#34〜明かされる歴史〜
それから僕はマーガレットと黒騎士さんから意識を無くしていた時の状況について教えてもらった。まさか僕が『Ω』の力を覚醒してしまったとは…。この世界に転生する前に神様が言っていた『私の持つ力を付与した』とはこの力の事だったのだろうか…?
でも僕が見た悪夢の中の自分の額に浮かび上がっていた文字は『Ω』では無く『α』だった。
確か、『Ω』は”終わり”を意味しているのに対して『α』”始まり”などを意味したりする。
僕は黒騎士さんにその事を含めて悪夢で見た事を全て話す事にした。
「黒騎士さん、僕が見た悪夢の事ですが…」
「あぁ、もしよければ聞かせて欲しい。その状況でも構わないのであれば…。」
黒騎士さんの言う”その状況”というのはレヴィアタンの事だった。
マーガレットに僕の胸元から何度引き剥がされても、レヴィアタンを隙を見つけては僕の胸元にダイブして顔を埋めて『おにーたん!!』と連呼しながらスリスリを繰り返していたのだ。マーガレットもついに諦めたのかその場に座り込み背後にはどんよりとしたオーラーが漂っていた。
「私もまだ…ハルト様にスリスリした事無いのに…羨ましい…。」
マーガレットの口からは心の声が漏れていた。
その悔しそうな表情をしているマーガレットの姿を見てレヴィアタンはこう呟いた。
「これは妹の特権なのです!!」
「えっ!?いっ…妹!?」
「はい!私はハルト様の妹のなのです!!だから”おにーたん”なのです!!」
胸元から上目遣いで僕を見上げるレヴィアタンの瞳はとても輝いていた。
そしてすかさず僕の目を見てレヴィアタンはこう言った。
「だ…ダメですか…?迷惑ですか…? ハルト様の妹になっちゃ……。」
その瞬間、僕の心の中で新たな扉が開いたような音がした。
こんな可愛くて、痛い気で、強くて、美少女な幼じっ…いや女の子が妹になりたいと上目遣いでお願いして来て、それを断る事が出来る男性がこの世の中にいるのだろうか?
答えは…
NOだ!!
理由はそれだけじゃ無い。どうやらレヴィアタンはマーガレットの昔の仲間らしい。気心がしれた仲間が近くに居ればマーガレットの心も少しは休まるかもしれない。
それに僕が戦ったベルゼブブは本人では無く、自分の部下に自身の力を与えて作り出した分身体という事はベルゼブブ本人はまだ生きている。そしてまたいつレヴィアタンの力を利用しようとして来るか分からない…。今の自分に何が出来るか分からないが、1人で居るよりも僕やマーガレットと一緒に居る方がまだ安全だろう。
そういった理由もあって僕はレヴィアタンの”おにーたん”になる事を心に誓った。
「迷惑じゃないよ、僕でよければ。」
僕のその言葉を聞いてレヴィアタンは天使のような満面の笑みを浮かべると、マーガレットの方を向きグッドポーズをして見せた。
「そっ…そんな……ハッ…ハルト様…」
マーガレットはレヴィアタンのグッドポーズを見ると、絶望した表情を見せその場に倒れ込んでしまった。これがアニメや漫画の世界ならマーガレットは白黒のタッチで”チーン”という効果音が頭上で鳴っているに違いない。
「まっ…まぁそんなに落ち込まないで、マーガレット。」
「ですがぁ〜…よりによってレヴィアタンがハルト様の妹になるなんて…」
「私はおにーたんの妹なのです!!」
「うぅ…」
「まぁまぁ…」
「君も大変だな…」
レヴィアタンに胸元でスリスリされ、それを見て落ち込むマーガレットをなだめる僕の姿を見た黒騎士さんは同情するようにそう呟いた。
それからしばらくして辺りも暗くなり、マーガレットとレヴィアタンも疲れ果てたのか2人共静かに眠りにつき騒がしかったこの場所も今は静かになっていた。
「2人共疲れて寝てしまったようだな。」
「はい。」
それからしばらくして僕は改めて黒騎士さんに自分が見た悪夢の事について話した。
「黒騎士さん、僕が見た悪夢の事ですけど…」
◇
「そうか…そんな悪夢を…」
「はい…。」
黒騎士さんは僕が見た悪夢の話を聞いて何か思う事があるのかしばらく考え込んでいた。
それにしても悪夢の中に出て来たもう1人の自分が最後に言った台詞………。
”『いいか!さっき見せた姿がお前の本来の姿だ!!どう足掻いても未来を変える事は出来ない!!!俺はお前だ!!!またいつか…俺は…お前を……』”
僕はその台詞が心の中にずっと残っていた…。
額に『α』の文字を輝かせ大切な人達を笑顔で手にかけ血塗れたあの姿…あれが僕の未来に待ち受けている姿だっていうのだろうか?
