#108〜疑惑〜
ヴァラマ帝国の国境付近にある街”カーム”の宿屋を出発した黒騎士とVは、帝国内にある冒険者協会に向かうべく”帝国公共交通機関トレイン”に乗車し、早朝の朝日と景色を眺めながら無事に目的地であるヴァラマ帝国へと到着すると二人は帝国の発展した街並みを見渡していた。
「相変わらずの異国ね…。いつ見てもこの場所はーーーー。」
「かつて人達が自らの叡智で築き上げた古の機械文明…。それに似ている…だろ?」
「えぇ…。」
「ここまで文明が発展したのは魔法国家ナリアティスが帝国に提供した魔法科学の技術もあるだろうが、何より帝国の文明がここまで大きく発展した背景にはこの帝国にハルトと同じ転生者が数多く存在する事が何より一番大きいだろうな。」
「そうね…。今じゃその転生者の存在自体”あの頃”と違って珍しいけど…。」
何か思い詰めた雰囲気でそう話すVに黒騎士は肩にそっと手を乗せて『そうだな』と一言返すと、今回の目的地でもある冒険者協会へ向けて歩き始めたのだった。
◇
それから二人は街道にある標識を頼りに進んで行き、今回の目的地でもある帝国の冒険者協会へと到着した。
ヴァラマ帝国にある冒険者協会は機械文明が発達した街並みとは違い、商業都市イスタリアムにある城のような外観をしており、その規模は商業都市イスタリアムにある冒険者協会の倍の大きさを有していた。
「いつ来てもこの協会が街から浮いてるように見えるのは私だけかしら?」
「そう思っているのはVだけじゃないさ。私含め大半の者はVと同じように感じているはずだ。」
二人は冗談を交わしつつ冒険者協会の中へ入ると、まずは冒険者協会の一階フロアにある受付へと足を運ばせ受付嬢に神聖教団に関する目撃情報などがないかを尋ねた。
「神聖教団に関する情報ですか…。以前は教団らしき人物達を目撃したという情報を冒険者様や帝国の騎士団の皆様から耳にしていたのですが、”ある日”を境に教団に関する情報は全く…。」
「その”ある日”というのは?」
「商業都市イスタリアムでの一件です。」
なぜ教団に関する情報が全く無くなったのか。
その理由が商業都市イスタリアムでの一件以降と聞いた黒騎士とVの二人は納得していた。
「そうか…。」
「いえ…。こちらもお力になれず申し訳ありません。ですがどうして教団の事を?」
「私達はその一件があった時ちょうどイスタリアムを訪れていたんだ。今回の一件といい、教団に関してはあまり良い噂を聞いていなくてな。それに私達は今旅の途中、もしもの時に備えて何か教団に関する情報がないかを知りたくて調べていたところなんだ。」
「そうでしたか。イスタリアムでの一件以来、この帝国でも真円卓の騎士団を中心に教団に関しての調査を行なっているみたいです。もし何か情報が入ればその時はこの冒険者協会にも情報が共有されると思います。」
「そうか。ではその時が来たらまた宜しく頼む。」
「はい。その時はお力になれるよう私も頑張らさせて頂きます。」
黒騎士とVは受付嬢に会釈し冒険者協会を後にすると、冒険者協会近くにある冒険者御用達の酒場”ゴジャス”へと向かった。
この冒険者御用達の酒場ゴジャスは冒険者協会同様、古の機械文明のような作りでは無く商業都市イスタリアムや、ノルズの街でルミナが経営している店ヴィヴィアンのような作りをしており、早朝から賑わいを見せていた。
酒場に入った二人は店の奥の方へ座ると適当に飲み物や軽食を注文し、冒険者協会で受付嬢から聞いた話を踏まえてこれから先の事について話し始めた。
「受付嬢の話によればイスタリアムでの一件があってから教団に関する情報は全く無いと言っていた。だがしかし、Rによればこの近辺で教団らしき人物達の目撃があったという情報もある…。それに帝国の技術力、戦力、情報網を駆使すればこの近辺でもし本当に教団の目撃情報があったとすれば、騎士団や冒険者協会の耳にも入るはずだが現に騎士団や冒険者協会の耳にも入って無い…。」
「明らかな矛盾ね。」
「あぁ。これらを踏まえて現時点で考えられる可能性は四つ、一つは教団が何かしらの策を講じて自分達の情報が外に漏れないよう情報を操作している。二つ目は帝国側が教団に関する情報を掴んでいるが、その情報を訳あって表に公開していない。三つ目はイスタリアムの時同様、帝国側に教団の手先が潜り込んで帝国内部を操作している。そして最後の四つ目はRが私達に嘘の情報を流しヴァラマ帝国に来るよう促した…。」
「そんな!!まさかRが私達を!?」
「落ち着けV、これはあくまでも現時点での可能性の話しだ。いくら目指す思想が違えどかつて旅をした仲間、それにRが私達の事を裏切ったと本気で思っている訳じゃない。分かるな?」
「えぇ…それは分かるけど…。でももし仮に、その四つ目の可能性が当てはまっていたとしたら?Rが…私達を裏切っていたとしたらその理由は一体何!?」
四つ目の可能性に対するVの疑問に対して黒騎士はしばらく考え込むと、自身の仮説も交えて自分の考えをVに話し始めた。
「もし仮に四つ目の仮説が正しかったとして、なぜRが私達に嘘の情報を流したのか…。おそらくその理由は、私達が成し遂げようとしている事を阻止したいのかもしれないな…。”あの時”からRと私達の描く未来や思想は少し違っていたのは事実。それに今回はMが今まで見て来た道とは異なる道を進んでいるとなれば、私達を裏切らなかったにせよRには何か別の目的があるのかもしれない…。」
「別の目的?」
「もし仮にそうだったとしても、今のこの現状ではその目的が何なのか私には分からない…。それに今の私達にはRが提供したその情報を信じて教団に関する手がかりを探すほか道は無い。」
「そうね…。でも教団に関する情報が冒険者協会にも無いとなればーーー。」
「奴に頼るしかないな。」
「青騎士ね。」
「あぁ。では早速奴に会いに”キャメロット城”へ向かうか。」
黒騎士はそう言うとVと共に席を立ち冒険者御用達の酒場”ゴジャス”を後にした。
「それで、キャメロット城に向かったとして青騎士に会う手立てはあるの?」
黒騎士は鎧の首元部分へ手を伸ばすと、以前商業都市イスタリアムでハルト達と共に登録した際に受け取ったブロンズのタグではなく、鎧の中から緑、オレンジ、赤紫が綺麗に混ざり合い神秘的な色合いをした冒険者のタグを取り出した。
「神に匹敵する程の力を持った者だけが与えられる最上級の冒険者の証、”アレキサンドライト級冒険者”のタグと私の名を伝えれば可能だろう。」
「なるほどね。」
Vは黒騎士の首元に神秘的に輝くアレキサンドライト級冒険者の証を見て納得した様子を見せると、二人は新円卓の騎士のメンバーであり、伝説の四騎士の一人にして”智慧の魔導騎士”の異名を持つ青騎士が居るキャメロット城へと向かったのだった。