#39〜狼煙〜
ミラーウォールに映る青いオーラを纏い背中には翼が1枚生えている自分の姿…。
例えるなら…”終焉を纏いし片翼の転生者”と言ったところだろうか…我ながらこのネーミングセンスに抜群のセンスを感じてしまった。まさに中二病全開である。
「どうだ?力の一部とはいえ『Ω』の力を解放した感じは?」
「そう…ですね……。額に浮き出ている『Ω』の文字を中心にマナ…とは”違う力”が湧き出ている感じがします。それに身体の中心部分にも何か別の力というか…不思議な感覚があります。」
「額に浮き出ている『Ω』の文字から湧き出ているのが”オーラ”で、身体の中心部分に感じている不思議な感覚というのが”魔力”だ。慣れない内は2つの力が混合して戸惑ってしまうかもしれないが、慣れて行けば”魔力”と”オーラ”を使い分けて使用する事やそれぞれの力を組み合わせて使用する事も出来るようにもなるはずだ。」
『Ω』の力を解放している時だけ使用する事が出来る”魔力”と”オーラ”…。
普段クリエイティブの時に使用している”マナ”とは違い、それぞれが意思を持って身体の中を巡っているような感覚だ。
「せっかく『Ω』の力を解放したんだ、まずは少しだけ”魔力”の使い方について教えよう。君の身体の中には”マナ”、”魔力”、”オーラ”、この3つの力が巡っている。今は3つの力が混合して混乱しているとは思うが、まずは身体の中心部分に感じている”魔力”…君が感じている不思議な感覚に意識を集中するれば他の2つの力より”魔力”を強く感じ取れるはずだ。」
僕は黒騎士さんに言われた通り身体の中心に感じている”魔力”に意識を集中させた。
意識を集中させてしばらくすると次第に”魔力”以外の”マナ”と”オーラ”の力が弱まり、その2つの力が弱まって行くにつれて”魔力”の力が徐々に強く感じ始めた。
「黒騎士さん、徐々にですけど身体の中心部分に感じている不思議な感覚…”魔力”を強く感じ始めました!」
「よし。では次に片方の腕を宙に掲げてくれないか?君が掲げた腕に私が魔法陣を展開するので、掲げた腕に魔法陣が展開したらそこに”魔力”を注ぎ込むんだ。」
「分かりました!」
黒騎士さんは僕が右手を宙に掲げたのを確認すると、魔法陣を宙に掲げた右手に展開させた。
展開された魔法陣は1つで半透明な色をしており僕の右手を時計回りにゆっくりと回転していた。そして僕はクリエイティブの要領で展開された魔法陣に”魔力”を注ぎ込むと、半透明だった魔法陣の色が次第に青色へと変化していった。
「無事に魔法陣に”魔力”を注ぐ事に成功したようだな。それじゃあ私が今から展開した魔法陣の名称を教えるから魔力を注いだ右腕に意識を集中しながら教えた名称を口に出すんだ。名称を口に出す事で魔法陣がそれに共鳴して魔法が解き放たれるはずだ。」
「分かりました!」
黒騎士さんはそう言うと僕の耳元で魔法の名称を教えてくれた。
そして僕は宙に掲げた魔法陣に意識を集中させ教えてもらった魔法の名称を空に向けて叫んだ。
「”フィニス・プラエヌン・イグニース!!”」
その言葉に魔法陣が共鳴し魔法陣から青い光の柱が放たれると、その光の柱は月を覆っていた雲を貫き輝きを放ちながら天に向かって勢いよく昇って行った。僕は天に昇って行く光の柱を見ながら、神様から授かったこの力を”大切な人や場所を守る為に使う”と改めて心に誓った。
「上出来だ。」
「いえ、これも黒騎士さんが教えてくれたおかげです。ありがとうございます黒騎士さん!」
「礼には及ばんよ。」
しばらくすると魔法陣から放たれた青い光の柱は魔力が尽きたのか徐々に消えて行った。
それと同時に解放していた『Ω』の力も解除され元に姿に戻ると、僕は激しい疲労感に襲われ立っているのも辛くなりその場に膝をついてしまった。
「大丈夫か?」
「はい…なんとか…」
「どうやらこれが今の君が使用出来る『Ω』の魔力量と力の解放時間のようだ。慣れていけば魔力やオーラの使用量、そして力の解放時間も増えるだろう。しかし今の現時点では長時間の戦闘には不向きだ…使用する際はここぞという時に使用するんだ。」
「はい…。」
「少し無理をさせてしまったな…。今日は私が見張りをしているからゆっくり休むといい。」
「じゃあ…お言葉に甘えて休ませて頂きます。お休みなさい黒騎士さん。」
