#53 〜宿屋にてⅠ〜
”堕炎の守護者ベリアル”の名を聞いた黒騎士様は、
自身の手を力強く握りしめ部屋の中に鎧が軋む音が響いた。
「黒騎士さん…。”堕炎の守護者”って事は…ローレンさんが遭遇した女性というのはもしかして…。」
「あぁ…。”堕炎の守護者ベリアル”はベルゼブブと同じ堕天使サタンが率いるリベリオン軍、失楽の守護者の1人だ。恐らくダークエルフの郷を襲撃した炎の魔獣はベリアルが召喚したのだろう…。まさかベリアルがダークエルフの郷…”フォールクヴァング消滅事件”に関与していたとは…。」
「黒騎士さんの仰る通り、ダークエルフの郷を襲った炎の魔獣は”堕炎の守護者ベリアル”が召喚した魔獣でした。つまりそれが意味する事は…魔法国家ナリアティスの国王である”ガルベルト・ハイ・ナリアティス”様は堕天使サタンが率いるリベリオン軍と対立し、魔法国家ナリアティスの同盟国である”ヴァラマ帝国”を裏切ったという事でございます…。」
「まさか…裏で繋がっていたとは…。」
私自身…その事実を今だに受け止められずにいる。
まさかガルベルト王が同盟国であるヴァラマ帝国を裏切り堕天使サタンと手を組んでいたという事実が…。
「それから”堕炎の守護者ベリアル”は駆けつけた私達に向けて…」
『遅かったじゃないか第二王子アラン・ハイ・ナリアティスにその執事ローレン・ドミニカル…。お前達には何も恨みはねぇが…ここで死んでもらおうか!!!』
「そう言うとベリアルは私達に襲いかかり私達もすぐさま応戦しましたが、あまりにも力の差が大きく彼女の攻撃を防ぐのが精一杯でアラン様と私はエレナ様とファナ様が居る聖堂から引き離されて行きました。このままではエレナ様とファナ様の元に会う前に2人共死んでしまう…。そう思い私が犠牲になり時間を稼ごうとした時…、アラン様が私よりも先にベリアルの元へと行き私にこう告げたのです。」
『ローレン!!ここは私が引き受ける!!!ローレンは聖堂に居るエレナとファナの元へ!!あの2人にはローレンが必要だ…特にエレナにはお前が……。2人を託したぞ…。だから振り返らずに2人の元へ!!』
「っと…。」
私はその時の出来事を記憶の中から思い出しては、
ハルト様達にまるで昨日あった出来事のように鮮明に話した。
「私はそれから振り返らず…エレナ様とファナ様が居る聖堂へ向けて走り出しました……。そして聖堂の中にある巫女の間でエレナ様とファナ様を見つけると、私達はそのままダークエルフの郷を抜け出しましたた…。それから私達は2年間、身を隠しながら魔法国家ナリアティスから東の地にあるとされる”他種族国家トリミニオ”に向けて旅をしていました。」
「他種族国家トリミニオですか!?」
「はい。」
”他種族国家トリミニオ”という言葉にハルト様とマーガレット様が反応を見せた。
どうやら2人は”他種族国家トリミニオ”について何か知っている様子だ。
「実はーーー」
「ハルト様、私がローレンさんにお話しします。」
マーガレット様はそう言うと、ハルト様に変わって”他種族国家トリミニオ”について話をしれくれた。
どうやら”他種族国家トリミニオ”はかつての厄災の影響で今は見る影も無く、今は廃墟と化し今ではその存在を知る者は殆どいないとか…。それを私に説明しているマーガレット様はどこか寂しげな表情を見せていた。
「以上が私が知る限りの”他種族国家トリミニオ”の現状になります。」
「やはりそうでしたか…。この2年間、私達は旅をしながら”他種族国家トリミニオ”について色んな方に訪ねてみましたが知る人は殆どいませんでした…。しかし私達は僅かな希望を胸に旅を続けていましたが、この土地に辿り着いたあの日、”神聖教団暗躍部隊”が私達を襲いファナ様はエレナ様を庇い命を落としてしまいました。そして私もエレナ様を守り切る事が出来ず致命傷を負わされ、気付いた時には私は自分の過去の記憶の世界に居ました。」
