#63〜潜入捜査Ⅳ〜
まさか…あのマインさんが神聖教団のメンバーだったとは…。
今でもその事実を受け入れられない自分がいた。きっとこれは何かの間違いだ…少し特殊の性癖の持ち主だけど冒険者の登録をする時だってあんなに丁寧に説明してくれたし、気さくに話しかけてくれたじゃないか…。
「マッ…マインさん?冗談言ってる場合じゃないですよ…。壁に騎士団の兵士達が!それに中央に瀕死の男性が!!早く助け出さないと…!!!」
「ふふっ…。そうですね〜。ハルト様…いやハルトちゃんの言ってる通り早く助け出さないと死んじゃうかもしれませんね〜。」
「ハルト…ちゃん……?」
何で急に呼び方が…?
今にも人が死にそうなのに何でこんなに平然としていられるんだ?
マインさんは本当に…神聖教団のメンバーなのか…。
「ハルト様…。残念ですが彼女はどうやら神聖教団のメンバーの一員のようです…。」
「くっ…。どうしてこんの酷い事を…何でですかマインさん!!!」
僕は怒りと悲しみが入り混じった感情をマインさんへとぶつけた。
これは人がやって良い事じゃない…常軌を逸している。これが神聖教団という組織なのか…こんな人道から外れた事をするのが…。
「酷い事……。そんな風に考えた事は一度もありませんでした…。強いていうなら…”愛しき人”の為…でしょうか。」
愛しき人?その人の為にここまで酷い事が出来るっていうのか…。
「完全に常軌を意してますね。彼女は普通では無い。」
「ふふっ。”エルフの老いぼれさん”…からのお褒めの言葉と捉えておきますね。」
「”老いぼれ”…でございますか。以前、貴女と同じように私の事を”老いぼれ”と呼んだ人物がいました…。貴女もその人物と同じ神聖教団”暗躍部隊『影』”のメンバー…なのですか?」
ローレンさんの言っている人物とは神聖教団暗躍部隊『影』のメンバーの1人で、ローレンさんに深手を負わせエレナさんを誘拐した人物の事だろう。
「ふふふっ…。私は”彼”とは違います。」
「”彼”とは違う…?つまり”暗躍部隊”では無いと?」
「そう…かもしれませんね。」
つまり…マインさんは暗躍部隊とは違う部隊や組織、あるいはどの部隊や組織に属せずに個人で動いている…という事だろう。
それにしてもなぜマインさんは僕とローレンさんがイスタリアム騎士団の兵士に変装し、内部捜査をしている事を知っているんだ?それにローレンさんの本名や僕が転生者という事まで…。まさか、最上階へと向かう転移魔法陣の前で会った数分の間に正体を見破ったとでもいうのか…?
「ふふふっ。なぜ?なぜ?なぜ!? なぜ正体がバレたんだ? どうしてローレンさんの本名を!?何で僕が転生者だって事を!? 何でマインさんが知ってるんだ!?って顔をしていますね、ハルトちゃん。」
「!?」
なぜ…僕が今考えている事が……。まさか…心を読まれている!?
