#37〜懐かしい声〜
まさかあの神様が最初の人間の1人でもある”イヴ”が器となり、”創造を司る神クリアラス”の魂の半分と融合して誕生したのが”終焉の神オメガ”だったとは…。
人間を愛していたクリアラスさんの魂が半分宿っていた事と、その魂の器になったのが最初の人間であるイヴさんだったからこそ、転生する前に『新しい世界に危機が陥った時は力を貸して下さい』と僕にお願いしたんだろう。人間と人間が住む世界を今でも大事にしている事が伝わる。
「じゃあ…僕が転生する前に会った神様は、”創造の神クリアラス”さんと”イヴ”さんの2人でもあったわけですね?」
「まぁ…そういう事になるな。魂の半分と融合したから完全に”創造を司る神クリアラス”というわけにはいかないが、その”善”の意思は受け継いでいるに違いない。」
「じゃあもう半分の魂に宿っているのが”悪”の意思って事ですか?」
「うむ。その”悪”の意思から生まれたのが”誕生の神アルファ”だ。なので君がなぜ『Ω』の力を付与されたのにもかかわらず悪夢の中で見た自分の額に『α』の文字が浮かび上がっていたかというと、魂が分離したとはいえ元は”終焉の神オメガ”も”誕生の神アルファ”も元は1つの存在だった事が原因の1つだ。魂は離れていても魂の根本の部分では少なからず繋がっているという事だろう。君がベルゼブブの分身体との戦闘中、何らかの”負”の感情に飲み込まれた事で『α』の力が反応して君の精神に干渉したのかもしれない。」
ベルゼブブの分身体との戦闘中に感じた…”負”の感情……。
…
……
………
…………
僕はその時に感じた”負”の感情、そしてその時の出来事を思い出した。
ベルゼブブの分身体との戦闘中に言われた事を今思い出すだけでも正直心がざわついてしまう。
僕は”負”の感情に飲み込まれないよう一呼吸して気持ちを落ち着かせると、その時の事を黒騎士さんに話した。
「実はベルゼブブの分身体と戦っている時の事を少しだけ思い出したんです。」
「君がよければ話を聞かせてくれないか?」
「はい、僕達は本来この森を抜けた先にある”商業都市イスタリアム”に向かう予定だったんです。そしてマーガレットはこの森の管理者でもあるドライアドさんと面識があったようなので、この森の生態系が変化した事も含めドライアドさんに直接聞いてみようと思って、立ち入りが許可されている先のこの場所までドライアドさんを探しに来ました来た。」
「なるほど…そういった経緯があってこの場所に来たのか。」
「はい。ですが立ち入りが許可されている場所から先に進んでもドライアドさんが僕達の前に現れる事は無く、この場所に着いてドライアドさんの本体でもある”精霊樹ドリュアス”は確認出来たんですけど…。突然ベルゼブブの分身体が僕達の前に現れて僕はベルゼブブの分身体、そしてマーガレットはその時操られていたレヴィアタンと戦闘になりました。そして戦闘の最中、僕は分身体に腹部を貫かれました。そして痛みに悶えている僕の姿を見て分身体がこう言ったんです。」
”『ドライアドも貴方と同じようにもがき苦しんでいましたよ…。最後の最後まで抵抗していましたが…最後は呆気なく…。』”
「僕はその言葉を聞いて察したと同時に自分を責めてしまいました…。もう少し早めにここに来ていれば何か変わったかもしれない…僕にもっと力があれば助ける事が出来たかもしれないって…。」
今でもその後悔の念は僕の心の中に残っている。
「それを面白おかしく笑いながら話すベルゼブブの分身体と無力な自分を酷く憎みました。そして力が欲しいと心の中で願ったところまでが僕が覚えている記憶です。たぶん僕はその時、”負”の感情に飲み込まれてしまったんだと思います。」
そして僕は”負”の感情に飲み込まれて『Ω』の力を無意識に解放し、それと同時に”負”の感情に反応した『α』の力が僕を支配してしまった…。
もしこの時、黒騎士さんが助けに来てくれなければ僕はマーガレットやレヴィアタンにも気概を加えていたかもしれない。一歩間違えれば大切な人の命まで奪ってしまう可能性がある”力”だという事を僕は身をもって実感した。
