#3〜転生〜
徐々に意識が戻り気が付くと僕は見知らぬ洞窟の中で立っていた。
周囲を見渡すと洞窟内の至る所に色とりどりの珍しい結晶が生えており、その結晶を見て自分が異世界に来たんだと実感させられた。
「本当に…異世界に来たんだな。」
自分が異世界に来たと実感しながら物珍しい結晶の方へ足を運ぶと、微弱ではあるが洞窟内にある結晶はやんわりと輝きを放っていた。それにもう一つ驚いた事に結晶に反射し写る自分の姿は、この世界に転生する前に身に付けていた服とは別の物となっていた。
例えるならファンタジーゲームに出てくる主人公の初期装備である”布装備”といった感じだ。布装備といったらボロボロなイメージがあるが、実際はボロボロといった訳は無く元居た世界で例えるとしたらカジュアル系な服装といったところだ。
転生してこの服装に変わっていたという事は、今着ているこの服装がこの世界でいう一般的な服装なのだろうか?ともあれこれを着ていればこの世界の住人に遭遇しても直ぐに怪しまれる心配は無いだろう。
それはそうと、洞窟内にあるこの珍しい結晶はこの世界ので希少だったりするのだろうか?もしこの結晶に希少価値があるのだとすれば、洞窟を出た後にでも売って幾らかの軍資金にできるはず…。その為にもこの結晶を少し採取しておくとしよう。
そうとなればまずは結晶を採取する道具が必要になるわけだが…。一体何を使って採取すればいいんだ?イメージ的にはハンマーで結晶を砕いて採取したり、某ゲームに登場するツルハシやピッケルといったイメージだが…。
悩んだ末、クリエイティブの練習も兼ねて僕はハンマーをクリエイティブする事にした。
まずは自分がハンマーを手に持っている事をイメージし、その次に自分の中にあるマナを感じ取り手元へと移動させる。そして手元にマナが集まったのを感じたら、脳内で描いたイメージを手元に集まっているマナの中へと落とし込んでいく…。
神様に教わった手順通りに行っていくと、次第に持ち手部分から形成されていき見事ハンマーをクリエイティブする事に成功した。
「よし!!」
自分一人でクリエイティブする事に成功した僕はあまりの嬉しさに思わずガッツポーズし、洞窟内に自分の歓喜の声が響き渡った。
それから僕はクリエイティブしたハンマーを両手でしっかりと握りしめ、目の前にある結晶を採取すべく勢いよくハンマーを振りかざした。
ガキンッ!!!
勢いよく振りかざしたハンマーは、結晶を採取するどころか粉々に粉砕してしまうという予想外の結果になってしまった。
ハンマーで粉砕してしまう前はとても硬いイメージだったが、実際にハンマーを打ち付けて分かった事は結晶という物質がとても繊細な物であるという事だ。結晶の種類にもよるのかもしれないが、少なからず現段階で結晶が硬いというのはゲームやアニメの中だけのようだ。
それはそうと地面に砕け落ちた結晶の残骸からして、ハンマーを使用して結晶を採取する事は得策ではないという事が証明された。明らかな失敗である。
ハンマーで結晶を採取することが難しいのであれば、次は某ゲームに習ってピッケルをクリエイティブして試してみるとしよう。上手くピッケルを使いこなさればある程度結晶の原型を留めたまま採取する事ができるかもしれない。
僕はハンマーをクリエイティブした時のように頭の中でピッケルをイメージし、手元に集めたマナの中にそのピッケルのイメージを落とし込み無事にピッケルをクリエイティブする事に成功した。
「リベンジマッチといきますか…。」
方の力を抜き力まないよう両手でピッケルを持つと、ハンマーで結晶を砕いてしまった時よりも力を抑えてピッケルを結晶に優しく打ち付けた。
ピキッ
力を抑え結晶にピッケルを優しく打ち付けるとハンマーの時のように結晶が砕け落ちる事は無く、打ち付けた部分には少しヒビが入っていた。どうやら結晶の採取にピッケルを使用する事は正解だったようで、この調子で行けばある程度結晶の原型を留めたまま採取する事が出来そうだ。
それから僕は焦らず慎重にピッケルを結晶へと優しく打ち込み、地面に落ちないよう細心の注意を払いながら採取し続けた。
「これだけ採取すれば十分かな。」
気付くと地面には採取した結晶が原型を留めたまま転がっており、結晶の採取は無事に成功した。大きさはまばらだが採取した結晶が意外と重さもあり、このまま結晶を持って運ぶのはあまり得策とは言えない…。それに今いる場所は洞窟の中で足場も悪い上に、下手したら何かのアクシデントでせっかく採取した結晶を落としてしまう可能性もある。せっかく採取した結晶だ、何としれもそれだけは阻止しなければ…。
僕は採取した結晶をなるべくそのままの状態を保ちながら運ぶべく、脳内で大きめのレジャー系のリュックと、採取した色とりどりの結晶を分けて入れる為の布袋をクリエイティブし、採取した結晶を色ごとに分けて布袋へと入れリュックへとしまった。これである程度は原型を留めたまま結晶を持ち運ぶ事ができるだろう。
「これで良しと。」
僕は結晶を詰め込んだリュックを背負いその場から立ち上がると、今いるこの洞窟から外へ通じる出口を探すため歩き始めた。
それから道なりに進んで行きしばらくすると道が複数枝分かれしており、僕はどの道に進めば目的の出口へと辿り着くか慎重に考えるも、それが逆効果となりどの道に進めばいいか決められずにいた。
こうなってしまったらいくら考えても良い答えを導き出すのは難しい…。となればここは”左パラダイスの法則”に従って一番左にある道へ進む事にしよう。迷ったら左というやつだ。
幸いにもこの洞窟内にある結晶は微弱ではあるがやんわりと輝きを放っており、その洞窟内の明るさはある程度保たれていた。それに下手に進んで更に迷ってしまう事を避ける為にも僕は結晶のその特性を利用し、ハンマーで結晶を砕いた際に出る結晶の破片を進んで行く道に等間隔に置いて進む事にした。そうすればもし進んだ先が行き止まりだったり、更に入り組んだ場所に出て迷った場合でもその結晶の破片を頼りに戻れば今いる場所に戻って来れるはずだ。
僕は再びハンマーをクリエイティブし、道中にある結晶を砕きその破片を地面に置きながら左パラダイスの法則に従って一番左の道を進んで行ったのだった。
◇
一体どれくらいの距離を歩いたのだろう…?
