#60〜潜入捜査開始〜
冒険者協会に入った僕達は黒騎士さんの後をついて行くと、黒騎士さんはクエストの受注書が貼られたクエストボードの方へと向かいボードに貼られている1つの受注書を手にし、そのまま受付カウンターの方へと向かうと受付嬢のマインさんにその受注書を提出した。
「このクエストを頼む。」
「あっ!ハルト様御一行じゃないですか!!」
「こんにちはマインさん。」
「こんにちは!クエストの受注ですね!手続きをしますので少々お待ち下さい!」
そう言うとマインさんはクエスト受注書に印鑑を押したりと、慣れた手付きでクエスト受注の手続きを行うと最後に受注を承諾する為のサインを求めて来た。
「こちらの受注書に代表の方が最後にサインをして頂ければクエストの受注は完了ですので、サインの方をお願いします。」
「分かった。」
黒騎士さんは受注書にサインをするとマインさんへと返した。
それにしても黒騎士さんは何のクエストを受注したのだろうか?これも今回の作戦を成功させる為の大事な事と言っていたが…。ダメだ!今は黒騎士さんの事を信じて余計な事は考えずに平常心を保つことに集中しよう。
「確かに、黒騎士様のサインを確認しました。それでは簡単ではございますが私から今回のクエストに関しての説明をさせて頂きます。今回、黒騎士様達が受注して頂いたクエストは『ドリュアス森林の生態調査及び周辺環境の調査』になります。」
ドリュアス森林の生態調査!?まさかとは思うが一度この都市を離れて何かをするという事なのだろうか?それにこの都市からドリュアス森林までは歩いて3日、自転車をクリエイティブしたとしても2日は掛かってしまう距離だ。黒騎士さんは一体どんな作戦を立てているのだろう…。
「数日前にドリュアス森林周辺で膨大な魔力を複数検知したとの情報が入りました。今回はその膨大な魔力の正体の調査及び、それに関する何らかの情報や痕跡がないかを調査及び、ドリュアス森林の生態調査と周辺環境の状況を合わせた調査クエストとなっております。そして今回のこのクエストには、イスタリアム騎士団の兵士も2名同行する事となっております。ですので今回のクエストは騎士団の兵士2名と協力して調査に当たって頂きます。よろしいでしょうか?」
「もちろん問題無い。それから私の古い友人であるこちらの”ローレウス”にも冒険者の登録を行なってもらえないだろうか?」
「冒険者の登録…ですか…。それは構いませんが…。」
「お手数をお掛けして申し訳ありません。古き友人である”黒騎士”から紹介がありました通り、私の名は”ローレウス”と申します。以後お見知り置きを…。」
”ローレウス”!?それに誰に対しても”様”を付けて名前を読んでいたローレンさんが黒騎士さんの事を呼び捨てにするとは…。僕はローレンさんのとっさのアドリブ力に関心してしまった。それにしてもローレンさんは冒険者の登録をしていないのか…。
ん?なぜ黒騎士さんはその事を知っているんだ?それとも偽名を名乗って今は人間の姿に変装しているから…っという設定なのだろうか?
冒険者の登録を済ませていなくても後から合流すれば何も問題は無いが、今回のクエストの場合はイスタリム騎士団の兵士も一緒に同行するとなれば、冒険者の登録を済ませておいた方が何も怪しまれずに済むのは確かだ…。ローレンさんのとっさのアドリブといい、もしやローレンさんは黒騎士さんが考えた今回の作戦の事を事前に知っていたのでは…?
それはそうと、冒険者の登録に関して1つだけ問題がある。
登録を行う際には、”映し身のプレート”という特殊なプレートに手をかざす事で、かざした人物の名前や取得しているスキルや魔法などの情報を読み取って行きというものだ。そして今のローレンさんの姿は仮の姿…。もしローレンさんがエルフという事が冒険者登録をする事によって正体が明るみになり、潜んでいる神聖教団の耳に入ってしまったら今回の潜入作戦どころかエレナさんの身にも危険が及んでしまう可能性がある…。
ローレンさんの正体がバレてしまうのでは無いかと心配していると、ローレンさんが僕に向けて優しく笑みを浮かべると、ローレンさんはマインさんが準備した”映し身のプレート”へと手をかざし始めた。
「………。」
登録が完了するまでの数分間、僕は冒険者登録をしているローレンさんの姿を手に汗握りながら見守った…。
「はい!これで”ローレウス”さんの冒険者登録が無事に完了しました!!」
どうやら無事にローレンさんの冒険者の登録が完了したようだ…。
受付嬢のマインさんの反応を見る限りローレンさんの正体がエルフであるという事はバレていないようだ。
何か特別な魔法や術などを使用したのだろうか?ともあれ、これでローレンさんの冒険者の登録も無事に完了した。黒騎士さんが言った”私の古い友人”というのも少し強引な気もしたが、結果無事に事が進んだので良しとしよう。
「それでは改めてクエストの受注を受け付けました。今回はイスタリアム騎士団の兵士との合同クエストになりますので、今から2階の会議室へとご案内致します。黒騎士様達を会議室に案内した後、顔合わせも兼ねて同行するイスタリアム騎士団の兵士をこちらの会議室にお連れしますので、クエストの日程の調整などについて話し合いをして頂ければと思います。」
そう言うとマインさんは僕達を2階の会議室へと案内してくれた。
「こちらの会議室でお待ち下さい。」
