僕は異世界の君に恋をした。

プロローグ

＃2〜新しい世界へ〜

神様から告げられた『もう一度、人生を歩む為の新しい命を授けたい』というその言葉…。

それは文字通り、”もう一度人生をやり直す事が出来る”という意味で解釈していいのだろうか？

もしそうだとすると、僕はもう一度自分の足で人生を一からやり直せるという事になる。

「ハルトさん、あなたには三つの選択肢があります。一つ目は新しく”別の誰か”に生まれ変わり、新しい人生を生きる道。二つ目は”今の自分のまま”で別の新しい世界へと転生して生きていくという道。残念ですがハルトさんが元居た世界に”今の自分”のまま蘇生し戻る事は出来ません…。」

今の自分として元居た世界に蘇生し戻る事ができない…。

それは元居た世界で既に僕自身が死亡している事が原因なのだろうか？それとも何か別の理由が？倫理的な問題か何かだろうか…？何にせよ、できない理由を考えたところで無理なものは無理なのだろう。

それに選択肢は三つありまだ聞いていない選択肢が一つある。まずは残りの一つを聞いて、それからどうするのかを考えるとしよう。

「最後の選択肢ですが、これは前の二つの選択肢とは大きく異なります。」

「っというと？」

「最後の選択肢、それは生命の源である”マナ”となり永遠の時を巡り、生命の行く末を見守る…というものです。」

「”マナ”となって生命の行く末を見守る…ですか…‥。」

予想外の選択肢に僕はこれ以上言葉がでなかった。

「そしてもう一つ、ハルトさんにお聞きしたい事があります。」

「何でしょうか？」

「それは、ハルトさんが新しい命に何を望むのか…です。」

新しい命に何を望むのか…。

三つの選択肢に加えて僕の心の中ではその答えは既に決まっていた。

「神様、僕の選択は既に決まっています。」

「お聞きしてもよろしいですか？」

静かに頷き、僕は自分がどの選択肢を選び、新しい命に何を望むのかについて神様に話した。

「神様、まずは三つの選択肢についてですが、僕は二つ目の選択肢、”今の自分のままで新しい世界へ転生して生きていく”を選びます。これまで辛いことや悲しい事も沢山あったけど、これまで自分が歩んできた全てが無くなってしまうなんて僕には考えられません…。だから僕は今まで歩んで来たこの人生と思い出を胸に胸に抱きながら、新しい世界で生きていきたい！そして今度こそ大切な人や居場所を守りたい！！これが僕の選択と新しい命に望む事です、神様！！！」

「その選択とハルトさんが新しい命に何を望むのか、その想いと覚悟、しかと受け止めました。」

そう話す神様の表情は笑顔で、僕がどの選択肢を選び新しい命に何を望むのか、まるで最初から分かっていたかのようだった。

「それではハルトさん、別の世界へ転生する前に転生先の世界についての説明と、二つ私の質問に答えて頂いてもよろしいでしょうか？」

「分かりました。」

「まず最初にハルトさんが転生する世界についてですが、この世界では”ヴァラマ帝国”という国を中心に世界は動いています。」

「ヴァラマ帝国…ですか？」

「はい。そしてヴァラマ帝国と対をなすのが、かつて神への反逆を企てた”堕天使サタン”が率いる”リベリオン軍”です。表向きは百年近く冷戦状態が続き仮初の平和が続いていますが、その裏では密かに両者の間で今でも争いが続いています。そして次に転生先の世界ではハルトさんと同じような存在、”転生者”が複数人存在しています。」

「僕と同じ転生者が！？」

「はい。転生者の特徴として、転生者同士は互いの存在が近くなるとその存在を互いに感知するという特殊な能力が備わっています。」

「僕と同じような転生者が他にも…。」

「はい。ですが必ずしも全ての転生者が友好的な存在とは限りません。もし新しい世界で他の転生者の存在を感知したり遭遇した際はくれぐれも注意を怠らないようにして下さい。」