もしそうだとしたら…僕達が初めて冒険者協会を訪れた時に僕が転生者である事や、神聖教団に関してマインさんに尋ねた際、その時既に教団や誘拐されたエレナさんに関する情報を僕達が集めている理由やローレンさんという存在やその素性までバレており、そしてクエストを受注した際にマインさんは僕達の心を読んで今回の作戦に関する情報の入手した……という事になる。
「はい!正解です!!大正解です!!!その通りですハルトちゃん!!!!」
どうやらマインさんの能力は”相手の心・思考を読み取る”という能力で間違い無いようだ。
「厄介な能力だ…。」
「厄介な能力…?どういう事ですか!?」
「おそらくマインさんは相手の心…または思考を読み取る能力があるようです。」
「相手の心…思考をですか?」
「はい…。なので僕達が神聖教団に関してマインさんに話を聞きに行った時点でローレンさんの素性や、教団に関して情報を集めている理由、そしてクエストを受注した際に今回の作戦に関する内容を能力を使用して読み取ったんだと思います…。」
「ふふふっ。私の代わりに説明してくれてありがとうございます!ハルトちゃん!!」
マインさんは終始不気味な笑みを浮かべながら身体を左右に揺らし僕の方を見ていた。
その姿を見て、受付で気さくに冗談を交えながら話していたマインさんはもう存在しないのだと僕は悟った。
「そんな悲しい顔しないで下さいよハルトちゃ〜ん。私は今も昔も変わらないよ?ただ、受付嬢って役割を演じていただけ!演じていただけなの〜!!」
「ハルト様、彼女の言葉に耳を貸す必要はありません。心と思考が読まれる以上、彼女に小細工は効かない…。ならば…。」
ローレンさんは腰に装備してある剣を鞘から抜くとマインさんに向けて刃先を向けた。
「彼女は私が引き受けます。ハルト様はその間に椅子に固定されている瀕死の男性の救助を!!おそらく壁に人文字にされている騎士団の皆さんは既に…。とにかく今はその男性を連れて黒騎士さんの元へ!!」
「分かりました!!」
僕はローレンさんに背中を預け椅子に固定されている男性の元へ急いで足を走らせた。
瀕死の男性の元まで後もう少しという時、僕は身体に今まで感じた事の無い感覚に陥ると同時に、この感覚が何を意味するのかを僕は直ぐに理解した。
「何やら俺達の事を嗅ぎ回ってる奴がいると聞いて戻ってみれば…、面白い事になてるじゃねぇ〜か。」
「!?」
その声と共に、外の灯りで椅子に固定されている瀕死の男性の影から1人の男性が姿を現した。間違い無い…。この男性はローレンさんに深手を負わせエレナさんを誘拐した人物だ。
そして彼は………。
「転生者………。」
そう。ローレンさんに深手を負わせエレナさんを誘拐した神聖教団暗躍部隊『影』のメンバーで、今目の前に居るその男性は、僕と同じ転生者だったようだ。
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<冒険者協会エリア ロロの師匠が経営しているお店”パナケイア”前にて>
「お姉ちゃん、ここにロロちが居るの?」
「たぶん…そうですね。」
店の明かりは点いており、お店のドアには『開店』と書かれた札が下げられている事からどうやらまだお店は営業しているようだ。
「中に入ればロロさんの居るかもしれません。とりあえず中に入ってみましょうか。」
「うん!」
私とレヴィーはお店のドアを開け店内へと入った。
「ごめんくださぁ〜い。」
ドアを開け店内を覗くと、そこにはお客さんの姿やロロさんやロロさんのお師匠様らしき人物の姿も無く、店内は静寂に包まれていた。時間帯からしてまだお客さんも来そうなものだけど………。それとも閉店したばかり…とか?それから何度か声を掛けても何も反応が無く、次第に店内が不気味な雰囲気に包まれていった。
「誰もいないね…。」
「お店の前には『開店』と書かれた札もありましたし、明かりが点いてるので閉店した訳ではなさそうですけど…。」
レヴィーと顔を合わせどうするか迷っていると、店内のカウンターの奥から『ドスッ』と鈍い物音が聞こえた。この物音は一体…?単に物が落ちた音…という感じの物音では無い。となれば…。私はレヴィーにその場で待つように指示し、物音がしたカウンターの奥へゆっくりと歩き始めた。
店内が静まり返っているせいで、ゆっくりと歩いても足音が店内に響き渡り、カウンターに近づくたびに私の鼓動も徐々に高鳴っていく…。