それが逃れられない未来だったとしたら…そう考えてしまうと僕は自分自身の存在が恐ろしく感じてしまう…。
だとしら僕は…僕は……………。
「大丈夫か?」
「えっ!?」
黒騎士さんの呼びかけに僕はふと我に帰った。
「あんな悪夢を見てしまっては不安になってしまうのも無理は無い…。私も君と同じ悪夢を見ていたら不安に押しつぶされれそうになってしまうだろう。」
「はい…」
「でも…そんな時こそ心をしっかりと保つんだ。君には守るべき大切な物があるのだろう?」
僕は寝ているマーガレットとレヴィアタンの方を見た。
「闇は不安や絶望といった感情を見つけてはその隙に入り込んで引きずり込もうとする。引きずり込まれて闇に染まってしまっては抜け出すことは難しい。俺は今までそういった人達を何人も見てきた…。だからもし不安や絶望に押しつぶされそうになった時こそ希望を持って心を震え立たせるんだ。希望を捨てない限り光が消える事は無い。」
「希望を捨てない限り光が消える事は無い…」
「あぁ、だから君は闇の中から戻れたんじゃないのか?」
確かに僕は悪夢の中であの光景を見て絶望してしまった。
でも最後まで僕はマーガレットを離す事無く、心のどこかで彼女の元に帰りたいと希望を持っていたのかもしれない。だからあの時、少しでも希望を持っていたからこそマーガレットの声が闇の中に居た僕の元に届いた。きっとそうに違いない。
「そうですね…。黒騎士さんの言う通り、大切な人の元に帰りたいって希望を心のどこかで持っていたからこそ僕はまたここに帰ってこれたんだと思います。」
「その事を忘れるな。」
「はい!」
「うむ。さっきより良い顔だ。その顔を見ればあの2人も安心するに違いない。」
「ありがとうございます黒騎士さん。」
「礼には及ばんよ。」
僕は黒騎士さんからの助言を心に刻んだ。
そして自分の心が落ち着いたところで、僕は悪夢の中で見た気になる事を黒騎士さんに尋ねてみた。
「黒騎士さん、僕は『Ω』の力を覚醒したんですよね?」
「あぁ…。」
「さっきもお話ししたと思うんですけど、僕が見た悪夢の中に居たもう1人の自分は額に『α』の文字が浮かび上がっていました…。それに悪夢の出来事はこの先起こる僕の未来だと…。」
黒騎士さんはうつむき少し間を開けると僕の質問に答えてくれた。
「”終焉の神オメガ”には君も会った事があるだろう?」
「はい。」
「その”終焉の神オメガ”と対をなす存在、それが”誕生の神アルファ”だ。」
「誕生の神…アルファ?」
「オメガとアルファは元々1つの同じ存在…。それがある時を境に善と悪に別れて誕生したのが”オメガ”と”アルファ”だ。」
「ある時?」
「この世界には元々4人の原初の神が存在していた。”混沌を司る神カオス”、”秩序を司る神コスモス”、”時を司る神クロノス”、そして”創造を司る神クリアラス” 。この4人の原初の神はまず初めに”無”から”有”を生み出し、生み出した”有”を元にこの世界と他の神々を誕生させるとそれぞれの神に役割を与えた。次に原初の神の4人はその世界に2人の人間を生み出し、その人間の他に植物や動物達といった生命を創り出し楽園を築いた。それが今も尚後世に受け継がれている”楽園都市エデン”だ。」
楽園都市エデン…僕が居た元の世界でも聞いいた事がある。
僕の居た世界と同じ伝承だとすると、その楽園に生み出された最初の人間2人というのは、”アダム”と”イヴ”に違いない。
「争いも無く平和な時を過ごしていた中である出来事をきっかけにその平和は終わりを迎えてしまった…。それが”オメガ”と”アルファ”が誕生するきっかけにもなった人間を賭けた神々の戦い…。」
「人間を賭けた戦い?」
「”ホムンクルス大戦”だ。」