#120〜緑眼の少女〜
理想郷の地下研究施設内にそびえ立つ光り輝く巨大な樹の正体が生命の樹であるとベルゼブブから告げられたガングレティは、今だにそれを信じる事が出来ずその場で立ち尽くしながら視界に映るそのその光り輝く巨大な樹を見上げていた。
「クククッ。どうです??生命の樹を実際に自分の目で見た感想は?」
ガングレティはその問い掛けに反応しベルゼブブの方へと振り向くも、自分の中で理解が追い付いておらず言葉が詰まり何をどう返答すればいいのか分からずにいた。
「ククッ、まさに言葉に出来ないとはこの事…。実に良い反応です。古の古代兵器を再利用し、ありとあらゆる生物と組み合わせ私自ら作り上げた機獣兵といい、我が主人様の為に生命の樹すらも手に入れ、この地下研究施設の責任者でもあり堕闇の守護者でもあるこの私こそが叡智の結晶ーーーーー」
「黙って聞いておれば、全て自分の手柄のように話しおって!!」
自分の才能と功績を自慢げに話すベルゼブブの言葉をどこからか一人の幼い少女の声がそれを遮り、突如地下研究施設に響き渡ったその幼い少女の声に、その場にいた他の研究員も含めガングレティ、シェハザム、ベルゼブブはその声の方へと視線を送った。
「全く…。こっちは寝る間も惜しんでお主らに協力してるというのにのぉ〜。あの機獣兵も、その生命の樹の模造品も全てわしの発案じゃろがい!!」
そう愚痴をこぼしながら研究施設の奥から姿を現したのは、シェハザムくらいの背丈に自分の背丈よりも一回り大きな白衣を身に纏い、幾つものレンズが重なり機械じみたゴーグルを頭部へと押し上げ額を露出させ、緑眼の瞳に白銅色の透き通った髪を膝丈まで伸ばした一人の少女だった。
「まぁ入り口前に護衛として配置している機獣兵Ver.ゴーレムをお前さん自ら作り上げたのは事実じゃが、そもそも古代兵器の部分的パーツを再利用する案と機獣兵の発案者はわしじゃ。それに光り輝くその巨大な樹は確かに生命の樹と呼べる代物かもしれんが、あれは本物じゃない…。これはわしの能力を使って作り出した生命の樹の模造品じゃ。」
事の真相を淡々と喋るその緑眼の少女に、ベルゼブブは自分の見せ場を奪われてしまった事に少し苛立った様子を見せていた。
「ではこれは本物の生命の樹ではないと…?」
「さっきからわしがそう言っとるじゃろ〜。なぁベルゼブブよ?」
緑眼の少女は全て自分の手柄のように話していたベルゼブブに、少し当てつけかのようにそう問い掛けると、ベルゼブブは先程よりも低い声で『えぇ』と一つ返事で返すと、苛立ちを見せながら緑眼の少女がこの場に出て来た理由について尋ねた。
「それで?何故あなたがこの場所へ赴いたのですか?あなたにも為すべき事があるのでしょう?」
「それは決まっとるじゃろう!!久々の客人にわしの推しであるシェハザムちゃんが研究施設を訪れるからじゃ!!!研究の沼に陥っているわしが自分で言うのもなんじゃが、こんな地下の研究施設で毎日研究に勤しんでおれば、中々外に出る機会もなくてのぉ…。だが、今日というこの日に客人と推しのシェハザムちゃんが尋ねてくると知って、この日の為に夜通し研究を行なって一区切り付けておいたんじゃ〜。」
「私としてはこういう時以外にも研究に勤しんでほしいものですけどね。」
「まぁ、そう言うでないベルゼブブよ。お前さんから頼まれた例の件に関しては既に試用実験も済ませておる。このまま次の段階に移っても何も問題はなかろう。もし気になるようであれば、いつものラボに行って自分の目で確かめてくるといい。」
「そうですか…。」
ベルゼブブは一呼吸置き気持ちを整えると二人の血液採取を緑眼の少女へと頼み、ベルゼブブは緑眼の少女に頼んでおいた件を確認する為に一旦その場を後にし別のラボへと向かった。
「あやつも見栄を張らずに少しは肩の力を抜けばいいものを…。」
ラボへと向かうベルゼブブの背を見ながら緑眼の少女は小さくそう呟いた。
それからベルゼブブと入れ違うように血液を採取の道具を持って来た研究員は、血液を採取する為の道具を緑眼の少女へと渡すと、まるで操り人形かのように無言でその場を去り自分の持ち場へと戻って行った。
「さて、早速二人の血液採取でもするかの〜」
緑眼の少女はそう言うと、慣れた手つきでシェハザム、ガングレティの順番で血液の採取を始めた。
血液の採取はそれぞれ三回ずつ行われ、緑眼の少女は血液の採取が終わるとそのまま専用のケースに採取したそれぞれの血液サンプルを収納した。
それから緑眼の少女は、身に纏っていた一回りサイズの大きい白衣のポケットから手のひらサイズの小型の機械装置を取り出し慣れた手付きで操作すると、ベルゼブブが向かったラボの方から猫型の機獣兵が勢いよく緑眼の少女の元へ駆け寄って来た。
緑眼の少女は、自分の足元で戯れている猫型の機獣兵を愛おしそうに撫でると、採取した血液が入っているケースを猫型の機獣兵の背中に落ちないように固定し、ベルゼブブの元へ届けるよう指示を出すと猫型の機獣兵は機械混じりの声で鳴くとラボの方へと戻って行った。
「可愛いであろう〜。あの猫型の機獣兵はわしが最初に開発した機獣兵でな、名は”ジーン”と言ってこの地下研究施設の中で唯一わしの友達なのじゃ。」
緑眼の少女はラボへと戻る猫型の機獣兵であるジーンの姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を愛おしそうに眺めていた。
それからジーンの姿が見えなくなり、そのタイミングを見計らってガングレティは緑眼の少女が何者なのかを尋ねた。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?遠慮せんで尋ねてみよ。」
「あなたは一体何者なのですか?」
「おぉ!!やはりわしが何者であるか気になるであろう!?」
「えぇ…。まぁ……。」
その見た目に反してオヤジ臭い喋り方をする緑眼の少女に、どう反応しどう接するのが正しいのかガングレティには分からず困惑した様子を見せており、そんなガングレティをよそに、緑眼の少女は近くに置いてあった椅子を手に取りにガングレティの前へ勢いよく置きその椅子に立って見せると、自分が一体何者なのかその正体を明かした。
「ふふふっ。わしは別の世界からこの異世界に召喚された転生者の一人にして、”二十世紀最大の物理学者”、”現代物理学の父”とも呼ばれた”二十世紀の人”の一人、”アルベルト・アインシュタイン”じゃ!!!!」
自らの正体をこれでもかと自身ありげに明かした緑眼の少女ことアルベルト・アインシュタインは、高らかな笑い声を地下研究施設に轟かせ、その額には『Λ』の文字が浮かび上がり金色に輝いていたのだった。