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暇潰しを求めて

蒼一は今、暇潰しの為にあのゴブリンモドキを見つけた場所まで戻って来た。


あれから時間も経っており、ゴブリンモドキも茂みの奥へと姿を消した為に当たり前だがこの場にそれらしき姿は見当たらない。


(確か、こっちの方に向かってたよな)


ゴブリンモドキが消えていった方角に蒼一は進んでいくが、ゴブリンモドキの姿も目新しい物も何も見つけられず、結局そのまま海岸まで抜け出てしまう。


(海岸には姿無し……となると仕方ない、虱潰しに探すしかないか)


面倒臭そうな蒼一だが、実際のところはそうでもない。

これが人間の足であったなら丸一日掛けても終わらないだろうが、空間を滑るようにして意識を移動させる今の状態なら無人島全域を虱潰しにしたところで数分と掛からないだろう。

それに何もする事が無い蒼一にしてみれば、ゴブリンモドキを探すというだけでも十分な暇潰しになるのだ。


そうやって無人島の上から下に移動しては横にずれ、下から上へと移動するというように無人島を虱潰しにしていた時、緑ばかりだった蒼一の視界に唐突に灰色の岩肌が目の前に現れる。


(おっと、これは岩……山?)


視界に映るその岩山は確かに岩山ではあるのだろうが随分と低く、地面からの比高は恐らく二十メートルと無いだろう。


(山で良いのだろうかこれは……少なくとも築山よりは大きいし、山で良いか)


暇過ぎてそんなどうでも良い事を考えつつも、意識が空間に溶けているような状態の蒼一を阻む事の出来る障害物など存在しない為、蒼一はそのまま真っ直ぐに岩山の中を通り抜けていく。


(ウッ……岩の中だからか?森に比べて多様さは無いけど、随分と情報が多い……ん?)


多様な草木が生い茂る森以上に、空間に隙間なく存在する岩の密度により流れ込んでくる大量の情報に蒼一が不快感を示していた時だ。

蒼一の世界としての知覚が岩とは異なる情報を端に捉える。


(この複雑な情報……多分生き物だな。となると)


岩や草木よりも多種多様な情報の流れを感じ取った蒼一がそちらの方へと意識を移動させると岩山の中に広がる空洞へと繋がり、そこには予想通りゴブリンモドキが居た。

しかも一匹ではなくに三十匹程の群れである。


(森の中で全然遭遇しないと思ったら、こんな所に集まってたか。この洞窟がこいつらの巣なのか?)


蒼一のその予想は正解でこの洞穴の床は歩くのに邪魔になる小石等は一切なく、ゴブリンモドキ達が集まっている空間とは違う広いスペースには藁を積み重ねただけの簡易的な寝床もあった。


「ゲェ!グャァ!」


聞こえて来た鳴き声の方へと蒼一が視線を動かしてみると、集まっているゴブリンモゴキ達の内の一体が、壁際に作られた岩を何個も積み重ねた何かに向かって一生懸命何事かを叫んでいる。


能く能く観察してみれば、適当に集まっているように思えたゴブリンモドキ達だったが、全員がその壁際に作られた何かの方へと顔を向けており、何やら異様な雰囲気を醸し出していた。


(もしかして、あれは祭壇なのか?)


一見して適当に大きめの岩を乱雑に重ねただけに見えるそれは、祭壇ではと言われてみればそう見えなくも無くはない……という、何とも微妙な感じであった。


しかしその考えが正解だったとして、このゴブリンモゴキ達は祭壇に向かって一体何をお願いしているのだろうか?。


(何となくだけど、切羽詰まってるってのは分かるんだよな……問題は言葉が一切理解出来ないから何をお願いしてるのか分からないって事だけど)


何か周囲にヒントになる物はないかと蒼一が辺りを見回すと、祭壇らしきものとは反対側の壁に、横たわる何体かのゴブリンモドキの姿があった。

その姿に一瞬違和感を覚え、そしてその違和感の正体に蒼一は思い至る。


(情報量が極端に少ない……これはもしかして)


壁際に寄せられたゴブリンモドキ達の死体を一瞥した後、蒼一は視界を反転させもう一度集まっているゴブリンモドキ達を見る。


(集まっている方と比べると情報の流れも停滞してる。これは多分、死んでるって事なんだろうな)