そう話す神様の表情はどこか険しく、これから新しい世界へ旅立つ僕に向けて警告しているかのようだった。

それにしても自分以外にも転生者が新しい世界にも存在するとは思いもしなかった。必ずしもアニメや漫画の世界のように善人だけが転生できる訳ではないようだ。有効的ではない転生者も存在するとなれば、神様の言う通り警戒を怠らないようにしなければならないが、ここで一つ、神様の話を聞いてある懸念が僕の中で生まれた。

それは神様が転生先の世界で僕がこの二つの勢力や、友好的ではない転生者と関わりを持つかのように話しているという事だ…。

これはあくまでそう僕が感じとっているだけと言う可能性もあるが、もし今後そうなっていく可能性があるとすれば何とかしてそれを回避しなければ…。

「神様…。もしかして僕は転生先の世界で先ほど話していた二つの勢力や、転生者同士の揉め事や争いに巻き込まれたり、関わりをもってしもうのでしょうか？もしかしてその為に僕は転生者として選ばれた…とか？」

神様は少しだけ間を開けると首を横に振ってみせた。

「いえ、それは違います。私はただハルトさんに転生先の世界事情と自分以外にも転生者が存在するという事を事前に知っておいて欲しかったんです。決して関わりや争い事に巻き込む為に転生者として選んだ訳ではありません。それに後で知るのと先に知るのでは違うでしょう？」

確かに神様の言う通り、後で知るのと先で知るのとでは全く違う。先にある程度の情報を知っておけば何かしらの問題が生じた場合でも事前に対策を立てる事ができる。

「よかった…。それを聞いて少し安心しました。」

神様は微笑んで見せると、続けて僕に二つ質問をしてきた。

「それではハルトさん。次に私の質問に二つ答えて頂いてもよろしいですか？」

「はい。」

「一つ目の質問は、例外もありますが、転生する際にハルトさんが居た世界での所有物を幾つか持って行く事ができます。そして次に二つ目ですが、転生先の世界では今までの常識を覆すような力が存在しています。転生先の住人達にとってその力は日常的なものでありとあらゆる場面で使用していますが、その力の使い方を間違えれてしまえば時として人の命を奪ってしまう程凶悪な力となる場合もあります。」

常識を覆すような力、それはいわゆる魔法のような力という事なのだろうか？

もしそうだとすれば、僕も転生した際には何かしらの力を使用する事が出来るのかもしれない。

「ですが転生者の皆さんがその力を扱うことは残念ながらできません。ただその代わり、転生者の皆さんにはその力に”似て非なる力”を授ける事は可能です。」

「似て非なる力ですか？」

「はい。例えば重力を操り自身や物体を浮遊させる力や、炎や水などの属性を自由自在に操る力など…。その力は転生者によってそれぞれ異なります。ここで勘違いしてほしくないのは、この力はあくまで転生先の世界で自分自身を守る為の力だという事です。そして私のように別の世界からハルトさんを異世界へ転生させる力を持った神は私以外にも存在します。かつて私のような力を持った神の一人が自身の欲望を満たす為だけに転生者を異世界へ召喚し、破滅的な力を与え破壊の限り尽くした事例もあります。」

「破壊の限りを尽くした転生者…ですか。」

その破壊の限りを尽くした転生者を召喚した神というのは、さっき神様が話していたヴァラマ帝国と対をなしているリベリオン軍の堕天使サタンの事だろうか？

もし仮に破壊の限りを尽くした転生者を召喚した神なる存在が堕天使サタンだとすれば、堕天使サタンが率いるリベリオン軍の中には僕と同じ転生者が存在する可能性がある。でも確か堕天使って元は天使だったような気が…。という事は堕天使サタンは神では無いという事なのか？だとしたらその神って一体…。