どれだけ歩いても変わる事なのない洞窟の景色に僕は少し気が滅入りそうになっていた。左側パラダイスの法則に従った事は、果たして正解だったのだろうか?ひたすら歩き続けても洞窟の出口というパラダイスは見えてこない…。ゲームのようにそう簡単に出れる訳では無いようだ。
しかしここで立ち止まってしまっては見えるもの見えてこない。僕は何とか気持ちを奮い立たせクリエイティブしたハンマー片手に結晶を砕き、結晶の破片を地面に目印として等間隔に置きながら出口を求めて歩き続けた。
…
……
………
あれから出口を探し続け洞窟内を二、三時間ほど歩き続けたが一向に出口が見つかる気配は無く、流石に歩き疲れた僕は近くの岩場へと腰を下ろし一息入れる事にした。
こんな時に好きなコーヒーでもあれば少しは気持ちも落ち着くんだろうけど…。そもそもこの世界にコーヒーは存在するのだろうか?
「………。」
ん? 確かクリエイティブの能力は脳内でイメージした物を具現化できる能力…。という事は脳内でコーヒーをイメージしてクリエイティブすれば、今この場でコーヒーを具現化する事ができるかもしれない!!この世界に転生してからというものの、結晶の採取にこの洞窟の出口を探すことに必死で気付けば水一つ口にしていない…。
喉の渇きを潤す為にも僕は意識を集中させ、まずは脳内でコーヒーを思い浮かべ次にコーヒーを入れる容器マグカップをイメージした。それからは今までの流れと同じように手元に集めたマナの中へとそのイメージを落とし込むと、次第にイメージたマグカップが手元に具現化されていき、マグカップの具現化が終わると次はマグカップの中にコーヒが注がれるように具現化され無事にクリエイティブする事に成功した。
「よし!!」
僕はマグカップの持ち手を握りしめ、疲弊した身体と乾いた喉を潤す為にコーヒーという名の癒しを与えるとしよう。
「………。」
クリエイティブしたコーヒーを飲み干し真っ先に感じた事は、疲弊した身体が癒やされ喉の渇きが潤ったでも無く、『何かがおかしい』という感想だった。
確かにコーヒーをイメージしたはずが、いぜクリエイティブしたコーヒーを飲んでみると全く味がしないのだ。それに呑む興奮していて気付かなかったが、冷静になってみるとマグカップから冷たさや温かさを感じなければコーヒー特有の香りもしない…。しっかりと脳内でコーヒーをイメージしたはずなのになぜ…?
味のしないコーヒーを飲み喉の渇きを潤しながら思考を巡らせた結果、僕の中である一つの仮説が生まれた。
まず、クリエイティブには二つの使用方法があり、一つ目は《具現化したい物のイメージとマナを使用してクリエイティブする方法》、そして二つ目は《具現化したいイメージとその元となるベースにマナを使用してクリエイティブする方法》の二種類だ。
現段階であくまで仮説だが、一つ目の方法の場合、ハンマーやマグカップなどの物質的な物やコーヒーなどのイメージた物はクリエイティブする事は可能だが、あくまでイメージを具現化するだけなので匂いや味までは再現する事はできない。
そして二つ目の方法はまだ実際には試した事は無いが、具現化したいイメージとその元になるベースを用いる方法があり、この仮説が正しければコーヒーをクリエイティブする際にコーヒー豆、もしくはコーヒー豆に変わる何かをベースに用いれば味や匂いもクリエイティブする事も可能かもしれないという事だ。
もしこの仮説が立証されれば、これから先クリエイティブの幅が格段に増える事は間違いないはず!!この世界にコーヒーやそれに近しい物が存在するのかは不明だが、もし存在するならその時は満を辞してコーヒーをクリエイティブするとしよう。
「それまではお預けかな。」
コーヒーで一息する事はできなかったが、その代わりに水をクリエイティブする事ができ喉を潤す事が出来ただけでも良しとしよう。
僕はマグカップに入っているコーヒーもどきの水を飲み干すと、地面から腰を上げ結晶の破片を置くと洞窟の出口を探す為に再び歩き出したのだった。