつく感覚に陥ったと同時に白騎士に対する警戒心が強くなっていった。
ガシャ…ガシャ……ガシャ………。
白騎士は私の正面に来ると歩みを止め、右腕に装着しているガントレットにゆっくりと視線を送り凝視していた。
「かつて全知全能の神ゼウスは最初の人間アダムとイヴと結託し、”創造を司る神クリアラス”を”真の罰”から救い出そうと”秩序を司る神コスモス”と”混沌を司る神カオス”、そして神柱の一人であるオーディンと対峙し激闘の末、魂の抜けた肉体と分離した魂の一つを持ち去る事に成功した。しかし、魂の半分だけでは”創造を司る神クリアラス”を復活する事は出来なかった…。三人は悩んだ末、最初の人間の一人でもあるイヴを器にし”終焉の神オメガ”を誕生させた…。」
なぜ白騎士は今になって”終焉の神オメガ”の誕生について話を私に…?
白騎士は私に対して何か攻撃や魔術を仕掛けて来る訳でも無く、そのまま話しを続けた。
「創造を司る神クリアラスの肉体とその魂の半分を奪われ、更には最初の人間であるイヴを器にして誕生した終焉の神オメガ…。その事を知った秩序を司る神コスモスと混沌を司る神カオス、神柱の一人であるオーディンの怒りは更に増して行った…。そしてその事が発端となりコスモス、カオス、オーディンの三人は全ての神々に、終焉の神オメガ、ゼウス、アダムを抹殺しクリアラスの肉体と魂の半分を奪い返せという命令を下したが、全ての者がその命令に従う訳では無かった。神によって生み出された人よりも前に神を守る存在として生み出された”天使。その中でも『光をもたらす者』の名で知られているルシファーを中心に数名の天使や神々がゼウス側に付き、クリアラスの肉体とオメガを守る為に戦った…。」
「白騎士…一体何が言いたい?」
白騎士は右腕に装着しているガントレットから私に視線を戻すと、続けてこう言った。
「その戦いの中でゼウスが自身の右腕に装着していたのが、黒騎士…お前が今右腕に装着している”全知全能神の死守拳”…。そして左腕には…何が言いたいか分かるな?黒騎士。」
”全知全能の神”。
かつてその右腕は漆黒に染まり全ての攻撃を無に帰し、左腕は右腕とは真逆の純白に染まり全てを破壊した…。
「”全知全能神の決死拳”…。」
白騎士は自身の左腕を天に掲げるとその拳を力強く握りしめ、私にこう言った。
「ゼウスからの加護を受けているのはお前だけじゃ無いという事だ!!黒騎士!!!」
「まさか!!!」
「ハァァァァッ!!!!」
白騎士は魔力を極限まで高めると七色に輝くオーラを身に纏い続けてこう叫んだ。
「鎧解放!!」
そして兜以外の鎧を解放すると、自身の鎧と左腕に魔法陣を展開させ詠唱を唱え始める。
「我、”ゼエデュ・リヴ・ゼウス”の加護を受けし純白の騎士なり。全てを決死する全知全能神の力を我の左腕に与えたまえ…。神器!!”全知全能神の決死拳”!!!」
白騎士が唱えた詠唱に鎧が共鳴し纏っていた七色のオーラを吸収すると、白騎士の左腕に集まっていた鎧は全知全能の神ゼウスの刻印が甲に刻まれ、純白を基調としたガントレットへと姿を変えた。
「装着!!」
その言葉と共に姿を変えた純白のガントレットは白騎士の左腕に装着された。
「なぜ…白騎士がそれを…?」
「それは…俺がお前の”本当の兄”だからさ…。」