「神様、その破壊の限りを尽くした転生者と神って一体誰なんですか？」

「それは…時が来たらいずれハルトさんにも分かるでしょう。」

「分かりました。」

今この場で言えないという事は神様にも何かしらの事情があるに違いない。

「話を戻しますが、これからハルトさんにはその似て非なる力を授けよと思っています。この力は先ほども話した通り転生先の世界でハルトさん自身の身や、転生先の世界で大切な人や場所を守る為の力だという事を忘れないで下さい。」

「大切な人や場所を守る為の力…。」

神様から聞いた話を改めてまとめると、転生先の世界では僕と同じ転生者が複数存在し転生者同士が近くにいる場合は互いの存在を感知しあえる能力を備えており、必ずしも転生者全員が友好的ではないという事だ。友好的じゃない転生者と遭遇する機会はなるべく避けたいが、もし仮に遭遇したとなれば戦闘は避けられないだろう…。それに友好的じゃない転生者以外にも脅威となる存在や身の危険を感じる場面に出くわす事もあるかもしれない。となれば、一つの能力に特化した力よりも、臨機応変に対応し自分自身も含め大切な人や場所を守る事ができる能力がいいだろう。

「神様、頭の中でイメージした物を具現化出来たりする力を授けて頂くことは可能でしょうか？例えば頭の中でイメージした剣や盾を具現化して実際に使用できたり、その具現化した物を自分以外の誰かに渡して使用させたりとか…。」

「もちろん可能です。ハルトさんが望むその力でしたら、具現化したい物のイメージと”マナ”を媒体に具現化させる方法と、具現化したいイメージとそのイメージの”元になるベース”とマナを媒体に具現化させる二種類の方法があります。具現化させる際に使用するマナの量と具現化させたいイメージがより明確になればなる程、より良い物を具現化する事が出来ます。この方法でよければハルトさんが望む力…”クリエイティブ”の力を与える事は可能です。」

「でも神様、僕にはその…マナって力はありませんよ？」

「それは心配しなくても大丈夫です。マナとは本来、全ての生命が持っている命の源です。とある理由でハルトさんがいた世界では全ての人間に”枷”が掛けられており、本来の力は抑えられています。まれに枷が外れてしまい人ならざる力を発揮してしまう者も存在し、ハルトさんが居た世界ではそういった人達の事を”超能力者”と呼んでいますね。」

「超能力者ですか…。」

まさか枷によって本来の力が封じ込まれていた人間が何らかの理由によって枷が外れ、人ならざる力を発揮してしまった人達が超能力者だったとは…。

スプーン曲げや霊感、だとしたら世界で起きている超常現象やUMAの類はもしかしたら枷が外れた人間が原因だったりするのかもしれない。

「なのでこれからハルトさんの中にある枷を外します。枷を外せば最初こそマナを感じ取るのが難しかったり身体に違和感を感じるかもしれませんが、ハルトさんなら直ぐに慣れると思うので安心して下さい。」

「そう…ですか……分かりました。では神様その力でお願いします。それと転生先に持っていける所有物なんですけど、じーちゃんの形見の”懐中時計とばーちゃんの大切にしていた”指輪、そして家族四人が写った写真をお願いしてもいいですか？」

「はい、大丈夫ですよ。」

「よかった…。」

「それではハルトさん、始めますね。」

そう言うと神様は背中に生えている六枚の翼を広げ、僕の目線よりも少し高い位置へと舞い上がると片手を宙に翳し魔法陣を展開し始めた。

展開された魔法陣は次第に輝きを増していき、魔法陣から発せられる輝きは次第に僕や宙に舞っている神様も飲み込んでいった。それからしばらくして魔法陣の輝きが収まり周囲を見渡すと、そこは先ほどまで神秘的な空間だった場所が何も無い真っ白な空間へと変わっていた。

