#61〜潜入捜査Ⅱ〜
黒騎士さんを先に見送った僕とローレンさんは、今後の作戦について話し合う事にした。
「これからどうしますかローレンさん?」
「まずは私達も正体がバレないようにしましょう。」
「えっ?」
そう言うとローレンさんは僕の顔に向けて精霊魔法”容姿変化”を施し始めた。イメージでは容姿が変化する際、何かしらの違和感を感じるかと思っていたがそういった違和感を感じる事も無く、瞬きをする間の一瞬で”容姿変化”が完了したようだ。
「これで”容姿変化”が完了しました。いかがでしょうか?」
ローレンさんは黒騎士さんが以前、僕が『Ω』の力の一部を解放した際に使用した”ミラーウォール”に似た魔法を展開すると、そこには”容姿変化”で先ほど会ったイスタリアム騎士団の兵士の1人である”ドールさん”の容姿に変化した自分の姿が映っていた。
「おぉ…。本当に顔が変わっていますね…。自分なんですけど…自分じゃ無いみたいで何か変な感じがします。」
「最初は少し戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れますよ。それでは私も…。」
ローレンさんはそう言うと今度は自身に”容姿変化”を施して、ドールさんと一緒に居たもう1人の兵士”サムさん”の容姿に変化させると、今度は小さな小瓶のような物を小袋から取り出した。
「ローレンさんそれは一体…?」
「これは先ほど騎士団の彼らの鎧を脱がせている時に、精霊魔法”記憶抽出”で彼らのここ数日の記憶を取り出した物です。」
「記憶…の一部をですか?」
ローレンさんが取り出したその小瓶をよく見てみると、霧のようなものが小瓶の中に立ち込めていた。人の”記憶”を何かしらの形で具現化するとこのような霧状になるようだ。
「はい。潜入捜査を行う上で何も知らない状態では、例え鎧を纏ったところで直ぐに怪しまれてしまうでしょう。なのでこの精霊魔法”記憶抽出で彼らのここ数日の記憶を拝借し、何かあった時の為に対処ができるように備えておく事と、もし彼らが教団のメンバーもしくはその件に関与している場合は、この抽出した記憶から何か情報を得られるでしょう。」
「凄い…精霊魔法ってこんな事まで出来るんですね…。」
「エルフの国では魔法科学が発展しているので、こういった独特な魔法が数多く存在しています。では早速、彼らから取り出した記憶を私たちの記憶に注入しましょう。」
ローレンさんは手に持っているその小瓶の蓋を開けると、小瓶に向けて精霊魔法を施し始めた。
「”記憶注入”」
その言葉と共に小瓶の中に入っていた靄のようなものがまるで意志を持った生物かのように小瓶の中から外へと抜け出し、そのまま僕¥に向かって勢いよく飛んで額に当たると同時に、僕の頭の中にドールさんのここ数日間の記憶が流れ込んできた。
ドールさんの記憶を見る限り、彼と一緒に居たサムさんとは親しい同僚の仲のようだ。そして更に記憶を見て行くと、彼らはイスタリアム騎士団の上層部からドリュアス森林で観測された膨大な魔力の調査の任を任されたらしい…。恐らく観測された膨大な魔力というのは、ドリュアス森林でベルゼブブの分身体と戦闘した際に僕の『Ω』の力が暴走したり、マーガレットやレヴィーが神器の力を発動した際の事だろう…。
その他には………。
ドールさんの記憶を他にも見て見たが、彼の記憶の中からは神聖教団やエレナさんや他の人達が誘拐に関しての情報を得る事は出来なかった。
「ローレンさん、ドールさんの記憶を見ましたが、教団や今回の件に関しての情報は何も持っていませんでした。」
「左様でございますか。私の方からは少し興味深い情報を得る事が出来ました。」
「興味深い情報…ですか?」
「はい。私が”容姿変化”しているこの方が教団のメンバーや今回の件に関与している訳ではありませんが、どうやらここ最近、素顔を隠した人物がイスタリアム騎士団の上層部の元へ訪ねているところを目撃しているようです。」
