#106〜ヴァラマ帝国に向けて〜
<とある街の古びた工房にて>
黒騎士がこの古びた工房に来て数日、白騎士との戦闘によって破壊された鎧は歪な模様が入った仮面で素顔を隠している”M”により、以前に比べてスタイリッシュなデザインに一新され鎧の隅々には金色に輝くラインが施されていた。
黒騎士はその修復された新しい鎧をMから受け取ると、教団に連れ去られたハルトとエレナを救出すべく鎧を装備し出発の準備をしていた。
「どうだい黒騎士?新しい鎧を身に付けた感想は?」
「以前にも増して機動性が向上し流石Mと言いたいところだが…。それにしてもMよ、このデザインといい隅々に施された金色のラインといい少し目立ち過ぎじゃないか?」
「そうかい?でもまぁ、そのデザインに関しては僕の趣味も入っている事は素直に認めよう。」
「やはりか…。」
「だが鎧をスタイリッシュなデザインにした事、そして鎧の隅々に金色のラインを施したのには僕の趣味以外にもちゃんとした理由があるんだ。」
そう自慢げに話すMに黒騎士は『その理由は?』はと少し呆れた様子で聞き返した。
「よくぞ聞いてくれた黒騎士よ。以前までの鎧は重厚感のある作りで、防御に特化した作りになっていたのは君も知っているね?これまで君がその鎧を装備して戦ってこれたのは、君自身のポテンシャルの高さがそれを補っていたからこそだ。だがこれから先それがずっと通用するとは限らない。それは君自身が今回の件で最も痛感しているはずだ。」
「あぁ…。」
「それに君がゼウスから受けた加護、”全知全能神の死守拳”の力を使用するとなれば、いくら防御に特化した鎧だとしても元の鎧がその力に適用していないとなれば自ずと鎧にダメージと負荷が蓄積され限界を迎えてしまう。そうなればいくら修復したとしても今回のような結果になってしまうのは目に見えている。」
Mの話を聞いてドリュアス森林でハルトが”Ω”の力を暴走させた時やイスタリアムでの一件で、自分が思ってる以上に鎧の力を駆使していたのだと黒騎士は改めて実感した。
「だからこその一新なんだよ黒騎士。以前よりもスタイリッシュなデザインにする事で君自身のポテンシャルを最大限生かして機動力を高め、尚且つ鎧の隅々に施された金色のラインには純度の高い魔導石とマテリアルを加工したものを”ローシュタイン鉱石”を用いた”原石活用増幅装置”へと埋め込み、鎧の力を最大限活かせるよう特殊な術式を組み込んである。これによって”全知全能神の死守拳”を使用したとしても鎧への負担を軽減できるだけじゃなく、今まで以上の力を発揮させる事ができるはずだよ。」
「今まで以上の力…か。」
「君ならその力を正しく使えると僕は信じているよ。それと前にも言ったけど、今回は僕が今まで見て来た道とは異なる展開…まさに未知の領域だ。これが何を意味するか黒騎士なら分かるよね?」
「あぁ、この道がどんな結末を迎えるのかは分からぬが、俺は自分に与えられた使命を全うすべく二人を導くだけだ。」
「頼んだよ黒騎士。それとこれを黒騎士、君に託そうと思う。」
そういうとMは作業台に置かれた自分の背丈程ある鞘に収められた巨大な大剣を手に取ると、手に取ったその大剣を黒騎士へと手渡した。
「この大剣は一体…?」
「前に持っていた”七色に輝く神殺しの大剣ミストルティン”は白騎士に奪われてしまっただろう?これから先の事を考えた時、丸腰よりも何か頼れる武器が手元にあった方が安心して旅立てると思ってね。鎧の修復の傍ら作っておいたんだ。」
黒騎士はMから手渡されたその大剣を見てある事に気付いた。
以前黒騎士が所有していた”七色に輝く神殺しの大剣ミストルティン”が神聖なデザインだとすれば、Mが黒騎士に手渡したその大剣はどこか機械的でこの時代からしてみれば少し歪なデザインをしている。
「この機械的なデザインはまさか…。」
「そのまさかだよ黒騎士。この大剣には過去の遺物である”古代の機械”を使用しているんだ。そして僕の持つ全ての技術と叡智を持って作り上げた君だけの”専用武器”…。僕はこれを”古代の機械武器”と名付けてみた。」