「場所が…変わった…！？」

さっきまでいた場所から一変して真っ白な空間へと変わった事に驚きを隠せずにいる僕に、頭上から優しさで満ちた声で『ハルトさん』と神様が僕の名前を呼んだ。

僕は神様の声がする頭上へ視線を向けると、そこには穏やかな表情でこちらを見ている神様の姿がそこにはあった。

「ハルトさん。今からあなたの中になる枷を外してハルトさんが望む力と、新しい世界へ持って行く物を授けたいと思います。準備はよろしいですか？」

僕は深く深呼吸をし気持ちを整えると、神様に向けて頷いた。

「では…。」

神様は静かに目を閉じると僕の方へ片手を翳し呪文のような言葉を唱えた。

「”枷《カング》解除《リベラ》”」

呪文のようなその言葉を唱えると展開している魔法陣が共鳴し、その中から蒼く光り輝く球体が出現した。魔法陣から出現したその球体は僕目掛けて勢いよく飛んでくると、そのまま僕の体内へとスッと入り込み身体全身に衝撃が走り、それと同時に今まで身体の中に溜め込んでいた”何か”が一気に弾け出す感覚に襲われ僕の意識は遠のいていった。

…

……

………

…………

徐々に意識が戻り目を覚ますと身体の内側から湧き出るような”熱い何か”を僕は感じていた。

神様が言っていたマナというのは、さっきから湧き出るように身体の内側から感じるこの”熱い何か”の事なのだろうか？

「神様、目が覚めてから身体の内側で”熱い何か”を感じるんですけど…。この内側に感じているの”熱い何か”がマナなんでしょうか？」

「ハルトさんが今身体の内側で感じているその”熱い何か”こそ生命の源でもあるマナです。最初のうちはその感覚に違和感を覚えたりして慣れないと思いますが、少しずつ慣れていくと思うのでどうか安心して下さい。」

そう言うと神様は展開していた魔法陣を解除し宙から地面に足を戻すとそのまま僕の方へ足を運んだ。

「さて、何も説明が無いままいきなり転生先で実践！！っというのも流石に酷だと思いますので、今ここでハルトさんに付与した”クリエイティブ”の力を試してみましょうか。」

「わっ…分かりました！！！」

「ではまず最初に形や大きさなどは問いませんので、頭の中で”剣”をイメージしてみて下さい。」

僕は目を閉じて集中し神様に言われた通り頭の中で剣をイメージし始めた。

「………。」

「どうでしょうハルトさん？頭の中で剣のイメージできましたか？」

「はい…。一応イメージはできました。」

「では次に、身体の内側から感じているマナに今度は意識を向けてみて下さい。意識を向ける事ができたら今度はその意識したマナを自分の両手に移動させます。」

「マナを両手に移動させる…ですか？」

「はい。感覚を掴むまでは少し苦戦するかもしれませんが、意識したマナを流れる水のようにイメージする事ができれば、徐々に移動させたい箇所に向けてマナが流れるように移動して行くのを感じ取れる事ができるはずです。」

マナを流れる水のようにイメージして、移動させたい両手に流すイメージ…。

しばらく神様にアドバイスされた通り意識したマナを流れる水のようにイメージし続けると、少しずつではあるが両手に向かってマナが流れていくのを感じた。

それからマナが流れる感覚は徐々に早くなり最初は緩やだったマナの流れが、今では上流から下流へ流れる川のように素早く流れて行くのを感じ気付けば自分の両手が熱くなっていた。両手が徐々に熱くなっている感じからして、どうやらマナを両手に移動させる事に成功したようだ。

「神様！！たぶんですけど両手にマナを持って来る事が出来ました！！」

「流石ですハルトさん！！それでは次に、先ほど脳内でイメージした剣を今度は自分が実際に両手で握りしめているイメージをしてみて下さい。」

僕は更に意識を集中させ、神様に言われた通りさっき脳内でイメージした剣を自分が実施に両手で握りしめているところをイメージした。

「イメージできました神様。」

「では次に自分が両手で剣を握りしめているというそのイメージを、今度は両手に感じているマナへ落とし込んで下さい。上手くそのイメージをマナの中へ落とし込む事に成功すれば、次第にイメージした剣が具現化され流はずです。」