「素顔を隠した人物…ですか……。それも上層部の元へ訪ねるっていかにも怪しいですね。」
「えぇ。その人物が何者かは分かりませんが、イスタリアム騎士団の上層部が何らかの人物との関わりを持っているのは事実のようです。」
イスタリアム騎士団の上層部が素顔を隠した人物と何らかの関わりを持っている…。
その人物が誰かは現状では分からないが、神聖教団のメンバー、あるいは協力関係者という可能性もなくは無い…。少し危険だがイスタリアム騎士団の本拠地でもある3階から5階を調査すれば何かしらの情報が得られるかもしれない。
「ローレンさん、少し危険になるかもしれませんが、イスタリアム騎士団の本拠地でもある3階から5階を調査するのはどうでしょうか?黒騎士さんの言っていた通り教団に何かしらの情報操作をされていたり、可能性は低いとは思いますがもし仮に教団とイスタリアム騎士団とグルだった場合、何かしらの情報やエレナさん達の囚われている場所の情報も分かるかも知れません。」
「確かに…。分かりました。その方向で内部調査を進めましょう。それに私が見た”牢獄のような場所”というのが必ずしも地下にあるとは限りませんしね。」
確かに”牢獄”と聞けば普通”地下”にあると想像してしまう。
実際アニメやゲームでもそういった場所に牢獄があるイメージだ。しかしそれはあくまでも先入観でしか無い…。
「そうですね…。ローレンさんの言う通り必ずしも牢獄が地下にある必要はありませんし、捕らえた人達を閉じ込めておければ場所はどこでもいいわけですしね。」
「はい。その辺りも騎士団の本拠地に行けば何かわかるかも知れません。細心の注意を払って騎士団の本拠地へと向かいましょう。」
「分かりました。」
僕とローレンさんは内部調査の方針を決めると頭に鎧のヘルメットを被り、会議室を出てイスタリアム騎士団の本拠地へと向かって歩き出したのだった。
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<商業都市イスタリアム 宿泊エリア内ペルマールの宿にて>
ハルト様達が冒険者協会に向かってから随分と時間が経ち、外はすっかり暗くなり辺りは静けさに包まれていた。ローレンさんは日が落ちる前にはロロさんが宿に帰ってくると言っていましたが、ロロさんは未だに宿には帰って来ていないようです…。
「ロロち…遅いね、おねーちゃん。」
「そうですね…。日が落ちる前には宿に帰ってくると言っていたようですけど…。何かあったのでしょうか…。」
神聖教団の件を聞いたせいか何か悪い予感がする…。
確かロロさんは今朝ローレンさんと一緒に、ロロさんのお師匠様が経営するお店”パナケイア”へ向かったと言っていました。確か冒険者協会の近くだと…。
ここでじっと待っているよりも、ロロのお師匠様が経営するお店に向かえば何か分かるかも知れません。
「レヴィー、私は今かーーーー」
「私も行く!!」
どうやらレヴィーには私がこれから何をするのか読まれていたようだ。
「しかし!」
「ロロちは私の大切なお友達だもん!それにロロちを悪い奴がイジメてるなら、私許せない!!」
「レヴィー…。」
レヴィーはこうと決めたら何があっても引かない事は昔から知っている。
それにもし仮に教団と遭遇した場合、私1人で相手をするよりもレヴィーが一緒に居た方が心強い。ロロさんを守りながらとなれば尚更。
「分かりました。では一緒にロロさんのお師匠様が経営するお店へと向かいましょう。」
「うん!」
「もしもの時は…頼みましたよレヴィー。」
「任せて!お姉ちゃん!!」
そして私達は宿の受付をしているマキナさんに事情を説明し、ロロさんのお師匠様が経営しているお店”パナケイア”へと向かったのだった。