#112〜太陽の騎士〜
黒騎士、Vの二人は事の経緯とこれからの事について英雄王 アーサー・ペンドラゴンに報告するべく、青騎士の案内で円卓の間へと案内された。
円卓の間へと案内された二人の目の前には巨大な円卓が部屋の中央に設けられ、その巨大な円卓の周りには新円卓の騎士のメンバー十二名の椅子が等間隔で置かれており、更にその奥には聖剣が描かれた玉座があり、その玉座には白銀と天色に輝く鎧を身に付け、金色の髪と瞳を有した一人の男性が玉座に深く腰を下ろし円卓の間に訪れた黒騎士、V、青騎士の三人を見ていた。
「久しぶりだね、黒騎士。待っていたよ。」
「元気そうで何よりだアーサー…いや、今は英雄王と呼ぶべきか?」
「黒騎士まで僕の事をその名で呼ぶのはやめてくれ…。その名は皆んなが勝手に呼んでいるだけで、僕は自分自身が英雄だなんてこれぽっちも思ってないんだよ。だからせめて友人である黒騎士達には、僕の事を昔のようにアーサーと呼んでくれないか?」
アーサーの心からの申し出に黒騎士は少し笑みを浮かべ、『相変わらず変わらないな』と口ずさみながらその申し出を承諾した。
「それはそうと黒騎士、君の隣にいる方は一体…?見たところ背丈からして女性のように見えるけど…。」
アーサーの問い掛けにVは青騎士に名乗った時と同じように、今は訳あってVと名乗り素顔を仮面で隠している事をアーサーに伝えると、アーサーも青騎士同様に何かを悟り納得した様子を見せた。
「なるほど…。今は訳あってVと名乗っているんだね。」
「えぇ。これは私に限らずMも同じよ。」
「そっか…。Mは……彼は元気にやってるかい?」
アーサーの質問にVは小さく頷いて見せると、アーサーは『元気なら何よりだ』と少し寂しげな表情を浮かべながらそう呟いた。
それからアーサー王と再会を果たした黒騎士達は、自分達がなぜヴァラマ帝国を訪れ青騎士の元を訪れたのか、そしてこれから自分達が何をするのかについてアーサー王に伝えた。
「ーーーっというわけなんだ。」
黒騎士の話を真剣な眼差しで言葉一つ聞き逃さない姿勢で聞き終えたアーサーは、その両手を血が滲み出る程の強さで握りしめており、その表情は先程までの温厚な表情からは一転して険しい表情へと変わっていた。
「神聖教団…どこまで卑劣な事をすれば気が済むんだ…。」
「アーサー。転生者ハルトの件もそうですが、黒騎士から話があった通り商業都市イスタリアムでの一件も含め、これ以上被害を出さない為にも僕はこれから黒騎士達と共に転生者ハルトの最後の痕跡があった霞の谷へ行こうと思います。」
「それなら僕も一緒に!!!」
「それは駄目です、アーサー。」
「でもこれ以上教団に好き勝手させるわけにはいかないだろ!!!」
「アーサー!!!」
「っ!!」
いつも穏やかで冷静沈着な青騎士からは想像できないその姿にアーサーは圧倒されたのか、少し悔しそうな表情を浮かべつつ、湧き出た気持ちを鎮めようと深く息をして落ち着かせた。
「すまない黒騎士、V、それに青騎士…。」
「いえ、僕の方こそ少し言葉が過ぎました…。しかしアーサー、貴方が教団に対して強い思いがある事は僕を含め円卓のメンバーは皆知っています。ですがアーサー、貴方には貴方にしかできない役目がある。それを忘れたわけじゃないですよね?」
「あぁ…。」
「なのでアーサー、貴方は貴方に与えられた役目を全うして下さい。そして貴方に変わって必ず転生者ハルトの救出及び、教団、そして”彼”についての情報、もしくは”彼”を見つけた際には必ずこのキャメロット城へ連れて帰って来ると四騎士の誇りと智慧の魔導騎士の名に誓って約束します。」
青騎士の誓いにアーサーは『分かった』と頷き今回の一件を青騎士に託した。
「しかし霞の谷とは盲点だったな…。あそこは帝国の国境付近で、別名”死者の谷”とも呼ばれているらしい。」
「死者の谷?」
「あぁ。霞の谷はその名の通り年中霧がかかっていて視界も悪い上に、好んであの場所を訪れる者は滅多にいない。もしいるとすれば自ら命を絶つ者くらいだろう…。それに人があまり近づかない事から、それなりに知性を持った魔獣達や悪魔の棲家になっていると騎士団からの報告もある。もしかしたら、教団はそれを逆手にとって霧の谷を拠点としたのかもしれないな。」
「アーサーの言う通り、もし教団が霞の谷に拠点を設けているとすれば今の話も納得だな。それに霞の谷がヴァラマ帝国の国境外となれば、他国や冒険者達からの緊急な要請がない限り調査を行う事はないだろう。ましてや、知性を持った魔獣や悪魔がそこを棲家にしているとなれば、わざわざそんな危険な場所に足を踏み入れる冒険者や商人達も少ないはずだ。」
「だが今回は違う…。長年尻尾すら掴めなかった教団に関する情報がやっと入って来たんだ。何としてでも転生者ハルトの救出に加えて、教団と”彼”に関する情報が欲しい。その為にも今回の調査に僕の最も信頼している円卓の騎士のメンバーにして、”太陽の騎士”の名を持つ忠義の騎士、”ガウェイン”を同行させようと思う。」
アーサーの口から”ガウェイン”という名を聞いた瞬間、黒騎士の身体は微かに反応し、Vは黒騎士が反応したその様子を横目で静かに捉えていた。
「それと、もしもの時に備えて国境付近で青騎士、ガウェイン両者の騎士団達を待機させ随時こちらと連絡を取れる状況を作っておく。もしも教団や強力な魔獣や悪魔達が現れた際には直ぐに知らせて欲しい。決して無理だけはしないように頼む…。」
「分かりました。アーサー。では、ガウェインには僕から説明をしておきます。」
「頼んだよ青騎士。」
「はい。出発は明日の明朝、それまで黒騎士とVの二人は調査に備えての準備と疲れを癒してくれ。部屋の案内は後で使いの者に案内させる。」
「分かった。」
「了解よ。」
「うん。それじゃあ君達に円卓の加護があらん事を…。」
それから青騎士はこの事をガウェインに報告する為に黒騎士達よりも一足先に円卓の間を後にし、黒騎士とVの二人はアーサーに協力してくれた事に感謝の気持ちを伝えると、明日の出発に向けて準備をする為にキャメロット城を後にしたのだった。