自分が両手で剣を握りしめているイメージをマナの中に落とし込む…。

イメージをマナの中に落とし込む……。

マナの中に落とし込む………。

落とし込む…………。

落とし込む…。

………………。

……………。

…………。

………。

……。

…。

しばらくマナに落とし込むことに集中していると、脳内で思い描いたイメージが頭部から首筋を通りそのまま肩を緩やかな波のように通って行き、そのまま両手にスッと落とし込まれていくのを感じた。

そして少しずつ脳内で思い描いた剣の握り部分から徐々に形が形成されていき、見事僕は脳内でイメージした通りの剣を無事に具現化する事に成功した。

「でっ…出来た……。神様！！剣をクリエイティブ出来ました！！！」

「おめでとうございますハルトさん、無事に剣をクリエイティブする事が出来ましたね。最初の内は少し時間が掛かるかもしれませんが、慣れてくれば一瞬でクリエイティブ出来ると思いますので、いざという時の為にも転生先で練習しておく事を推奨します。」

「はい！！分かりました神様。」

それにしても脳内でイメージしたものが、そのイメージ通り本当に具現化してしまうとは…。これまでの人生の中で実際に本物の剣を見た事や触れた事も無く、知っているとすればゲームや漫画の中に登場する物や歴史や空想上の物だけだ。

まさかここに来て昔プレイしていたゲームに登場するお気に入りのキャラの最強装備を実際に手に取る日が来るとは夢にも思わなかった…。これぞまさに感無量というやつだ。

「そして次に、これをハルトさんにお渡しします。」

「これは…。」

神様から差し出された手にはじーちゃんの形見の懐中時計と、ばーちゃんが大切にしていた指輪に家族四人で写っている家族写真があり、僕は握りしめていた剣を地面へと置き神様から差し出された懐中時計、指輪、家族写真を受け取った。

徐々に視界がぼやけ気付くと瞳から涙がこぼれ落ち、僕は瞳から溢れ出るその涙を強く噛み締めながら神様から受け取ったそれらを胸元で強く抱きしめた。

もしこの行動に何かしらの理由をつけるのだとすれば、そうする事で僕はじーちゃんとばーちゃん、そして母さんの三人をもう一度強く感じられると思ったからだ。

瞳から溢れんばかりの涙を流し、神様から受け取った大切な物を胸元で抱きしめて間もなくした頃、ふと暖かな光を感じた僕は頬を垂れる涙を拭いながら顔を上げると、視線の先には亡くなったはずのじーちゃんとばーちゃん、そして母さんの姿がそこにはあった。

「じーちゃん…！？ばーちゃん…！？母さん……！？どっ…どうしてここに……！？」

「おそらくですが、先程クリエイティブの練習をしていた際に使用していたマナがハルトさんの両手にまだ残っていたのでしょう。そして無意識にハルトさんの想いと抱きしめている思い出の品が両手に残っていたマナと共鳴し、クリエイティブの力を発動させたのかもしれません。」

もう一度三人に会える事ができたらとどれだけ願ってきた事だろう…。

例え今目の前に居る三人がクリエイティブの能力で具現化された存在だったとしても、今の僕にとってその三人は紛れもなく本物だった。

「じーちゃん…ばーちゃん…母さん…。」

目の前に居る三人は優しく微笑んで僕の方を見ていた。

「まさかもう一度大切な家族に会えるなんて思っていませんでした…。神様…本当にありがとうございます。」

僕はその言葉と共に神様に深く頭を下げ感謝の気持ちを最大限伝えた。

「頭を上げて下さいハルトさん。こうしてハルトさんがご家族にもう一度お会いできたのは、ハルトさんが今まで家族の事を大事に想い続けて来たからこそ、クリエイティブの能力が応えてくれたのだと私は思います。」

