#114〜薬剤研究施設〜
「お待たせしました黒騎士様、V様、ここが薬剤研究施設前になります!!研究施設自体はこの先を進んだ所にありますが、敷地内の一定のエリアから先に入るには入館書が必要になります。本来であれば事前に申告して頂く必要がございますが、今回は特例という事で私が申請と入館の手続きを行なって来ますのでお二人は手続きが終わるまでの間、敷地内にあるパーラー”コモレビ”にてお待ち頂ければと思います。」
「薬剤研究施設内にパーラーが?」
「はい。薬剤研究施設の敷地内には回復ポーションや秘薬などを製造や新薬の研究をするにあたって、この広大な土地を利用して薬草や植物の栽培を行なっているんです。アライアス様は長年の研究で、人と植物には言葉では説明できない”密接な関係”があるとお考えになっているようで、研究の一環も含めより多くの方に植物と触れ合う機会を設けたいという願いから敷地内の一部を森林公園として開放、そしてここで育てたハーブを用いた紅茶などを提供するパーラーを設置したというわけなんです。」
「人と植物には言葉では説明できない密接な関係…中々興味深い話だな。是非とも薬師のアライアス殿とお会いして直接お伺いしたいものだ。」
「伝説の四騎士である黒騎士様が興味を持って下さったと知れば、きっとアライアス様も喜んで下さると思います!!それでは、私達は申請の手続きを行なってきますので、黒騎士様達はコモレビでお待ちになっていて下さい!!」
そう言うとフローリアは同行していた騎士団達を率いて一旦その場を後にし、入館の申請と手続きを行う為に研究施設があるという敷地内の奥へと向かって行った。
「それじゃあフローリアの言葉に甘えて入館の手続きが終わるまでの間、パーラーで休ませてもらうとしよう。」
「そうね。それじゃあ行きましょうか黒騎士。」
それから黒騎士とVの二人は薬剤研究施設内にあるパーラー”コモレビ”へと向かった。
店内に入った二人はテラス席へと案内され席へ着くと、フローリアが入館の手続きが終わるまでの間、黒騎士はこの敷地内で栽培したハーブを幾つかブレンドした紅茶を、Vは黒騎士と同じく幾つかのハーブをブレンドした紅茶とスイーツをそれぞれ注文した。
「まさか帝国内に薬剤研究施設なんてものがあったなんてね。それにこの広さ、下手したら街一つ分はあるわよ?」
「知らない間に色々と変わったな…。」
「お互い”あの日”から自分の使命を全うする為に必死だったからね…、知らない間に世界が変わっていても不思議じゃないわよ。」
「そうだな。」
知らぬ間に世界が少しづつ姿を変えている事を肌で感じた二人は、目の前に広がる緑豊かな風景を見ながらそれぞれの思いに吹けていた。
そんな中、Vは黒騎士がなぜ急に薬剤研究施設を案内してほしいとフローリアに頼んだのか、その理由が気になりその事を黒騎士へと尋ねた。
「黒騎士、一つ聞いてもいいかしら?」
「どうした?」
「なんで急に薬剤研究施設を案内して欲しいってフローリアに頼んだの?」
「一つ、気になる事があってな…。」
「気になる事?」
「イスタリアムで白騎士との戦闘中に割って入って来た教団の女性メンバーがいてな。白騎士はその割って入って来た人物を”コルア・アライアス”と呼んでいた。フローリアの口から帝国で有名な薬師の名が”アライアス”と聞いた瞬間まさかとは思ったが…。それにコルアは教団のメンバーであると同時に、ロロの薬師としての師匠でもあったと仲間から聞いている。偶然にしては二人に共通点が多いとは思わないか?」
「確かに黒騎士の言う通り、偶然にしてはその二人に共通点が多いわね…。それで?この事はフローリアや青騎士には報告するの?」
「いや、二人の間に共通点が多いとはいえ確信に至ったわけじゃない。下手に今ここでフローリアや青騎士に報告すれば、それこそ大事になり聞きたい事も聞けずに終わってしまう可能性もある…。仮にもし二人の間に何かしらの関係があるとすれば、教団に関する情報を聞き出す事ができるかもしれない。その為にもフローリアや青騎士には悪いが、確信や何か情報を得られるまでは内密にしておこうと思う。」
「分かったわ。」
薬剤研究施設を訪れた理由やこれからの事について話し終えて程なくした頃、二人が注文していたハーブティーやスイーツが席に届くと、二人はフローリアが戻ってくるまでの間テラス席から広がる緑豊かな風景を楽しみながら束の間の休息に浸った。
それからしばらくして入館の手続きを終えたフローリアと、白衣に身を包んだ一人の見慣れない姿の男性が二人の元を訪れた。
「お待たせしました黒騎士様!!V様!!無事に薬剤研究施設への入館の手続きが終わり、お迎えに上がりました!!」
「何から何まで世話になってすまないな、フローリア。」
「いえ!これくらいなんて事ないです!!」
「そう言ってもらえると助かる。それで…、そちらの白衣を着た男性は?」
「こちらは薬剤研究施設でアライアス様の助手にして責任者、そして視察に来た私達の案内を担当して下さる”ノーリス”様です。」
「フローリア参謀長からご紹介にあった通り、この薬剤研究施設でアライアス様の助手を務め責任者を任されている”ノーリス・ダルバー”と申します。申請手続きの際にフローリア参謀長から色々とお話は伺っており、まさか青騎士様以外の伝説の四騎士の一人に加え、そのお仲間様にもお会い出来る日が来るとは思ってもみませんでした…。」
そう話すノーリス・ダルバーは伝説の四騎士の一人である黒騎士に会えた事が余程嬉しかったのか、感極まった表情で身体は嬉しさのあまり少し震えている様子だった。
「フローリアからどんな話を聞いたのかは分からないが、今回、急な申し出にも関わらず薬剤研究施設の視察を許可してくれた事感謝する。」
「いえ、こちらこそ伝説の四騎士の一人である黒騎士様に興味を抱いてくれた事、そしてこの施設を私自ら案内できる機会を与えてくれた事に心から感謝しています!!」
感極まり瞳を潤ませ両拳を強く握りしめながら話すノーリスの姿に黒騎士とVは少し圧倒されつつも、改めて急な申し出に対応してくれたフローリアとノーリスの二人に感謝の気持ちを伝えた。
「明日の事もありますので、早速ノーリス様に薬剤研究施設を案内して頂きましょう!!よろしくお願い致しますね!ノーリス様!!」
「はい!!」
こうして黒騎士とVの二人はコモレビを後にし、薬剤研究施設の責任者で帝国で有名な薬師の助手でもあるノーリス・ダルバーの案内で薬剤研究施設へと向かったのだった。
※パーラは現代でいうところのカフェみたいな場所です。