#67〜牢獄〜
私の脳内に流れ込んできたその声の正体はハイエルフとダークエルフの間に生まれ、ローレンさんが探していた人物エレナさんだった。っという事は、今私が居るこの場所は神聖教団が言っていた”身の安全を保障されている場所”という事になり、他の牢屋に囚われているのは教団に誘拐された人達で間違い無い…。
『急に驚かせてしまってすみません…。』
『いえ、そんな気になさらないで下さい。』
『そう言ってもらえると助かります、マーガレットさん。』
それからエレナさんはどうして私の名前を知っているのかについて話してくれた。
『私がなぜ、マーガレットさんの名前を知っているのかというと…信じ難い話しだとは思いますが、私の”過去の記憶の世界”で死んだお母様に会ってマーガレットさん達の存在や、その他の事を色々と教えてもらった…という訳なんです。』
以前ローレンさんも瀕死の状態から目覚めるまでの間、エレナさんのお母様であるファナさんが自身の死にと引き換えに発動する”魂の介入”という術で過去の記憶の世界でファナさんと再会し、ダークエルフの里の消滅する事や自身の身に起こる事、そして”千里眼”という特殊なスキルについて話を聞いたと言っていた。
おそらくエレナさんもローレンさんと同じで、何処かのタイミングでエレナさんのお母様が発動した”魂の介入”を通して私の事や、”達”と言っている事からハルト様の事もお母様であるファナさんに教えてもらったのでしょう。
『ローレンさんもエレナさんと同じように、過去の記憶世界でエレナさんのお母様であるファナさんとお会いした言っていました。なので私はエレナさんの話しを信じます。』
『ローレンもお母様に!?』
『はい。エレナさん同様、過去の記憶の世界でエレナさんお母様であるファナさんから色々と話を聞いたと仰っていました。』
『そう…ですか……。ローレンもお母様から聞いたのですね…。』
その声は弱々しくエレナさんの今の心境が”念話”越しからでも伝わって来た。
もし私がエレナさんやローレンさんの立場だったら、この二人みたいに気丈に振る舞う事は出来ない…。大事な人を失ってしまえば…なおさら……。
『マーガレットさん…?』
『!?』
『どうされました…!?さっきから呼び掛けても返事が無かったものですから…。』
”あの日の出来事”を思い出してエレナさんの呼び掛けに気付かなかった。
二度と思い出さないと決めて胸の奥にしまっておいたはずの”あの日の出来事”を…。
「ふぅ〜…はぁ〜。」
私は一呼吸置いて気持ちを落ち着かせると同時に”あの日の出来事”をそっと胸の奥へとしまうと、私の中で一つだけ疑問に思っている事をエレナさんに聞いてみる事にした。
それはエレナさんがなぜ”ヴァルキリー”という私が”受け継いだ名”を知っているのか?という事だ。この名を知っているのはハルト様やレヴィーを含め、ごく僅かな者しか知らないはず…。それにハルト様と出会うまでの100年間、私はずっと聖堂の中で待ち続けその100年もの間誰とも会う事は無かった…。もちろんエレナさんのお母様であるファナさんにもだ。
ローレンさんの話を聞く限りでは、”千里眼”は未来を予知するスキルのはず…。
それともファナさんが言っていないだけで”千里眼”には未来を予知する以外にも別の能力があるのだろうか…?
私はその事が気になり、エレナさんになぜ”ヴァルキリー”という受け継いだ名を知っているのか尋ねた。
『エレナさん。一つ聞いてもよろしいでしょうか?』
『何でしょうか?』
『なぜエレナさんは…私が”ヴァルキリー”という名前だった事を知っているのでしょうか?』
『それはーーー』
…
……
………
…………
『エレナさん…?』
エレナさんが私のその質問に答えようとした時、いくら待っても『それは…』から次の言葉がエレナさんから返ってくる事は無く、私の脳内で嫌な予感が芽生え始めた。
教団のメンバー…あるいはコルアさんに私と”念話”していた事がバレてしまった?それとも何か他に別の理由で…。考えれば考える程、私の中で最悪な展開が次々と脳裏に過ぎる。早く何とかしてこの場所から抜け出してエレナさんの元へ向かわなければ!!
「んっ!!んっ!!!」
ダメだ…。目が覚めて視界が戻ってからだいぶ時間は経ったが、今だに身体を動かす事は出来ない…。
でもこのままじゃ…また……。あの時みたいに…。
何とかして身体の自由を取り戻そうと必死にもがいていると、私の耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「まさかとは思って見に来たら…何でそんなに元気なのかしら〜???」
私の居る牢屋の前に現れたのは、ロロさんの師匠で神聖教団のメンバーであるコルアさんの姿だった。
「貴女は!!!」
「先ほどぶりねぇ〜マーガレットちゃ〜ん」
コルアさんは身動きが取れない私をニヤリと不敵な笑みを浮かべながら見下していた………。
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<時を同じくして地下倉庫内の奥に向かう道中にて>
ロロとレヴィーは連れ去られたマーガレットを救出するべく地下倉庫内奥を進んでいた。どうやらロロが瀕死の状態で倒れていた倉庫内の奥には、更に地下へと続く階段があり今現在ロロとレヴィーは地下へと続く階段を降っていた。
「こっ…こんな場所が……あったなんて…知らなかった…です。」
「ロロちも知らなかったの?」
「はっ…はい!です…。それと……師匠が…あんな酷い人……だった事も…です。」
ロロは自分が信頼し尊敬していた師匠に裏切られ痛めつけられた事に酷く心を痛めていた。
『どうして…?』っと…。
ロロにとってコルアは薬師としての師匠であると同時に、幼い時に両親を亡くし身寄りのない自分を育ててくれた恩人。時には厳しくそして優しく…血は繋がっていなくともロロにとってコルアは唯一家族と呼べる存在だった。
「ロロち!!」
「はっ…!はいーーー」
ロロがお決まりの『です』をいう前にレヴィーは隣を歩くロロの手を優しく握った。
レヴィーはロロが地下倉庫でコルアとどういった事があったのかその全貌を知りはしないが、ロロが今どういった気持ちであるのかは察していた。
「レッ…レヴィーさん!?どうした…です!?」
「ロロち!レヴィーって呼んで!!」
「えっ!?」
「レヴィー達、友達でしょ!!」
「!!」
レヴィーのその言葉にロロの中にどんよりと染み込んでいた物が晴れて行く。
「私もね…。昔信じていた人に裏切られた事があるんだ…もうだいぶ昔の話しだけど…。だからロロちの気持ち、少しは分かるんだ〜。」
「そう…なん……です?」
「うん…。裏切られて出来た傷は直ぐには癒えないけど…。誰かと分け合って痛みを半分こに出来るってレヴィーは思うんだ。」
レヴィーは歩みを止め、ロロの手を両手で優しく握りロロの目を見ながら続けてこう言った。
「だからロロち…その痛み半分こにしよ?」
「レッ…レヴィーさん…。」
「レヴィ〜だよ!ロロち!!」
レヴィーはそう言うとロロに向けてとびきりの笑顔を見せた。『一人じゃないよ』と意味を込めて。
「あっ…ありがとう……です…レッ…レヴィー……。」
「うん!!」
コルアに裏切られた心が完全に癒えた訳ではないが、レヴィーのその笑顔とその言葉にロロは救われたと同時に薬師としての師匠でもあり恩人で家族でもあるコルアと向き合おうと心に誓った。
それからロロとレヴィーは地下へと続く階段を降りると、マーガレットとエレナが囚われている牢獄へと着いたのだった。