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ゴブリンモドキを救いたい

ゴブリンモドキ達が陥っている飢饉をどうにかするべく、蒼一がまず真っ先に目を付けたのは海の魚達だった。


以前蒼一が海を渡ろうとした際、海の中へ意識を移した時に海中に存在する膨大で多種多様な生物の情報の前に撤退を余儀なくされた事があり、それはつまりそれだけ多くの魚が存在するという事で、ゴブリンモドキ達の食料問題を解決するには十分な筈だとは考えたのだ。


(問題はどうやって魚を獲るかだよな……網の類は無いし、波を操って浜辺に打ち上げるか?)


取り合えずやってみない事には始まらないと、早速波を操り魚を獲ろうとする蒼一だったが……


(くっ、駄目だ。また逃げられた!)


案の定、そうアッサリと上手く行く筈も無く非常に手間取っていた。


相手は海の魚、荒れ狂う海の中でも生き抜いてきた実績があり、浜辺に打ち上げる為に蒼一が操っているとはいえ、所詮は波が普段よりも激しい程度で大時化(おおしけ)の海とは比ぶべくもない。

波の横合いへとそのままスルリと躱されたり、波の中を平気で泳いで抜けてしまったりと、蒼一を嘲笑うかのように魚達は巧みに流れに逆らう。


(グギギギ……こうなりゃ強硬手段だ!)


最初は穏便に済ませようとしていた蒼一だったが、ゴブリンモドキ達が今この間にも着実に死へと近づいている以上無駄に時間を掛けたくはない。

魚達には申し訳ないが、今はあっちが優先だと蒼一は強引な手段に出る事にした。


(竜巻よ!魚達を巻きあげろ!!)


その言葉と同時に海上に竜巻が出現し、大量の海水と共に魚も巻き込んでは周辺にそれらをぶちまける。


竜巻である以上、狙って魚だけを島の方へ飛ばすという事は出来ないし、むしろ海面へと叩きつけられる魚達の方が遥かに多かったが、それでも決して少なくはない数の魚が砂浜や森の中へと落ちていく。

それに加え、蒼一の意識が及ぶ範囲の海面に打ち付けられて気を失った、或いは絶命した魚の方も波を操り浜辺へと打ち上げ、可能な限り無駄にしないよう着実に魚を集めていた。


(よしよしよし、一先ずこれだけあれば十分だろ。獲りすぎても腐らせるだけだろうし――い!?)


もう十分だろうと考えていた蒼一の視界に、竜巻に巻き込まれて登っていく巨大な蛇のような何かの姿が飛び込んできた。


(鯉の滝登りならぬ蛇の竜巻登り!?)


一瞬そんな馬鹿な考えが脳裏を過ったが、どう考えても登っているというよりは完全に巻き込まれているだけであり、蒼一はすぐに竜巻を霧散させその巨大生物を解放する。


竜巻が消えた事で大量の海水と共に宙に投げ出されたそれは蛇というよりはウツボに近い見た目で、体長二十メートルにも及ぶ巨大ウツボであった。


その姿に"うわぉ、ファンタジー"なんて感想を抱いた蒼一の視線の先で、海水と共に巨大ウツボが重力に引かれ海面へと落ち巨大な水柱が打ち上がる。


(あ、嫌な予感)


蒼一のその嫌な予感は見事に的中し、落下した巨大ウツボによって海面にうねりが生まれ、それが荒波となって海岸へと押し寄せ、蒼一の視界いっぱいに広がった。


(おわぁぁぁぁぁ!?)


実体のない蒼一にとって波がどれだけ押し寄せようとも被害の一つも受けはしないが、それでも視界いっぱいに波が押し寄せてくるという光景に情けなく悲鳴を上げてしまうのも仕方のない事だろう。

浜辺をを丸っと呑み込む程の荒波が島へと打ち寄せ、それは浜辺に集まっていた魚達をも呑み込んでいく。


(あぁ!魚が!!)


蒼一がその事に気が付いた時には既に遅く、一部の魚は森の奥まで流され、残りも引き波で海に攫われてしまった。


後に残ったのは海水をたっぷりと含んだ砂浜と打ち上げられた海藻、それと荒波が代わりに連れて来た少しの魚だけ。

それも本当に少しでしかないので、ゴブリンモドキ達の腹を満たすどころか一匹に一尾も行き渡らない。


もう一度竜巻を起こして魚を集めなおそうかと考えた蒼一だったが、一度失敗した手前何故か同じ結果になる未来しか見えず、魚だって生きてるのだからこれ以上無為に命を散らすような真似もしたくはないと、結局別の方法を取る事にするのだった。








浜辺を離れ蒼一は森の中を当ても無く彷徨いながら、ゴブリンモドキ達の食料になる何かが無いかを探し回っていた。


(やっぱ見当たらない、か。そりゃそうだよな、そう簡単に見つけられるならアイツらも飢える訳が無いし)


結果は惨敗、一応木の実やキノコの類はそれなりに存在しており、量だけならそれこそ後先考えなければ集められるだろうが、問題はそれが加食なのかどうかであり、毒キノコの類でも混じっていればそれを見分ける手立ては蒼一には無い。

そう考えるとあの魚達の中にも毒を持つ魚も居ただろうし、あの荒波に攫われたのはある意味で良かったのかもしれないと、蒼一は一人納得していた。


(ゴブリン達が今まで何を食べて生きてきたか、それが分かれば一応方法はあるんだけどなぁ……)


蒼一の頭の中にあるのは一つの作戦。

成功すればゴブリンモドキ達が助かる公算は非常に高いものの問題はその難度であり、作戦の遂行に必要な物が今の蒼一には決定的に欠けていた。

その一つがまずゴブリンモドキ達が食べられる食物の情報、それともう一つがこの世界に流れる情報の解読だ。


(食べ物さえ見つけられたら、後はそこに流れる情報を弄れば成長させたり大きさを変えたりを意図的に出来るとは思うんだが……まずアイツらが食べられる物の判別をどうするか、仮にそれが解決したとしてどこをどう弄れば狙い通りの結果が得られるのか、それが分からないのがなぁ……)


幸いというべきか、世界という高性能な情報処理機(コンピュータ)となった今ならどれだけ試行回数を重ねたとしても、それこそ一万、十万、百万回と繰り返したところで実時間においては数秒の出来事だ。

蒼一にとっては気の遠くなるような難行だが、その間にゴブリンモドキ達が全滅するという事はないだろう。


まぁそれを行うにしても、まずはゴブリンモドキ達が食べる事の出来る食物を見つけなければ始まらないのだが。


(しかしなぁ……どれが毒の情報かなんて判別出来ないし、ここは一か八か適当な奴で試すか?)


このまま時間を無為に過ごすよりはと、蒼一が賭けに出ようとした時だった。


近くの茂みが揺れ、一匹のゴブリンモドキが姿を現す。


(ん、アイツは確か……俺が最初に見つけた奴か?)


その外見ではなく、そのゴブリンモドキが持つ情報に既視感を覚えた蒼一は、目の前に居る個体が自分が最初に見つけたあの何かを探し回っていた個体であると判断する。


(あの時は何を探してるのやらと思ったが、今なら分かる)


飢饉に陥ったゴブリンモドキが森の中で探す物となれば一つしかないだろう。


(コイツに付いて行けば、何が食べられるのか分かるかも)


そう判断した蒼一は食料を探して彷徨うそのゴブリンモドキの後を付いて行くのだった。

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