そうだとすれば、ゴブリンモドキ達が祭壇に祈っている事とこのゴブリンモドキ達の死体は決して無関係ではない。

恐らくゴブリンモドキ達は命の危機に瀕しており、それが自分達の力ではどうする事も出来ないからこそ、祭壇に祈りを捧げているのだろう。


(祈りの大まかな内容は想像付いたけど、結局具体的な内容が分からないとな……)


命の危機というその大まかな内容は分かって来たものの、命の危機と一口に言っても様々だ。

自分達では敵わない外敵が現れそれをどうにかして欲しいとか、寿命が迫り死ぬのが怖いからどうにかして欲しいとか、命の危機に成り得る事柄なんてそれこそ枚挙に暇がない。


(まさか、死者の復活とかそういう内容じゃねぇよな?七つの玉を集める摩訶不思議アドベンチャーみたいに龍が飛び出してくるとか……それは無いか)


壁際に寄せられた遺体を見て一瞬そんな考えが過るも、あんな乱雑に積み上げただけの岩にそんな神秘的な力なんて全く感じられないし、第一死者の復活を祈るならその遺体を祭壇前に持ってくるだろう。

邪魔にならないように壁際に寄せられている時点で恐らく祈りの内容と直接的な関係は無い筈だ。


(遺体に損傷はないのを見ると、外敵とかそういうのが現れたって線は無さそうだな……となると何だ?)


これで遺体に欠損でもあれば原因を外敵に絞る事も出来ただろうが、外敵以外となってしまうと候補が極端に増えてしまう。

不正解を排除していくのも重要だが、その不正解の量が膨大過ぎる現状では正直言って非効率と言わざるを得ない。

ここで何か正解に近づけるヒントの一つでも見つけられればと、蒼一がゴブリンモドキ達の姿を一匹一匹確認して回っていた、その時だ。


(ッ!)


ソレ(・・)を見た時、蒼一は思考が漂白されたように完全に言葉を失っていた。

見つけたものは二匹のゴブリンモドキ、一匹は乳房の膨らみから恐らく雌と思われる個体、そしてもう一匹はその個体の腕の中に抱かれた赤子と思われる小さな個体、何の変哲もない母と子の姿だったが、ただ唯一決定的に違っていたのはその子の姿だった。


全身の骨格が見て取れる程に痩せ細ったその姿、文字通り骨と皮だけ、肋は浮き出て、閉じる事も出来なくなった瞼に、今にも飛び出るのではないかというくらい浮彫になった眼球。


痛々しいその姿、しかし蒼一が何より驚いたのはその姿ではなく――


(これで生きてるのか……嘘だろう)


人間の赤子なら間違いなく死んでいるような状態にも関わらず、ゴブリンモドキの赤子はまだ生きていた。

驚異的な生命力、本来であればプラスに働くであろうその生命力が、今はこの悍ましい光景を生み出す原因となっている。


死ぬ程苦しい筈なのに、死ぬ事が出来ない。


自分の視界に映る物が人ではなく、化け物と呼ばれる存在である事は分かってる。

もしかしたら人間を見かけたら襲い掛かるような怪物なのかも知れない。

ここで命を救えば何時か誰かの命を危険に晒す事になるのかも知れない。

この世界において化け物は殺す事こそが正義で、それを助ける事は悪と言われるのかも知れない。


それでも、そうだったとしても、今目の前のこの光景を見せられて、救わないという選択肢は蒼一の中に存在しなかった。


(痩せてるのは種族的な特徴かと思ったが、どうもそうじゃないらしいな)


病的と言ってもいい外見の子供を目撃した事で、蒼一はゴブリンモドキ達が一体何に苦しんでいるのかを理解する。


ゴブリンモドキ達の巣の中をもう一度確認し、食料の類が一つも無い事を確認するとその予想は確信へと変わり、蒼一はゴブリンモドキ達を救うべく行動を開始するのだった。

シリアスしないって言ったのによぉ!!息抜きの意味がないよ!(自業自得)

ま、まぁシリアスなんて全体で見れば一割にも満たない筈だし、他作品のシリアス成分と比べたらこの程度内容的にも極薄、シリアスのシの字にも含まれないくらいの薄さの筈です。(※筆者比)

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