「あぁ。お休み。」
僕は疲弊した身体を休めるべく、見張りを黒騎士さんにお願いして深い眠りに付いた。
そして僕はこの時まだ知る由もなかった。天に目掛けて放った青い光の柱がとある者達に向けてのメッセージだという事を…。
◇
「ん〜…」
何処からか小鳥達の囀りが聞こえて来る。
どうやら小鳥の囀りがアラームの役割を果たして僕に朝を知らせてくれているようだ。
しかし…ぐっすり休んだはずなのに体が重い…昨晩『Ω』の力を解放した時の疲労が完全に回復しきっていないのだろうか?どうも身体の右半分だけが妙に重い…。とりあえずこのまま寝ている訳にもいかないし重い身体を起こして背伸びでもして眠気を覚ますとしよう。僕はそう思い、重い身体を起こそうとした時ある事に気付いてしまったのだ。
「!?」
身体の右半分だけが妙に重い正体はレヴィアタンだった。
レヴィアタンは僕の右腕の脇のスペースに入り込み、僕を抱き枕としてスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。それにしても気持ちよさそうに寝ているレヴィアタンの寝顔はまるで天使そのものだ…。
「ん〜…おにぃ〜たん?オハヨォ〜…」
どうやらレヴィアタンを起こしてしまったらしい。
まだ寝ぼけているのか片方の手で目を擦り、もう片方の手でしっかりと僕の服を握っていた。
そんなレヴィアタンの姿に癒されているのも束の間…背後から殺気に満ちた視線を感じた。僕は背後に感じる視線の方へと恐る恐る振り向くと、そこには不気味な笑みを浮かべているマーガレットの姿があった。
「おっ…おはよう…マーガレット…」
「おはようございますハルト様。ずいぶんと幸せそうな朝を迎えたみたいで何よりです。」
あぁ…これは完全にお怒りモードに入っている。
「これは…違うんだよマーガレット…朝起きて気付いたらこういう状態になっていた訳で…」
僕はすかさず黒騎士さんの方を見て助けを求めるが、流石にヤバイ雰囲気を感じたのか黒騎士さんは視線を逸らすとそのまま立ち上がり朝食の準備をすると言って席を外した。マーガレットの方に視線を戻すと、さっきより更に不気味な笑みを浮かべ僕の前に立っていた。
「あの〜…マーガレットさん?」
「覚悟はよろしいですかハルト様?」
「ご…ごめんさい…マーガレット様……」
マーガレットは殺意に満ちた笑顔を見せ僕を目掛けて強烈な回し蹴りすると、その一撃は見事僕にクリティカルヒットし僕は死にかけたのだった。
その後黒騎士さんに回復魔法を施してもらい僕は何とかこの世に止まる事ができた。そしてマーガレットに必死に説明し何とか誤解を解く事に成功した。
それからレヴィアタンを起こし僕達は黒騎士さんが用意してくれた朝食を美味しく頂き、旅立つ準備をしていると黒騎士さんが話しがあると僕達に話し掛けて来た。
「昨晩話そうと思っていたのだが色々とあって話すタイミングを逃してしまってな…。君達が探していたドライアドについてだが、単刀直入に言うと彼女は生きている。」
「えっ!?ドライアドさんが生きている!??」
「あぁ。もし仮に彼女が死んでしまったとしたら、彼女の本体でもある”精霊樹ドリュアス”も命の灯火を失ってしまいこの森全体が枯れ果ててしまうに違いない。だが、今もこうしてこの場所は素晴らしい自然に満ち溢れているという事は彼女が生きているという証だ。」
「良かった…。」
黒騎士さんの話を聞いてマーガレットも安堵した様子だ。
「じゃあどうして僕達の前に姿を現さないんでしょうか?」
「何らかの事情があって人前に姿を現す事が出来ないのだろう。理由は定かでは無いが旅を続けていれば何か手がかりが掴めるかもしれない。君達さえよければしばらくの間君達の旅に同行させてくれないか?ドライアドの事も含め出来る限り協力したいと考えている。」
黒騎士さんの申し出を断る理由は無かった。
僕は確認の意味も込めてマーガレットとレヴィアタンの顔見ると2人共快く頷いた。
「もちろん!!こちらこそお願いします黒騎士さん!!」
「あぁ、改めてよろしく頼む。」
「はい!」
そして僕達は当初の目的地でもあった”商業都市イスタリアム”に向けて、マーガレットとレヴィアタン、そして黒騎士さんと僕の4人で旅立ったのだった。
次回から新章に入ります!!