「神様…。」

「それにしてもハルトさんのご家族はとても優しい方達だったのでしょうね。例え目の前に居るご家族がクリエイティブで具現化された存在だったとしても、ハルトさんを包み込むような優しい笑顔で見つめているその姿を見れば、どれだけハルトさんの事を大切に想っていたのか私にも伝わってきます。」

「本当に…皆んな優しくて僕の大切な家族でした。」

僕がこれから向かう転生先の世界がどういった世界なのか、そしてその世界で何が待っているのかは正直分からない。きっと楽しいことばかりじゃないはずだ。でも今こうしてじーちゃんとばーちゃん、そして母さんの姿をもう一度見る事ができて、僕は転生先の世界でどんな事が待ち受けていたとしても精一杯、胸を張って生きていこうと家族と心に誓った。

「ハルトさん。転生先の世界に夢や希望を抱いているかもしれませんが、現実はそう楽しいことばかりではありません…。時には辛い事や悲しい事、胸が張り裂けそうな出来事に心が打ちのめされてしまう事もあるでしょう。ですがこれだけは決して忘れないで下さい。どんな事があっても私はハルトさんの味方で、いつも側で見守っているという事を！！」

「神様…。」

そう言うと神様は僕に微笑みかけ両手を僕の方へと翳し目の前に十一個の魔法陣を展開させ『これは私からの贈り物です』と一言僕に向けて言うと、その言葉に共鳴するかのように展開していた十一個の魔法陣が光り輝き出し展開していた十一個の魔法陣は翳した両手に向けて一つに重なり始めた。

そして一つに重なった魔法陣の中央には『Ω』の文字が浮かび上がっており、浮かび上がった「Ω」の文字はそのまま僕の方へ吸い寄せられるように近づくと僕の身体の中へ音もなくスッと入って来た。

「今、クリエイティブとは別に私の持つ力をハルトさんに授けました。」

「クリエイティブとは別の力……ですか？」

「はい…。」

そう返答する神様はどこか険しく悲しい表情をしていた。

「ハルトさん。もしも転生先の世界で心から大切だと思える人に出会い、その世界がハルトさんにとって守りたいと思える大事な場所になったのなら…。」

「なったのなら…？」

「その世界にもし危険が訪れた際にはハルトさんの力をお貸し下さい！！どうか…お願いしますハルトさん…。」

神様はまるで助けを求めるかのように僕に向けて深く頭を下げた。

「神様！！どうか頭を上げて下さい！！！」

「ですが…こうでもしないと私は……。」

神様がここまで頭を下げてお願いをするのにはきっと何か理由があるのだろう。僕はその理由について深く追求せず、神様の手を取り『分かりました』と一言伝えた。

「ありがとうございますハルトさん。それと先ほど私がハルトさんに与えた力ですが、もしもハルトさんの身に危険が及び命が脅かされる状況がきた際には、きっとその力が助けになってくれるはずです。それと転生先の世界に”最果ての地 トゥーレ”という場所に”ガイア”と言う人物が住んでいます。もし困った事や、何か道に迷った際には尋ねてみて下さい。きっとハルトさんの力になってくれるはずです。」

「分かりました神様。」

「それではハルトさん、新しい世界でハルトさんの良き人生の旅を心から願っています。」

神様は優しさで満ちた笑顔でそう言うと右手の指をスナップさせ、真っ白な空間にスナップ音が響き渡り僕の身体は暖かな光に包み込まれ始めた。

どうやら転生先の世界へと旅立つ時が来たようだ。正直、不安じゃないと言えば嘘になるが、自分なりに精一杯この新しい命を噛み締めながら生きて行こうと思う。

少し寂しい気持ちもあったが、目の前で見送ってくれている神様、じーちゃん、ばーちゃん、母さんの姿をこの目に焼き付けながら僕は笑顔で『行ってきます！！』と伝え新しい世界へと旅立ったのだった。