#23〜動き出す者達〜
ノルズの街を出てしばらくして僕達はドリュアス森林へと到着した。
このドリュアス森林にはジャバルさんの仕事の手伝いで何回か来た事があるが、
相変わらず巨大な森で下手に進んでしまったら最後。帰っては来れない。
ジャバルさんは以前この森の管理者である”木の精霊ドライアド”さんと何度か交渉して、
ある一定の場所までは進む事が出来るようになったが、そこから先へ進む事は許してもらえなかったらしい。
なのでノルズの街の人達や森林を抜けた先にある”商業都市イスタリアム”の人達が行き来する場合は、この森林を迂回して行くしか方法が無いとジャバルさんは教えてくれた。
以前マーガレットから聞いた話しでは、この森の管理者であるドライアドさんと人間達の間で問題が発生したせいでドライアドさんは人間を忌み嫌うようになってしまった。
なので、ジャバルさんが人間を嫌っているドライアドさんと交渉をしてこの森林に入れるようになった事を聞いた時は驚きを隠せなかった。一体どんな交渉をしたのか聞いてもジャバルさんは微笑んで話を逸らされて分からずじまいだった。
「この森に来るのも久々ですね…100年前に来た時よりも少し雰囲気が変わっていて魔物やモンスターの気配も感じます。」
「うん。ジャバルさんと何回か来た事があるけど魔物やモンスターも結構出て最初の頃は苦労したよ…。」
修行の一環でジャバルさんの手を借りずにモンスターを複数相手にしたのは今でも鮮明に覚えている。
「以前はこのようなモンスターや魔物の気配などこの森には一切ありませんでした。この100年の間でこの森とドライアドに一体何があったと言うのでしょうか…」
「とりあえずドライアドさんに会って話しをしてみよう。そしたら何があったかわかるかもしれないし」
「そうですね。行きましょう!ハルト様!!」
僕とマーガレットはドリュアス森林の奥へと進んで行った。
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<堕天使サタンが率いるリベリオン軍の本拠地 理想郷にて>
玉座の間、それは限られた者だけが入る事を許された神聖な場所…。
汚れ無きその神聖な場所へと私は今足を運んでいた。
この世界に新たな転生者が召喚されてから半年あまり…今まで音沙汰無かったのが今日になってどうやら動き出してドリュアス森林へと向かっている。
何事もなければいいが…もし”例の物”を見られてしまっては少々めんどくさい。
ここは我が主人に報告すべきと判断し私は玉座の間へと足を運んでいた。
「あら〜?珍しいねベルゼブブ、貴方がこの場所に来るなんて…」
私を見下したかのように声をかけて来たのは、
我主人に仕えている堕天使の1人で堕炎の守護者にして私が最も嫌いな人物…”ベリアル”だ。
「これはこれは堕炎の守護者ベリアルではないですか…貴女のような方がこの場所に来るとは余程お暇と見受けられますが?」
「言うねぇ〜…まぁ頭の硬いアンタと違ってこっちは自由にさせてもらっているんだよ〜、その意味分かる?」
「口が過ぎますよベリアル…」
「あぁ〜ん?この私とやろうってのかい?ハエの分際で…」
…
……
………
「2人ともお止めなさい。」
今にも衝突寸前の私達を止めたのは堕天使の1人で堕光の守護者”カスピエル”だった。
我主人の命で辺境の地”ヒュカルム”に居るはずの彼女がなぜここに…?