そしてカウンターへ到着し奥へと足を踏み入れようとした瞬間、奥のドアが開くとその中から一人の女性が現れた。
「いっ…いらっしゃいませ〜。返事が遅くなってしまって申し訳ありません。」
その女性は少し息を切らしながら申し訳なさそうに頭を下げた。
この女性がロロさんのお師匠様…なのだろうか?『いらっしゃいませ』と言っている事からこのお店の従業員である事は間違いなさそうですけど…。
「初めまして。お忙しいところ申し訳ありません。お店の前に『開店』と書かれた札があったものですから、まだ営業しているものかと…。」
「今日はお客さんが少なかったので、店の倉庫で在庫の整理やら色々と作業をしていたんです。それでついつい夢中になってしまって…。」
「そうでしたか…。」
「はい…。でもお店自体はまだ営業してるのでゆっくり見て行って下さい。」
「あっ、いえ。今日は買い物をしに来た訳では無くて…」
「買い物じゃ無いとしたら…どういったご用件でしょうか?」
その女性は不思議そうな表情を浮かべ私を見ていた。
確かにショップに来て買い物以外の用事となれば何をしに来た?と思われても仕方ないのは事実。私はレヴィーを近くに呼んでその女性にこのお店に来た理由を話す事にした。
「実は、私たちはロロさんの友人でして…。日が暮れる前には宿屋に帰って来ると言っていたものですから…。」
「あら!ロロの友人さんでしたか〜!!」
「はい。それで日が暮れてもロロさんが宿屋に帰って来ないので、心配でロロさんが今朝向かわれたと聞いたこのお店に伺った。という訳なんです。」
「そうだったんですか…。ご心配をおかけして申し訳ありませんね。今日はお客さんがいつもより少なかったので、商品の整理やら溜まっていた仕事を手伝ってもらってたんです。ロロならこの奥の倉庫に居ますよ。」
「そうでしたか…。」
ロロさんが無事と知った私は安堵し少し肩の力が抜けてしまった。
仕事を手伝ってもらった…という事はこの女性はロロさんのお師匠様だろうか?
「あの〜失礼ですが貴女は…?」
「あっ!自己紹介が遅れてすみませんね。私はコルア。この店パナケイアの店主をしている者です。」
このお店の店主という事はこの女性がロロさんのお師匠様で間違い無いようだ。
「貴女がロロさんのお師匠様だったのですね。」
「はい!ロロのお師匠もやらせてもらっています!!それとーーー」
「あっ!私の名前はマーガレット、そして…」
「レヴィー…です。」
「あぁ〜!貴女達が!!レヴィーから話は聞いていますよ。お友達が出来た〜って!!」
「そう!!ロロちとはお友達なの!!」
ロロさんにお友達と言われたのが余程嬉しかったのか、レヴィーは目を輝かせながらコルアさんに向けてそう伝えていた。
「ロロにこんな可愛いお友達が出来て私も嬉しいわ〜。あっ!こんな所で立ち話もなんですからロロがいる倉庫の方へ行きますか?呼びに行ってる間、二人を待たせる訳にも行かないし、それにサプライズで二人が来たと知ったらロロも喜ぶと思いますから!!」
それは確かにそうだけど…。
私はレヴィーの方を見ると、レビーは目を輝かせながら私に『行く!!』と即答して来た。変な心配をしてしまったけど、これだけロロさんの事を大事に思っている人だから何も問題は無いでしょう。
「分かりました。」
「やった〜!!ロロちに会える〜!!!」
「じゃ〜早速行きましょうか!」
コルアさんはそう言うとカウンターの奥にあるドアを開け私たちを手招くと、ロロさんが作業をしている倉庫へと案内してくれた。
…
……
………
「ここが倉庫よ〜。」
どうやらロロさんが作業している倉庫はこのお店の地下にあるようだ。
コルアさん曰く、万が一の事を考えて薬品などが爆破した時や何か問題が発生した際に、出来るだけ被害を最小限に抑える為に地下に倉庫を作ったとか。
「ロロの名前を呼びながらドアを開けたらきっとビックリするわよ!!」
意外とコルアさんにもお茶目な一面があるようだ。
そしてレヴィーと私はドアの取手を一緒に握りロロさんの名前を呼びながら勢いよくドアを開けた。
『ロ〜ロ〜ーーーーーーーーー』
ドアを開け最後の『ち』を発音する前に飛び込んできたのは衝撃な光景だった。
「なっ…」
「えっ……」
ドアを開けたその先には身体中を痛めつけられ、ひどく出血し瀕死の状態で倒れ込んでいるのロロさんの姿があったのだった。