#116〜陽黒の双子〜
「やはりコルアはアライアス殿と深く繋がりのある人物でしたか…。」
「えぇ。ですが黒騎士様の口からその名が出るとは思いもしませんでした…。ですが”カルア様”の予言の通り、コルア様は確かに生きていたのですね……。」
「カルア様…?それに予言通り生きていたとはどういう意味ですか?」
「少し…話が長くなりますがよろしいですか?」
黒騎士は深く頷き『頼みます』とアライアスに向けて言うと、アライアスはコルアや一族の事について自分が知る限りの事を話し始めた。
「まずは事の始まり、私達アライアス一族の誕生についてお話しします。私達アライアス一族は数百年前、太陽神へーリオスの過ちによって誕生し、後に神々からその存在を歴史から抹消された哀れな一族です…。そしてアライアスという一族の存在を知る者は限られた極一部の神々とその末裔のみ…。私達は一族が誕生してから今日に至るまで、自分達の存在を偽りながら今日まで生きてきました。」
「まさかそんな出来事があったなんて…。でも過ちを犯したのは太陽神へーリオスでしょ?なのにどうしてアライアス一族だけがそんな酷い仕打ちを受けないといけないの?」
アライアス一族の誕生とその末路について話を聞いたVは、神々のあまりの身勝手な行動に怒りを露わにしていたが、そんなVとは裏腹に黒騎士は冷静な口調でなぜ神々がアライアス一族を歴史から抹消したのか、話を聞いた上で考えられるその理由を話し始めた。
「確かにVの言う通り、アライアス一族が神々から受けたその仕打ちはあまりにも身勝手なものだと私も思う。だが神々にとって一番大事なのは自分達自身の事や神としての威厳だ。厳しい言い方になるが、神々にとって人の一族がどうなろうとそれはどうでもいい事なのだ…。」
「ちょっと黒騎士!!言葉に気をつけなさいよ!!!」
「だがそれが事実なんだV…。」
「ッ!!!」
神々がアライアス一族にした仕打ちに対して『それが事実』だと冷静な口調で答える黒騎士にVの怒りは頂点に達し、Vは席から勢いよく立ち上がるとものすごい腱膜で黒騎士の胸元に手を掛けた。
「落ち着け、V。」
「これがどうやって落ち着けって言うのよ!!」
「………。」
今にも黒騎士に殴りかかりそうな勢いのVに、アライアスが優しい口調で『V様。』と一言声を掛けた。
「V様、私達一族に代わって神々に怒って下さりありがとうございます。そのお気持ちだけで私達一族は救われます…。」
「アライアスさん…。」
アライアスから贈られた『ありがとう』という予想外の一言にVの込み上げた怒りは一気に冷め、Vは黒騎士の胸元を掴んでいた手を離すと静かに椅子へと腰掛けた。
「V様、黒騎士様が仰った事は間違いではございません。むしろ歴史から存在を抹消されただけで、一族を滅ぼさなかっただけでも情けがあったのだと私は思います。ここまでお話しすればお二人も薄々はお気付きかとは思いますが、太陽神へーリオスが犯した過ちというのは人間との間に双子を儲けた事です。そして太陽神へーリオスと人間の間に生まれた双子というのが”黒の特質”を持って生まれたコルア様と、”陽の特質”を持って生まれた双子の姉のカルア様です。二つの特質を持って生まれたその双子を私達一族の中では”陽黒の双子”と呼んでいます。」
一族の誕生とコルアの出世について話したアライアスは次に神と人間の間に生まれた双子、陽黒の双子について話し始めた。
「太陽神へーリオスの子を妊った人間の女性は二人を出産した後、双子の産声を聞きながら静かに息を引きとったと聞いておりその存在を詳しく知る者はおりません…。もしその女性の存在を知る者がいるとすれば、おそらく太陽神へーリオスと極一部の神々と人間だけでしょう。そして陽黒の双子が誕生し妊った女性が亡くなった後、太陽神へーリオスは二人の双子を育てるために自身が神である事を側近の神や人間達に口外する事を禁じ、自身も神である事を隠し舞い降りた地で双子を育てる為に暮らしたとされています。」
「それじゃあ太陽神へーリオスは双子を見捨てるどころか、舞い降りた地で自分の身分を偽って双子を育てる事を選んだって事ですか?」
「V様の仰る通り、太陽神へーリオスは自らの手で双子を育てる事を選びました。」
「それあのにどうしてアライアス一族は歴史から抹消される事に…?」
「太陽神へーリオスが身分を偽り双子を育て十二年の歳月が経ったある日、双子にとある変化が起きました。」
「能力の覚醒か…。」
アライアスは黒騎士の言葉に頷くと双子の変化について話を続けた。
「十二の歳を迎えた双子はそれぞれの身体に変化が現れました。姉のカルア様は陽の特性が現れ、その瞳は琥珀色に輝く太陽のように輝き背中には太陽神へーリオスと同じ紋章が現れました。しかし妹のコルア様は姉のカルア様とは正反対の黒の特性が現れ、その瞳は漆黒に染まり背中には太陽神へーリオスと同じ紋章が現れたそうですが背中の紋章は黒く荒んでいたそうです。」
「なるほど…。つまり二人が”陽黒の双子”と呼ばれるようになった理由が能力の覚醒によるものだったというわけか…。」
「えぇ。しかし、十二の年を迎え能力が覚醒した事により二人の運命の歯車は大きく動き出し、二人の仲は大きく引き裂かれてしまう事になるのです…。」