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#1〜終焉を司る神オメガ〜


世界は残酷だ。


母親がこの世を去ってから十三年、そして祖父母の二人がこの世を去ってから二年、世界は僕から大事なものを全て奪っていった。


十三年前に母親が亡くなり一人になってしまった僕を母方の祖父母が引き取り、母を亡くしてしまった僕を寂しくないようにと祖父母の二人は僕にとびきりの愛情を注ぎ育ててくれた。その甲斐もあってか僕は二人のおかげで寂しさを感じる事なく毎日を楽しく過ごす事が出来た。


祖父母の二人は昔から地元で喫茶店を営んでおり、地元人から昔から愛されアンティークな雰囲気が漂う有名な喫茶店で僕にとって大切な居場所だった。


だが、今はその喫茶店には僕以外の姿は無い…。


僕は静寂に包まれた喫茶店のカウンターに置かれた椅子に静かに腰掛けると、ゆっくりと店内を見渡した。

いつもならこのカウンターの中で祖父が笑顔でコーヒーを淹れ、祖父が淹れたコーヒーや料理を祖母が運びお客さんと楽しく談話している姿があるはずなのに、店内をいくら見渡してもそこに二人の姿は無く、静まり返った店内を見渡すたびに僕は二人がこの世にはもういないんだと現実を突きつけられていた。



「じーちゃん…ばーちゃん…ごめんね…。僕…守る事が出来なかった…。」



コーヒの香りがほのかに漂い静まり返った店内にボソッと出た自分の声が静かに響き渡った。

祖父母が亡くなった後、僕はこの喫茶店を守ろうと毎日奮闘してきたが現実はそう甘くは無く、徐々に客足は途絶え気付けばこの喫茶店を訪れる人は誰一人いなくなってしまった。

母親が育った実家でもあり、祖父母が大事にしてきたこの喫茶店を守る事ができなかった自分の無力に僕は絶望し涙した。


カウンターに飾られている家族写真に手を伸ばしそれを僕はそっと胸に抱き抱えると、僕は鉛のように重くなった身体をカウンターへうつ伏せにして上半身を休ませるとそっと目を閉じ、そのまま意識が遠のいていくのを感じながら深い眠りへとついたのだった。





しばらくすると徐々に意識が戻り、気付くと今まで感じていた鉛のような重さは身体から消えており自分でも驚く程身体が軽くなっているのを感じた。



「身体が軽い…。それにここは一体…?」



周囲を見渡すとそこは自分が先程までいた喫茶店の店内の中ではなく、言葉では上手く説明できない程に神秘的な場所にいた。あまりの突然の出来事に僕の意識は一気に覚め目の前いに広がる神秘的な光景に言葉を失ってしまっていた。

しばらく視線の先に広がる神秘的な光景を眺めていると僕の中である一つの考えが脳裏をよぎった。それはこの場所が死後の世界ではないかという事だ。脳裏によぎったその考えを否定したい気持ちから試しに自分の頬をおもいきりつねってみたが、案の定、つねった自分の頬はジンジンと痛みを感じこれは夢ではなく現実なんだと実感させた。



「夢じゃない…のか…。」



自分が今いるこの場所が死後の世界なのか、それとも死後の世界ではなく別の何処かなのか…?

いくら悩んで考えたところで答えが出る事はなかった。

そんな事を考えていると突如目の前が光り輝き出し始めた。次第にその光は人のような形を形成し始め、それと同時に目の前に突如輝き始めた光はその強さを増していき、次第に周囲を眩い光で包みこんなでいった。

しばらくすると周囲を包み込んでいた光の輝き次第に収まり視界も回復したが、光の輝きが収まったと思えば次に目に飛び込んできたのは、背中に六枚の翼を生やした一人の女性の姿だった。