幾つか疑問に思う事はあるが、今回は彼女が間に入ってくれたおかげで戦う事だけしか能が無いベリアルと同じレベルにならずに済んだ。私もこんなレベルの低い奴を相手にしてしまうとは…守護者としてもう少し心に余裕を持たなければ。
「これはカスピエルお久しぶりでございます。確か貴女は我が主人の命で辺境の地ヒュカルムに居るはずでは?」
「えぇ。今回は直に報告したいと事がありヒュカルムには私の従者を置いて来ました。」
「そうでしたか…。」
毎回思うが私はカスピエルがどうも苦手だ。
彼女は何を考えているのかが全く分からない…それに彼女と話しているとどうもペースを崩されてしまう。
「それにしてもまた一段と色っぽくなったんじゃないのか〜カスピエル???色々と発達したようにも見えるけど〜?」
「お久しぶりですねベリアル、それに私の色っぽさは常に進化し続けています。ですので”一段”という言葉で片付けてしまうのは少々ムカッとしてしまいます。」
「相変わらずだなカスピエルは〜」
この二人は妙に息が合っているというか何と言うか…。
まぁ私にとっては関係の無い事ですが。
「さて、2人ともこの場所に来たという事は我が主人に何か御用なのでしょう?ならばこんな場所で油を売ってないで早く主人の元へと向かいますよ。」
そうして私達守護者は再び歩き始め玉座の間の入り口へと到着した。
「我が主人に絶対なる忠誠を誓っております堕闇の守護者”ベルゼブブ”…」
「同じく堕炎の守護者”ベリアル”…」
「同じく堕光の守護者”カスピエル”…」
『我が主人にご報告したい事があり玉座の間へと参りました。』
我ら守護者一同が口を揃えてそう言うと玉座の間へと続く大きな門が開いた。
その門から玉座の間までは大きな一本道となっており、その道中には我々守護者の銅像が飾られている。私はこの一本道が何よりも好きで、ここを歩く度に我が主人の守護者である事を強く実感できる。
そして玉座の間には白い面で顔を隠した我が主人の姿があり、我々守護者一同は地面に膝を付け我が主人へと深く頭を下げた。
「やぁみんな…久しぶりだね。特にベリアル、君とこうやって会うのは何年ぶりかな?」
「主人様と会うのは…厄災以来かな〜、私も主人様の元気そうな顔が見れて何よりですよ〜」
「ベリアル!我が主人に何て失礼な!!貴女はもう少し言葉の使い方を考えなさい!!!」
「まぁまぁ落ち着いてベルゼブブ。彼女はこれでも頑張っているんだよ?少しぎこちないけどそこがまた彼女の魅力でもあるのさ。今回は僕の顔に免じて許してあげてよ。」
我が主人…何て心の器が大きな方なのだ…。
私は改めて我が主人の偉大さに感動してしまった。
「我が主人様がそう仰るのであれば…。」
「うん。ありがとうねベルゼブブ。それとカスピエル、君は会う度にどんどん魅力的な女性になって行くね。今日も本当に美しいよ。」
「そっ!そんな事はございません!!ですが…主人様にそう言って頂けると物凄く嬉しく思います…。」
守護者一同、主人様への挨拶と少しの談話を話した後にそれぞれが玉座の間に来た理由を話し始めた。
「でわまずはこの私ベルゼブブからご報告致します。半年前にこの世界に召喚された転生者についてですが、この半年間音沙汰無かったのですが今日になって急に行動を開始したようで、現在ドリュアス森林に向けて移動中との事です。」
「そうか…ついに動き出したんだね。」
「はい。ここは偵察を兼ねて転生者の元へ行く許可を頂きたく主人様の元に来た次第です。」
「…。あまり無茶をしたらダメだよ?」
「御意」
私の次に報告をしたのはベリアルだった。
「ここ最近、私の部下や従者達の何人かが”例の奴”に殺られてしまいました…。」
「例の奴…”幻影ファントム”も動き出したようだね…」
「はい。ですので”幻影ファントム”の討伐の許可を頂きたく願います。」
「分かった…。でも無関係な人達に被害を出さないようにね。それを守ってもらえるなら許可するよ。」
「はい!その言葉胸に刻みました。」
そして最後はカスピエルが主人様に報告をした。
「我が主人様の命にて”黒帝”を追って辺境の地ヒュカルムに行きましたが情報が漏れていたのか私が到着した頃にはその姿はありませんでした。」
「そうか…相変わらず逃げ足だけは早いんだよな〜…」
「現在、私の従者と部下を総動員して”黒帝”の足取りを追っています。」
「分かった、報告ありがとうカスピエル。面倒な任務を押し付けてごめんね。従者や部下達にも無理をさせないように気をつけながら調べてくれると嬉しいな。」
「承知しました!」
守護者の報告を聞き終わると我が主人様は玉座から腰を上げ、外を眺めこう呟いた。
「役者が動き出したようだね…。君に会えるのを楽しみにしているよ…ハルト君」
そう言うと我が主人は楽しそうに微笑んだのだった。