「案内してくれた有難うございます、マインさん。」
「いえ、これも私の仕事ですから!それでは今から同行する騎士団の方をお連れしますので、今しばらくお待ち下さい。」
マインさんは僕達に一礼すると会議室を後にして同行する騎士団の兵士を呼びに向かった。
「ふぅ…。」
僕は会議室のドアが閉まると、気が少しだけ緩み安堵のため息が漏れてしまった。
「どうやら張り詰めていた緊張が少しだけ緩んだようですね。」
「はい…。一時はどうなるかと……。」
「このまま立っておくのも何ですし、とりあえず座って騎士団の皆さんが来るのを待ちましょう。」
「そうですね…。」
それから会議室で待つこと数分、会議室のドアをノックするとマインさんと今回のクエストに同行するイスタリム騎士団の兵士が2名が入って来た。
「お待たせしました。今回のクエストに同行する騎士団の兵士2名をお連れしました。」
「今回のクエストに同行させて頂きます、イスタリアム騎士団 調査班所属のドール・マッハスと申します。」
「同じく今回のクエストに同行させて頂きます、イスタリム騎士団 調査班所属のサム・ロールと申します。」
今回のクエストに同行する騎士団のドールさんとサムさんは自己紹介すると、頭に被っていた鎧を外し素顔を見せ律儀に深く頭を下げて挨拶をしてくれた。
「それでは私はこれで失礼します。」
マインさんはそう言うと会議室を後にした。
僕達はその後ドールさんとサムさんに軽く自己紹介すると、ローレンさんは2人を席へと案内した。
「ではお言葉に甘えて…。」
ローレンさんの案内で2人が席に着いた途端、
2人の身体から力が抜け死んだように椅子にもたれた。
「ローレンさんこれは一体!?」
「ご心配なさらずとも2人は眠っているだけでございます。」
ローレンさんはそう言うと、椅子に死んだように眠りながらもたれかかっているドールさんとサムさんを床の方に下ろすと、2人が身に付けている鎧や他の装備を慣れた手つきで脱がし始めるとあっという間に2人は下着姿の状態になった。
「思った通り、この鎧はそれぞれの兵士に合わせて特注で作られているようですね。2人の体にフィットした作りになっております。それに鎧の架空パーツに盗難防止の為か製造番号のような物まで刻印されております。念の為これは控えておいた方がいいでしょう。」
「そうだな。それにしてもここまで徹底して管理するとは流石イスタリアム騎士団と言ったところだな。」
ローレンさんの一連の行動からして、どうやらローレンさんは黒騎士さんの作戦を事前に知っていたようだ。
「それではハルト、次はハルトの力を使う番だ。」
「はっ…はい…。でも僕は一体何をすれば…?」
「この兵士2人から脱がした鎧を元にして、ハルトとローレンの身体に合った鎧をクリエイティブしてくれ。念の為製造番号も忘れずに。」
「わっ…分かりました!」
僕はドールさんとサムから脱がした鎧を元に自分達の背丈に合った鎧をクリエイティブすると、それを早速自身に身に付けた。
「上手く行きましたね。ハルト様。」
「なんとか…。」
イスタリム騎士団の鎧を身に付けた感想は、見た感じ重量感のあるイメージだったが着用した感じは意外と軽く動きやすいという事だ。それはそうと、鎧を逃したドールさんとサムさんは一体どうするのだろうか?このまま会議室に放置…という訳にはいかないが…。
「黒騎士さん、ドールさんとサムさんは一体どうするんですか?」
「この2人にはしばらくの間、ハルトとローレンとして過ごしてもらう。」
「僕とローレンさん…にですか?」
「うむ。ローレンの精霊魔法”容姿変化を使用して2人の容姿をハルトとローレンに変化させ、睡眠状態の2人に私の魔法”行動操作”で2人を操り宿まで移動させたら、しばらくの間そこで眠ってもらう事にする。」
「では早速…。」
ローレンさんは、ドールさんとサムさんに精霊魔法”容姿変化を使用すると、2人の容姿は完全に僕とローレンさんに変化した。
そして次に僕とローレンさんの着ていた服を簡易的にクリエイティブし2人に着せると、黒騎士さんが”行動操作”を2人に施し、2人はまるで生きているかのように自然な状態でその場から起き上がった。
「体格に多少の違和感はあるが、まぁ許容範囲だろう。その辺は私が上手くカバーするから心配する事は無い。そして今回の潜入捜査だが、日が昇る前までには切り上げて宿に戻る…。という事でいいな?」
「もちろんでございます。それまでに何らかの手掛かりや情報…。そしてエレナ様や他の囚われている人達を発見すれば必ず救出いたします。」
「僕も全力でサポートします!」
「うむ。ではマインの方にはクエストは明日の昼前に出発すると伝えておく。私もできる限り近くで見張っているつもりだが、万が一の時に備えてこれをハルトに渡しておこう。」
黒騎士さんはそう言うと、僕に黄色に輝くクリスタルを渡して来た。
「これは…?」
「もし危機的状況に陥った時はこれにハルトのマナを注ぎ込むんだ。そうすればきっと2人に力を貸してくれるはずだ。」
「分かりました。ありがとうございます、黒騎士さん。」
「うむ。では私は先に会議室を出る、2人とも…健闘を祈っているぞ。」
黒騎士さんは僕達にグッドポーズをして見せると、僕とローレンさんに変化した2人を連れて会議室を先に出て行き、いよいよ冒険者協会内部の潜入捜査が始まるのだった。