#65〜それぞれの戦い〜
漆黒の大剣を握りしめた白騎士は握りしめたその大剣を頭上へと持ち上げると、私めがけて勢いよく振りかざして来た。私は白騎士が繰り出したその一撃を手にしていた大剣ですかさず応戦して受け止めるが、その一撃はあまりにも重く受け止めた衝撃で私の足が地面へとのめり込んだ。
「くっ…!!」
受け止めた大剣を振り払うと白騎士と間合いを取り、素早く周囲の状況を確認する。
この騒ぎを聞きつけた騎士団の兵士達は、市民に被害が及ばないよう避難するように指示を促している。市民の避難がある程度終わるまでは下手に動く事は出来ない…。
「相変わらずだな…黒騎士。100年前もそうやってお前は人を必死に守っていたな…。」
「それが私の使命だ。」
「そうか…。」
白騎士は手にしている漆黒の大剣を両手で強く握りしめ、左足を後ろへと伸ばしながら深く腰を落とし、軸にしている右足に力を集中させ地面を力強く蹴ると一瞬にして私との間合いを詰める。そして手にしている漆黒の大剣を私に目掛けて連撃を繰り出し始めた。
「どうした…?反撃してこないのか黒騎士?」
白騎士から繰り出される連撃はどれも一撃が重く、その攻撃を防いでもその衝撃が大剣を伝って私の鎧を通り身体へと伝わって来る。このままの状況が続いてしまえば自分の身が持た無い…。市民の避難は……。
「人の心配より自分の心配をするんだな…黒騎士!!」
「!?」
白騎士は握りしめている漆黒の大剣に自身の魔力を注ぎ込むと、漆黒だった大剣が光り輝き出し漆黒だった大剣から白銀に輝く大剣へと姿を変えた。そして白騎士は白銀に姿を変えた大剣に更に自信の魔力を注ぎ込んでいった。
「人を必死に守ろうとするお前のその心が、お前の最大の弱点だ黒騎士!!”白騎士の爆裂聖剣撃!!”」
「!!!!」
その言葉と共に白銀の大剣が光輝き出し蓄積された白騎士の魔力が大剣から解き放たれると、私は爆撃と共に周囲を巻き込みながらその場から、人々が集まる中央エリアまで吹き飛ばされった。
「グハッ!!!」
不幸中の幸と言うべきか、白騎士が放った””白騎士の爆裂聖剣撃は白騎士が放つ直前まで白銀の大剣を受け止めていた私の大剣に直撃したおかげで、直撃を免れる事ができた。もしこれが直撃していればこの程度のダメージでは済まないだろう…。
「無様だな…黒騎士…。人に被害が及ばんとしていたつもりだろうが、お前の人に肩入れした結果がこれだ。周りをよく見てみろ…。」
私は痛む身体を起こし周囲を見渡すと、さっきまで居た冒険者協会エリアから今居る中央エリアまで白騎士が放った一撃によって建物は崩壊し、その近辺に居たイスタリアム騎士団の兵士や市民が巻き込まれ辺りは悲惨な状況になっていた。
「100年前からお前は何も学んでいないな…。だから同じ結果を繰り返す。お前がもっと上手く立ち回っていればこれ程の被害を出す事も無かったのかもしれん…。お前が上手く立ちまわていれば…な。」
「………。」
確かに白騎士が言うように、私が上手く立ち回っていればこのような結果になっていなかったのかもしれ無い…。
「白騎士…。確かに以前の私ならこのような結果になっていたに違い無いだろう…。」
「以前の私なら…だと?」
「あぁ。」
私は疑問に思っている白騎士に向け右手を翳しこう言った。
「これが”現実の光景”ならばな…。」
「何!?」
ミシッ…。
ミシミシッ……。
「何だこれは!?空間全体に…亀裂…だと!?」
私がさっきまで居た冒険者協会エリアから、今居るこの中央エリアまでの一定の空間全体に亀裂が入り始めた。そしてその亀裂がこの空間全体に行き渡ったのを確認すると、翳した右手をスナップしこう言った。
「”幻想解除”」
その言葉と共にこの空間を覆っていた亀裂が一斉に弾け出し、先程まで崩壊していた建物や白騎士の放った一撃に巻き込まれた騎士団の兵士や市民の姿が幻のように消えると、辺りは何も無かったかのように元の姿へと戻っていった。
「これは…一体!?」
「白騎士…これが人の力だ…。お前が忌み嫌っている人の…。」
「人の力だと…!?」
「あぁ…。」
私はスナップした右手の中指にはめている”幻想の指輪”を見た。
100年前…古き友人から貰ったこの”幻想の指輪”を…。
「その指輪は…。まさか!?」
「あぁ…。これが私の友の力だ!!白騎士!!!」
私は”幻想の指輪”をはめている右手を力強く握りしめ古き友人に感謝すると、左手に持っていた七色に輝く大剣を白騎士に向けてた。次はこっちの番だと意志を込めて。
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<冒険者協会 最上階 騎士団長の間にて>
騎士団長の間で固定されている瀕死の男性の影から突如姿を表した1人の男性。
その男性の正体は神聖教団暗躍部隊『影』のメンバーで、ローレンさんに深手を負わせエレナさんを誘拐した人物であると同時に、僕と同じ転生者だった。
「その声は!!」
「ん?その声は…あの時の老いぼれじゃねぇ〜か。生きてたのかよ!しぶてぇ〜」
その男は不敵な笑みを浮かべながらローレンさんを見て笑っていた。
それを見たローレンさんはマインさんに注意しつつ鎧のヘルメットを外すと、マインさんに刃先を向け牽制したままその男に話しかけた。
「あの時は随分とお世話になりました…。それで…エレナ様はどこです?」