その女性は天使や神を想像させるかのような可憐な容姿をしており、優しさと悲しみを兼ね備えた不思議な雰囲気を醸し出している女性で静かに僕の方を見ていた。



「初めまして、私は”終焉を司る神オメガ”と申します。」


「………。」



あまりの突然の出来事に僕はどう反応していいのか分からず、その場に立ち尽くしてしまった。



「あの〜・・・私の声、聞こえていますでしょうか?」


「あっ!はい!!きっ…聞こえています!!!」



咄嗟の出来事と緊張と焦る気持ちからその女性の呼び掛けにぎこちなく反応してしまった。



「反応が無かったので声が聞こえていなかったどうしようと思っていましたが、無事に聞こえているようで安心しました。」


「あっ、その、えと…すみません!!突然の出来事で驚いてしまって…。」


「私の方こそ驚かせるつもりは無かったのですが、結果、驚かせる事にになってしまって申し訳ありません。」


「いえ、そんな事は…。」



女性慣れしていない男子高校生のような反応をしてしまっている自分がそこにいて、内心、僕は恥ずかしくなってたまらなかった。



「改めまして、私は終焉を司る神オメガと申します。」


「はっ、初めまして!僕の名前は”奈々扇遙斗ななおうぎ・はると”と申します。」


「よろしくお願いします、ハルトさん。」


「こちらこそよろしくお願いします。」



互いの簡単な自己紹介を済ませたところで僕は目の前の女性の名前が、”終焉を司る神オメガ”と聞いてある事が脳裏を過った。

それは、”オメガ”とはギリシャ文字で”終わり”などを意味したりする。それに”終焉を司る神”という事はその言葉の意味から破壊神か何かなのではないか?という事だ。もしそうだとすれば神様の機嫌を損ねないよう粗相が無いように接しなければ…。



「そんなに怯えなくても大丈夫ですよハルトさん。終焉を司る神と言ってもハルトさんが今思い描いているような人物ではないのでご安心下さい。」



さすが神様。どうやら僕が頭の中で考えていた事が神様に読まれていたようだ。

会って間もない僕が言うのもなんだが、”終焉を司る女神オメガ”という女性の神様は物腰がとても柔らかく、発する言葉一つ一つに優しさを感じ、”終焉”という言葉からは程遠い印象だった。



「すみません。”終焉を司る神”と聞いて悪い方の神様を想像してしまいました…。」


「この名のせいか初対面の方に自己紹介をすると先程のハルトさんと同じような反応をされるんです…。ですがもう慣れたなので気にしないで下さい。」



どうやら初対面で神様の名前を聞いて背筋が凍るような反応を見せるのは僕だけじゃなかったようだ。

この会話から察するに、神様は毎回この誤解を解くところから始まるのだろう。気にしていないとはいえ、神様に失礼な態度をとってしまった事に変わりはない。ここは謝罪の意味も込めて謝っておこう。



「僕の方こそ初対面で失礼な態度をとってしまい申し訳ありません。今は神様の事を恐れたりとかはしていないので、そこは安心して下さい。」


「はい。その言葉を聞いて私も安心しました。」



そう言うと神様はに向けて優しく微笑んで見せた。

それにしても目覚めてから視線の先に広がる神秘的なこの場所といい、突如目の前に六枚の翼を生やした”終焉を司る神オメガ”と名乗る女性の神様が現れたりと正直、今の自分のこの状況に理解が追いついていない…。

僕は一旦気持ちを落ち着かせる為に深く息をし、気持ちを落ち着かせた後、脳内をフルスロットルでフル回転させ今の自分の状況について一つの仮説を立てた。

だがもし仮にその仮説が正しかったとすれば僕はその現実に向き合う事ができるだろうか…?しかし、遅かれ早かれ知る事になるのだとしたら、今この場で自分の口から直接神様に尋ねて知る方がいい。その方が現実を受け入れる事ができるかもしれない。


そう思った僕は意を決して神様に尋ねた。



「神様、1つ尋ねてもよろしいでしょうか?」


「何でしょうかハルトさん?」


「僕はその…死んでしまった……のでしょうか?」



その問いに神様は少しだけ曇った表情を浮かべ寂しげな表情で僕の目を見つめながら、神様は静かに口を開き僕からの問い答えた。



「はい…。」



どうやら僕の仮説は当たっていたようだ。



「そうですか…。」


「元の世界でハルトさんは度重なる不幸により心身ともに疲弊し限界をむかえていました。そしてある日、生きる事への意味を見出せなくなってしまったハルトさんは、家族の写真を胸に抱き抱えながら喫茶店のカウンターで静かに目を閉じその生涯を終えてしまいました…。」


「………。」



それは僕が覚えている最後の記憶だった。

祖父母が死んだあの日から喫茶店を何とか守ろうと死に物狂いで働き続けてきたが、その想いも虚しくどうやら僕は心身ともに疲弊し生涯を終えてしまったようだ。

あの時こうしておけば違った結果になっていたかもしれないと、今になって後悔の念が込み上げてくる。



「僕が…、僕があの時もっと頑張っていれば……。」



悔しさや後悔、色んな感情が一気に押し寄せ僕は落胆し膝から崩れ落ち地面に涙した。



「ハルトさん。もし、人生をもう一度やり直せる事ができるとしたらどうしますか?」



後悔の念に押し潰され地面い崩れ落ち涙している僕に神様がそっと優しく包み込むかのように語りかけた。



「えっ!?それってどういう…?」


「私はハルトさんにもう一度、人生を歩む為の新しい命を授けたいと思っています。」


「!?」



突如神様から告げられたその言葉に僕は動揺を隠せずにはいられなかった…。

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