「”古代の機械武器”…。」
「君も知っているだろうけど、この過去の遺物である古代の機械はかつて人が自分達の文明を滅ぼす程の力、そして神をも超える力を持った代物だ…。一新した鎧同様、使用する者次第で救済にも破滅にもなる。」
そう話すMの表情は、普段の穏やかで陽気な雰囲気とは変わっていつになく真剣な表情をしており、それもあってかMの言葉一つ一つには重みがあった。
「だが黒騎士、君なら一新した鎧同様、この力を正しく使ってくれると僕は信じているよ。そして彼を…ハルトを必ず助け出してあげてくれ。」
「もちろんだM。」
黒騎士は託された古代の機械武器を強く握りしめながら、”ハルトを必ず助け出す”と自身の心、そして友であるMに誓うよう力強く頷きながらそう言った。
それから出発に向けて準備を進めていると、黒騎士とMが居る古びた工房のドアを三回、等間隔に間を開けてノックする音が二人の耳に入って来た。
Mはドアを等間隔に間を開けて三回ノックする音が”彼女”からの合図だと知り、ドアの外に居る”彼女”に向けて『どうぞ』と一言声を掛けた。
するとMのその一言を聞いた”彼女”は静かにドアを開け、二人の居る古びた工房へと足を踏み入れ中へ入って来た。
「やぁ”V”、待っていたよ。」
「久しいなVよ。相変わらず二人して仮面を付けているとは…。」
Mの言う彼女Vは全身を茶色のローブで身を包んでおり、素顔はM同様に歪な模様が入った仮面を被り素顔を隠していた。
「そういった貴方も昔と変わらず鎧を身に付けているのね。まぁあの時よりはスタイリッシュになったみたいだけど?」
「Mから大体の話は聞いてるだろうがこの工房に来るまでに色々とあってな…。それはそうとV、ハルトの居場所について何か手がかりになる情報はあったのか?」
「結論から言うと、彼の居場所に関して手がかりになりそうな情報は何も得る事はできなかったわ…。裏の情報網を駆使しても何一つ情報が出て来ないってなると、教団側が何かしらの策を講じて足取りを消しているとしか思えないわね。」
「そうか…。」
「白騎士が蘇ったとされる死者の国、そして神聖教団に関して調査を行った中で唯一、教団に関するとある情報を入手する事には成功したわ。」
「それは本当かV!?」
「えぇ。その情報によれば、ヴァラマ帝国付近で教団らしき人物達を目撃したって情報があったのよ。私個人的には少し信憑性に欠けるけ情報だけど、それでも今はその情報に頼るしかないと私は思う。」
Vが唯一入手した”ヴァラマ帝国付近で教団らしき人物達を目撃した”という情報。
確かに現段階では信憑性に欠ける情報だとしても、何も手がかりが無く闇雲に居場所を探し回るよりかははるかに希望がある。
「Vの言う通り、今はその情報に賭けてみるしかないと僕も思うよ黒騎士。それでもし上手くいけばハルトの居場所も分かるかもしれないしね。」
「あぁ、となればまず向かう先はヴァラマ帝国で決まりだな。そうと決まれば直ぐに俺は帝国へ向けて出発すーーー。」
「私も一緒に着いて行くぞ黒騎士。」
黒騎士の言葉を待たずそう言い出したのはVだった。
「話を聞く限り相手はこの黒騎士を追い込んだ相手ときた…。それに情報を収集するならこの私が一緒の方が情報収集もより効率的に進むと思うし、何よりMは最初からそのつもりだったと思うけど?」
「ご名答。Vの言う通り彼女が一緒の方が黒騎士にとっても色々と都合が良いと思うんだ。それにかつて一緒に旅をした仲だから気を使うこともそうないだろう?」
「それはそうだが…。本当にいいのかV?長旅になるかもしれんぞ?」
「彼と彼女の為よ。」
「分かった。ではそうと決まれば早速ヴァラマ帝国へと出発しよう。」
「善は急げってやつね。それじゃあM、しばらくの間寂しいと思うけど我慢してね?」
「辛抱しとくよ。それじゃあ二人とも気を付けて…。ハルトの事を頼んだよ。」
そして黒騎士とVはMに見送られながら古びた工房を後にし、ハルトの居場所の手がかりを探すべく、教団らしき人物達が目撃されたと情報があったヴァラマ帝国近辺に向けて出発したのだった。