ローレンさんは平常心を装って冷静な口調で話しているように見えるが、逆にその冷静さがローレンさんの怒りを表しているように僕には思えた。
「あのハイブリットエルフなら俺らが大事に大事に保護してるぜ」
「”身の安全を保障されている場所”…とやらでですか?」
さっきまで不敵な笑みを浮かべていたその男は、ローレンさん口にした”身の安全を保障されている場所”という言葉に反応すると、さっきまでの不敵な笑みは消えその表情は殺意に満ちた冷酷な表情へと変わっていた。
「お前ら…思ってる以上に俺らの事を嗅ぎ回っているようだな…。」
そう言うとその男は腰に忍ばせていたナイフを手に取り、ナイフの刃先を僕とローレンさんに向けて交互に動かしていた。まるで今から仕留める獲物を見定めるように…。
「マイン…。ここまで知られてるんだ…こいつら殺していいだろ?」
「こちらのエルフ、ローレン様は殺して頂いて何も問題はありません。ただ…貴方と同じ転生者であるハルトちゃんは殺してはダメです。」
「お前のお気に入りか?」
「はい…。私の可愛い可愛いハルトちゃん!!自由を奪って私が一生面倒を見てあげたいくらいですが…。私の”愛しき人”からの命令です。」
「”彼の方”から直々の?」
「はい…。ですので殺さ無い程度にお願いしますね。」
「相変わらず狂ってるな、お前。」
マインさんはその男からの皮肉を嬉しそうに受け止めると、今度は僕の方見るなり狂気に満ちた表情でこう言った。
「なのでハルトちゃん!!死に至るほどの重傷を負ったとしても私が真心を込めて看病しますから、何も心配ありませんからね!!思う存分苦痛を味わって下さい!!!」
その狂気に満ちたマインさんの表情とその言葉に、僕は心の底からゾッとし身体がすくんでしまった。マインさんの思考や言動は常軌を逸してる…。完全にサイコパスだ。
まさか僕たちが相手にしようとしていた神聖教団がこれ程の存在だったとは…。
僕は腰に添えていたマテリアルウウェポンを手に取りマテリアルの属性を『光』にセットすると、クリエイティブの能力でブレードを具現化し敵の攻撃に備えた。
「ほう〜。武器を召喚する…それがお前の能力か…。」
どうやら相手には僕の能力が”武器を召喚する”という能力と思っているようだ…。
相手のこの思い込みはきっと何かの突破口になるはず…。黒騎士さんに渡された”黄色に輝くクリスタル”と合わせて、これは切り札として取っておこう…。
「ハルト様…気を付けて下さい…。」
ローレンさんの言う”気を付けて”というのは、”その男の能力に”という事だろう。
僕はローレンさんに向けて深く頷きその男からの攻撃に備えていると、外から突然巨大な爆撃音が鳴り響いた。
「!?」
この爆撃音は一体!?
まさか…外で待機している黒騎士さんに何か問題が発生したのだろうか!?
それとも…マーガレットとレヴィーの身に何か…。嫌な予感が脳裏をよぎる。
「どうやら、向こうもおっ始めたみたいだなぁ〜。っという訳だ…こっちもそろそろ始めようかぁ!!!」
男はそう言うとナイフを構え僕に向かって走り出したのだった。
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<ロロの師匠のお店パナケイアの地下倉庫にて>
ロロさんの師匠であるコルアさんの案内で、ロロさんが作業している地下倉庫に案内された私達の目の前に飛び込んできたのは、ロロさんがひどく出血し瀕死の状態で倒れ込んでいる光景だった。
「ロっ…ロロさん!!しっかりして下さい!!!」
「ロロ…ち?」
レヴィーは予想だにしない目の前の光景にその場に立ちすくんでしまっていた。
無理も無い…。ロロさんの身体中には何度も殴られた跡や切り傷があり、生きているのが不思議なくらいの状態だった。こんな状態になるまで痛めつけるなんて…人のする事とは思え無い…。そしてロロさんにこんな酷い事をした人物はおそらく…。
「コルアさん…1つ聞いてもよろしいでしょうか…?」
「何かしら〜?」
「ロロさんのこの状況は一体…どういう事ですか?」
私は込み上げる怒りを何とか抑え冷静さを装いつつ、コルアさんに悟られないようにロロさんに回復魔法を施し始めた。
「見ての通り、ロロにはお仕置きをしたのよ。」
「これが…お仕置きですか?ロロさんが死に至ってしまう程のこれが…。」
「えぇ…。これが神聖教団流のお仕置きよ…。マーガレットちゃん。」
「!?」
まさかの発言にコルアさんの方を振り向こうとした瞬間、私は腹部にコルアさんによって何かを刺され身体全身に電撃が走ると、身体の力が抜けその場に倒れ込み身体の自由を奪われてしまった。辛うじて視線をコルアさんの方へ向けると、コルアさんは注射器のような物を手に持っていた。
「どう?即効性があったでしょう?私の毒薬は〜」
「あっ…っ……。」
コルアさんに盛られた毒薬のせいで身体の自由はおろか、声も発する事も出来ない…。
それにロロさんの師匠であるコルアさんが神聖教団のメンバー…?ダメだ…徐々に毒薬の効果が増してきているのか、視界が徐々にぼやけ初めて来た。
「ふふふっ。もうそろそろ身体全身に毒が回ったきた頃かしら?」
コルアさんはそう言うと、私を手を取りそのまま引きずりながら地下倉庫の奥へと歩き始め、立ちすくんでいるレヴィーと瀕死の状態で倒れ込んでいるロロさんの姿が徐々に遠のいて行く…。
「っ………」
そして薄れゆく意識の中で私の視界に飛び込んできた光景は、牢獄のような場所だった…。