「記憶の世界…ですか。」
「はい。先程も少し話させて頂きましたが、その記憶の世界で私は襲撃者に襲われ自分の死と引き換えに”魂の介入”という術を発動したファナ様と再開しました。そこで私はファナ様に”千里眼”という特殊なスキルがある事を知らされ、アラン様との出会いやダークエルフの郷が消滅する事…そしてファナ様やアラン様が自身の身に何が起こるのかを全て予知していた事を知らされました。」
「これから起こる全ての事をですか?それじゃあ前もって知っておけばーーー」
「私もハルト様と同じ事をファナ様に言いました。なぜその事をアラン様や私に話してくれなかったのか…。もし事前に知っておけばダークエルフの郷が滅ぶ事も…アラン様とファナ様が命を落とす事も回避する事が出来たのではないかと…。」
「ローレンさん…。」
理由を知っていても尚、もしあの時その事を知っていれば…何かが変わっていたのではないかと私は思ってしまう。きっと別の方法があったのではないかと……。
「そしてこの事はアラン様も知っておられました。ファナ様がどのタイミングでアラン様に告げたのかは分かりませんが…。しかしファナ様とアラン様が私に言わなかったのにはちゃんとした理由がありました。それはこれから起こる”ある出来事”に私とエレナ様の力が必要なのだと…。そしてその為にダークエルフの郷が滅ぶ事も、ファナ様とアランの命を落とす事も全て必要な事なのだと仰っておりました。」
「これから起きる出来事って一体…?」
「ファナ様が予知した未来では、”大いなる闇”が復活しこの世界に大厄災をもたらすとされています。その大いなる闇に立ち向かう1人の転生者の姿とその仲間達の姿があり、その中に私とエレナ様の姿があったと仰っておりました。最後にファナ様は”商業都市イスタリアム”へと行き、転生者であるハルト様を探すように言い残し私は記憶の世界から目が覚めました。そしてファナ様が予知した未来で大いなる闇に立ち向かっている転生者というのは、ハルト様…貴方です!!」
「僕…ですか?」
「はい。」
大いなる闇が復活しその闇に立ち向かう1人の転生者…。
それが自分なのだと告げられたハルト様の表情は、戸惑いを隠せておらず少し動揺を見せていた。
無理もない…私がハルト様と同じ立場ならきっと同じ反応を見せているでしょう…。
しかし…大いなる闇に立ち向かう転生者は、きっとハルト様で間違いないと私は心の中で確信していた。
「急にそんな事を言われても…実感が湧かないというか……。それに僕はそんな大した人間じゃありません…。マーガレットや黒騎士さん…そしてレヴィーの支えがないと何も出来ないんです。」
ハルト様はそう言うと苦笑いをして見せた。
「そんなハルト様だからですよ。」
「えっ?」
「そんなハルト様だからこそ大いなる闇に立ち向かえるのだと私は思います。」
動揺しているハルト様にマーガレット様が優しさに満ちた声で不安を打ち消すかのように告げた。
黒騎士様もマーガレット様のその言葉に頷くと、ハルト様に向けてグッドポーズをして見せた。
「マーガレット…黒騎士さん……。」
「きっとレヴィーも皆さんと同じ気持ちだと思います。」
「出会った私が言うのも何ですが、私もマーガレット様達と同じ気持ちでございます。残念ながらその”大いなる闇”が何なのかは分かりません…。しかしその時が来たら私も全力でハルト様の力になると約束いたします。」
「ローレンさん…。」
「ですのでハルト様!まずはその大いなる闇に立ち向かう前にエレナ様を助け出しましょう!!」
ハルト様はマーガレット様の太陽のような笑顔に不安と動揺が少しだけ溶けたのか、
一呼吸して気持ちを落ち着かせると私達にに向けて大きく頷いたのだった。