「たぶんその時抱いた”負”の感情に『α』が反応したに違いない。」
「やっぱり…そうでしたか。」
「しかし、しばらくはその心配も無いはずだ。」
「えっ?」
黒騎士さんはそう言うと”青色をした水晶”を僕に手渡した。
「黒騎士さんこれは?」
「これは”封印の玉”だ。」
「封印の…玉?」
手渡されたその水晶をよく見てみると『Ω』の文字が刻まれていた。
「君が終焉の神オメガから付与された力をこの”封印の玉”の中に封印した。今の君の状態じゃいつその力に飲み込まれてしまうか分からないからな。」
黒騎士さんの言う通りだ。
今の僕の精神状態じゃまたいつこの力に飲み込まれてしまうか分からない。
それに今回は黒騎士さんが居てくれたからこそ最悪の事態を防げた。もし次にこの力を解放して暴走してしまった時、黒騎士さんが近くに居るという保証は無い…。
「黒騎士さんの言う通り、今の僕の状態でこの力を使用したらまた飲み込まれてしまうと思います…。そして最悪の場…大切な人達に危害を加えてしまうかもしれません…。」
「確かに今の君の状態で次にこの力を使用したらそうなる可能性は高い。しかし”付与された力の一部”を使うなら問題は無いだろう。」
「力の一部…ですか?」
「うむ。君の『Ω』の力を封印したからといって全く使用する事が出来ない訳じゃ無い。この”封印の玉”はその身に余る力を一旦この中に封印し、使用者の今の実力を見極めてその実力に見合っただけの力を解放して使用する事が出来るという物なんだ。つまり、君の精神力や実力が成長して行けば行く程『Ω』の力を使いこなして行けるという事だ。試しに今ここで使用してみるといい、今の自分の実力が分かるはずだ。」
「使用するにはどうすれば?」
「まずはこの”封印の玉”に向けて自身の意識を集中してみるんだ。」
「”封印の玉”に意識を集中………。」
僕は目を閉じて手元にある”封印の玉”に意識を集中させる。
すると自分の意識が何かに引き寄せられ、気付くと僕は何も無い真っ白な空間に”封印の玉”を持ちながら立っていた。
「どうだ?」
どこからか黒騎士さんの声がこの真っ白な空間に響き渡った。
辺りを見渡しても黒騎士さんの姿は見当たら無い。僕はとりあえず自分の声が届くかの確認も含めて黒騎士さんの声に返答した。
「はっ…はい!何か気付いたら真っ白な空間に立ってますけど…ここは一体…?」
「そこは君の精神世界だ。どうやら無事に自分の精神世界に入れたようだな。」
「精神世界…ですか?」
「あぁ。そしたら次に手に持っている”封印の玉”に自分のマナを注ぎ込むんだ。それに成功すれば君の『Ω』の力が何らかの形で具現化され目の前に現れるはずだ。」
”封印の玉”に自分のマナを注ぎ込む…。
僕はクリエイティブをする時の要領で手に持っている”封印の玉”にマナを注ぎ込んだ。
するとマナを”封印の玉”に注ぎ込む事に成功したのか”封印の玉”が輝き始め、次第にその輝きは強さを増して行き、辺りを埋め尽くし僕は耐えきれず視線を逸らした。
”封印の玉”から発せられていた輝きが収まり視線を戻すとそこには神様に似た青色に輝く像が宙に浮遊しており、その像の背中には1枚の翼が生えていた。
「神様……!?」
「どうやら成功したようだな。」
「はい…。」
目の前に現れた神様に似た像を見て僕はある事を思った。
この世界に転生する前に会った神様の背中には確か翼が”6枚”生えていたはず…。
この翼が使用できる力の量を示しているのだとすれば、僕が今使用できる『Ω』の力の量はこの翼1枚分という事になる。この翼1枚分がどれくらいの力を持っているのか…それとこの力を使用するにはどうすればいいかを黒騎士さんに聞こうとした時、どこからか懐かしく優しさに満ちた声が聞こえて来た。
「お久しぶりです、ハルトさん。」
「!?」
聞き覚えのある声に僕は固まってしまった。
「あら?聞こえていますか?」
この声…間違いない…この声の持ち主は…。
「この声…もしかして!?」
「はい。私こと、終焉の神オメガの声です。」
真っ白なこの空間に神様の懐かしくも優しい声が響き渡ったのだった。